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第七百四十三話 お別れの時間なの

次回でメリーさんの話も終わります。


今回の話の中、

ユージンには「霊感がある」という設定を思い出して下さいませ。


ではまた来週。

・・・最後まで書き切れるかな・・・

あともう一息。

<視点 メリー>


今更何を思い直すことがあるだろうか。


今の私に感情が戻っていたならば、

最後の最後で決心が揺らぐこともあるかもしれない。


幸か不幸か、そんな余計なものがない分だけ、思考は迷いもなくすっきりしていると思う。


この話を正直にユージンに伝えでもしたら、

また「おかしいよ、そんなの間違ってる」とでも騒ぎ出すだろうか。


・・・そうかも、

いえ、今の「そうかも」はユージンの非難のことではなく、私のこれからの行動の話。



前にもどこかで話したと思うけども、

私にも感情があったという記憶はあるのだ。


嬉しかったこと、楽しかった事、悲しかったこと、ワクワクしたり、落ち込んでしまったり、他人を羨んだり、憎しみを覚えたことも・・・

普通に人並みの感情は。



たとえるなら・・・


人が食事でとても美味しいものを食べたとしよう。

もう本当に人生最高の食事と思うくらい。


けれど、

その味の記憶はしっかり残っていたとしても、


食欲が全くない時に、

そんなものを食べたいと思うだろうか。


・・・性欲の話に置き換えてみる?

いわゆる賢者m・・・


ああ、そんな話は要らない?



でも言いたいことは分かってくれただろうか。

今の私には、これから何をすべきかという目的しか残っていないのだ。



もう、


これを読んでるみんなは気付いているんでしょう?


私がミカエラ・・・

ミシェルネから聞かされたもう一つの真実。


ミシェルネ自身は証明する手段は何もないとは言っていたけども。


けれど私だって永い間、この人形の身に「魂」を移して彷徨い続けてきたのだ。

ミシェルネの言っていたことの可能性くらいは思い浮かべたこともある。



すなわち、

「魂」とは何なのか。


21世紀の文明社会の陰に、化け物として産み落とされ、

斐山優一に殺された後、

400年後の軍事国家の辺境伯の娘に取り憑いて、


いつの間にやらどちらがどちらの人格かも分からなくなった後、


人間社会から逃げるようにこの人形の体に転生した。



それをミシェルネは・・・



その私の転生録を、

情け容赦なく否定してみせた。


そんな事などあり得ないと。


・・・もちろん表現はおとなしかったけどね。

最大限、私を傷つけないよう、気を遣いながら話してくれた。


それではこの私は一体何なのか、

という話をすると、困ったように笑いながら、

「現象としてはおかあさんの方が詳しいんじゃないかな?

一つの情報を丸ごと別の媒体に移し替えること」


そう言い放ったのだ。


つまり、それは


「コピー&ペースト」


21世紀の常識があれば、そう言わざるを得ない。



ならば


私の存在は



遠い21世紀に生を受けた化け物の、

その記憶と人格を


コピーされただけの存在?


そしてまたイザベルも?


元の「私」は肉体の死と共に消えて無となっている。

・・・言われてみると当たり前の話としか思えない。

さすが私の娘だわ。




その後、ずっと考えてみて、

また気づくこともある。


私が自分で言った事だ。


私自身見たわけではないのだけど。


大陸戦争・・・

いえ、あの天空からの災厄を防いだ遺物の一つ、

月の裏側に隠されていたという人工知能アフロス・・・。


あれが・・・


世界樹の女神のもう一つの存在だと言うのなら・・・




そう、私たちが出会ったあの女神すらも、

大昔に生きていた一人の女性のコピー。



・・・いえ、あの女神には肉体も・・・

あ、それは分からないわね。

私たちが出会った体自体、あの世界で生まれたものかもしれないのだから。


その体に別世界のアフロディーテという女性の記憶と人格をインストールさせてしまえばいいだけ。


それで三体目のアフロディーテがうまれたのだろう。


だからその名にちなんで「バブル3世」などとふざけた名前が出てきたというわけか。


彼女のことはまあいいか・・・。



私が考えていたことはその話だけではない。


あのままミシェルネと共に、あの世界で骨を埋めることも考えた。

けれど、そうなると私の加護は消えてなくなり、この体はただの石膏人形にもどってしまうという。


ならばやはりこの世界に戻ってくるしかないだろう。

もともとこの体はこの世界で生まれたものなのだから。


では



「私は?」


コピーに過ぎないこの私は?


向こうの世界には、

世界樹を中心とした魂の循環システムがあるという。


でも待って。


ミシェルネはそれすら否定したのよ?


じゃあ私たちが「魂」だと思っていたものは何なの?

この「死神の鎌」は、何百何千と今まで何を刈り取ってきたの?


ただの記憶や情報を保持するための「何か」?

それをせっせと冥府の王の下に送り届けていたとでも?



そもそも


私たちのいるこの世界で

「転生」なんて聞いたことある?

ダライなんとかとかいたと思うけど、大体は眉唾ものの話だったはず。


けれど向こうの世界には、

転生者が時折生まれることがある。


つまり、

世界樹を根幹とした「何か」を循環させていたことが、向こうの世界での「転生」?


正確には「転生だと思われていた」システム。



ならば、私たちのこの世界には・・・


確かに言われてみれば、

そんなもの自体あるわけないと思う。


21世紀の私が「コピー&ペースト」されたのは、それこそ特殊な一例ということなのだろうか。


私の記憶が確かなら、

メリーという人形については、もともと人間の「魂」を注ぎ入れるつもりで作られたとか。


そしてそれらは一つの結論を導かざるを得なくなる。



本来、人間というものは、

「死ねば全てが終わる」。


すなわち転生など、これ以上期待出来ない。


私はもう


二度と   





あの子に会うことはないのだ。




もしかして、この先、未来において、

コピーされた私や、

同じようにコピーされたあの子が、どこかで出会うことはあるかもしれない。


でもそれは「私」でも「あの子」でもないのだろう。

その時の本人たちに、過去の記憶があれば、また一つの舞台が観れるのかもしれないけども。



そう、思うと・・・

私はその場にいなかったけども、

ベアトリチェという女性とミュラという子の再会は、本当に奇跡のようなものだったのかしらね。


まあ、もしかしたら、

どこかで、もう一人の私・・・、

エリザベートだったかしら?

エリザベートとハンナが出逢うことはあるのかもしれない。


そんなシーンを想像するくらいは私にも許されるだろうか・・・。




 「・・・メリー、どうしたんだ・・・

 そんな思い詰めたような・・・

 いや、表情は分からないんだけどさ。」



おっと、

ユージンが話しかけてきたか。


いくら何でも展望台からの眺めを見続けるにしても、限界があるか。


なるべくなら彼を巻き込みたくないのだけど。



 「・・・メリー?」





彼にもお別れを言っておくべきだろうか。


そうね、

この人形の体も顔も石膏で作られた無機物の塊。

なるべく冷たい視線を向けようとしても意味はない。



そろそろ陽も傾いてきた。

この体は温度を感知しないけども、

冷たい風が私の髪を靡かせ口元を隠す。


さよならの言葉は、風が収まってからでいいだろう。



 「・・・ユージン。」


 「え、ど、どうしたんだ、メリー。

 風が強くなってきたみたいだぞ?

 窓から離れた方がいいんじゃないか?」


まあ、それは好都合。


 「今までお世話になったわね。

 お礼にもならないけど、忠告だけするわ。」


 「え、え!?

 な、いきなり、何の話!?」


 「もう自分の国にお帰りなさい?

 この大陸を発見しただけでも、功績にはなるでしょう。

 もし、領土を広げるつもりがあるなら、もっと大勢の兵士を連れてきなさい。

 いつ、あの『出来損ない』どもに襲われるか分からないのだから。」


 「え、いや、だって、君は・・・

 あ、え?

 メリー!?

 身を乗り出して何を!?」



この高さからならなんとかなるだろう。



周りに人間も「出来損ない」もいない。

ならこの呪われた身体が再生することもない。



 「ちょ、ちょっとメリー!?

 あ!?

 は、離せ、誰だ、僕の体を掴むのは!?」



破れた窓から首を出したせいで、

もうユージンの言葉はほとんど聞こえない。


けれど私に駆け寄ろうとして、

なんとか思いとどまってくれたようね。


それでいい。



もう私の体は腰から上の部分は全て外に出ていた。


この目に映る風景も変わる。


もはや屋内ではない。


この目には街の残骸が小さく映る。





この世界に転生はない。



今度こそ、

いえ、


転生がない、ならば、


本来の私は


・・・いえ、今の「私」に、

行き着く先はあるのだろうか。




そこに行けば彼女と


・・・彼女「たち」に逢えるのだろうか。




それとも


これで完全に


私という存在は消えて



なくなるのか。



窓枠を蹴る。



ユージンの声が煩い。



体が一瞬浮き上がったかのような錯覚。



そして徐々に、

段々と勢いを増してゆく凄まじい風が私を襲う。


目に映る景色が途轍もない速さで流れてゆく。



地表がグングン迫ってくる。



この高さからなら。









 「メリ━━━━━━━━━━━━ィッ!!」



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