第八十九話 ぼっち妖魔は大人の階段を登る
思いっきり詳しい描写しようとすると、
削除されてしまいますので、
皆さま、勝手にご想像下さい。
演技でもフリでもない。
本当にあたしにとっては聞きたくない話だ。
例え他人の見た夢の話だとしても。
あたしは、
自分がリーリトと人間の中間の存在である事には納得してるし、何の不満もない。
だけどそのリーリトの定義は、
あたしにとって、妖魔でも化け物でもなく、人間の亜種に過ぎないと言う話でしかない。
いま、この異世界で身につけているスキルですら、人間の理を超えるものではない。
むしろ攻撃魔法とか、どんな理屈なのかもわからないスキルを身につけられるこの世界の人たちよりも、あたしの能力は大人しいものだと思う。
スキルポイントでは、たしかに妖魔系スキルの方に人間離れしたものが沢山ある。
でもそんな物を取る気はさらさらない。
あたしはこのまま「人間種」として生きていくつもりだ。
仮に「リーリト」という種の先に、
人間とは言えない道があったとしても、
今のあたしには興味も魅力も感じない。
そう、
別にダナンさんの話は、
あたしにとって、その決意や気持ちを揺るがせるものなんかではない、ということだ。
そしてこの場ではっきり宣言しよう。
「ダナンさん。」
「あ、う、うん。」
「あたしには感知系スキルがあります。」
「そ、そうだね、知ってるよ。」
「あたしの持つスキルのうち、
未来の事が分かるスキルもあります、
これは言ってませんでしたよね?」
「み、未来予知!?」
「もっとも、自分で知りたいことが分かるスキルじゃありません、
勝手にその時々の光景が視えるだけです。
そのあたしが断言します、
ダナンさんの見た夢は、
予知でも、あたしの正体を見通したというものでもありません。
単に、あたしと妖魔のラミィさんのイメージをくっつけて見ただけじゃないですか?」
「・・・あ、た、確かにそれは・・・。」
「あたしも心理学者じゃありませんけど、夢なんてものは、その人の願望や恐れや、心に描いていたものを映すものに過ぎないそうです。」
「・・・・・・。」
「ダナンさん、あなたは、
あたしとラミィさんのイメージに何を重ねたんですか?」
「そ、それは・・・。」
「ご自分でも分からないかもしれませんね、
でも、そんな目で見られていたあたしのショックを気遣うことも出来ませんか?」
「あ! あ、う・・・。」
あたしは一歩ダナンさんに近づく。
一度あたしに顔を向けたダナンさんは、また顔を逸らそうとするけど、
逃がさない。
ピッタリとカラダを寄せ付ける。
魅了スキルは取得してないし、使わないよ。
素のままのあたし。
「確かめてくれませんか、
もし、あたしの話が信じられないのなら、
ダナンさん自身の目で。」
「た、確かめるって、何を?」
「あたしが人間だと言うことをです。」
「ど、どうやって?」
「その目で、
その指で、
ダナンさんのその肌で、
あたしを・・・隅から隅まで」
はいはいはいはい、
ここから先は外野の声は聞きません。
全部遮断します。
こっちの状況を見せもしませんし、
聞かせもしませんから。
ただでさえ、他人に見せるものでもないのに、こっちがリードしている様子なんか恥ずかし過ぎますわ!
しかも初めてだと言うのに。
あたしはかわいさをアピールする女子じゃない。
かと言ってお色気むんむんのお姉さんキャラでもない。
じゃあ女の子の魅力どこよ?
と言われるととても困る。
ママは美人だったと思うけど、
胸もそんなに大きい方じゃないし、
スタイル的にはスレンダーなカッコいい系のお姉さん路線だった。
あたしの体型は違う。
これはパパの遺伝子のせいなのか、
背はママより低いけど、
多分、胸はママより大きくなりそうだ。
いや、何が言いたいのかというと、
あたしはどの路線に走ればいいのかということ。
年の頃15、6ならもちろんみんな迷う時期だし、試行錯誤するのも仕方ないと思う。
まあ、そういうのも一人で悩んでもどうしようもない。
せっかくあたしに目を向けてくれる人がいるなら、その人の声を参考にさせてもらう。
ダナンさん、
ありがとう。
色々耳元で囁いてくれた。
嬉しいセリフもあったし、
それはどうかと思うような単語もいっぱいあった。
でも、あたしを受け入れてくれたよ。
あたしが人間かどうかなんて、
確かめる必要すらなかったでしょう?
お互い、すぐにそんな事は忘れてしまった。
今はもう、ぐーぐー、
あたしをほっといてお眠りになってらっしゃる。
寝てる間にキスぐらいしてあげようかと思ったけど、
体勢的に辛い。
無理に顔を伸ばすとダナンさんを起こしてしまいそうだ。
ほっぺにしとくか。
そこで
事件が起こった。
ピンピロピーン♪
事件はあたしの頭の中で起きた!
これはインフォメーションさん?
「おめでとうございます!
新たなジョブ取得条件を獲得しました!
適性ジョブに虚術士が追加されます!!」
は!?
あ、忘れ切ってた。
そういえば鑑定士スキルで、このイベント起こせば新しい能力が入手できることになってたんだ・・・て、
このタイミングで条件取得って・・・
ていうか、
行為真っ最中でなく、
こうやって余韻に浸っている時にインフォメーションの声が届くというのは、
・・・その、つまり、
気を利かせてくれた・・・いやいや!
見られているということかあ!?
ちょっと!
誰よ!!
これプライバシーの侵害なんてものじゃないでしょ!!
出て来い、運営!!
おめでとうってどっちの意味だよ!!
あたしの前に姿を晒せーっ!!
喉笛噛みちぎってやるるるるるーっ!!
はあ、はあ、
ぜい、ぜい・・・、
と、とりあえず落ち着こう。
・・・虚術士、
初めて聞いた。
ユニークスキルならぬユニークジョブとでも言うのだろうか。
ていうか、こじゅつし? とらじゅつし?
イメージが湧かない。
あたし、虎さんと何か関りあったっけ?
ぴんぴろりーん♪
(インフォメーションより。「虎」じゃあないです、「虚」です。)
あ、ああっ!
漢字読めないとかじゃないですよ?
単に目が悪くて文字を見間違えただけです!
おかしい思ったんですよ、ホントに!!
まさか虎に変身する魔法かと思っちゃったじゃないですか!
コ、コホン!
それで・・・一体何の術士かというと・・・?
ステータス画面のジョブ名に指を這わせると簡単な説明が・・・。
「火・水・風・土・光・闇・雷・氷、いずれにも属さない無属性魔術」
なんですか、それ!?
あたしはまだその虚術士とやらのジョブについていないけど、
レベル1の段階で既に二つのスキルが習得可能となっていた。
あたしの今現在蓄えているスキルポイントで覚えられるスキルはその内2つ。
ダークネスとサイレンス。
ダークネスは闇系魔術士で3つ目に覚えられる範囲魔法の筈だ。
相変わらずあたしは攻撃魔法は習得できないんだな、と思いつつ、
これはどうしたものかと思う。
しかもこれ、恐らく昼間のフィールドでも効果あるのかな?
むしろダンジョンや建物内で活躍するスキルだと思う。
ただ対人スキルとしてはかなりのアドバンテージを得られる。
何しろあたしは暗闇でも、
遠隔透視で相手の動きが分かるのだ。
召喚魔法で呼び寄せるスネちゃんだって、
熱源感知で暗闇でも動ける。
これは凄い。
問題は視覚に頼らない敵の存在である。
野生動物や感知系スキルに優れている敵にはダークネスはあまり効果がない。
そこでサイレンス。
あたしはまだこの世界の魔法に詳しくないけど、
ありそうで聞いたこともないスキルだ。
そしてこれは、一定エリアの音を完全に無にする魔法だという。
これ、蝙蝠の大群、全部無力化出来るのでは!?
ていうか、あたし、暗殺者になれそう?
でも殺傷系スキルないしなあ。
ちなみに、
例のユニークスキル、「この子に七つのお祝いを」と効果が被りそうな気がするけど、使い方は全く異なる。
「この子に七つのお祝いを」は効果がランダムだし必中攻撃とは言え、
対象によってはレジストされる可能性があり、その対象は一体のみに限定される。
対して、こちらは範囲無差別攻撃であり、
状態変化を及ぼすものでないから、
レジストなどは一切関係ない。
視覚に優れた敵には、一切の光を与えず、
聴覚に優れた敵には、一切の音も与えない。
そして術の併用が可能である。
ふふふふふ、
これはソロでも戦えそうな気がしてきまたよ、
リーリト麻衣の無双生活が始まる予感!!
え、また油断するのかって?
ううう、
そ、そうですね、気をつけます!
あと、余談ですけど、
この虚術の「ダークネス」は、
闇術の「ダークネス」と同じ効果だけど、
原理が異なるらしい。
スキル名の所に指を這わせたら、その情報が明示されていた。
闇術の「ダークネス」は「闇を生む」。
反して虚術の「ダークネス」は、「光を奪う」のだという。
皆さん、分かりますか?
あたしは・・・わかったようなわからないような・・・。
新たな術です。
後々明らかにしていきますが、
ある法則のもとに作られた術です。
法則というか、
彼女の為に用意された術です。