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第九十四話 ぼっち妖魔は鑑定する


カウンターに誰もいないや。


もしかして遅くなっちゃったから帰っちゃった?

今7時半ぐらい?

まだ受付を閉めるような時間じゃ・・・いや、いる!

カウンターの机の下!?


すると机の下からもぞもぞと慌てる気配が・・・。

 「あ、お、おかえりなさいませ、伊藤様!

 お待ちしてまひた・・・んぐ!」


食事中だったのか・・・。

それは悪いことしたな・・・て食事は休憩時間に取るものでは・・・。

 「お、遅くなってすいません、

 あの・・・もしかしてこちらって休憩時間もないんですか・・・?」


そう言えばメルモさん一人しかいない。

緊急事態の時とかどうするんだろう?

トイレとかの時もあるだろうに。

 「あ、あはは、いえ、お気遣いなく、

 一応、一日二人体制ですよ、

 相方は早番で上がっちゃってるので、たまたま閉店の21時までの時間は一人なだけですから。

 まぁ休憩時間はあってないようなものなのは確かですが、誰も来客者がいなければ、ずっと休憩中みたいなものですし。」


うーん、なんだろう、ブラックな職場なのか、

まぁ、職場の労働環境への意識をあたしたち日本のものと比べる必要はないか。

とりあえず用件を済ませてもいいけど、この場合は・・・。


 「あ、そ、それじゃあどうぞお食事を先に・・・

 あたしはお茶でもいただいておきますので・・・。」


ここはもう遠慮する必要ないだろう。

口の中をモゴモゴさせながらメルモさんがお茶を煎れなおしに行こうとしたけど、

「いえいえいえ~」とセルフで自分の湯呑を手にする。


その隙にメルモさんの夕飯を見たけどサンドイッチだった。

ランチならともかく夕飯がそれは寂しいなぁ。

しかも一人で。


あたしはボッチ気質だから一人でも大丈夫だけど、年頃の娘さんがこれはかわいそすぎる。


あたしが目頭を熱くさせていると、正味五分ぐらいでメルモさんは食事を終えた。

 「ぐぇっぷ。

 それで伊藤様は無事に鑑定士にジョブチェンジなされたのですね、

 それで、伊藤様が手続している間に、こちらもいろいろな品物を用意したので、

 どうぞ、カウンターの中に入ってきてください。」


いま、ぐえっぷって言ったよ、この人。

普通にしてればもてそうなのに、残念この上ないな・・・。

いや、これはきっと孤独な職場環境のせいなんだろう・・・と思いたい。


 「おお!」


カウンターの中は結構広かった。

よくニュースで盗難品の品物をブルーシートの上に陳列している映像見たことあるけど、あんな感じ。

ゴザのようなシートの上に動物の・・・いや、魔物か、

魔物から剥ぎ取った部位や、金属製の武器や防具がいくつか散見する。

あたしが商人ギルドに行ってる間に用意してたみたいだね。


 「伊藤様、例えば、手前にある魔物の爪は、

 冒険者が直接退治したものでなく、森の中で白骨化したものを採集してきたものです。

 形状からワイバーン種のものであるのは一目瞭然なのですが、

 それが通常のワイバーンなのか、高位のレッドワイバーンか、又はその亜種なのかがはっきりしないのです。

 もちろん、熟練の職人や商人、鑑定持ちに見せれば判断できるのでしょうけど、

 キリオブールまで運ぶには経費が掛かるし、商人ギルドに鑑定させると、これも手数料がかかります。

 たまにキリオブールから冒険者ギルドの上位権限者がやってきたときに鑑定してもらってますが、そうそう高い鑑定スキルを持っているわけでもなく・・・。」


 「あっ、なるほど、じゃあ、こういうのは種族名をはっきりさせればいいわけですね。」

 「はい、他にも正体不明の死骸のものもありますので・・・。」


これは思ったより簡単そうだ。

鑑定士にジョブチェンジする必要もなかったかもしれない。

 「ではさっそく。」


一応精神耐性あげておこう。

サイコメトリーでなくあくまで鑑定だけど。

まずは話に出たワイバーンをとやら・・・。

 「鑑定、グリーンワイバーンの爪、

 死後3ヶ月ほど、保存状況は良好。」


 「きゃあ!

 ほんとに鑑定スキルですね!!

 ですが、ただのワイバーンでしたか、それは残念でした。」


グリーンワイバーンが正式名称で、いわゆるノーマルタイプなので、簡略化してワイバーンと呼ぶそうだ。

あたしは引き続き他の素材を試みる。


 「マッドボアの骨、通常種、内部に腐食が見られる。価値は低め。」

 「サンドゴーレムの魔石、レア。」

 「オークの剣、価値は低め。」

 「あれ? こっちは似たような感じだけどオークジェネラルの剣、レア。

 ただし手入れがいい加減なため、マイナス評価。」


あたしは片っ端から鑑定していく。

その傍からメルモさんが凄まじい速さで付箋を付けていく。

全部で2~30品鑑定したろうか、さすがに疲れたよ。

けれどメルモさんはとても嬉しそうだ。

 「凄いです~!!

 さっきのオークの剣、冒険者さん達がオークの群れを壊滅させた時に入手したんですけど、ジェネラル級はいなかったんです。

 普通に雑魚オークが持っていたんですけど、他の剣と少し雰囲気が違っていたんで・・・、きっと死んだオークジェネラルの剣を何かの形で入手してたんですね。」


 「お、お役に立てて何よりですよ、あれ?」


あたしはまだ鑑定し終えていないアイテムがあるのに気づいた。

普通の木箱なんで気づかなかったんだけど、木箱の中に何か収められているようだ。

 「あ、あれは?」

 「あ、あれはどっかのダンジョンから入手してきたお宝のナイフだそうですけど、

 古ぼけていて値打ちある物かどうかわからなくて・・・。」

 「なるほど、あたしの鑑定で値打ちまでわかるかな?」

 「多少なりとも謂れや材質などわかれば価格に反映させますよ。」


さっそく木箱を開けてみる。



うっ。


鑑定する前にあたしの危険察知が働いた。


これ呪いのアイテムだよ。

 「メルモさん・・・。」

 「はい、なんでしょう?」

 「これ、呪われています。」

 「えええええええええええええええええっ!!」


鑑定するだけで呪われたりしないだろうね?

ていうか、あたし精神耐性あるから多少の事じゃ呪われないと思うけど・・・、

いや、過去にやられたことあったか、

まぁこれはそんなに強い呪いは感じない。

 「鑑定。」

 「伊藤様、だっ、大丈夫なんですか!!」

 

 「うん、大丈夫そう、

 鑑定結果、『ティラミス夫人のナイフ』、オグリアノス伯爵夫人ティラミスが、夫に頼んで造らせた護身用のナイフ。

 女性が装備すると、男性に対し攻撃力が増強。

 呪い。スーパーレア。

 オグリアノス伯爵は好色で、妻以外に何人もの女性に手を出し、

 嫉妬に狂った夫人は、その伯爵を刺した後、自らもその喉にナイフを刺した。

 夫人は絶命したが、伯爵は命を取り留めた。

 ただし、伯爵は全く懲りず、その後もいろいろな女性に手を出し続けていたが、

 ある時、部屋で夜伽をした妾がそのナイフの装飾に目を奪われ、

 ついそれを手に取った瞬間、

 我を忘れたように叫び声をあげ、傍で寝ていた伯爵をめった刺しにしたという。」


あの時・・・



パパとママのカラダを包丁で何度も抉った感触が手に残っている・・・

まるで昨日の事のように,。

そしてこの耳にこびり付くパパたちの叫び声。



ヤバい・・・。

ちょっとトラウマがフラッシュバックした。

大丈夫大丈夫、

もう何ともない。

あたしはもう免疫がある。


あたしは鑑定結果を自分で読み上げた後、メルモさんと視線を合わせた。


 「・・・信じます?

 今の内容・・・。」


オグリアノス伯爵もティラミス夫人の名前も全く聞いたことない。

鑑定したら頭の中にそのまま文言が飛び込んでくる。

ちなみにステータス画面を開いたまま鑑定を実行すると、ステータス画面に同じ説明が浮かび上がる仕組みです。

さらに解説すると、

恐らく鑑定士以外の職に就いている時に鑑定をかけると、最初の名称からスーパーレアという部分までしか明示されないようです。

そこから先の詳しい内容は鑑定士ジョブになってからみたいですね。


 

メルモさんは顔を引き攣らせていた・・・。

 「オグリアノス伯爵って確か百年以上前の貴族の名前ですよ、

 没落したって聞きましたが・・・そんな謂れが・・・。」


 「とりあえず誰も装備しなくて良かったみたいですね・・・。」


普通の人にどれだけ影響あるかわからないけど、

経験者として言わせてもらえば、これは必ず除霊するか封印するかしないといけないレベルのものです。


えっ?

あたしが装備する!?

そんなわけないでしょう!

いくら耐性あったって、あたしは一般人ですよ!



 

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