第九十七話 ぼっち妖魔は誘われる
ぶっくまありがとうございます!
「マーヤさん、おはようございます!」
「あら、麻衣さん、おはようございます。
夕べはよく眠れた?」
「はい、結局マーヤさんお勧めの宿に泊まっちゃいました。」
冒険者ギルドに別れを告げて、
昨夜の乗合馬車の所に集合する。
女性同士、他愛もない挨拶を交わしていると、
後からデミオさんもやってきた。
ホーチットさんはお手伝いなのか、デミオさんにあれやこれや指示をされながら働いている。
「・・・忙しそうですね。」
一見、何もない宿屋町なのに、これだけバリバリ働いてるのは感心してしまう。
「なぁに、毎度の事さ、
んじゃな、ホーチットまた来月寄るからな、
なんかあったら連絡寄こせな。」
「はい、お疲れさまでした、サブギルドマスター。」
ホーチットさんはあたしにも挨拶をしてくれて、
そのまま自分の持ち場に帰っていった。
マーヤさんもデミオさんも出発までにいろいろ自分の積み荷や荷物をチェックしている。
・・・あたしは身軽なのでなーんもありません。
出発してからお昼休憩まではお喋りと、風景を見ることぐらいなんですよね。
そんな感じで静かにしていたら、
馬車の御者の人が挨拶に来たようだ。
「おはようごぜぇます、
間もなく出発になりまさぁ、
・・・それで、このペンドットからお一人、増えますのでよろしくおねげぇしやす。」
見ると御者の人の後ろに、魔術士用の杖とローブを着た、日本で言うと女子高生くらいの女の子が立っていた。
・・・青い瞳の目がきつそうな印象を受ける・・・。
クールビューティーってのとは違うな・・・。
ソバカスが少し浮いてるのとピンク色の頬が印象的だ。
マーヤ夫人は「あらあら、よろしくね」とマイペースに微笑んで、
デミオさんは「また一人、女っ気が増えたなぁ」とまんざらでもなさそうな雰囲気。
女の子はあたし達全員を一瞥した後、何を思ったのか、あたしに近づいてきた。
「鑑定が使える冒険者ってアンタか?」
いきなりだな、もう。
・・・えーと、どうしようかな・・・。
隠すつもりもないけど、この人なんかトゲトゲしてんだよねぇ・・・。
いや、見た目の印象でなく、感情の方も・・・。
さすがに空気を読んで、デミオさんもマーヤ夫人も何も言わない。
あたしの判断に任せるという事だろう。
「・・・使えますが。」
あたしも感情を見せないでおこう。
その気になれば機械のように冷徹に振る舞える。
「そうか、女性で一人ならちょうどいい、
アタイとパーティーを組もうじゃないか。」
いきなりなんでそうなるよ?
「間に合ってますが。」
「そうか、ありがとう、これからよろし・・・えっ!?」
「間に合ってますので結構です。」
なんでこの人、信じられないような顔であたしを覗き込むんだ?
ていうかあたしが断ることを全く想定していなかったような口ぶりだな。
「ちょ、ちょっと待ちたまえよ、
キ、キミは冒険者だろ?」
「そうですよ。」
「鑑定スキルを持っているんだろう!?」
「持ってますね。」
「それで、今現在ソロなんだよな!?」
「その通りですね。」
「ならアタイとパーティー組むだろ!?」
だから何故そうなる。
「組みませんよ。」
後ろでデミオさんが噴き出し、マーヤ夫人が必死に笑いを堪えてる。
うん、あたしも第三者だったらそんな反応しそう。
「馬鹿な!
じゃあどうやって冒険をするつもりなんだ!?」
ああ、あたしが戦闘力皆無だと思われてるのかな?
「どうやっても何も、必要があればパーティー探しますし、
必要なければソロで十分ですし。」
そしたらこの人、いきなりあたしの両肩掴んできた!
「ダメだ! 危険すぎる!!
そんな小さいカラダで冒険なんてとんでもない!!」
まぁ確かにあなたよりは小さいですよ。
でも胸の大きさは一緒ぐらいじゃないですか。
欧米系人種と言えどもみんながみんな巨乳という訳ではないですね。
元の世界の御神楽先輩も、ハーフとは言え胸は小さい。
ちなみに本人に言ったら「そう」と無表情に喰い殺されそうだけど。
「あ、あー、どこ見てる?」
いえいえ、ちょっと視線が脱線しました。
「あなただって小さいじゃないですか。」
身長だって165センチぐらいですかね。
リーリトアイは体重50kg前後と見抜きましたよ。
「あ、アタイは魔術士だ!!
これでもDランク!!
ソロでも戦える!!」
へぇ、魔術士でDランクって凄いですね、
ベルナさんと同格という訳なのですね。
そしてベルナさんは魔法剣士という器用貧乏職でソロでも戦える身分となっているので、
この人は魔法の腕ならベルナさんを上回る使い手と言う事だろうか。
でも要らない。
「ではソロで頑張ってください。」
「なっ・・・!?」
お、撃沈したか?
あたしに言い負かされるって、よっぽどだぞ?
だいじょうぶかな、この人、いろんな意味で。
このままだと、馬車の中が微妙な空気のままになってしまいそうだ。
あたしのせいじゃないんだけど、それは避けたいと思ったのだろう、
マーヤ夫人が空気を変えてくれた。
「ぷっくくく、あなたねぇ、まずは自己紹介でもなさったら?
商売の取引でも相手がどこの誰かも分からなくては契約も出来ませんよ?」
まったくですよ、
商人じゃなくても、初対面なら初対面なりの挨拶とかあるでしょうに。
「あっ、そ、そ、それは、そ、その通りだな、
申し訳ない、
アタイは、さすらいの土魔術士ゴッドアリアと言う!」
ごっつい名前だね、
ていうか二つ名って自分で名乗るものなの?
そもそも、なんでさすらってるのよ?
とりあえずあたしの方も名前だけは名乗っておく。
するとデミオさんが為になる情報をくれた。
「さすらいの魔術士ゴッドアリア?
あー、聞いたことあるな。
魔術士にしては珍しく、土魔法しか使えないが、
その威力がシャレにならない程高くて、
有能だか無能だかよくわからん魔術士だという噂だ。」
「な、なんと失礼な噂だっ!?」
あ、でもその噂、真実っぽいですね。
ゴッドアリアさんとやらが後ろのデミオさんに抗議している間に鑑定させてもらおう。
「鑑定」
名前:ゴッドアリア、年齢:18才、性別:女性
状態:借金
レベル:26 種族:ヒューマン
職業:魔術士
称号:うっかりドジ魔女っ子
なんじゃ、そりゃ。