第八十三話 マスターからの使者
まだ山賊の仲間が!?
いや、違う!
叫び声をあげたのは既に戦意を喪失していた筈の山賊の一人だ!!
そしてそれを見てオレは固まった。
何が起きているのか理解できなかったからだ。
喰われている!?
そう表現するのが適切なのか?
一人の獣人の肩から下が、気味の悪い異物で覆われていた!!
その獣人は変容した自らの左肩部分を拒絶するかのように右手で振り払おうとする!
だが、今度はその右手の指先までもが齧り取られたかのように消失していた。
「あひぃぃぃっ!?」
「「うわああああっ!!」」
当然だが、周りにいた山賊どもも腰を抜かして地面に尻もちをついていた!
いったい何が起こっている?
肩から胸周辺を、紫色や赤、青、緑と不気味な光沢を帯びながら、ウネウネと粘液のようなものに覆われたその男は、
既に意識がないのか、口をパクパク痙攣させたまま、まだなんとか地に倒れるようなことは・・・
いや、あれはもしかして倒れることすらできないのかもしれない!
何かの魔物に襲われている!!
誰もがそう判断しようとしたとき、
オレたちは更なる異常な光景を目にしたのだ・・・!
ついにその獣人が倒れた・・・。
その形相は苦痛と恐怖に彩られており、
既に絶命しているのは誰の目にも明らかだった・・・。
だけどオレたちが驚いたのは、その事ですらなく、
獣人の背後にいつの間にかいたのであろう、
一人の小柄な女の子がそこに現れたことだった・・・!
見た感じ12、3才くらいなのか、
金髪のツインテールで服装はどこか商家の娘か、貴族のお嬢様か・・・、
「明らかに」異常だろう!!
いきなり気味の悪い死に方をした獣人の背後に小奇麗な恰好をした女の子だと!?
そして・・・何よりも恐ろしいのは少女の双眸・・・!
それは人間の瞳じゃない!!
血のように真っ赤な二つの石が、瞳があるべき部分に収まっていたのだから!!
「うわあああああああっ!?」
誰の悲鳴だ?
山賊?
オレらの雇い主の商人たち?
それともオレら「銀の閃光」の誰か!?
・・・いや、事によるとオレの悲鳴だったのか、
ていうかそもそも誰の悲鳴でもいい。
肝心なのは、ここから逃げないとダメだ!!
オレの勘と体の全ての神経が言っている。
ここから逃げろと!!
あれはなんだ!?
ヒトの形をした魔物なのか!?
妖魔種であれば人型に近いのは分かる。
セイレーンやラミア、直接出会ったことはないが、知能もそれなりに高いという。
だが、そいつらにしたって簡素な衣類を纏うことはあっても、人間社会と同じ衣装を着て現れるなど有り得ない。
では・・・あの生物はいったい!?
この場で最も戦闘力の高いテラシアさんの姿を探すも、彼女も、あの異様な生き物の存在を計り切れないのか、今までに見たこともない険しい表情でバスタードソードを抜いている・・・!
そしてさらに信じられないことが・・・
「あれ~?
この人、犯罪者だからオデム食べて良かったんだよねぇ~?」
喋ったのだ!!
いや、確かにあれだけ上品そうな衣服を着ているのだから、人間社会に溶け込んでいるのは間違いないのだろう。
しかし・・・!
「あんた、何者だい?」
テラシアさんの声の調子が、今までに聞いたことがないほど緊張しているのがわかる。
目の前の少女一体が、あのホブゴブリンより恐ろしい存在だと理解しているに違いない。
「オデムだよ。」
「それはあんたの個体名かい?
種族は? 人間じゃないんだろう、魔族か!?」
魔族だって!?
そんなもの、伝説のドラゴンと同じくらいのレア度と脅威じゃないか!
冒険者だってAランクのパーティーでも用意しないと太刀打ちできないぞ!?
「ううん? オデムはオデムだよ、
今日はお人形さんの所にメッセージを持ってきたの。」
「お人形さん・・・ってまさか。」
その単語を出されたら、どうしたってオレらはメリーさんの姿を求めねばならない。
そしてメリーさんはすぐそこにいた!
「私に御用かしら?」
「あなたがお人形さん!?
わぁ! 綺麗っ! それに本当に動いてるっ!!」
こっちにも人外がいる・・・。
でも対照的な二人だな・・・。
片や、見たこともない真っ黒いドレスに銀色のウェーブされた高貴な髪と、
透き通るようなグレーの瞳・・・。
そして新たに現れた正体不明の生き物は、
光輝くブロンドの髪と真っ赤にくすんだ眼球・・・。
「私の名はメリー、あなたの言う通り人形よ。」
「メリーさんね? オデムはオデム! とってもいい子よ!!」
名前しかわかんねーよ!
あと、自分で自分をいい子っていうな!
・・・いや、見た目通りの年齢なら突っ込むほどのものでもないのか?
「そう、いい子なら教えて頂戴?
メッセージを聞く前に誰に言われてきたの?」
「マスターとらぷらす。」
マスターはともかくラプラスってなんかで聞き覚えあるな?
どこで聞いたんだっけ?
「その人たちは私の事を知っているの?」
「マスターは何でも知ってるよ。
らぷらすは偉そう。」
えっ? あ?
そうだよな、メリーさんのことはハーケルンの領主様だって知らないのに、どういうことだ?
「オデムのマスターの名前を教えて?」
「・・・知らない。」
「あら? あなたは自分のマスターの名前も知らずに従っているの?」
・・・あれ?
なんかオデムという名の子の機嫌が悪くなっている気がするぞ?
メリーさん、挑発止めて!?
「マスターはマスター!!
マスターは凄い!! マスターは優しい!!
マスターは美人!! マスターは全能!!
オデムを作ってくれた!!
オデムにこの身体をくれた!!
オデムに知恵を与えてくれた!!
マスターをバカにするのは許さない!!」
やばいやばいやばい!
この子を怒らせちゃいけない!
たぶん、オレらが束になってかかっても敵わないかもしれないぞ!?
「・・・ごめんなさい?
あなたのマスターを侮辱するつもりは一切ないわ?
私の正体を知っているなら、どんな人なのか詳しく知りたかっただけなの。
私のこのカラダも人に造られたモノだから、
オデム、あなたを造り上げた技術はとても素晴らしいものだと思えるわ?
だからあなたのマスターの事を教えて?」
途端にオデムという女の子の姿をした彼女の顔が明るく輝いた。
よかった、
少なくとも社交術はメリーさんの方が上手だな。
「そうなの! マスターは凄いの!!
でもオデムはマスターがどこから来たのか知らないの!!」
「・・・もしかして、あなたのマスターは私と同じ異世界からの転移者なの?」
「うーん、オデムはわかんない。
でもマスターはこの世界の人ではないよ?」
ええっ!?
どういうこと?
メリーさんの他に転移者が?
あ、でもメリーさんは、カラドックっていう他の世界から来たと言われる冒険者に会いに行くところなんだっけ。
「オデム、あなたはいつ、そのマスターに造られたの?」
「えーっとね、あれ?
いつだっけ? 5年位前?」
「・・・5年前・・・。
では・・・少なくともあなたのマスターが私をこの世界に呼んだわけではないのね?」
「あ、それは関係ないってオデムわかるよ!」
「どうして?」
「マスターは何でも造れるけど、
元の世界から何かを持ってくることは出来ないの!!
だからマスターは寂しがっているの!!」
何でも造れる!?
なにそれ!?
「私があなたのマスターに会うことは出来るの?」
「それはダメ、マスターは神聖にして侵すべからず。
私たち3人がそれを許さない。」
結構ちょろいぞ、この子、
さっきっから情報ダダ漏れしてるじゃないか。
美人とかとも言ってたから、この子のマスターって女性かな?
「・・・そう、残念ね、それでメッセージって?」
「あーそれそれ、えーとね、
もうグリフィス公国には、お人形さんと同じ転移者はもういないって。
勇者のいる冒険者パーティー『蒼い狼』の元に向かったって伝えるようにってだって!」
そして数か月後、オレらは驚天動地の話を聞くことになる。
ここまでで下書きの5分の3終了。
・・・あれ? 前に書いてからあんまり進んでない?
次回から麻衣ちゃん編です!!