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第七十七話 異世界にもう一人いたの


 「人の気持ちは暴露しないんじゃなかったんですか!?」

 「落ち着いて?

 予想よ、予想。

 彼の心の中をバラしたわけではないの。」


いいいまさらそんなこと言ったって!?


 「あなた達が最終的にどういう形で納まるのがいいのか、それこそ私には分からないけども、

 少なくともお互いを納得する関係にはなれると思うの。」


 「お人形さんのあなたに・・・

いえ、元は人間なんでしたっけ。」

 「まぁ、恋愛ごとのエキスパートなんて言うつもりはないわ。

 キャスリオンだって、それなりに過ごしてきたんでしょう?」


そ、それは、まあ、冒険者時代は、

ねえ? 生き死にの生活を男女で過ごすわけですから。

ですけどね?


 「私だってもうその頃とは違うんですよ。

 このエルフの体はヒューマンより若く見えるとは言え、

 故郷に戻れば同世代の女性達は孫が普通に生まれてる世代ですよ。

 女としての自信などとうに消えています。」


 「でもアルデヒトも独身なんでしょ?

 少なくともお互い遠慮することは・・・

 ああ、今のギルドの安定を崩したくないのね・・・。」


ううえ、簡単に見抜かれてしまいました。

私が何にも増して優先しているのはこの冒険者ギルドです。

そして、アルデヒトは私の大事な片腕です。

彼がいなければ、私はここでギルドマスターなんてやっていられないでしょう。

もし、迂闊な行動に出てしまい、

彼がこのギルドを出て行ってしまったら・・・

そう思ったら何も出来ません。


えっ?

いたいけな女子みたいって?

違うんです、

もう一周まわっちゃったんですよ!


 「・・・それこそ、確かに余計なお節介だったかしらね、

 私の悪い癖みたい。

 ごめんなさい、キャスリオン、

 私に無理強いできるものじゃなかったわね。」

 「あ、いえ、謝ってもらうほどのものでは・・・。」

その時、メリーさんは不自然に脇腹を左手で押さえていました。

なんでしょう?

まさかお人形さんのカラダに痛みがあるとも思えませんが・・・。


その後、メリーさんはすぐにお腹からその掌を外しました。

私の気のせいだったのでしょうか。


 「でも。」

 「え?」


 「少しは心の内を出して気は楽になれたかしら?」


ああ、そんな前から私の気持ちはダダ漏れていたんですね。

でも確かに心なしか、気は楽になれました。

やってくれますね、メリーさん。



そんな時、足早に誰かが近づいてきました。

この足音はアルデヒトですね、

何かあったのでしょうか?


ゴンゴン!


 「どうぞ、入ってください。」

すぐに扉は開かれ、

予想通り、ソファに座っているメリーさんに、アルデヒトは驚いたようです。


 「メ、メリー、いつの間に・・・!」


 「あなたが出て行ったすぐ後に。」

 「それより、アルデヒト、

 そんなに慌ててどうしたのです。」


まさか、領主様がこちらより早く動いたのでしょうか?

私は緊張の糸を張りました。


 「あ、いえ、メリーがいたのならちょうどいい。

 キャスリオン様、先程定期便でワールドワイドエクスプローラーニュースが届いたのですが・・・。」


毎月発行されている冒険者ギルド専門紙ですね。

世界各地のダンジョン情報や魔物の発生、討伐ニュース、

或いは活躍した冒険者の記事などが組まれています。

 「何かビッグニュースでも?

 まさかメリーさんの事が?」


 「いえ、彼女のことは・・・

 ただ、メリーが異世界から転移してきたという話に関係ある記事が・・・。」


 「異世界転移に、それはいったい?」

 「今回の記事に、

 グリフィス公国で別の転移者が現れたとニュースになっているんです!」


 「何ですって!?」

思わず立ち上がってしまいました。

ですが、それ程重要な話です。

転移者なんて滅多に聞く情報ではありません。

この世界に勇者が現れたのと同じか、

或いはもっとレアなケースです。

それがメリーさん以外にも?

私はアルデヒトからニュースを受け取り、食い入るように記事を読みました。


なんでもヒューマンにありながら、精霊術を駆使するというマルゴット女王の元に、

やはり精霊術を使役できる異世界の人間が召喚されたと。


 「精霊術師カラドック・・・。」


その時です。

メリーさんまでも立ち上がりました。

 「カラドック!?」


え、ま、まさか

 「ご存知の人なんですか!?」


私の質問に答えるより先に、

メリーさんは奪うように機関紙を手に取りました。

しばらく無言で記事を読んでいたようですが、


最後に残念そうな声を絞り出したのです。



 「文字、読めなかった・・・。」


それは流石にね、

無理でしょうね、異世界から来たんですものね。



とりあえず、代わりに読んであげました。

そのマルゴット女王が呼び寄せたカラドックが、

冒険者としてデビューしたこと。

瞬く間にミッションを成功させて破竹の勢いで名を挙げていること。


しばらくしてメリーさんは彼の事を話してくれました。

 「私が人間として生きていた時代の人ではないわ?

 だからそのカラドックという人物に会ったことは一度もない。」


 「と言うことは、歴史的な有名人というわけですね?」

 「その解釈で正しいと思う。

 私が人間として生きていた時代より400年も前に、当時の歴史書を記し、賢王とも呼ばれ、世界最大の領地を治めていた人よ。

 さっき私が話した大事な友人の先祖でもある。」


 「・・・めちゃくちゃ因縁あるわけですね、

 それは是非お会いした方がいいと思います。」


ですが、メリーさんはしばらく考え込んでいるようです。

何か懸念でもあるのでしょうか?


でも他に判断材料もなかったのでしょう。

最後にはご自分のこれからの目的を決められたみたいです。

まずはその、異世界からやって来たというカラドックに会いに行くということに。


 



カラドック側の都合で、

賢王の称号は公式に広まらないようにしています。

また、女王が召喚術で呼び寄せたというのは、噂として広まっていますが、

カラドックも女王サイドも、特に否定も肯定もしていません。


この段階では公開されている情報と噂をもとに記事が書かれただけに過ぎません。


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