第七百四十六話 最終回のニ 転生失敗
いぬ
「そういや、おいら、よく分からないんですけど、
黒髪の女の子の話って、雪豹獣人の男の子と前世でいい感じだったんですよね?
でも、メリーさんエンドだと違う人が出てきてます?」
うりぃ
「あー、それか・・・
それウチが言ってええんかな、
えーとーいわゆるー」
イザベル
「あら?
あの子のことなら私が語るしかないようね?」
うりぃ&いぬ
「「うわどこから」」
イザベル
「あの子はどこにでもいる普通の子よ、
心の中で二人の男のことで葛藤してたっておかしくないでしょ?
もちろん普通にいけばザジルルートだったんでしょうけど、それじゃあ面白くもなんともないじゃない?
でも、あの子につれない振りしていたランディが、まさかあそこまで病んでたなんて私も読み違えたわね。
あの子の姿で誘惑したくらいで、まさかお腹刺されるとは・・・」
いぬ
「・・・救いがないっす・・・」
うりぃ
「あ、あー、じゃから最後にな・・・」
麻衣
「それこそあたしから言えることじゃないんだけど、
ハギル君はいつも女の子を守ってくれるタイプ、
そしてあの子にとっては、自分にまとわり付いた鎖を解き放ってくれる救いの王子様に見えたんじゃないかな。」
いぬ
「あ、じゃ麻衣さん、もう一人の男の人は?」
麻衣
「・・・うーん、なんていうか、
自分を救ってはくれないけども、逆に自分が男の人の方を救いに行かなきゃいけないって言えばいいのかな、
或いは本当の自分をお互い理解しあえる共依存みたいな?」
イザベル
「・・・一緒に暮らしたからよく分かるわ。
あの男はクズよ。
あの子も最後はダメ男から離れられなかったんでしょうね・・・。」
<視点 華>
・・・私の名前は船戸華。
うん、そう、
それが私の名前だ。
何故かまるで自分の名前を確かめるように思い直した。
なんでそんな事を確かめようとしたのか、理由は一つ。
今の状況が全く理解できないから。
まず、ここがどこかも分からない。
周りを見回すと、ただただ真っ白い空間。
右も左も上も下も全てが真っ白。
もしかして自分は死んでしまったのか?
なら自分の記憶はどうなっている?
そこで最初に確かめたのは自分の名前というわけだ。
けれど、直前まで何をしていて、どこにいたのかということ等は全く思い出せない。
何がどうしてこんなところにいるのだろう。
自分の着ている服は間違いなく自分が買ったもので、ちゃんと色が見えているから、辛うじて少しだけなら安心できるような気もする。
そもそもここが死後の世界とかだったら、自分の洋服なんか着てないよね?
え?
そんなことわかるはずないだろって?
そ、そうかなあ。
死装束かなんか、着てるはずじゃなかったっけ?
でも、自分の視覚が正常に機能しているということは、ちゃんと生きてる証じゃないかしら?
・・・それにしても周りに何もないということは、ここから動いていいのかどうかも判断できない。
いま、自分が両足を接している地面の感覚はあるんだけど、
この先を進んだとして、ちゃんとそこに地面はあるのだろうか?
いきなり足を踏み外して、そのまま真っ逆さまに・・・
もしかしたら地獄の底にまで落ちて行ったらどうしよう?
あまり覚えてないけど、
自分はよく色々なところから落下してたような気もするし。
そう考えると何もできない。
そもそも自分は本当に生きているのか?
直前の記憶はある?
さっきまで自分は何をしていた?
そこまで考えた瞬間、
誰かの気配を感じた。
思わずその方向に目を向ける。
え?
最初は目の錯覚かと思った。
何か人型の影のようなものが私の目の前に現れたのだから。
それはだんだん、輪郭がはっきりし始めた・・・。
私より背が高い・・・
男性だ・・・。
そこで急に私は恐怖を覚えた。
それは暴力的な恐怖などではない。
なにか・・・自分の存在そのものを抹消されるのではないか・・・
そんな想像すら想起せざるを得ない・・・絶対的な存在・・・。
そう、もっと分かり易く言えば、それは「人間」以外の何かだったのだろう。
そして、
・・・ついにそれは私の前に姿を現したのである・・・。
身長180センチは超える・・・。
綺麗な金髪を腰のあたりまで流す、白銀のローブを纏った美形の青年・・・
・・・の姿をした「なにか」。
イケメンは好きだけどそんな範疇のお話ではない。
だって、
日本人に見えないのは当然だけど、
じゃあ、欧米人かと言えばそれも違う。
何しろ瞳の色が黄金色だ。
そんな人種、見た事も聞いたこともない。
「神様」なのだろうか?
その可能性は十分にあるけども、だったらどうして私はこの男にこれほど恐怖を覚えているのだろうか?
「やぁ、気がついたかい?」
男は私の内心など気にも留めずにフレンドリーに話しかけてくる。
どうしよう?
こちらも友好的に返すべきだろうか?
とりあえずだけど、少なくともこの人を怒らせるような言動は控えようと思う。
「は、はい、あ、あの・・・ここは?」
「あー、そうだねぇ、
ここは何ていうか、生者と死者の狭間というか・・・。」
やっぱりそんなところか・・・
「もしかして・・・私・・・死んじゃったんですか・・・?」
何をおいてもその確認だけはしたい。
後から考えると、あの場ではもっと大事なこともあったような気もするけど。
「ああ、うん、覚えてる?」
直前の状況なんか、何にも覚えていない。
いったいどうしてまたそんなことに・・・。
「い、いえ・・・まだ自分の名前しか思い出していなくて・・・。」
「そうかい、
君が死んだのは一応事故なんだけど・・・。」
「事故ですか?
交通事故か何か?」
「うん、それ。
言葉にすると、死因はトラックに撥ねられて、地面に後頭部から倒れてって感じかな・・・。」
トラックに撥ねられたのか、
そりゃ死んじゃうよね。
「ああ、そうだったんですか・・・
運が悪かったのかな、私。」
我ながら他人事みたいな感想だ。
もっとも、それは記憶がはっきりしてないせいだろう。
意外と話してみると、この男の人は普通に会話してくれる。
私の恐怖心は消えないけど、会話中は気がまぎれるようだ。
「ああ、ただ運とは言えないものもある。」
え?
「そ、それはどういうことですか?」
「どちらかというと、今回の事故は君の自殺に近い。」
ええ?
「そ・・・そんな、私ってそんな恵まれない人生を送っていたんですか?」
「いや、そうとも言えないんだけど、君の場合少々特殊でね。」
「特殊?」
「うん、覚えてないのは仕方ないんだけど、
そもそも、船戸華さん・・・君の『船戸華』としての人生は、
偽物・・いやボーナスステージというのかな、
君の本当の世界ではないんだ。」
・・・は?
「あのー、普通に意味が分からないんですけど。」
「うん、それは記憶がないんだから仕方ないよね。
本当の君自身は、400年後のある世界で死んでいる。」
ダメだ、全然わからない。
「ならそのまま聞いてくれる?
君の本当の人生ってやつは、ある人の身代わりとしてその世界で大活躍をした。
一時は、世界中の人たちが君の事を救世主とまで呼んでいたんだぜ?
にもかかわらず、当時の民衆は君を魔女として火炙りにしてしまったんだよ。」
「・・・え。」
なんでどこにでもいる一般人の筈の私がそんな大それたマネを・・・・
ていうか、この人、今普通に私の心を読んだ?
「・・・君の功績は賞賛されるべきもので、
さすがにこの私も同情を禁じ得ない。
本当に人間って愚かだよね。
そこでせめてもの報いに、現代日本に君の魂を呼んであげたのさ。
それが『船戸華』の人生ってこと。」
「・・・その話が本当かどうか確かめられませんけど、
そうだとしたら、その二回目の人生でもろくなもんじゃなかったんですね。」
「うーん、それがねぇ、
今回の事故は君が呼び寄せてしまったようなものでねぇ。」
「え? どういうことです?」
「うん、ぶっちゃけると、
君の心の中で『こんな人生リセットできたらなぁ』って思っちゃったのがトリガー。
それによって運命は今回の君の人生を終らすことになってしまったようだ。
あ、先に言っておくよ。
運命はこの私をもってしても捻じ曲げる事の出来ない絶対の真理。
だから君はその気になれば、事故を避ける事が出来る筈だったにも拘らず、よっぽどのお間抜けちゃんでもない限り遭遇しないような事故に遭ってしまったんだ。」
「ええええええ!?
いったい私は何をしているんですかぁぁぁああっ!?」
よっぽどのお間抜けちゃんでもない限りって、
つまり私がよっぽどのお間抜けちゃんてことよね!?
「そしてその結果、君はここにいる。
それで話はここからなんだけど・・・
どうする?
もう一度転生してみる?
今度は思い切って剣と魔法の世界なんてどう?」
「何がどうしてそうなるんですかああああ!?
あ、・・・ち、ちなみに断った場合は!?」
「消滅するね、君の魂ごと。」
うわあああああああ、
これだ、これが私の恐怖の原因だ!
この人はそれが出来る!
これは断っちゃいけないやつだ!!
「い、異世界転生ものですか!?」
知ってる!
なぜかわからないけど、私にはその知識がある!
「うん、どうせなら乙女ゲー寄りにしてあげようか?
魔物とかと殺し合いなんかしたくないでしょ?」
「そ、それはお気遣いありがとうございます?」
魔物いるの?
オークとかゴブリンとか?
せめてスライム程度にしてくれると嬉しいんだけど・・・
「記憶は『船戸華』寄りにしてあげるよ、
・・・でももしかしたら最初の人生の記憶も甦るかもね。
けれどそれは無駄にはならないと思うよ。」
「あ、あのそれは嬉しいんですけど、
・・・私、また自分から死を望むようなマネなんかしたりしませんよね・・・?」
「ああ、だからこそ、記憶を残してあげようと思うんだ。
せめて自衛本能が働くようにね。
でも気をつけなよ?
それにも拘らず、またリセットしたいなんて思ったら私でもどうしようも出来ないからね?」
それは絶対に気をつけよう。
こんな所に寿命以外で二度と来たくない。
「あ、あとじゃあ、チートスキルとか貰えるんですか?」
「意外としっかりしてるね・・・。」
ダメ元なんだけどな・・・
「ど、どうでしょうか・・・?」
「いや、まあそのくらいしたたかな方がいいだろうね、
そうだな・・・では一つだけユニークスキルを加えてあげよう。
あと、特別に私の眷属をお供にしてあげる。」
「え? 眷属? お供?」
「うん、どさくさに紛れて知り合いの子に協力取り付けておいたからね、
向こうに着いたらわかるよ。
それじゃあ、そろそろいいかな?
私も暇じゃないんでね。」
「えっ、ちょ、ま、まだ心の準備がっ!」
「大丈夫、大丈夫、すぐには危険はないからさ。
じゃあいってらっしゃーい!」
「えっ、あ、あのっ!?」
すぐにはってどういうこと・・・っ
・・・そこで私の意識は薄くなった。
同時にカラダがなにか落ちてゆくような感覚もあった。
また落ちるのか・・・
でも、
最後の最後であの人の言葉が聞こえた気がするんだ。
今度こそしあ わ に・・・
ああ、
あの人か・・・
そして私は何も考えられなくなった・・・
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
前世からの持ち越し職業及びスキル
適正職業
町人、王族、弓騎士、内科医、外科医、薬師、詩人
取得スキル
乗馬術、精密射撃、連射、アローレイン
ユニークスキル
表示
状態
LP劣化中
称号
転生者、複製人間、全てを与えられた娘
華ちゃん
「え、なにこれ↑」
白蛇のマイ
「華さんの前世で得意だったものとか反映されてるらしいですよ。」
華ちゃん
「あ、いえ、それはいいんだけど、複製人間とかLP劣化とか、あと詩人てなに?」
マイ
「最初の方はあたしにも分かりませんけど、詩人て確か華さんが学生の時、よくノートや教科書にオリジナルの詩を書いてたとか聞いたような・・・」
華ちゃん
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!?」
次回でほんとに最終回にします。
うりぃ
「あと、ぼっち妖魔制作委員会メンバーも発表するさかいにな!」