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第八十一話 襲撃


街を出てからヒューズと見張りを交代した。

・・・ちょっと気まずいというかなんというか・・・。

ていうか、先にヒューズが口を開いた。

 「さすがだぜ、ストライド・・・。」

 「えっ、何が!?」

 「いやいや、そうだよな、

 オレたちはただの女ったらしじゃない。

 メリーさんの前に立つ勇気、美しさに対する敬意!

 ストライドはどちらも持っているよな、

 さすがオレらのリーダーだ!」


い、いや、そんな大層なもんじゃないぞ!

 「やめろよ、ヒューズ。

 ていうか、オレは別に女ったらしでもなんでもないぞ!」


女好きは認めるが、別にそんなハント率は高くない。

第一、よそからやってくるような冒険者や商人でもないと、大体オレらの評判知ってるからな。

顔はそこそこ自信あるが、どうしてもホビットのオレらはヒューマンに対して身長も低いしな、

一緒に遊ぶだけなら、なんとかなるんだが、一線を越えるような仲になるのは難しいんだよなぁ。


それより、お前、テラシアさんやメリーがいる前でそんな堂々と・・・って向こうはこっちを気にしてもないな。

眼中にないってことなんだろう。



城門を出たとしても、それなりに民家もあるし、農村もある。

街道沿いに馬車を進めると、山賊や魔物除けの申し訳程度に作られた柵や塀に囲まれた家屋を見ることも出来る。

オレらはしょっちゅう見かける風景だが、メリーさんは初めて見るんだろう、

興味深げに外に視線を向けている。

あ、でも真夜中に近隣の街まで出かけてたんだっけ?

いや、それでも昼間見るのは初めてだよな。


まぁ、外の様子の案内はヒューズに任そう。

オレは周りの警戒が任務だ。




そんなこんなでしばらくは何もなく過ぎていった。

とはいえ、何事もないというのは、襲ってくるものが何もないというだけで、

それなりにトラブルのようなものは起こる。

と言ってもあらかじめ予想される範囲のものだ。


都市部を離れると、地形も起伏が激しくなり、峠道のようなところも馬車を走らさねばならない。

晴れた日中はともかく、天候が悪くなると気温も低くなり、風が強ければその対処も必要だし、馬車の歩みも慎重にならざるを得ない。


旅を続けて三日目あたりの昼休憩で、

先頭の馬車に乗っていた商人ギルド加盟のロイドさんがオレたちの周りにやってきた。


 「お食事中、失礼しますよ。」

 「ああ、ロイドさん、構いませんがどうかしましたか?」

 「実はお耳に入れておいて頂きたいことができましてな。」


やな予感するな。

 「と言いますと?」

 「はい、先程すれ違ったキャラバンの方々からの情報なんですが、

 この少し先の地域で追い剥ぎのような事件が何件か起きてると・・・。

 しっかりとした護衛に守られているキャラバンは被害に遭ってないようですが、

 我々がどう見られているかは、相手次第なので、万一という事も。」


オレらも襲われる可能性あるという事か。

 「わかりました。

 警戒を強めておきます。」


食事休憩が終わってオレらが馬車に戻ると、

棺桶木箱からメリーさんが頭だけちょこんと出していた。

まさか「おかえりなさい」とか言ってくれるのかな?

だがメリーさんの口から出たのは意味不明の言葉だった。

 「フラグ立った?」


 「えっ? フラグって何?」

 「・・・ごめんなさい、なんでもないわ。」


めっちゃ気になるんだけど。




夕方になって風が出てきたな。

雨が降るような空気でもないが、山賊とかいた場合、風下から襲われると探知しにくい。

林や木々の茂みの中に忍び込まれると、そのざわめきの中に紛れ込んで獣人の感知能力でも難しいんだよな。

まぁ、完全に陽が落ちる前に、野営の場所を見つけておこう。

と言っても、商人たちは以前もこのルートを使っており、比較的見晴らしのいい場所を知っているそうだ。

場合によっては他のキャラバンもそこを利用していることも多いので、襲撃される可能性は少なくなるという。


今のところ順調にその予定地に着くだろうと思っていたのだが、

峠の登り道で突然、先頭馬車のネコ型獣人ジルの声が響いた。

 「みんな止まれぇっ!!」


各馬車の御者たちは慌てて馬を制する。

突然の急停止にオレらも焦ったが、怪我をするほどのものでもない。

だが、何があったのかすぐに把握しないと・・・!


馬車を降りて先頭を見ると、すぐに異常な状況が理解できた。

ゆるくカーブを描いた登り坂の途中で、

道を塞ぐように何本もの丸太が通せんぼしていたのだ。


馬だけなら器用に飛び越えていけるかもしれない。

だが車輪は乗り越えることは出来ないだろう。

こんなものイタズラや偶然で置いてあるわけもない。

間違いなく、追い剥ぎ、山賊の類だろう。


急停止した馬車三台の周りに、わらわらと10人ばかりのガラの悪い男たち・・・獣人が中心だ。

先頭馬車に乗り込んでいた猫型獣人のジルが大声をあげる。


 「なんだ、てめぇら!

 この丸太はてめぇらの仕業か!!」

叫びながら器用に得意武器の鈎爪付手甲を装備するジル。


一方、無骨な大ナタを肩に担いだ・・・恐らくリーダー格か、

虎のような風貌の男が前に出る。

 「見ての通りさ、猫のあんちゃん、

 有り金アーンド貴重品置いてってくんねーかな?

 そしたら命は保証するぜ?

 痛い思いもしなくて済む。」

虎型獣人ですか、やっぱガタイいいよなぁ、強そうだし・・・。

ヒューマンも混ざってるが大体獣人中心だ。


取り合えず護衛部隊は全員降りるか。

あれ?

 「テラシアさんは・・・そのまま?」

 「先制攻撃は譲ってやるよ、手に余るようならあたしも出るさ。」

 「あ、美味しいところ持っていこうと・・・。

 ちなみにメリーさんはどうする?」

出ていくのはそれを確認してからだな。

このお人形さん出ると瞬殺しそうだし。

ところがオレの期待はあっさり絶たれた。


 「うーん、あの虎さん、人殺しはしてるみたいだけど、

 私が動くような非道な振る舞いはしてないみたいよ?

 殺したのは同業というか、仲間割れっぽいのと、立ち向かった護衛の人くらい。」


あ、それじゃ報復衝動発動しないのか。

かといって雇い主の商人さん達を犠牲にするわけにもいかないから、

やっぱりオレたちの出番か。


オレらが話している間、ジルが間を持たせているな。


 「おいおい、お前ら、そんな立派な体してんなら冒険者にでもなれよ?

 安易に犯罪行為なんて繰り返すから、オレら獣人の肩身が狭くなんだよ!」

そうだぞ、もっと言えジル。

ハーケルンの街でも亜人差別は存在する。

一応、市民権も取得できるし、家も持てるが、大金持ちなんて滅多にいない。

飲食業やこじんまりした商店くらいならなんとかなるが、

大体はヒューマンが経営する大店の従業員とか、あとは肉体労働、

誰にも仕えないで済む冒険者は人気ある職業だが、

それで食えて行ける奴なんてほんの一握りだ。

大体、負担の大きい前衛職で怪我を負って、結局引退、元の肉体労働職に戻るのが関の山。

まぁ、オレらはそんなもん気にしてないからな、

つーか、オレらホビットも広い意味では亜人なんだよ。

背が低い以外はヒューマンと何ら変わらないから、獣人よりかは立場が上になるとしか言えない。

全く下らねー世界だぜ。


一方、虎獣人の旦那は、思うところがあるのか、ジルに反論するようだ。

 「じょーだん言ってんじゃねーよ、猫のあんちゃん、

 冒険者だろうが、商売人だろうが、オレらの身分じゃ適当に使いつぶされて終わりじゃねーか、

 ここで好き勝手暮らしてる方が性に合うってもんだろが。」

 「アホぬかせ!

 追い剥ぎなんぞやって好き勝手もクソもねーだろ!

 仮にここでオレらから金を奪ったって、すぐに討伐隊が組まれるぞ!?

 それで殺されるか、よくて捕まって鉱山奴隷送り!

 そのぐらいの損得勘定できねーのかよ!!」

 「なぁに、ある程度、頂いたら場所変えるさ、

 良かったら猫のあんちゃんもオレらの仲間にならねーか?

 獣人ならオレらの立場は分かるだろ?

 歓迎するぜ!?」


虎獣人はふざけたことを言い出した。

獣人の立場が低い事には同情するが、だからと言って犯罪行為を許せるわけもない。

同じ獣人でもジルの様に真っ当に冒険者家業に精を出している奴もいるんだ。

ましてそんなジルを悪の道に引きずられて堪るかってんだよ!!

 「銀の閃光、全員出撃!!」


 

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