【閑話】あるS級冒険者の話し
(ラックside)
この依頼を受けた時、オレはラッキーだと思った。
何しろ破格の依頼料に加えて、この機会を逃したら二度と手に入らない品物が手に入ると言うんだ!
⑦番のダイヤのネックレスか⑧番の稀人が持ち込んだらしい希少本。
ここはお嬢様に献上して褒めてもらおう♪
まずターゲットの匂いを確認しなければいけない。
オレはすぐさま冒険者ギルドに行って、ターゲットの匂いを確認したい、と申請したが断られた!
しかも何か白い目で見られた!
違うからな!オレは見た目じゃわからないが、犬獣人の血を引いているから【嗅覚】スキルでターゲットを追うスタイルなんだよ!!
ユイナーダの冒険者ギルドじゃ、ちゃんと用意してくれるのに……
仕方ない…強盗現場の遺留品を見せてもらおう。
衛兵隊の【遺留品係り】に行くと、今度はすんなり見せてくれた。
まぁ見るのが目的じゃ無くて、ターゲットかターゲットに近い人物の匂いを確認する為だけどな。
遺留品の中からターゲットに繋がる様な物を探していると、【遺留品係り】の職員が近づいて来た。
「S級冒険者のラックさんですよね?」
「はい…そうですが、あなたは?」
「私、ここの遺留品係りのイ・トムラと申します。」
オレに声を掛けて来たのは中年の遺留品係りの男だった。
話してみると彼は遺留品に関するスペシャリストだった。
オレも遺留品からターゲットを探すので、意気投合。
彼のお勧めの遺留品はガムの銀紙。
中に噛んだガムが入っている。
「コレ…襲撃された商会のゴミ箱に入っていたんですけどね。
掃除係りの方の話しではそのゴミ箱のゴミは前日の清掃の時に、全部捨てて帰ったと証言しています。
他の方にも確認しましたが、誰も捨てていないそうですよ。」
ん?という事は……
「「おそらく犯人の遺留品!!」」
「という事で、後は宜しくお願いしますね。」
そう言って彼…イ・トムラさんはオレにガムを押しつけて遺留品係りの部屋から追い出した。
遺留品…持ち出してもいいのか?
ま…後で返せば良いか……
オレはその後、ガムの匂いを頼りにターゲットを追った。
ターゲットは徐々に南下し、どうやらオッハーナ騎士爵領に向かっているらしい。
オッハーナ騎士爵領の領都、バターケには領主の保有する《魔道高速船》があると、途中の冒険者ギルドで聞いた。
おそらくターゲット達はそれを奪って、逃亡するつもりだろう。
そうはいくか!
絶対に捕まえて、お嬢様に褒めてもらうんだ♪
それから数日かけて、オレはオッハーナ騎士爵領に入った。
その途中…知り合いに呼び止められた。
「久しぶりだな、ラック。ちょっと顔貸してくれない?」
オレに声をかけて来たのは学園の同期で、つい最近結婚して婿養子に入ったボルネオール侯爵家で、騎士団長をしている筈の男……
ライネル・F・ボルネオール。
「討伐対象の居場所はわかったんだけど、今誰が行くかで揉めててな。
ライブラ伯爵が、ジャンケンで決めようって言うんだが、お前も参加するよな?」
ジャンケン?まさか皆んな、その提案受けたのか!?
それ思いっきりライブラ伯爵に有利じゃないか!
あの人、【光速】ってスキル持ってるから、とんでもなく動体視力が良いんだ。
だから皆んなの手の動きを見れば、ジャンケンは負け知らず。
その情報を知ってても対策が出来ないので、オレ達の負けは確実だ。
タークお嬢様に、賞品を渡す予定だったのに残念……
オレの予想通り、ジャンケンはライブラ伯爵の一人勝ち。
残りの皆んなは他の女盗賊達を捕まえる事になった。
オレの担当は女盗賊団《光の剣》の本当の頭のナミという【隠密】スキル持ちの女だ。
なんとイ・トムラさんが持たせてくれた、【遺留品】はどうやら彼女の物だったらしい。
作戦は実にシンプルでオレがナミを追い詰めて、勇者シルバーが狩る。
後は勇者シルバーがケイト嬢の所に持って行くだけ。
ここで朗報が、モチベーションの下がったオレ達の為にライブラ伯爵が依頼者の公爵家と交渉してくれた結果、何と参加者には希望の賞品を格安で譲ってくれるそうだ。
良かった…これでお嬢様にプロポーズ出来る!
今回は【遺留◯査】www




