第七百四十五話 最終回の一 彼女は物語に出さないと言ったな、それは嘘だ
お詫び
一話で終わらそうかと思ってましたが、
過去の下書き全部コピペしたら予想以上の量になってました。
物語は華ちゃんが異世界で最初に人と出会うところまで続きます。
<視点 華>
うげ・・・またあいつからの着信だ。
英雄・・・
これ、なんて名前か読める?
ひでおじゃないよ、
「ヒエロ」って読むんだよ?
あいつの親は何を考えてこんな読みにしたんだろう?
私の名前なんかなんの捻りもないのに。
「華」だぞ、「華」。
まだ「花」や「ハナコ」でなく良かったと思うけど。
・・・あ、全国の「花子」さん、ごめんなさい。
お願いだからトイレに引きずり込まないで。
まぁ英雄と付き合い始めた時は、そんな嫌悪感はなかった。
最初は私も浮かれていたんだろう。
あいつは人付き合いもいいし、他人への気配りもできる。
・・・今の私以外となら。
外は冷たい雨が降っている。
明日の食材を買いに行きたいけど、外に出るのも億劫になってしまった。
ネットでゲームでもしようかと思ってたら英雄からの着信。
もう、あいつとは縁切ったつもりなんだけどなぁ。
いや、英雄はそんな悪い奴じゃない。
普通にしてれば彼女がいたっておかしな男でもない。
単に私とは「合わない」。
そう思っただけ。
だから別れ話が難航した。
はっきりいって私は猫派だ。
好き勝手に行動する。
彼氏に束縛されたくないのだ。
私が必要としている時に傍にいてくれればいい。
え?
わがまま言うな?
そりゃ多少は妥協するよ?
彼氏の要望だって聞きますよ。
でもね、
物には限度というものがあるわけで・・・。
ただ、あからさまに向こうが悪いわけではないので、別れるにしてもうまい理由が見つからず・・・、
正直にさっきの理由を言っただけでは英雄は納得できないらしくて、事あるごとに電話やLINEやらが送られてくる。
・・・余計に逆効果だと思わないのだろうか?
いつか、私の機嫌が直るとでも勘違いしているのだろうか?
みんな別れ話ってどうやってるの?
新しく彼氏こさえてから別れるの?
ああ、そういえば高校の友人にもとっかえひっかえ男作ってる子がいたっけ。
ああいう生き方もありっちゃあありなのか。
とりあえず電話に出てみる。
でも話す事はいつも変わらない。
やり直そうとか、
オレらはきっとうまくいくとか根拠もなくだらだらと。
こっちはもう何の感情もないというのに。
私も一々受け答えするのがいけないのだろうか?
完全無視を決め込んだり、着信拒否でもすればいいのだろうか?
それはそれで英雄はストーカーにでもなりそうだしなぁ。
まぁ、今も似たようなもんだろうか?
もう話す事も時間もないとか言って、ようやく電話を切るも、
夜道は気をつけろとか、腹を出して寝るなとか、
お小言なのか、心配なのか分からない話で締めくくられた。
お前は私のお母さんか!
多分・・・最初から彼氏彼女とかでなく、
普通に友達同士としてだったら私たちは仲良いままでいられただろう。
或いは兄妹もしくは姉弟でもよかったのかもしれない。
ただ恋人はねーわ。
うん、私も勘違いしてしまった引け目はある。
どこで間違えたんだ。
「はぁ・・・
どこかで人生、リセットできたらなぁ・・・。」
あそこで口説かれる前にやり直ししたのに・・・。
私は結局、近所のスーパーに買い物に行くことにした。
この時間は結構冷えるから厚手のコートを着込んでと・・・。
コンビニの方が近くにあるけれど、
スーパーの方がお安く上がるからね、
貧乏性だね、私も。
傘を差して鼻歌交じりに家を出る。
この時間だから人も車も少ない。
夜の街並み、降りしきる雨音・・・。
まさに今、世界には私だけ・・・そんな錯覚も覚えるくらい。
・・・そんな瞬間に恍惚状態となった私がバカだった。
坂道の途中のコンビニの前にトラックが止まっているのには気づいていた。
そしてその傍の横断歩道を渡るときには、自分の傘で視界はほとんど塞がれていたために・・・
恐らくサイドブレーキが甘かったのか、
それともタイヤの輪止めをサボったのか・・・
トラックがゆっくりと下がり始めていたことに、私はまるで気づかなかったのだ。
「え?」
気が付いたら、何故か体が押されていた。
トラックが衝突したという自覚は全くなかった。
その瞬間、痛みも何もなかったから。
気が付いたら私の身体は傾いて地面にまっしぐら。
受け身を取れるほどの反射神経がなかった自分を呪う。
自分の頭を支えるだけの筋力がこの首にあったなら、倒れる時は肩か背中から落ちれた筈だ。
けれど私の首は頭を支える事が出来ずに、後頭部からいってしまった。
しかもご丁寧に縁石の部分にだ。
ていうか、もうその瞬間には自分がなにかどうなったのかは知覚できなくなっていた。
そう、
呆気なく、なんのドラマもなく、
日本のどこにでもいる普通の女の子、
船戸華の人生は終わりを迎えたのだ。
「・・・え、と。」
あれ、ここどこだっけ?
外・・・?
え?
意識が次第にはっきりしていく。
ガササ・・・
手を伸ばすと枯葉が潰されていく音が気持ちいい・・・
いやいや!
そんな事に感動すな!
なんで私、森の中で目を覚ますの?
あああ、
服が土まみれ・・・
厚手のナイロンコートだったから、
汚れははたけば落とせるけど、
スカートがなあ・・・
・・・違うぞ、華!
まずは自分が怪我してるかどうかでしょ!?
えっと、起き上がれるかな?
気がついたら腕が変なところで曲がってたりとかしたら、シャレにならない。
まず座ろう。
土の上でもいいから座ろう。
うん、大丈夫。
自分の手は?
汚れているけど痛いところはない。
グッパ! グッパ!!
よしよし、ちゃんと動くよ!
私はスカートの土を落としながら立ち上がる。
・・・う、ちょっとフラつくかな?
でも大丈夫!
いける!
多分顔にも土とかついてるよね、
痛くない程度に軽くはたいたところで
自分の体に違和感がある。
ん?
自分の手って・・・こんな感じだったっけ?
あれ?
ホクロがこのあたりにあったような・・・
あれ?
こんな所にあったっけ?
心なしか皮膚の色も記憶の自分の腕と違うような・・・。
おかしい。
まず何よりも
胸がデカいぞ、重いぞ、揺れまくるぞ!?
船戸華は純然たる日本人なので、
寄せて上げなければBカップの平均バストだ。
今の自分の胸は二回りほど巨大化している。
・・・Dか、Dだな、この野郎!
やったね、華ちゃん!
質量が増えたよ!
ああ、そうか違和感あったのはブラがきつくなっていたのか。
・・・外そう!
どうせこんだけ厚着してればノーブラだとバレることはない。
あ、
別に私は痴女じゃないから。
でも胸元を覗いて見るに、
やはり自分の記憶にある胸の形と違う。
頭でも打って記憶が飛んでしまったのだろうか?
・・・5年分くらい。
その間に控えめだった胸が成長されまくったのだろうか?
『はずれ〜、違います〜!』
んん?
誰?
ていうか、今、直接脳内に!?
思わず辺りを見回す。
そばには人影などどこにもない。
頭の中に響いたイメージでは若い女の子だった。
ここがどこかも、自分が何故こんな状況かも分からない所に、明るく話しかけてくれる女の子がいるというのは、心強いものなのだが、
姿はどこ?
私はおっかなびっくり声を上げる。
「だ、誰かいるの!?」
『いますよ!』
ノータイムで反応があった。
でも頭の中の声だから方角が分からない。
「お願い! 姿を見せて!!」
その時、ガサリと枯葉の音がした。
後ろ?
『はい、華さんの足元です!』
え!?
私の名前を知ってる!?
ん?
・・・それもびっくりだけど、
足元?
そろ〜り、
おや?
振り返って足元付近を見るに、
枯葉や土とは違う白い物体があるね・・・。
細長い、白い、ウネウネしたの・・・。
よく見ると先っちょがユラユラ揺れている・・・。
すぐにそれが小さな子供の蛇だと私は理解した。
白蛇?
尻尾までぐるぐるトグロを巻けば、
私の手のひらにも収まりそうな・・・。
つぶらな緑色の瞳をした蛇が私を見上げてる。
まあ、かわいい!!
舌先もチロチロ出して、
毒でも持ってたら怖いけど、
そうじゃなかったら、お部屋に一匹飼いたいくらい!
『ええ、是非末長くよろしくお願いします!』
えっ
え、なに?
今のなに?
私が蛇さんのこと考えたら声が聞こえてきた!?
まさか、まさかまさか!?
『はい、あたしはこの世界で華さんのアシストするように遣わされた白蛇です!!
どうかよしなに!!』
ええええええええ!?
下書き時点での最初の書き出しは、
華ちゃんが
「狭間の世界」で目覚めるところからだったのですが、順番変えてみました。
というわけで最終回の次回は
狭間の世界で「あの方」との出会いです。
ではまた。