第七十五話 ギルドマスターは結構お茶目
休みの日に下書き溜め込もうと思っても、なんだかんだで全く進まない・・・。
そうこうして私の執務室に戻って参りました。
せめて温かい紅茶でも淹れましょうね、
お酒じゃなくても飲んでないとやってられません。
「あ、ギルマス、オレが淹れますよ!」
いえいえ、その一言だけで嬉しいですよ、
でも私が淹れてあげたいのです。
「アルデヒト、ここは私の執務室ですよ、
ならばあなたは命じられた事以外は大人しくしてて下さい?」
「は・・・恐縮です。」
ふふふ、いつもは偉そうにしているのに、
私の前だと礼儀正しく振る舞おうとしてるんですからね、
ちょっと口元が歪みそうになってしまいます。
・・・でも現実逃避はここまででしょうね。
私は紅茶を注がれたカップをアルデヒトに差し出しました。
「どうぞ、
熱いですから火傷しないように・・・
それで、落ち着いたら今回の報告をお願いします。」
言われるままにカップを手に取り紅茶を口に含むアルデヒト。
やはり熱いのでしよう、ほんの一口だけ口の中を湿らせた程度でしょうね。
私も一口いただきましょう。
「それで、早速なんですが、
いつもだとこちらの報告は執事のワイナット殿が応対していただいているのですが、
今回はダリアンテ様直々に対面となりまして・・・。」
ぶーっ!!
っとはなりません、
これでもギルドマスター!
耐えました、耐えましたよ、私は。
でも、
ゲボッゲホッ、気管にっ
熱っ!痛っ!!
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫です、つ、続けて下さいゲホッ、ゲホッ」
「こちらが提出した報告書は食い入るように読み耽り、
更にはこれはどうなっている、
この件はなんだ、
もう根掘り葉掘り聞かれましたね。」
「そ、そうですか、ケホンッ、
例のゴブリン掃討戦では私たちはかなりの成果を挙げた筈ですが、その事とかは?」
「ダリアンテ様はもちろん、こちらを咎めるようなことは言ってませんでしたが、
やはり言葉の節々にかなりのトゲがありましたね。」
「はぁ~、
このハーケルンには被害は殆ど出ていなかったのに、他の領民の保護や治療、移送など手間を掛けさせましたからね。」
だけれども問題はそこではないのです。
「聞かれましたか?」
「ええ、もうねっちりと。」
あのお人形さんの事です。
あのメリーというお人形さんは、事もあろうに領主の実弟の首を切り落としました。
ここを根城にしていることも、
その正体すら分かってはいない筈でしょうが、
もし、実弟を処刑した事を私たちが知りながら匿っていたとあっては、
間違いなくこの冒険者ギルドは、この街の守備兵に取り囲まれることになるでしょう。
「異世界からやってきた自律駆動ゴーレム・・・
神出鬼没で他人の憎しみや恨みを糧に動き続けるという話はいたしました。
ゴブリン数十体を斬り伏せ、
ゴブリンメイジやホブゴブリンまでも打ち破る驚異の魔道体・・・。
コミュニケーションを取ることは可能なれど、彼女独自の生態機構の為に、彼女を使役することは不可能に近い。」
その説明で間違いはありません。
その事は領主様の部下になる衛兵のブランデン様も知っています。
故にそのことに関して嘘は言えませんし、領主様も知るところです。
後は彼女の存在と弟を殺した犯人と繋げられさえしなければ・・・。
「うまく誤魔化せるか、しらばっくれるつもりではいたのですが・・・」
「えっ!?
まさかバレているのですか!?」
「いえ、こちらは知らぬ存ぜぬを貫きましたが、
実は・・・」
「じ、実は?」
「領主の弟の事で、奴が大量の奴隷を抱えていたことはギルマスも既にご存知だと思うのですが、
その奴隷がメリーを目撃していることがダリアンテ様の知るところとなり・・・」
ああ、
終わった・・・
もうこのギルドは終わり・・・
ごめんなさい、みなさん、
でもせめて、私が解任されてもこのギルドは存続できるように頑張るから、
せめて・・・
「キャ、キャスリオン様!?」
あ、ダメ、
意識を手放している場合じゃありませんね、
せめてアルデヒトに後のことは・・・
ソファに座っているおかげで倒れたりするような事はありませんが、
私は放心したように背もたれに体を任せる形になりました。
心配してアルデヒトが駆け寄ってくれましたが、私に遠慮しているのか、ある一定の距離よりかは近づいてくれません。
力なく瞼を開いた私は語りかけます。
「アルデヒト・・・。」
「大丈夫ですか、キャスリオン様。」
「ええ、安心して下さい、
この身に変えてもこのギルドは守り切ります・・・、
例えこの首を差し出すことになろうとも。
ですからその後、ギルドマスターはあなたが・・・。」
「勘弁して下さい、オレには荷が重すぎます。
それに易々とご自分の命を晒すのはやめて下さい。
あなたにこき使われるぐらいが一番性に合ってます。」
「ふふふ、何ですかそれは。
この街であなたの実力は誰しも認めているのに、そんな弱気でどうするのです?」
「自分の事は自分がよく知ってます。
それよりキャスリオン様こそご自分の価値を分かっていない。
あなたはこの街にもギルドにも必要な方だ。
あなたを守る為なら何でもやりますよ。」
まぁ!
心臓の音が高鳴るのがわかります。
でも・・・
「それが口説き文句なら嬉しいんですけどねぇ?」
「まだそんな軽口叩く余裕はあるんですね、安心しました。
大丈夫ですよ、なんとかなりますとも。」
あらあら、かわされちゃいました。
本気でこの人は公私を分けるタイプなんでしょうね。
私が魅力ないだけなのか、
怯えられているのかどちらでしょうね?
「キャスリオン様には新人の頃からお世話になってます。
あなたの助言やお説教のおかげで何度命を救われた事か・・・
それはオレだけじゃねぇ、
ここのベテラン勢は大なり小なりみんなあなたに恩義を感じている。
だからもっとオレらを頼って下さい、
・・・部下として!」
嬉しい事を言ってくれますね、
でも最後で物足りない気がする私は贅沢なんでしょうか?
でも
「ふう、仕方ありませんね、
不本意ですが、もう少し足掻いてみましょうか?
私を助けてくださいね、アルデヒト?」
「もちろんですとも。」
その後もいろいろアルデヒトと話をしました。
ただ結論としては、
まだ領主は自分の弟を殺したモノが、
ゴブリン討伐で活躍した謎の人形と確信しているわけではないようです。
幸か不幸か、
領主の弟が囲っていた奴隷は、「人形」という概念を持っておらず、
あのメリーを「人の形をした魔物」と表現したおかげと、
さらには、奴隷が目撃したのは、メイド長の殺害シーンではあるが、
その時メリーは、あの巨大な鎌を使用しなかったらしいのです。
教養がないおかげで、メリーの正確な姿を表現する術を持っていなかったというのが、実情でしょうかね。
ただ実際は時間の問題です。
恨みを持たれた犯罪者を狩り行く人形の噂とその出現時期、
それを照らし合わせばすぐにでも問い合わせは来るでしょう。
「街の犯罪者が裁かれているという話はオレの方からはしていません、
あちらから振ってきましたが、
噂レベルで聞いてはいるが、
冒険者ギルドでは関知するものではないと言っておきました。
領主様としてその実行者を討伐したいというなら、依頼として検討するとは言いましたがね。」
「心臓に悪い対応ですね、
それで領主様はなんと?」
「その件に関しては、それ以降、口をつぐまれましたね、
向こうでも結論を出せないのでしょう。」
「では、こちらとしては、
メリーさんがこの冒険者ギルドに匿われていることが発覚した場合の対応、
又はメリーさんが違法な殺人者として捕縛・討伐依頼が出された場合の対応、
その2点を検討すべきでしょうかね?」
「そうですね、その線でいきましょうか?」
そこで私たちは打ち合わせを終えました。
まずはそれぞれ対応策を検討し、
後ほどすり合わせを行い次善の策を打ち出して行くこととなりました。
アルデヒトが執務室から退出し、
部屋の真ん中のテーブルには、私とアルデヒトの残した紅茶が置かれたままです。
私は自分の飲みかけのカップを手に取り、
一息に飲み込みます。
そうしたら今後の事を真剣に
コン コン
え?
ノック?
・・・て、
それ窓ガラス!?
ぶーっ!!
やってしまいました、
今度は耐えられませんでした。
盛大に紅茶を吹き出してしまいました。
メ、メ、メリーさん、
何で窓の外からノックするの?
「私、メリー、
今、あなたのお部屋の外にいるの。」
いえ、見れば分かります。
「入れてくれる?」
入れてあげないって言ったら、窓ガラス破壊して入ってきそうですものね、
私に選択権はありませんよね、わかります。
次回、ちょっと物語文章内に画像を差し込もうかと企んでいます。
とある物語の主人公の女の子です。