第七百三十九話 カラドックの帰還 (ラヴィニヤ登場)
一話でまとめようかと思ってましたが結構伸びました。
カラドックの物語は次回で最後にします。
・・・そういやラヴィニヤってカラドックより年上だった・・・。
<視点 カラドック>
・・・光が
白い光に包まれていた・・・。
意識も・・・
ぼんやりしていた意識が次第にはっきりとしてくる・・・。
ここは・・・
私は・・・
目の前にあるのは仕事机とその上にある大量の書類・・・。
薄オレンジ色のデスクランプがそれらを照らしている。
油を使ったランプでも蠟燭の炎でもない。
電気の光だ。
「あの世界」に発電システムなどない・・・。
一方、「こちら」では単純な形ではあるが発電システムを復活させている。
あと、10年もあればほとんどの国土に電力を供給できる見込みだ。
私は辺りを見回す・・・。
知っている天井、
知っている壁、
知っている絨毯・・・
クローゼット、書棚、センターテーブル、
全て記憶通り・・・
そうとも、
ここは王宮の中の私の居室だ。
私の名前は?
カラドック・・・大陸最大国家、ウィグル王国の第二代国王・・・。
時刻は・・・
うん、壁掛け時計も見慣れた物・・・
夜の21時過ぎ・・・か。
そう、
そうだとも。
確か私は公務も夕食も終わり、
就寝前に急ぎの案件の書類と戦っていたんだ・・・。
さすがに書類に書かれていた案件の内容まで一々覚えてはいないが・・・
けれど・・・「戻って」きたんだな。
元の世界へ。
「ほぼ」すべてが元通り・・・。
何も変わってはいないのだろうか。
「ストーン・・・」
私は手のひらを上に向けて土の基本魔法を使ってみる。
・・・何も起きない。
起きるはずがない。
風術なら私のドルイド魔術に近しいので、
もしかしなくても発動するかもしれない。
けれどドルイド魔術だろうがなんだろうが、
物質を作り出す術などありえない。
だから今は試しに土術を使ってみただけ。
「ステータスウィンドウ・・・」
出ないよな。
当たり前だ。
夢・・・だったのかと錯覚を覚える。
目の前の光景が完全に記憶通りというわけではない。
・・・例えばだが目の前の書類に濡れた跡がある。
記憶通りならこの書類は綺麗なままの筈だ。
もちろん、濡らした人間など私以外に誰もいないだろう。
さぁ、困った。
別に濡らした跡があるからと言って、施策に影響が出るわけもないが、
この書類はずっと残されるわけだからな。
「賢王カラドックの粗相の証」などと銘打たれてみろ?
官僚たちが私の顔を見るたびに、必死に笑いを堪える様が易々と想像できてしまう。
コピー機はこの時代、まだ復活させるのは無理だしね・・・。
いや、今はそんなことよりも・・・
コンコン。
おっと、このノックは・・・
「開いてるよ、入っておいで。」
ガチャリ
「はぁーい、こんばんわぁ、カラドックぅ~。」
「・・・ああ、こんばんは、私のラヴィニヤ・・・。」
とても・・・とても長い間、君には会っていなかった気がするよ・・・。
「あれぇ、まだお仕事してたの~?」
「ああ、もうやめるさ、
今晩はもうそんな気分じゃない・・・。
ウェールズは寝た?」
急ぎの案件は明日の朝に片付けよう、
きっと私なら出来る!
・・・と思う。
「うーん!
お歌をうたってあげたらスヤスヤと~!
かわいい寝顔だよ~。」
そうだな、ウェールズの顔も長い事みていなかった。
後でウェールズのベッドに行かないと。
でも、今は・・・。
ずっと見ていたい・・・。
わが最愛の妻、ラヴィニヤ。
「・・・えっ、なにどうしたの~、カラドック~?
なんかいつもと雰囲気ちがうよ~?」
ラヴィニヤはよくこんな間の抜けたしゃべり方をするけど、別に頭の回転が鈍いわけではない。
単に箱入り娘として育てられてきたので、人の悪口や批判、悪意に鈍感なだけ。
人はそれを天然と呼ぶかもしれないけど。
「・・・ちょっとね、長い夢を見ていたんだ・・・。」
その夢の話を彼女にしようと思っていたんだけど、
目ざとい彼女は余計なものまで発見してしまう。
「あっ、居眠りしてたんだ~、
だから大事な書類にシミ作っちゃったんだねぇ~、
・・・あれ?
それと・・・あ、なんでもなーい、
お口の周り、拭いてあげるね~?」
ラヴィニヤは私の机の上に視線を走らせる。
書類のシミ以外にも、何か見慣れぬものでもあったのかな?
ただこの書類のシミについてはヨダレじゃないぞ・・・。
もっとも、私が言い訳する必要など何もなかった。
何故なら、
すぐにラヴィニヤは、私の様子がいつもと違うことに気づいてくれたのだから。
「・・・カラドック~、
おめめが厚ぼったいよ~?
もしかして・・・悲しい夢を見ちゃったあ~?」
そう思われてしまうのも仕方ないかな・・・。
まあ、それはどうでもいいや。
今は、
私の口から頬へと、ハンカチで拭おうとしていたラヴィニヤの腰に腕を回し、半ば強引に私の膝の上に座らせる。
「きゃあっ?
もう、カラドック~、ごーいーん~・・・。」
「ごめんね、ラヴィニヤ・・・
それより私が見た夢を聞いてくれるかい?
決して悲しいお話じゃないんだ・・・。」
「あっ、そうなんだぁ、聞かせて~、
どんなお話ぃ~?」
さて、何から話そうか?
「私はね、
夢の中でこことは違う世界を旅していたんだ・・・。
その世界ではね、なんと魔法が使えるんだよ!」
「へぇ〜、すごーい!
あれ? でもカラドックは元々魔法つかえるじゃなーい?」
あっ、そういやそうだ。
「そっ、そうなんだけどさ、
魔法を使える人間がいっぱいいるんだよ!
そ、それよりもっとすごいことは・・・」
「うん、もっとすごいことはぁ~?」
頭の中に浮かび上がる一つの情景・・・
何もない草原を駆けて行く二人の姿・・・
「その世界には・・・
死んだはずの・・・ケ、恵介と・・・リナちゃんが生きていたんだ・・・。」
途端にラヴィニヤの目が見開く。
それはそうだろう。
二人が死んだって知らせを受けた時は、ラヴィニヤだって一晩中泣き続けていたのだから。
「・・・えっ・・・
そ う なんだぁ~・・・。」
でも今は夢の中の話だからね。
さすがのラヴィニヤもなんと反応していいかわからないだろう・・・。
「続きを話すね・・・
そこは変わった世界でね・・・
おかしなことに恵介は狼獣人、
リナちゃんは兎獣人になってたんだよ。
二人の仲は相変わらずで、恵介はリナちゃんに振り回されっぱなしで、
恵介はどういうわけか、私の母上の甥ってことになってたんだ。」
「おおかみさんにうさぎさん〜?
なにそれ、おかしい〜、
うん、でも・・・
・・・二人とも・・・元気だった、の?」
「・・・あ、ああ、とても・・・とても元気だったよ・・・。
笑って・・・怒って、ケンカして・・・
惠介がすぐ謝って・・・」
また・・・また目頭が熱くなってきた・・・。
もう泣くことなどないかと思っていたのに。
ケイジたちの・・・
彼らの思い出がはっきりと・・・
「・・・へえ〜、あの二人はどこにいっても賑やかなんだねぇ〜、
あ、あと惠介くんが、カラドックのお母さんの甥っ子っていうのはなんとなくわかる~、
恵介くんとカラドックのお母さんて、どこか似てるもんねぇ~?」
え?
そうか?
ラヴィニヤからそんなこと聞くの、初耳・・・
ていうか、私と恵介の顔が似てるって話なら、時々誰かから指摘された覚えはある。
片親が同じなのだからそんな不思議な話ではない。
そして私と母上・・・
向こうの世界でも思ったが、マルゴット女王の血縁者たちが私の風貌と似ているとしても、おかしなことはなにもないだろう。
けれど恵介と母上には遺伝子上、なんの接点も・・・
いや、待てよ?
そうであるならば・・・
なぜ私は向こうの世界で、
恵介そっくりのモードレルト君を・・・
コンラッドやベディベール君たちと似ていると思ったのか・・・
いいや、そんな事は今ここで考えることじゃないよね!