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第九十六話 ぼっち妖魔は世界の深さを思い知る


朝です!

最近、少々冷えてきましたが、今日は暖かい日差しが街を照らします。


馬車の出発時刻は9時。

特に荷物もないあたしは、早々とホテルをチェックアウトして冒険者ギルドに向かう。


8時ぐらいに着けばいいだろう。

さすがに宿場町と言えども、朝の様子は全然風景が違うね。

人通りは観光客や旅人と言うより、仕事や買い物する人で賑わっている。

冒険者ギルドや商人ギルドが入っている建物も、大勢に人の出入りがあった。


カタンダ村でも見たような、依頼ボードの前に群がる冒険者の姿も見える。


・・・群がるって程でもないか。

カウンターにはメルモさんと・・・他二名の姿が見えた。

あたしが声をかけるより先に、小柄の女性の姿が珍しいのだろう、メルモさんがあたしに気づいたようだ。

 「伊藤様 おはようございます!

 こちらへどうぞ!!」


メルモさんは他の冒険者の手続き途中だったみたいだけど、

一度席を立って、あたしを別のカウンターに案内してくれた。

今日は別の人が応対するということかな?


どうやらあたしの予想通りみたいで、

そこには昨日いなかった男性の職員があたしを見てニコニコしていた。

 「おお、君がカタンダ村から来た伊藤さんかね!

 本当に若い女の子なんだね!

 いやいや、おかげで助かったよ、

 私はメルモと同じここの職員のモノタウロだ。」


えっ?

 「ももたろうさん?」

 「いやいや、モノタウロだよ。」


あー、よく聞くと違うね、

なんて紛らわしい名前だ。

このももたろう・・・いえ、モノタウロさんはちょび髭の40代くらいのおじさんだ。

デミオさんより年上って感じかな?

そしてカウンターの奥にももう一人、サイドテールにしている女の子がニコニコしている。


あたしは二人に軽く頭を下げて、モノタウロさんに語りかける。

 「今日は三人いらっしゃるんですね、

 やっぱり朝方は混むんですね。」

 「ああ、いつもは二人なんだけどね、

 昨夜の出来事があったから、早出して対応しているのさ。」


そしてその奥からサイドテールの女の子がやってきて、可愛い笑顔をあたしに向けてくれた。

 「ここのギルドのアシスタントしてます、ネリーです。

 伊藤様ですね、メルモから聞いてます。

 冒険者カードを出してくれれば、すぐに手続きできるようになってますので。」


話と仕事が速いな。

あたしはつられて丁寧に頭を下げて首から提げていたギルドカードをネリーさんに・・・


ネリーさんに渡した。

 「あら? どうかしました?」


あたしの動きが一瞬止まったのを、不審がらせてしまったようだ。

 「ああ、いえ、何でもないです。

 ネリーさんのお名前が、昔の知り合いに似てたので、ちょっと、一瞬ぼーっと。」


 「まぁ・・・。」

うん、知り合いと名前が一緒だったり似てたからと言って、普通それで動きなんかに現れないよね、

顔が似てるとかならまだしも。

多分、あたしがその名前に何かあったのかと気にされちゃったようだ。

これは申し訳ない。


 「あ、気にされなくて大丈夫ですよ。

 はい、カードです。」

 「はい、伊藤様、確かに・・・

 たしかに・・・おおおお、これは。」


ネリーさんはあたしのカードに記載されてる内容を見て目を丸くした。

メルモさんから聞いていたんだろうけど、実物を見て確かめているようだ。

そしてそれを上から覗き込むモノタウロさん。

いや、そんなガン見しなくても・・・。


ネリーさんが手続をしている間、改めてモノタウロさんがあたしの正面に座る。

 「手続きはすぐ済むよ、

 この後、すぐこの街を立ってしまうんだって?

 本当に残念だ・・・。」

 「あはは、すいません、ご期待に沿えなくて・・・。」

 「いや、それこそ気にする必要はない。

 できたら、またここに立ち寄ったときでも顔を出してくれれば・・・。」

 「そうですね、その時はお願いします。」


そして本当にすぐに、トレーの上にあたしのカードと結構な額のお金が積まれていた。

 「え、こんなに!?」

 「それだけの費用が浮いたんだよ、

 例の呪いのアイテムも商人ギルドに引き取ってもらったしね。」


ふーん、そういう需要もあるのかー、

と思っていたら、

後ろから知った声が聞こえてきた。

 「お? 嬢ちゃんじゃねーか、

 やっぱりあのナイフを鑑定したのは嬢ちゃんか?」

 「あ、おはようございます、デミオさん。」


見るとデミオさんと、昨日商人ギルドの受付にいたホーチットさんが二人でにやついていた。


ん? ここでにやついてるの何か怪しいな?


 「たいしたもんだ、あ、これ、例のナイフの受領証ね、

 モノタウロの旦那、後はよろしくな。」

 「これはわざわざキリオブールからデミオ様にご足労いただけるとは・・・。」

 「ああ、気にしないでくれ、

 こっちは嬢ちゃんのおかげで素晴らしく美味しい思いをさせてもらったんでね・・・。」


え? どういうこと?

あたしも冒険者ギルドの3名もよくわからないみたいだ。


するとデミオさんはとんでもないことを言い出した。

 「はは、黙っていようと思ったんだが、嬢ちゃんも商人ギルドに加盟したんだしな、

 今後のためにご教授しとくか、

 いいか、嬢ちゃん、

 君は確かにあの呪われたナイフを鑑定し、その正しい評価を冒険者ギルドに提示した。

 その鑑定内容は、オレも鑑定したからわかるが間違いなく正確なものだった。」


 「は、はい?」

 「そして冒険者ギルドの彼らも、

 ナイフの性能、装飾品の価値、劣化状況、呪いの内容全てを検案し、

 オレたち商人ギルドの担当と折衝し、適正な価格で捌いたんだろう。

 ここまではいいかい?」


 「は、はい、いいですよね?」

 「ではオレたち商人ギルドは、あのナイフをいくらで市場に流すと思うかね?」


 「え・・・それは・・・そもそもいくらで。」

そこでモノタウロさんは領収書をあたしに見せていいか、デミオさんに一度視線を投げかけ、

もちろんデミオさんは何の戸惑いもなく首を下げて頷いた。

あたしは額面を・・・おお、結構なお値段になってるじゃないですか。

けれど。


 「オレたちはその価格の10倍を提示する。」


 「「「「はいいいいいいい!?」」」」

あたしもモノタウロさんも、メルモさんもネリーさんも驚くしかできない。


 「そもそも嬢ちゃんならどうやってこの呪いのアイテムを売るね?」

 「え?

 そ、それは一度、解呪して・・・あ、どうやって解呪するんでしょう?

 教会とかで?」


 「ははは、呪いを解くには専門の機関でないとできないし、

 当然、その費用もバカにならない。

 そして呪いを解いた後にそんな費用分を上乗せしたって売れるほどのアイテムじゃないな。

 つまりそんな手段を取るのは二流の商人だ。」


あ、お、そういうことになるのか、

 「す、すると?」

 「いいか、嬢ちゃん、商売ってのは需要と供給で成り立つんだ。

 つまり鑑定の評価は正確だとしても、

 それを欲しがる奴には、もっと高い値段を設定することができるのさ。」


 「あ、ま、まさか呪いアイテムコレクターとか!?」

 「そうだな、他にもいろんな用途があるかもしれんが、

 そういう一定の価値観を持っている金持ちってのもいるんだ。

 商人ギルドを通せば、そういう販路を提示できる可能性が高い。

 これが冒険者ギルドと商人ギルドの違いって奴だ。

 嬢ちゃんが冒険者活動を行う事に口を挟むつもりはないが、

 二足の草鞋を履くつもりなら覚えておくといいだろうぜ。」



うおおおおおお!

奥が深い異世界ぃぃぃぃっ!!


見ると冒険者ギルドの皆さんも苦虫を噛んだような表情をしているっ。

でもこれは仕方ないよね、

ギルドの役割が違い過ぎる・・・。


 「悪く思うなよ、モノタウロ、

 むしろかなり良心的な価格にしてやったんだぞ。

 本来なら呪い付きということでもっと値段落として交渉することも出来たんだ、

 お互い良い付き合いをしないとなぁ、

 お隣さんなんだしよ?」


大人の世界、

商売人の世界・・・これは異世界云々関係なく勉強になるなぁ。

魔法やあたしの妖魔研究も目を離せないけど、面白いことがたくさんあるじゃないですか。




 

タイトル回収しそうでできませんね・・・。

彼女達の再会(?)はいつになるのか・・・。



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