【閑話】 婚約を白紙にした公爵令嬢の話し1-3
「私が以前、『冤罪に巻き込まれない為にアリバイが重要だ。』と言ったのは覚えているかい?」
ええ、もちろんですわ。
私のお友達の令嬢達にもお伝えして、皆様手馴れたものです。
それとハインツ兄様がユイナーダ王国から、態々我が家に来てまで、この小説の事を説明するのと何の関係があるのでしょう?
「関係なら多いにある。
ローラは私に《予知夢》のギフトがあるのは、知っているね。」
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(ハインツside)
私の【乙女ゲームの知識】は対外的には《予知夢》のギフトという事になっている。
しかし、ユイナーダ王国で起こるはずだった、乙女ゲームは最初から破綻していた。
原因はボルネオール侯爵家の姉妹だ。
この姉妹と関わると、どうもシナリオ崩壊を起こすらしい……
私がギフトを使わなくても、【乙女ゲームのシナリオ】が面白い様に明後日の方向に向かって行くのだ。
お陰で【攻略対象】は全員、今でも平穏に暮らしている。
しかし、流石にこのポーラルタオまではその力が及ばないらしい。
一応、【乙女ゲーム】対策はしてあるが、ローラ達が不幸になるのを知っていて放って置く事は出来ないからな。
私の前世の知識が正しければ、例の【聖女アリス】は既に王太子達と接触している。
「ローラ達婚約者の桜花祭のダンスパーティー用に贈られたドレス、皆ほぼ同じデザインの色違いの物に少し手を加えた程度の物だったんじゃないか?」
「『《皆んなでお揃いを着る。》という新しい流行だ。』と王太子様達が仰っていましたわ。」
私の前世の世界なら、それでも通用したかもしれないが……
「実際には別の女性に貢いで予算が無くなったんだよ。
たぶん、家では『婚約者の浪費か酷くて。』とでも言っているのだろう。」
するとローラはやっと自分や友人のご令嬢達が、婚約者に蔑ろにされていたのに気づいた様で……
「まぁ酷いですわ!それで最近、お城や学院で皆さん私達を変な目で見たり『国の予算で贅沢三昧している!』等と根も葉もない噂が流れていたのですね!」
おいおい……コレで国母になるハズだったなんて、ずいぶん呑気だなぁ。
コレもう、【乙女ゲームのシナリオ】とちょっと違うけど《十歳歳上の2のヒロインと結ばれずに闇落ちした従兄に嫁ぐ》で良いよな。
もちろん闇落ちなんかしてないが……
「国立ユイナーダ学園に留学して置いで。
待っているよローラ♪」
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(ローラside)
ハインツ兄様からこの話をお聞きして、私はすぐに行動を起こしました。
まず、貰った二冊の本は手に入らなかったので、王太子の側近の方達の婚約者の令嬢にお貸しして回し読みし、全員読み終わったところでお茶会を開きました。
お茶会ではハインツ兄様からお土産に頂いた、ユイナーダ王国で人気のクッキーを食べながら、今後の方針を決めたのです。
皆さま、お茶会の前には婚約者の現在の動向を確認されていました。
「フィリップ様があの様なお方だったなんて!
『婚約者に贈るから。』とかなりの散財をされているのですって!
もちろん、私一度もそのプレゼントやらを見ていませんわよ!」
「あの方、本当に【聖女】ですの?
見目の良い男性に、色目ばかり使っていましたわよ。
まだ未就学の弟にまで手を出そうとしていたので割って入ったら、翌日婚約者に『【聖女】に意地悪をするなんて!』と大勢の方々の前で言われましたわ!
その所為で私、酷い噂が立って教会に行けなくなりました。」
「先日、私…彼の従姉妹へのプレゼントを買いに家の商会の宝飾店に行きましたの……
そのプレゼントをあの方が持っているのを、家の者が見たそうです。」
「私はこの数ヶ月、一度もお話しもデートもしていません……
それなのに、婚約者の家で行われたお茶会でおば様に『あまり我儘を言って息子に無理をさせないように!』と言われましたわ!」
昔は政略とはいえ、皆さま仲が宜しかったのに……
ここまで、酷い事になっていたのですね。
あの後、調査しましたら、実は王太子様も私への予算を全て【聖女】に貢いでいた事がわかりました。
何ですか?【ピンクのレースが沢山付いたドレス】というのは?
コレはもう、ハインツ兄様の計画を実行してもよろしいですわよね!
こうして私達は婚約者を見限り、それぞれ学院とは違う学校に通う事にしたのです。
私はもちろん、国立ユイナーダ学園高等部淑女科です!
唯一平民でした王国一の商家の娘、シャーリーさんと一緒に!
あら?そういえば誰か忘れている様な……
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※1
乙女ゲーム【聖女の♡異世界学園生活2】ではヒロインと結ばれ無かった闇落ちしたハインツに無理矢理嫁がされるはずだった。
もちろん実際はハインツが闇落ちする事は無く、幼い頃から望んでいた通りになっただけである。
※2
他の婚約者達は王都在住だったがジョンのお嬢様のみ、この時点で未就学。
地方にある自領在住だった為、ローラ達に忘れられていた。