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第九十五話 ぼっち妖魔は検証する


その後、後片付けを終えると、メルモさんは深々と頭をあたしに下げてきた。

 「伊藤様、大変ありがとうございました!

 いろんな意味で助かりましたよ・・・。」


緊急性はなかったけど、ほっとくと大変なことになりそうだったものね。

 「いえ、お役に立てて何より・・・。」

 「当ギルドとしましては、事後になりますが、

 ギルドからの直接依頼として報奨金と貢献ポイントを加算させていただきます。

 恐れ入りますが明日の出発前にもう一度、お越しいただけますか?

 その時お支払いできますので。」


えっ!

それはラッキー!!



あたしは最後に挨拶して冒険者ギルドブースを後にした。

今日は後は、夕飯食べて宿に泊まる。

宿屋町なら一人部屋も空いているだろう。

前の村でもそうだったけど、この辺りではいわゆるビジネスホテルのようなものはない。

1階に食堂があり、二階から上の部分が宿泊施設となっている。

まぁ、食べる食べないは各自の自由だけど。

なので、大体通りから見える窓の奥の食堂のカンジで泊まる宿を決める。

マーヤ夫人が泊っている宿屋も参考までに覗いてみた。

うん、上品なイメージで客層も悪くないや。

さすが女性が安心して泊まれる宿屋だね。

ここでいいかな?


宿屋の入り口は白木の扉だ。

開くと・・・これはラベンダーかな?

かぐわしい花の香りがあたしを出迎えた。

これは嬉しいけど・・・ちょっとお値段お高めかしら?


受付にはザ・ホテルマンて感じのワイシャツにベストの男の人がいた。

・・・あたしを見て、ちょっと戸惑っているようだ。

またかよ。


 「い、いらっしゃいませ。

 ご宿泊ですか?」


それでも失礼な言葉や態度は出さないみたいで大変よろしい。

 「はい、シングル一つ、

 明日の朝の馬車で出発しますので、一泊だけです。」

 「かしこまりました、

 食事は夕飯と朝食付きで9800ペソルピーとなります。

 ・・・それと大変申し訳ないのですが、ご身分を証明できるものはございますか?」


失礼な物言いはないけど、最低限聞くべきことは聞いておかないとってことかな。

まぁ、それは仕方ないですね。

 「では冒険者カードと商人ギルド発行のカードで構いませんか?」


ふふふ、

あたしがカード二枚持ってるのに驚いたようだね。

 「結構でございます!

 失礼しました、少し預からせていただきます。

 あ、いえ、テーブルの上に置いていただくだけで結構です。

 宿帳に記載していただく間に確認させてもらうだけですので。」


はいはい、ならパパっとサインしちゃいますよ。

宿泊代はやっぱり少しお高めだったね。


 「はい、確かに。

 お部屋は3階の304号室です、

 お食事は23時までとなっております。

 朝は6時から食堂は営業してます。

 当宿は水の使用は無制限となってますので、

 部屋の浴室は蛇口をひねるといつでも水が使えます。

 どうぞごゆっくりと。」


おお、カタンダ村のローラちゃんのいた宿は、汲み置きの水しか使えなかったな。

こっちは何か水を供給する設備があるんだろうな。


さて、食堂で美味しいごはんを食べた後、

あたしは自分の部屋で検証することにした。

何をって?


新しく覚えた魔法ですよ!!

ジョブは鑑定士のままだから、大した威力や効果はないだろうけど、

今は術の性質を調べるのが先決!


今まで一人になれそうで、なれない時間が多かったんだよね、

だいたい、どこかしらに人の目があって。

まずは初級魔法「ダークネス」!!


あら?


目の前に真っ黒な塊が浮かんでいる・・・。


ちっちゃ!!

しかも10秒ぐらいで消えてなくなっちゃった。


ま、まぁ最初だし・・・。

あたしは何度となく同じ作業を繰り返す。


自分の周辺・・・やや遠い場所・・・大きさは・・・持続時間は伸ばせるのか・・・・など。


カラダの中の魔力とやらが消費された感覚はわかるけど、それほど大量に抜けていった感じはない。

つまり魔力的にはまだまだ余裕だ。

精密な配置は出来ないけど、自分の周辺2,3メートル以内なら思った場所に配置できる。

持続時間は変わらないな・・・。


うーん、いくらレベルが低いとはいえこれじゃ何の役にも立たないな・・・。


そこでふと、あたしは間抜けなことに気付く。


確か魔法って呪文詠唱が要るんだっけ?

なくても術の発動自体は可能だけれども、呪文詠唱が術の効果を高めているのだとしたら?

でも、虚術なんて誰が知っているのよ・・・。

さすがに鑑定をもってしても呪文パターンまでは情報ないようだし・・・。

あたしは適当に口からそれっぽい言葉を紡ぐ・・・。

 「大いなる闇よ・・・。」


ゴゴゴゴゴ・・・


あれっ!?

あたしの体の中を何かが渦巻いた?

・・・これいけるかも・・・。



ただ今のは違和感ある。

あれでは闇魔法だ。

この状態であたしは鑑定さんに問いかける。

「術の詠唱呪文に必要なものは何?」

するとこんな答えが返ってきた。

「術の威力精度に関わるのはあくまでもイメージと、そのイメージを保持する精神力です。

そしてそのイメージが現実の事象に近ければ近いだけ術の威力は増長していきます。」


「すると詠唱自体は・・・。」

「呪文詠唱はそのイメージ作りのための補助作業です。」


なるほど。


ではあたしが勝手に創作しても良いわけだ!

 「万物の支配者たる虚空よ!!」


ズズズズズズズズ・・・

あ、これはきた・・・!


 「その憎しみの咢で惰弱なる光を食らい尽くせ!! ダークネス!!」


あ・・・



お部屋の中が真っ暗になっちゃいました。

ま、まぁ遠隔透視あるから困らないけどさ!!


 

その後の検証結果。

たぶん、隣の部屋から何の騒ぎも起きなかったみたいなので、

少なくとも今のレベルでの効果範囲は、あたしの中心から2、3メートル以内と考えられる。

部屋の壁そのものが一つの結界と見なすことができるため、

もしかしたらそれ以上、効果範囲が拡げられる可能性は残っている。


「サイレンス」も試してみた。

効果範囲はよくわからないが、あたしが足踏みしても床の音は聞こえなかった。

けれど、振動そのものはあったので、

隠密的な何かをする時は気を付けないといけない。

それと、さっき闇魔法も発動できるか試してみたんだけど、

肝心の魔力の属性変換が壁になっているようだ。

虚術は無属性とだけあって、魔力が何かの属性に変化したという感覚はない。


それとふくろうのふくちゃんを呼んでダークネスの実験台になってもらった。

あたしの目と鼻の先で、つぶらな瞳にむかって話しかけてみたけど、

こっちの言いたいことを理解してくれてる気はする。

 「真っ暗になるけどいい?」

と聞くと、翼を片方拡げて「任せろ」と言わんばかりだ。


さっそく「ダークネス」をふくちゃんの頭周辺にかけてみる。

うん、あたしからも見えなくなった。


まぁ遠隔透視でふくちゃんの様子は分かる。


しばらくふくちゃんはせわしなく頭を動かしていたけど、やっぱり光が完全になくなっちゃたら、いかに夜行性のふくろうでも何も見えなくなるみたいだ。

あ、諦めたのか、首を180度後ろにまわして背中の羽毛の中に首を潜り込ませちゃった。

いやいや、さすがに眠るのは早いよー?

そして「ダークネス」解除。

 「朝だぞー」と声をかけるとふくちゃん復活。

実験は成功だ。

ふくちゃんにお礼を言って帰ってもらった。


よしよし、次のキリオブールに行ったら冒険者ギルドで転職してみよう。

騒がれないかな?

恐らくレベルが上がれば、効果範囲や継続時間も増やせると思う。

それにこの後覚えられる呪文も気になる。


ダークネスが「光を奪う」。

サイレンスが「音を奪う」。


このパターンなら、特定の空間から「何か」を奪う術になりそうだ。

後は何だろう?

生物の五感を封じるというなら、

後は匂いとか皮膚感覚?

いや、違うよね。

ダークネスもサイレンスも、この二つは感覚機能には一切影響を与えない術だ。

生物そのものにも何の害もない。

・・・もしかしたらかなりえげつないものを奪うのかも・・・。



そしてあたしはこの術の致命的な弱点も気づいた。


一度設定した空間は動かせない。

つまり術の対象者に移動されたら終わりである。


なるべくレベル上げて効果範囲拡げるしかないか。

それと術の対象者をうまくだまくらかす方法か。

自分の目が正体不明の術で見えなくなったって勘違いしてくれたら、

むやみやたらに動き回ろうなんて考えないよね、普通。


まぁでも面白そうと言えば面白いかも。



ふぁ~あ、今日はいいかんじに疲れたね、

半日馬車に揺られて、ギルドを行ったり来たり、

知らない街をうろうろと。

ああ、テストも受けたんだった。

そして明日はこの街を出る。

そうだ、ギルドに寄らないと・・・。


いま、夜の10時ぐらい?

じゃあ、ここらでお休みしましょうかね?

入り口の扉の鍵よーし!

窓の鍵よーし!

水道の蛇口よーし!

ガスも電気もなーし!


ランプの灯を消してもいいけど、夜中に何かあったとき、

急に明かりを点けられないから、専用の笠で周りを覆って光をある程度遮断する。

空気は入るようになってますので途中で消えません。

ランプは朝、お日様が昇ってから消せばいい。


これで良し!

ではおやすみなさい・・・。

 

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