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第七十四話 ギルドマスターは多感なお年頃

久しぶりなのでサブキャラ紹介


キャスリオン・・・ハーケルンの街の冒険者ギルドのギルドマスター。エルフ。

鉄壁のアルデヒト・・・同じく冒険者ギルドのサブマスター。お酒には強そうな気がする。

アマリス・・・冒険者ギルドの受付嬢。

ブランデン・・・ハーケルンの街の衛兵。

ダリアンテ・・・ハーケルンの街の領主。弟の名前がベルクロワ・ダリアンテ(故人)。


ストライド・・・若い冒険者パーティー「銀の閃光」のリーダー。ホビット。

テラシア・・・女性だけの冒険者パーティー「苛烈なる戦乙女」のリーダー。エロい(ストライド談)

イブリン・・・冒険者パーティー「伝説の担い手」のお髭のリーダー。元騎士。ゴブリンとは何の関係もない。



 「なあ、聞いた?

 最近、ハーケルンの街の悪党どもが、夜な夜な首を刎ねられてるって噂。」

 「知ってる知ってる!

 ていうかハーケルンだけじゃないらしいぞ?

 隣のボッティ二やエルンガイの街にも現れているらしいな。」


 「マジか!

 やられてるの、殺人犯とか、違法に奴隷を殺したりとか、

 他人の恨み買ってもおかしくない奴ばかりなんだよな?

 こいつは胸がスカッとする話だぜ!」

 「でもよ、中には品行方正で通ってる教会の司祭様も首切られたっていうぜ?」


 「え、それ・・・アレじゃねーか?

 もしかして表向きは清廉潔白な司祭サマの裏の顔が殺人鬼だった、とか言うオチ!?」

 「模倣犯とかでなければそう言う事なのかな?」



はあ~

聞こえない聞こえない、

私は何にも聞いてない。


ああ、みなさま、こんにちは、

ハーケルンの冒険者ギルドのギルドマスター、

エルフのキャスリオンですよ。

私の執務室は上のフロアにありますが、

お役目上、一階受付フロアの視察も行なっております。

そこで「たまたま」他の冒険者達が待機スペースで話し合っている内容が、

私の大きな耳に飛び込んで来るのは仕方ない事なのでしょう。

受付カウンターのアマリスが不思議そうな顔で私の暗い表情を覗いてきますが、

そこで私が落ち込んでいる理由に思いが至らないから、万年受付係なのですよ、あなたは。


まあ、今は彼女の事はどうでもいいのです。

それより問題はあのお人形さん、メリー。


正直、すんごい扱いに困るんですけど。


今、彼女の根城はこの冒険者ギルドの押収品管理室。

関係者以外立ち入り禁止だし、

基本的に活動していない時の彼女は、

本当に人形みたいにピクリとも動かない。

話しかけるとスイッチが入ったかのように応対してくれるけど。

恐らく、何も知らない泥棒さんが入り込んでも彼女は人形のフリをし続けるでしょう。


もっともその泥棒さんが彼女に指一本でも触れようとしら、

恐らくその泥棒さんは、次の瞬間首と胴体が泣き別れになると思われます。


話を戻しましょうね。

お人形さんは時折、夜のうちに窓から外に抜け出ているようで、

朝方には元の場所に戻っています。

試みに昨夜どこへお出掛けでしたの?

と聞くと、

隣町まで出歩いていたとのこと。

それはいいのだけど

その後、身寄りのない路上生活していた子供を保護すると言いながら、

教会で性的行為に及び、挙げ句の果てに口封じで殺してしまった司祭の首を刎ねてきたと言う。


ああああああああっ!

もうまた微妙な問題を起こしてきたあ!


いえ、確かにその司祭は許せませんよ?

恐らくお人形さんの目は確かなんでしょう。

でもまた、捜査も証拠も、いえ容疑すらかかってない司祭をそんなあっさりと、

まるで天気が良かったから海を見に行ったの、みたいなノリで報告されてもおおおおお!



 「アルデヒトは領主様の所から戻ってきていない?」


このギルドは毎月一回、定例報告を領主のダリアンテ様に行なっています。

別に冒険者ギルドは領主様の権力下にある存在ではありませんが、

領内の魔物の発生状況、また討伐度合い、盗賊や犯罪者の摘発、賞金額の設定などの為に、互い有益な情報を分け合うようにしています。

勿論緊急時はすぐに連絡を行いますが、

大きな案件さえなければ書面のやり取りだけで、報告者もギルドの職員であれは誰でも構いません。


しかし、

街の有力者達が、

しかもその中には領主様の実弟も含むわけですが、

何人も冒険者ギルドを根城にしている人形に首を刎ねられている、なんてどう報告すれば良いのでしょう?


 「あ! いえ、サブマスターはまだ戻って来てないですね・・・。」


受付嬢のアマリスの声に、どことなく不安そうな表情が見え隠れしました。

ようやく彼女も、ここの所の犯罪絡みの殺人事件との関連に気が回ったようです。


そんな時、馬車の音が近づいて来てるのが分かりました。

獣人の皆さんほどではありませんが、私も耳はいいのですよ。


その反応にアマリスも気づいたのでしょう、

視線をギルドの出入り口に向けました。


時刻は午後3時を回った所でしょうか、

冒険者ギルドのミッション受付はほとんど終わっていて、

後は終了したミッションの報告か、

不定期にやってくる新たな依頼者の対応が、この時間のメイン作業です。

それはそれで忙しいのですが、

今は丁度そういった対応業務の切れ目で、一休みする余裕もあるわけです。


・・・心労は全く休めませんが。


 「ただ今戻りました・・・。」

冒険者ギルド玄関の扉が開き、

ずんぐりした鉄壁のアルデヒトが姿を見せました。

私はその時、

ちょっとほっしたような、

或いは何か良くないことがあったのか、

不安との感情に心を揺さぶられます。


いえ、私も冒険者としてはそれなりに実績を積み、

今やこのハーケルンの冒険者ギルドのトップとしての自信と誇りを持ってはいますが、

やはり心情的にはか弱い女性ではあるのです。

そんな本心を他の人に打ち明けることもできない身の上ではありますが、

高い信頼と実績を誇るアルデヒトの存在は如何に心強いものか・・・。


あ、か、勘違いしないで下さいね?

別に異性として特別な感情を抱いてるわけじゃありませんよ?

あくまで部下として、同じ組織の志を共にする一員として信頼しているという、ただそれだけですよ?


だ、第一、エルフの私とヒューマンのアルデヒトは見た目以上に年の差がありますし・・・。

いくら外の世界に飛び出したエルフの私とて、ヒューマンとでは・・・。


ちなみになんですが、

私の種族であるエルフは主に五つの国に分かれています。

さらにエルフの中でも高い魔力を持つと言われる種族・ハイエルフが住むのが森都ビスタール、

ビスタールは神殿が強い権勢を誇るだけあって、住人には光属性を得意とする者も多いのです。


そして魔力限定で高い能力を持つのがダークエルフの住む魔法都市エルドラ。

冒険者ギルドに所属する魔術士の中で、高い能力を示すものは大体エルドラ出身のダークエルフです。


残念ながら私はどちらでもありません。

残り3つの都市は一般的なエルフ達が住み、私も漏れなくそちらの出身です。


ただまあ、その中でなら私の魔力は抜きん出ております。

うーん、ハイエルフの皆さんと比べたら彼らの平均レベルよりやや上回る所でしょうか、

ええ、ええ、私より優れた魔術士の方など沢山いらっしゃるでしょうよ。


え?

ではなぜギルドマスターに成り上がれたのかですって?

ふふふ、私は実は前衛出身なのですよ、

◯◯年前冒険者になった時の最初の職業はシーフ!!

高い器用さ、敏捷性、索敵能力を誇り、

尚且つヒューマンより破格の魔法を使う!

もちろん最初は失敗とか挫折も多く経験しましたが、

何とかランクアップを重ねて信頼と実績を高めて参りました。

そして・・・私は上級レベルになった時にシーフから支援系の職業にクラスチェンジしたのです!

その選択が、今のこの地位に繋がっていたのでしょうね、

回復魔法こそ使えませんが、

後衛で仲間の支援、指示、戦局の判断などを繰り返していくうちに、

当時の冒険者ギルドのギルドマスターに認めて貰えました。


このハーケルンの街で冒険者ギルドの職員にならないかと。


自ら戦闘の最前線に立つ事も出来、

仲間への気遣いや、高い判断力を持つ私ならば、

多くの冒険者を守る事が出来るだろうと。


現役ではなくなっても、彼らと同じ志で街を守る事も出来るだろうと。


最初は今のアマリスのように受付に座りました。

とは言っても、ほとんどどこかで見たような冒険者と毎日顔を付き合わせて、

冷やかされたり、

冗談を言われたり、

何を語りかけていいのか分からずに、

お互いキョドッたりしながらも、かつて同じ冒険者として、私に出来ることを繰り返しました。

新人冒険者へのアドバイス、

調子に乗ってやらかしてしまったアホどもへのお小言、お説教、



性格も身の上も種族もバラバラ。

ですが、そこにいるのはかつての私です。




彼らは命を晒して冒険に生きている。

時には私の力及ばず、帰らぬ者達もいました、

簡単なミッションの筈だったのに、

ちょっとした判断ミスで命を散らしてしまったパーティーもいました。


いつものように下らない嫌みを聞かされたあの人たちは、

もうこのギルドに現れることはない、

そんな空虚な気分を食らうことも一度や二度ではありません。


そんな事を繰り返していたら、

いつの間にやらギルドマスターなんてものになってしまいました。


そこそこ私は自分の腕には自信があります。

でもそれは自分の身を守るだけで精一杯。

他の人たちを守るなんて私ごときには無理な話なんですよ。

でも泣き言だけは言えません。

今や私はこの街の冒険者ギルドマスター。


私の目に映る全ての冒険者、

少しでもいいから、彼らの力になってあげたい。

そして長い事住み慣れたこの街を守る。


それこそ私の生きがいであり、生きる意味なのです。


だからせめて、

誰か・・・私の心の声を聞いて欲しいとは言いません。

せめて少し、私の肩を寄せて貰ってもいいでしょうか?

ほんの少しで良いのです・・・。




 「ご苦労様です、アルデヒト・・・、

 あちらとの話し合いはいかがでしたか?」


努めて平静な口調で話しかけました。

しかし彼の纏う空気は平静な気がしません。

 「ギルマス、

 ・・・部屋に戻ってから話しましょう。」


あああああ!

確実に嫌な予感します!

アマリス!

受付と場所変わって? なんて絶対に言えないし!


 

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