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第九十九話 ぼっち妖魔は身の上を聞く


お昼ごはんタイムです。

無事にジョブチェンジさせてもらったあたしは休憩所でお弁当を広げる。

お弁当・・・まぁサンドイッチのようなパンに野菜やお肉を挟んだランチボックス。

ペンドットの乗合馬車出発広場で売っていたんだよね。

バリエーションは少なそうだけど内容そのものに不満はありません。

美味しくいただいてます。


・・・一人でね。


ペンドットから次の宿場町までの街道沿いにあるひらけたのっぱら。

いくつかの小屋と井戸がある。

街と街を移動するときは、みんな、この場所を利用しているんだろうね。

そして日本のオートキャンプ場みたいに木の切り株がそこかしこにあって、

みんな思い思いの場所に陣取って休憩している。

切り株の周りには3、4人座れそうな椅子代わりの大きな石が埋められていて、

マーヤさんみたいなグループは一緒に切り株に固まっている。

もちろん、同じ馬車に乗っていたというだけのあたしが、そこに入っていける筈もない。


では同じ一人旅のデミオさんと同じ切り株周辺に座れるかと言うと、

デミオさんにはお世話になったが、男女二人きりというのも不自然だ。


とは言え、マーヤさんの使用人は別としても、同じ馬車でここまで来た以上、

全員、隣程度の近い場所に集まっているのは自然な現象というか、

集団心理なのだろうか?

まぁそこまではいい。


問題は、

どうしてそこにいるのが当然と言わんばかりに、あたしの真向かいに座っているのかな、

ゴッドアリアさん?



 「な、なんだい、麻衣?

 ここにアタイが座るのは、じ、自由だろ!?」


 「・・・そうですね、あたしに干渉してこないのであれば、

 ゴッドアリアさんの自由です。」

あたしの方から席を立ってもいいのだけど、

それだとさすがに失礼な気もするし、

何かあたしが負けたみたいで釈然としないものがある。


このまま、何もしないでくれるのが一番望ましい。


ちなみにゴッドアリアさんはランチボックスを買ってきていないようだ。

もしかしてお弁当買うお金もないのかな?

と思ったけども、あたしがジョブチェンジしている間に、

自分で調理していたようだ。

切り株少し先に・・・即興で作ったような土鍋や器が・・・


まさか、自分の土魔法でご飯用意してるのか・・・。


あたしの視線に気づいたのか、

ゴッドアリアさんが聞いてもいないのに言い訳をする。

 「べ、別にいいだろ、

 アタイのスキルを有効に使っているだけだ。

 小麦粉や乾燥食材をキープしていれば、ある程度食事には困らない!

 できれば初級でもいいから、火魔法使えればもっと簡単なんだけど、

 それも着火アイテムがあれば、補えるし・・・!」


ですね、

あたしも一人で彷徨ってる時は火魔法使えたら便利だと思いましたからね。

あたしは単純に興味を持ったけども、

一度、会話を始めると、その後が怖いので適当にあしらっておく。

ごめんね?


 「いえ・・・。

 どうぞ、あたしは気にしませんから。」

 「ううう・・・。」


うーん、意地悪するつもりは全くないんだけど、

なんかこれじゃ、あたしが嫌な女の子みたいだよね?


仕方ない・・・。

 「ゴッドアリアさん、一つ聞いていいですか?」

いや、そんな希望に満ちた目であたしをキラキラ見詰めなくていいですから。


 「な、なんだい?

 条件次第でパーティー作ってくれても!?」

 「パーティーの話は興味ないです。」

 「う、うう、そうか・・・。

 ならいったい?」

 「ただの興味ですので答えていただかなくてもいいんですけど、

 ゴッドアリアさんは何故冒険者に?」


あたしの質問が意外だったのか、一度彼女は目を見開いてから、足元に視線を落とした・・・。

 

 「別にいいですよ、初対面のあたしに、そんなプライベートな理由を話したくなければそれで・・・。」

 「い、いや、特に嫌とかそういう訳でないんだが・・・

 多少、さすがに恥ずかしいものもあるな・・・。」

 「普通にお金を稼ぎたいとかそういうのではないんですね?」

 「・・・お金は稼ぎたいとは思ってるよ。

 アタイの魔力は地元じゃ、誰も敵わないくらいのレベルだからね、

 それをうまく使いこなせるなら、少なくとも自分一人で生きていくくらいには余裕かなと思った。」


ゴッドアリアさんのMPは500オーバー。

既にお城勤めの魔術士でもトップクラスを狙えるという。

うっかりドジがなければだけど。

あと、土魔法しか使えないというのがマイナス評価なのだろう。


 「その言い回しだと、他にも理由があるっぽいですね?」

 「う、うん、理由なんて大層なもんじゃないけど・・・、

 は、母親のため・・・いや、母親は関係ないんだけど・・・

 うん、やっぱ、アタイの勝手な意地・・・ってやつか。」


母親?


 「・・・少し興味が出てきました。

 その先を聞いても?

 決して馬鹿にしたり蔑むなんてことはしませんよ?」

 「ああ・・・アタイのかーちゃんは・・・

 凄い魔術士でね、

 土と水の扱いに優れた魔法使いだったんだ。

 下級とは言え、貴族の血も引いてたから、

 お城の魔法警護兵でもトップクラスまで上り詰められると噂されていたんだ。」


 「・・・先に聞いておきますけど・・・お元気なんですか?」

 「え?」

 「あなたのお母さん。」


しっかり釘を先に刺しておこう。

まぁ刺したからと言って過去は変わらないのだけど。

あたしの気持ちに影響あるといけない。


 「ああ、元気だよ!

 殺しても血を流しながら起きてきそうなほど、たくましい!」


それは良かった。

良かったけど、自分の母親にその例えはどうなの?


 「けど・・・かーちゃんは魔法警護兵になる道を選ばなかった。

 何を血迷ったのか、オヤジに口説かれたまま、そのまま結婚しちゃって・・・。」


仕事よりも愛を選んだってことなのかな?

それはそれで羨ましい。

 「それも一つの選択ですね。

 ご本人が満足ならそれでいいのでは?」

 「ああ、かーちゃんはその選択を後悔したことなんか一度もないって言ってたよ。」


 「それなら何も・・・。?」

 「でも、・・・アタイが5つの時にオヤジが死んだ・・・。」


えっ


そっちか・・・。


 「オヤジは冒険者だったけど、結婚を機に冒険者を引退して木こりをやってた。

 まぁ、山の魔物をかーちゃんと狩ったりしてな、

 そこそこ不自由ない暮らしをしていたんだけど、

 ある時、マッドボアに腹を刺されてね・・・。

 それでも女手一つでアタイを育ててくれたよ。

 貧乏にはなったけどさ。」


 「・・・。」

 「それでもアタイも大きくなってさ、

 不思議になったんだ、

 オヤジが死んだんなら、城に戻って、もう一度魔法警護兵になればいいじゃないかって。

 でも、かーちゃんにしてみれば、それは許されない話らしい。

 ほとんど駆け落ち同然で城を飛び出したようなもんだって。

 実家の人たちにも迷惑かけたって。

 だから、オヤジが死んだとはいえ、今更もとに戻るなんて都合がよすぎるってさ。」


そう考えるのか・・・。

うん、いや、仕方ない話なんだろう。


 「・・・正直アタイも、裕福な暮らしとかには憧れるけどさ、

 それより、あんな山の中でかーちゃんの魔法の才能が埋もれるのが嫌なんだ。

 もちろん、本人がもう魔法で働きたくないってんならそれでもいいんだよ、

 アタイを一人で育ててくれたことには感謝してるし。

 でも、何か嫌なんだ。

 それだったら、アタイがかーちゃんの凄さをみんなに教えてやる、

 アタイはかーちゃんから水魔法のスキルは受け継げなかったけど、

 その分、土魔法の才能はかーちゃん以上だ!

 だから、冒険者で名をあげれば、もしかしたらお城の偉い人たちにも、アタイのことが知られるかもしれない。

 スカウトされたりもしてな!

 まぁ、一介の冒険者がお城勤めになることなんかないだろうけどさ、

 有名どころになれば、お城に参内して勲章くらい貰えるかもしれない。

 そこで言うのさ、

 アタイの母親はかつてこの辺り一帯でトップクラスの実力を誇っていた、高位魔術師クィンティアだってね!

 ・・・まぁ後はアタイの妄想っていうか・・・

 うまくいけばの話だけどさ、

 かーちゃんだって実家に顔出して、アタイが会ったこともないお爺ちゃんやお祖母ちゃんに再会できるかもしれない。

 そう、考えたらさ、やっぱアタイが頑張るしかねーじゃん・・・って!?」


あれ?


見たら、あたしたちの後ろでマーヤ夫人が立ち尽くして涙を流していた。

 「ご、ごめんなさい・・・途中から勝手に話を聞かせてもらったのよ・・・

 うう、ゴッドアリアさん、あ、あなたそんな思いで冒険者をなさっていたのね!?」

 「えっ、あっ、そ、その・・・

 そ、そうは言っても、まだアタイ、そんな胸を張れるような活躍とかしてないから・・・あんまり大っぴらに話を拡げないでもらえると・・・。」

 「わかりましたわ、

 でもこれも何かの縁ですもの、

 あなたが名を成した時には、きっとお力になりますわ!!」


うん、理由はわかった。

そして困った。

聞かなきゃ良かったとも思う。


これだけ聞いておいて、この後知りませんなんて言えないですよ。

ていうか、このままゴッドアリアさんが畳み掛けて来るんなら反射神経でお断りすることも出来るのだけど、

さっきとは正反対に殊勝な態度を取っている・・・。


これだからあたしはチョロいんだと思われてしまうのだろう。


まあ、キリオブールに着けば風向きも変わるだろうか?

少なくとも馬車の中では世間話くらいお付き合いしましょうかね。




・・・甘かった。

いえ、ゴッドアリアさんのお相手はマーヤ夫人が務めてくれたので、問題なかったんですよ。

デミオさんも飄々とお相手してくれるし。


問題は、

道中、安全に過ごせるはずなどなかったということだ。


 

いよいよ次回、久方ぶりのバトルです!

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