婚約者候補が来た 3
お待たせ致しました
ワタシの名前はナノハナ姫。
北海国のキシュウ辺境伯家の末娘。
ワタシには前世の記憶があった。
それは愛する人との幸せな日々の記憶……
幼い頃から同じベッドで眠り、朝と夕方のデートはとても楽しかった。
しかし、ある時から愛する人は外から帰って来ると変な匂いを付けて来るようになった。
ワタシという者がありながら、なんて事!!
コレは浮気ね!
ワタシは外から帰って来た愛する人が、変な匂いがする度に、体を擦り付けたり膝の上に乗ったりして、一生懸命に匂いを付けた。
それからしばらくすると、その匂いがしなくなったから安心していたら、今度はまた別の変な匂いを付けて帰って来るようになったの。
だから前と同じように、体を擦り付けたら、愛する人はワタシを引き剥がしたの!
ショックを受けたワタシに愛する人は言ったわ……
「アケビ…可愛いけど、今それやられるとなぁ……
それにこれからまだ、仕事で出掛けないといけないんだ。
ごめんな……」
その事を思い出したワタシは、つい客室の前にある庭先で、夜中に泣いてしまった。
『アオォーーーーン!!アゥウォウォーン!!』
すると今まで暗く静まり返っていた屋敷中の灯りが付き、借りていた部屋から慌てて護衛騎士のサイガ達が飛び出して来たの。
「「「姫様!!夜中に他所様のお屋敷で遠吠えするとは何事ですか!?」」」
怒られました。すっごく怒られました。
その時突然、庭の向かい側の建物の二階の窓が乱暴に開き、パジャマ姿の婚約者候補が現れ焦点の合わない目で明後日の方向に向かって言ったのです!
「アケビ!!いったい今、何時だと思っているんだ!?
こんな夜中に遠吠えしたら、近所迷惑だろ!!」
「「「「えっ!?アケビ?今、アケビって!!」」」」
ワタシ達がビックリして、そちらを見ると……
「まったく『今度、夜中に遠吠えしたら訴えてやる』ってお隣の田中のおばさんに言われたばかりなのに…… 」
と言いながら窓を閉めてしまいました。
もしかして寝ぼけてる?
そんな事より、ワタシの前世の名前…『アケビ』の名前を知っているなんて!!
なんという事でしょう!
ワタシがずっと探していた愛する人は、婚約者候補だったのです!!
「姫様…良かったですね~。元の飼い主さんが見つかって!」
「コレでもう、探し回らなくてなくもよくなりましたね。」
「明日は一緒にご飯食べれるといい…… 」
「ありがとう!皆んな…ありがとう!
ワタシ…明日頑張る!」
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そして翌日の夜、やっと愛する人と面会することが出来た。
ワタシはサンガ達に協力してもらって、前世からの特技でもあり辺境伯家に代々伝わっている芸を披露したの。
そう、偶然にも辺境伯家に伝わる芸は前世で愛する人から教えられたものが同じだったの!
その中でも一番難しい芸は、『鼻の上に小さな玉を乗せたまま玉乗りをして、更に途中で別の玉に飛び移る事を3回繰り返す』というもの……
辺境伯家でも、現在コレが出来るのはワタシだけなのよ。
自慢の衣装で一生懸命に披露したかいがあって、皆んな喜んでくれたわ。
もちろん愛する人はとても喜んでくれた。
もちろん、芸を披露した後は公爵家に来て初めて人型の姿で晩餐会に出席したわ。
北海国では不人気の黒髪黒瞳で小柄な姿は、なんと人族の国ではとても可愛らしいと人気なのだというのも、この時初めて知りました。
公爵様や公爵夫人も、ワタシの芸をとても褒めて頂きました。
そしてついに、愛する人から『この後、君に大事な話がある。』と言われたの♪
期待に胸を膨らませ、一度着替えてから応接室に向かう事にした。
やはりとっておきの衣装で、お会いしたいですから。
「「良かったですね姫様♪姫様の願いがやっと叶うんですね!!」」
ベニザクラとキザクラは、涙を流しながら喜んでくれました。
「ありがとう皆んな♪ワタシ幸せになるわ♪」
「おめでとうございます姫様。」
そう言いながらサンガは、何故かとても寂しそうな顔をしているように見えた。