【閑話】夏の怪奇ミステリー (加筆修正版)
遅くなりました。
今回はちょっとホラー。
少しでも涼しくなって頂けると幸いです!
皆さんこんばんは……
これからお話しするのは、今から数年前に私が実際に体験した世にも恐ろしい出来事です。
【平成・英弘ストーカー殺人事件】
平成から英弘に掛けて、ストーカーや傷害事件を繰り返し、遂には被害者女性の家族を殺した男S。
逮捕の切っ掛けは、当時勤めていた親の会社であるS商事(現在は無関係)のロビーでナイフを持って暴れ、居合わせた男性社員と警備員に取り押さえられた事。
何故か聴いてもいないのに、自分の罪を告白したにも関わらず、罪状が多すぎたからかまったく自首扱いされなかった、日本の裁判史上前代未聞の事件。
Sの起こした事件は何度もドラマ化や映画化されたので、皆さん1度は目にした事があるでしょう。
S役の俳優は皆、当時を代表する所謂イケメンでしたし……
実はあの話しには続きがあったのです。
その頃、私はH県にあるF刑務所で、刑務官をしていました。
その日は朝からとても暑い日でした。
14年の刑期(拘置所にいた期間4年を含むと18年)を終えた、Sの出所日。
私は何人かの同僚と共に、Sが出所するのを見届ける役目をしていました。
出所口に現れたSは、逮捕時の面影は見る影もなく痩せ細り、顔色も青白くてまるで別人の様でした。
やがて時間になり、刑務所の前に1台のタクシーが止まったのです。
タクシーのドアが開いたが、中からは誰も降りて来ない。
しかしSは……
「あゝやっと迎えが来た。これでこの悪夢から覚める事ができる。」
と呟いて、タクシーに乗って刑務所を去って行きました。
普通は労務士や弁護士、身内の者が来るはずなのだが、タクシーだけ寄越すのは珍しい……
タクシーが走り去った直後、晴れているのに急に雨が降り、その後虹がかかった。
Sが乗ったタクシーを見送って直ぐ、また1台のタクシーが止まって顔見知りの労務士が降りて来た。
「すいません。遅くなりまして……
Sさんを迎えに来たのですが、彼は何処に?」
えっ!?
じゃあ、さっきのタクシーは?
私は慌てて無駄だとは思いましたが、さっきのタクシーが曲がった刑務所の角まで走りました。
走っている最中、私は恐ろしい事に気づいたんです。
刑務所の壁に沿った道…その先は行き止まりだという事に……
しかし、タクシーを見送ったあの時、私も同僚も誰もその事に気づかなかった。
おかしい…何故誰も気づかなかったんだ?
その後、何処を探してもSは見つからず、労務士は首を傾げながら帰って行った。
一緒にいた同僚達は……
「まるで狐に化かされたみたいだな。」
「さっきの狐の嫁入り、凄かったな。」
「虹までかかってたぞ♪」
「いや、そういう事じゃなくて!」
「「「「どうかしたかい?Tさん??」」」」
振り返ったその顔は…全員狐目だったんです。
あれ?そもそも私の同僚達は、あんな顔をしていただろうか?
その後、私が何を言っても同僚達は怪訝な顔をして、それ以上Sを探そうともしませんでした。
上司にその事を相談しに行こうとして、彼もまた狐目である事に気づいた。
そう言えば【バケットサンド】の狐目のみきおと親戚だと言っていたのを思い出しました。
私は急に所内に居るのが恐ろしくなり……
「すいません…気分が悪いので、早退させて下さい……。」
「Tさん、大丈夫ですか?
随分と顔色が悪いですけど?」
「だ…大丈夫です……。」
私は狐目の同僚達に見送られ、自宅に帰って直ぐに辞表を書きました。
あんな恐ろしい職場、一刻も早く退職しなければ!!
何度か同僚達から、『退職しないで欲しい!』と連絡が来ましたが、私には無理です。
もう彼等が狐にしか見えないんです!
こうして私は転職をしました。
そして現在、私は新しい職場で働いています。
今度の職場は私の大好きな猫カフェですから、あんな恐ろしい事態にはならないはず。
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(その頃のF刑務所)
「あゝ残念!Tさん鈍いから偶に耳を出しっぱなしにしてても気づかなかったから、楽だったのになぁ〜。」
「俺なんか尻尾が出てても気づかれなかったぞ!」
「今回も大丈夫だと思ったんだけど……。」
「お前らたるみ過ぎだぞ!」
「そういう所長だって耳と尻尾出しっぱなしですよ♪」
「いいんだよ!今は人間の職員が、居ないんだから。」
そう言って、所長は自慢の7本の尻尾を揺らした。
そうこの刑務所の職員はTさんを除くと、全て狐だったのです。
「Tさん、次の職場で上手くやってますかね?」
「猫カフェだっけ?」
「今度は安心して、長く勤められると良いな。」
「経営してるのは猫又だけどな♪」
明日からは新章突入。
月曜日と木曜日、朝7時の投稿に戻ります。
後で多少書き換えするかもしれませんが、宜しくお願いします。




