第八十八話 ぼっち妖魔は勘違いする
話を元に戻しましょう。
送別会を終え、場所を変えました。
冒険者ギルドも医療ギルドも夜中でも人はいます。
ならばあたしの宿しかありませんね。
先にお宿に入ったあたしは、ローラちゃんから部屋の鍵をもらって中の準備をします。
まぁ、明日出ていくお部屋なので特に片づけるようなもものもないのだけど。
むしろ飲み物とグラスを用意しておく。
お宿の備品だから、あたしの荷物をほどく必要もない。
それで頃合いを見計らって宿の外で待っているダナンさんを迎えに行った。
ローラちゃんたちはお宿の受付で呼び鈴押さないと出てこない。
だから部屋の鍵さえ貰っちゃえば、夜中の出入りは自由である。
誰か宿泊料金を払わない人間を連れ込んでもバレなければセーフである。
ごめんね、ローラちゃん。
部屋に入ったダナンさんは落ち着かなそうでキョロキョロしてた。
「どうぞ、座ってください、ダナンさん。」
あたしはお茶を煎れて、ダナンさんには部屋の真ん中に置いてある小ぶりな椅子を案内した。
ちなみにお茶は水出しである。
「あ、ああ、ありがとう、麻衣ちゃん・・・。」
誘われるままに座ってお茶に口付けるダナンさんを見て、
あたしは笑いを堪えることができなかった。
「えっ、なんで笑うの、麻衣ちゃん?」
笑いますよ、この状況。
笑わなくてどうするんですか。
「だって、あの時、一緒にクエスト行ったとき、
ダナンさん、女の子がこんなことしちゃいけないとか、いろいろ言ってたのに、
いま、何やってんですか?」
ダナンさんの顔はみるみる真っ赤になった。
まぁ、お酒が残ってるせいもあるのだろうけど。
「う、あ、そ、そうだね、ホント僕何やってんだろう?」
この人も自分の行動が予想外ってことなんだろうな。
「ちなみに、誰かに言われてこんなことしてるんですか?」
「う? ・・・いや、誰にも言われてないな・・・
自分の考えだけだよ・・・。」
お、おう、それは立派なことで。
ケーニッヒさんとか悪戯好きそうだし、
チョコちゃんやベルナさんもこーゆーお節介しそうかな、とも思ったけどそんなことはなかったんだ。
ダナンさんが一人で決めてここまで来れたんなら、凄いと思いますよ。
あたしも特に拒否するそぶりを見せなかったせいもあるんだけど、
引っ込み思案なんてとんでもない。
やるときゃやるわけですね。
あたしは変なところで感心してた。
え?
こんな状況ならもっと気にすることがあるだろって?
そうは言われましてもね、
切迫した状況で変に冷静になることあるでしょ?
特に相手がテンパってる場合。
もちろん、これが元の世界なら話が別ですよ?
そもそもこんな状況に至らせない。
何しろ、予知しちゃってるんだから。
そしてお分かりとは思いますが、
あたしは別にダナンさんに惚れてるわけでもない。
もちろん、嫌いとか悪感情とかそういうのはないですよ。
普通に好感持ってます。
それだけで、夜に男女二人っきりになるのかって?
だからイベント感覚なんですよ。
前回、言いませんでしたっけ?
鑑定士スキルで新たな情報が入ったんです。
男女のイベントで新しい能力が解放されると。
どんなものかはさっぱりわかりませんが。
そしてここから、ダナンさんが男らしさを発揮してこの場をリードできるかどうかなんですが、その心配も無用なのです。
だってあたしはリーリトだから。
男性にかしづく、従う、半歩下がるなんて生態が存在しないのだ。
ダナンさんが躊躇うようなら、遠慮なくあたしがこの先の状況を作ります。
「ダナンさん、男の人と女の子がこんな夜に二人っきりになるのが・・・
どんな意味なのかちゃんと理解してあたしに声をかけたんですか?」
おっと、さすがに視線逸らせましたよ、ダナンさん。
でも、理解はしているわけだね。
「う・・・うん、
でも・・・ま、麻衣ちゃんもそれをわかってて、ここまで僕を連れてきてくれたんだよね?」
おっ、反撃してきた!
目を逸らしたままなのが惜しいけども。
「ええ、まぁ、
ちょっと興味があったんですよ、
ダナンさんがどんな行動に出るか。」
一瞬だけ、こっちに視線を投げてはまた逸らす。
ここまで来て何を恥ずかしがるというのか。
「う、麻衣ちゃん、そ、それじゃあお言葉に甘えて・・・
か、確認したいことがあるんだ・・・。」
はい?
じれったいですね。
もう少し、話の展開早めたっていいでしょうに。
「確認したいこと? 何ですか?」
「こ、こんなこと僕が言い出して・・・
頭が変じゃないかって思われるかもしれないけど・・・。」
「前置きはいいですよ、
そのまま仰ってください。」
そこでようやくダナンさんはあたしの目を直視してくれた・・・。
ようやく覚悟が決まったってことなのだろうか。
「じゃ、じゃあ言うね・・・。
ま、麻衣ちゃん!!」
「・・・はい。」
「き、君は本当に人間なのかい!?」
・・・なんてこったい・・・。
「そ、そっち!?」
顔が赤くなったのは今度はあたしの方だ、
たぶん耳まで真っ赤になってるんだと思う。
なに、自意識過剰キメてんの、あたし?
「え? そっちって他に何か?」
「いいいいえいえ、こっちの話でってことで。」
「あ、うん? そ、それでどうなんだい?
こんな事、他の人の目がある場所じゃ聞けないし・・・。」
まぁ、そりゃあそうでしょうとも。
ただ、どうなんだいって言われてもあたしは自分で自分を人間だと定義している。
こんなもんは即答できる。
いや、そういう話ではない。
ダナンさんは何をもってそんな疑問を浮かべたのか、それが大事だ。
鑑定でダナンさんのステータスを覗くに、鑑定スキルもそれに類するようなスキルも見当たらない。
さて、どうしよう。
1、「は? 頭おかしいんじゃないですか? 訳の分からない事言わないでください」ととぼけてスルーする。
2、「何を根拠にそんな事を言うんですか、ソースプリーズ。」質問を質問で返す。
そして、ダナンさんがあたしの何に気付いてそんな疑問を浮かべたのか問い詰める。
2番ですね。
ダナンさんが気付いた点に、他の人も気づかないという保証はない。
疑わしき点は必ず潰しておかないと。
「・・・ショックですよ・・・。」
とりあえずいたいけな女の子アピールをしておく。
「えっ!?」
「あたし、どっからどう見ても人間じゃないですか!
人間じゃなかったら何なんです!?
妖魔か魔族だとでも言うんですか!?」
「あ、え、その・・・。」
「スキルの事ですか!?
あたしが異世界から来たのはダナンさんも知ってますよね!?
この村で滅多に現れないスキルを持ってただけじゃないですか!
おかしなことじゃないじゃないはずです!
なんでダナンさんはそんな事言うんですか!!」
確かにあたしの持っているスキルは公表しているものだけでも珍しいモノばかりだ。
でも、テイマースキルも、召喚スキルも、鑑定スキルも、決して人間が持ち得ないスキルじゃないという。
じゃあなんで・・・
「変な夢を見たんだ・・・。」
は?
何言っちゃってるの、この人?
「や、やっぱり変なヤツだと思うよね、
でもやけに気になるんだ、
あまりにリアルな夢だったから・・・。」
「それじゃわかりませんよ、
何の夢を見たって言うんですか?」
「そ、そうだね、
夢の中で最初、僕は知らない街にいた。
い、いや、知らない世界というべきなのかな、
その後に会った麻衣ちゃんが、あたしの世界だって言ってた。」
なんですと?
「塔みたいな高い建物がたくさんあったよ、
夜の景色だと思うんだけど、雲もないのに星は殆ど見えなかった。
道には魔法の光を前に照らし続ける鉄の塊が交互に行き交ってた・・・。」
ちょっと待って、
なんかヤバい、それただの夢じゃないっぽい。
あたしが向こうの世界の情報をダナンさんか、もしくは誰かに喋った事がダナンさんに伝わったというのなら、その情報を元に勝手に夢を見ただけと言えるけど、そんな話、ここに来て誰にも喋っていない。
せいぜい、インターネットとか、スマホの話とか、後は飛行機や宇宙ロケットとかの話はしたかも?
そ、それより続きを・・・。
「そ、それで?」
「変わった服装の人がいっぱいいた、
でも異世界だというなら変に納得したけど、ぶつぶつ独り言を歩きながら繰り返す人とかいて・・・
歩きスマホとか麻衣ちゃん言ってた。」
ぶふっ!!
そこまでリアルな話はしてないよ!?
「そんな所に迷い込んで、
最後に街の片隅で麻衣ちゃんに会ったんだ・・・。
そ、そこで・・・。」
「そ、そこで?」
ここでまたダナンさんは目を逸らした。
あからさまに恥ずかしがっている。
「う、うう、あ、あくまでも夢だからね!」
「だいじょぶですよ、続けて下さい。」
「う、うん、僕はそこで・・・」
「そこで?」
「麻衣ちゃんと抱き合うカタチに・・・。」
うわう。
それは聞く方も恥ずかしい。
もしかしてダナンさんの方が予知夢を見たと?
スキルもないのに?
ていうか、予知夢は有り得ないと思う。
そもそもこちらの世界の人があたしたちの世界に渡れるとは思わない。
仮にこの後、何らかのイベントなりフラグなり発生したとしても、
少なくとも今この場の話にあたしの世界は何ら関係がない。
だからダナンさんの見たのはあくまでも夢だと現時点で判断する。
「また随分な夢をご覧になったんですね、
ダナンさんの恋愛対象年齢ギリギリのあたしの夢なんて。」
多少、嫌味を交えている。
だけど話はここからだった。
「ほ、ほんと、そうだよね、
自分が恥ずかしい、
で、でもね、その後・・・。」
「その後・・・?」
「麻衣ちゃん、君が真っ白い蛇になった・・・!」
はい?
「変化した、とでも言うのかな?
いや、最初から蛇のカラダを持っていた・・・建物の影の中にいて、
そのカラダを僕に見せていなかったんだ、
顔や腕、む、胸の膨らみまでは人間だったよ?
でも、でも胴体から下は・・・全て蛇のカラダだったんだ・・・!」
それは
それは聞きたくなかった。
次回、進化する麻衣ちゃん。
ついに魔法解禁!!