第九十話 ぼっち妖魔は旅に出る
やっぱり虚術が、
ある法則を元にって語弊があるな。
ある思想を元に・・・
あるビジョンを元に・・・
ある方向性を元に・・・
あああ、適当な文句が浮かびません!!
「ある一つの思惑の上に成り立っている。」
これが一番近いかな?
いい天気ですね。
そろそろ陽が短くなってきている季節だけど、まだまだ日差しが眩しい。
あたしは、ほぼ一か月ほどお世話になったカタンダ村を出た。
そんない狭い村ではなかったけど、
あたしは次の土地へ向かう。
この世界に転移させられた意味を知るために。
単純に大きな町の方が情報は得られやすいと思うし。
城下町、キリオブールへは定期便のキャラバンがある。
商人ギルドで運営しているもので、お金を払えば一般人でも乗車できる。
ほとんどは予約制だけれども、空席があれば当日申し込みでも乗車は可能だ。
道中は比較的安全とされる。
大勢が使う交易路なので、交通量はそれなりにあり、途中に宿場町のようなものもいくつかあるのだ。
魔物など、脅威度の薄い低級モンスターしか現れないし、
山賊もいないとは言わないが、被害が出ればすぐに討伐隊が派遣される。
馬車にも、商人ギルドお抱えの護衛が常駐している。
城下町キリオブールまでは片道三日。
途中に二つの宿場町を挟む。
旅行客はそれぞれ、自分で宿を手配し、翌日出発場所に再集合。
もっとも、この辺りはそれぞれ効率化というか慣れたもので、
一般客にも、商人ギルドのほうから、おすすめの宿屋とか、ある程度の宿の混雑状況は教えてくれるそうだ。
というわけで、あたし達のキャラバンは最初の宿場町、ペンドットへと向かう。
馬車の中ではすることもないので、相乗りした人たちと会話することもおかしな話ではない。
まして、こっちは年端も行かない少女1名。
ガラの悪い方々からのお声がけなどもある危険は覚悟せねばならないところだろうけど、幸い、商家の女性もいるようで、気をつかってくれたのかもしれないけど、あたしに話しかけてきてくれた。
「こ、こんにちわ、あなた一人旅なの?」
30代ぐらいの女の人かな?
胸元をすっぽりと覆うケープを羽織った落ち着いた感じの人だ。
「あ、はい、ちょっと大きな町を目指しているもので・・・。」
「そういえば、出発の時、たくさんの人たちがお見送りに来てたわね?
冒険者みたいないで立ちの人が多かったけど・・・。」
「ああ、冒険者ギルド関係の知り合いが多かったもので・・・。」
「あら? もしかしてあなたも冒険者なの?」
「ええ、先月デビューしたばかりのビギナーですけどね。」
「まぁ? そんな小柄な体格で?
あ、ごめんなさい、もしかして魔術士なのかしら?」
「あー、まぁ、なんていーますかー?」
この人に悪意はないし、教えるのに不利益はないんだけど、説明が難しい。
鑑定士、召喚士、巫女、テイマー、どれがあたしのメインジョブかわからない。
それにどれを言ったところで、余計に食いつかれそうだしなぁ。
すると馬車の反対側に座っていた男の人が間に入って声をかけてきた。
「その子は、感知探索型の凄腕冒険者だよ。
まだEランクだったはずだが、冒険者ギルドじゃ、感知に関してはCランクともBランクにも匹敵すると言われている。」
「ええええ、いやいや、それは大げさですよ!」
思わず声を上げてしまった。
男の人に見覚えはない。
服装からだとどこにでもいる商人さんという感じだ。
「そうか?
商人ギルドでも、この一か月、魔物や希少素材の流通が活発になったのは、お嬢ちゃんのおかげだと話に華が咲いてるぜ?」
あ、やっぱり商人ギルドの人なのか。
うう、そうだよね、
よく考えれば、あたしが入手してきた素材は冒険者ギルドから商人ギルドにも流れているんだよね。
そこであたしの隣の女の人が思いっきり驚いてしまったようだ。
「まぁ、そうなんですの!?
それでは、こちらの方はキリオブールまで行かれるのかしら?」
「ええ、まぁ、少し大きな町にいこうかと・・・。」
「まぁ、それはそれは、
あ、ごめんなさい、女の子の一人旅なんて、何か訳ありかと思ったのだけれど、
冒険者の方だったのね?」
どうやら心配して声をかけてくれたようだ。
そしてさらに向かいの方は、あたしの口から言いにくいことをフォローする。
「何が凄いって、他人の悪意や害意にも敏感だっていうからな、
その子を騙そうとか利用しそうな奴は、全て跳ねのけちまうんだそうだ。
この馬車に乗り合わせたオレらは運がいいと思う。
まぁ道中、危険はないだろうが、魔物が近づいても事前にわかるのかい?」
最後の言葉はあたしに向けてだね。
「ゴブリンとか茂みに寝ていて、こっちに気づいてないならあたしも感知はできません、
でも、こちらを狙い始めたなら確実にわかりますよ。」
「・・・すげぇな・・・
まぁ、という訳らしい。
安心したかい、ファーゼ商会のマーヤ夫人?」
「あらあら、ごめんなさい、名乗るのが遅れたわね、
キリオブールでファーゼ商会を営んでる・・・先に言われちゃったけどマーヤよ。
いろいろ初対面なのにあつかましく話しかけて申し訳ないわね、
・・・それと、向かいのおじさんはキリオブールの商人ギルドの職員でデミオさんね。」
「おじさんて。」
「おじさんでしょう。」
あたしに向けた表情より確実に悪戯っぽく笑った。
こっちが素なのかな?
「あ、それではあらためて、はじめまして。
伊藤麻衣です。」
どちらの人も商人なわけか。
前の村では冒険者ギルドと、例外的に医療ギルドの人としか殆ど交流なかったからな、
商人ギルドも利用した方がいいのかもしれない。
「あの、途中のペンドットには商人ギルドはあるのですか?」
「いやいや、冒険者ギルドもそうだが、商人ギルドも出張所程度の設備しかない。
馬車のターミナルに隣接するように、大きな館の中に、それぞれ簡易ブースを借りてるだけさ。
ギルドマスターどころか、代行もいない。」
うーん、そんなものなのか、どうしようかな?
冒険者ギルドの方は挨拶ぐらいだけするか。
一応、エステハンさんから簡単な紹介状は作ってもらっている。
あたしに何が出来て、何が不得意か分かるようになっているので、
新しい町で依頼を振り分けたり、パーティーを紹介するのに、融通を利かせてくれるように取り計らってくれるらしい。
本当に頭が上がりません。
「それで麻衣さんはキリオブールに長く滞在する予定なの?」
「まだ何とも・・・。
依頼の数が多ければランクも上げやすいかなと、
色々と訳ありなんで落ち着いたら、
情報を集めて回ろうかと。」
「まあ、それはそれは、
これも何かの縁ですし、希少アイテムなど入手したら、冒険者ギルドでなく、うちを頼られてもいいのよ?」
お、商魂逞しい一言!
「ははは、さすがファーゼ商会のやり手奥さんだな!
たしかに依頼以外で冒険者が集めた素材やアイテムを何処に売るかは冒険者の自由だが、買取価格には何の保証もないぞ。
ファーゼ商会はそんなアコギな噂は聞かねーが、注意するんだな。」
なるほど、高く買い取ってくれる可能性もあるし、安く買い叩かれる場合もあるか。
その辺りは余程のぼったくりでもない限り悪意は見抜けそうにないな。
まあ、相手次第だし、判断は難しいかもしれない。
「まったくもう、余計なことまで言わなくていいじゃありませんか、
デミオさんは意地悪ですね!」
この辺りはどちらを選んでも一長一短だそうです。
商人側からすれば、
冒険者ギルドを通した魔物の肉や素材は信用があるので高く買い取る、
逆に、特に持ち込みでいきなり冒険者に来られても、鑑定から始めないと信用も出来ないので、
ある程度買値を低くしないとならないらしい。
それでも中間マージンが無くなるから、ある程度信用ある間柄なら、直接商人と取引するのも珍しくないそうだ。
ううん、ここら辺は大人の世界になるのかなあ。