にわか探偵ネイサン ②
お待たせしました。
翌日、俺は再びボトルコフィ伯爵家を訪れていた。
あの暗号は【世界の暗号】によれば『この書庫に仕掛けをして、大事な物を隠したのである人が来たら渡して欲しい。』と書いてある事が解った。
役に立ちそうな本を片っ端から買っといて良かったよ。
まさかこんなに早く役に立つ時が来るとはな!
俺は暗号の指示に従い、ボトルコフィ兄妹と共に書庫に向かった。
「こういうのはだいたい壁に仕掛けかあるんですよね。」
そう言いながら、書庫の壁を片っ端から叩いてみた。
空洞があれば音の響きが違うはずだ。
ってアレ?何処にもそれらしい箇所が無いんだけど……
もしかして、天井とか床下?
無い…何処にも無い!!
何故だ!?隠し場所が書庫なのは間違い無いのに!?
「あの…このお屋敷、書庫ってずっとここですよね?」
俺の質問にブライト殿がようやく大事な事を思い出した。
「あぁ~そう言えば、俺が子供の頃は確かここじゃなかったな。
ここは祖父の代になってから書庫が手狭になった為に、増築した部分だ。
元はもう少し東側の北向きの部屋で今は空き部屋になっている。」
それもっと早く思い出してください。
この話を聞いた途端、スレーネ嬢は顔色を変え慌てて何処かへ走って行った。
もしかして、その部屋に例のあの本が置いてあるのかな?
可哀想なのでアイテムバックを貸してあげよう。
近くに居たメイドにアイテムバックを渡す様に頼み、ついでに本を隠す為の時間稼ぎをしてあげる事にした。
「ちょっと疲れましたね。暫く休んでからにしましょうか?」
一時間程サロンでお茶を飲みながら休憩していると、ようやくスレーネ嬢が戻って来た。
余程急いで片付けたのだろう、先程より疲れている。
それをみたブレディーは心配そうに……
「スレーネ、さっきはどうしたのだ?
急にお腹でも痛くなったのか?
だったら我慢せずにト…」
バチーン!!
言い終わらない内に、ブレディーはスレーネ嬢に平手打ちを喰らっていた。
悪い奴では無いんだが、そういうデリカシーのなさが偶にキズなんだよなぁ。
「元の書庫はこちらですわ。実は暫く前から私が書庫の代わりに使っておりましたの…… 」
機嫌の悪いスレーネ嬢に案内されて部屋に向かうと、けっこう頑張って片付けたのが丸わかりな書棚が並んでいた。
確かに今の伯爵家の書庫としては手狭だろう。
「ではもうあまり時間も無いので、手分けして探しましょう。」
そうしてようやく見つかった場所は何と、元書庫の壁でも天井でも床でも無く、ドアだった。
何故だ?
これって俺の《フラグクラッシャー》のスキルの所為なのか?
こんな時に仕事しなくていいのに(泣)
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(さらに翌日……ボトルコフィ伯爵邸)
今日の俺はボトルコフィ伯爵家の執事として、伯爵夫人の側にいる。
いくら名前が怪しいからと言って、相手の正体がわからないうちに、捕まえたりする訳にはいかないからな。
側で話を聞いていてもおかしくない様に、一応変装して見張る事にした。
「いやぁ~申し訳ございません。
頑張ってはみたのですが、まだ解読が進んでおりません……
おそらくあの石灯籠とは別に、書庫に何かヒントが隠されているはずです!
なので伯爵家の書庫の本を見せて頂けないでしょうか?」
エルロック・シャルメと名乗る男は、伯爵家に訪れるなり、挨拶もそこそこに伯爵夫人に書庫の本を見せて欲しいと言って来た。
彼の見た目は…何故か俺の前世の世界にいる、ギョロ目のシャクレ顔の芸人《ロコロコ中田》と顔も声もそっくりだった。
何故ここにあの人がいるんだ?
もちろん別人なんだろうけど……
益々嫌な予感が!
しかも彼の連れている助手の冴えないオッサンの声が、某名探偵に出てくる警部の声と同じってww
いやもうコレってネタだろ!
前世の恋人と最後に一緒に行った特撮ヒーローの映画……
その後は忙しくなって、映画どころじゃなくなり俺があんな事になったから、前世で観た最後の映画だ。
真面目に考察して損した様な気分だ。
まさかこっちだったとは!
でもこのネタがわかるのは俺だけだから、それだけで彼らがそうとは限らない。
ちゃんとした人物かもしれないし……
とりあえず笑わない様に気をつけて、彼らの見張りを続行するしかない。
伯爵夫人はさりげなく、俺を案内人にして用があると言って席を立った。
伯爵夫人けっこう演技力あるな。
流石は脳筋の騎士団長の奥方だ!(偏見w)
家のテレーゼも見習わせなければいけない。
俺はエルロック達を案内して、書庫に向かった。
案内して暫くすると、エルロックは俺に
「すみません。喉が渇いたので何か飲み物を頂いても?」
「申し訳ございません。書庫内は飲食禁止ですので、何かお飲みになるなら、庭にある四阿かサロンでお願いします。」
本を汚したりしたらいけないから、当然である。
「あ…そうですよね。今、ちょっとキリが悪いので後にします。」
また暫くすると今度は……
「すみません。インクが切れてしまって!
持って来て頂けますか?」
「ではコレをお使いください。」
そう言って俺はインベントリから大量購入して置いた【凄く書きやすいボールペン水性】10本セット(100均製)を渡した。
因みに品質は劣るが、来年には我が公爵家の持つ商会から【油性ボールペン】を売り出す予定だ。
インクが特殊なので家でしか作れない。
因みにアキトの伝でナカジマに依頼したら、あっという間に出来てしまった。
流石に公式の文章には使えないが、普通のメモや学園の勉強の時には使えると思っている。
エルロックはどうしても俺をここから追い出したいらしいな。
まぁ彼らが頼みそうな物は、大概インベントリの中にあるから問題無い。
ついでに彼が言っている様な本など、ここの書庫に無いのは確認済みだ。
あったらとっくに家族の誰かが見つけているはずだから……
おそらく彼らもあの暗号を解いたんだろう。
もちろん昨日の内にのブライト殿立ち会いの元、探し物は回収済みだ。
回収した物は【状態保存の掛けられた個人宛ての手紙】だったので、宛先の人物以外には何の価値もない。
しかも旧字体のニホン語で宛名が書かれていて、俺でも読むのに苦労した。
当然こっちの人間には全く読めないだろう。
暗号を残したボトルコフィ伯爵家の先祖は、なんと昭和初期の男性だったのだ。
俺達みたいにネット小説やなんかで【異世界転移】など知らないから、まさに【神隠し】!
さらに一緒に居たはずの人物とも逸れたとなると相当な苦労があっただろう。
幸いにも彼を保護してくれた当時のボトルコフィ伯爵が転生者だったから、何とか生き延びる事が出来た。
と一緒に見つかった伯爵の手紙に書いてあった。
おそらくその辺も含めて、伯爵家当主に伝わっていたのだろう。
俺が昨日の事を思い出していると、エルロックがまた何か言い出した。
「あのう…そろそろ紙が…… 」
「はい。宜しければこちらをご使用ください。」
今度はコピー用紙の束を積み上げると、エルロックは顔を引き攣らせながら、笑顔で礼を言った。
「あ…ありがとうございます。随分と準備が宜しいんですね。」
「執事ですので。」




