第七百三十七話 大円団
<視点 キャスリオン>
賑やかなことですね。
今日も私たちのギルドは依頼を探しに来た冒険者で活気に満ちています。
それはいいのですが、
木張りの床もそろそろ傷みが出てきてますかね、
修繕の手配も必要かもしれません。
「はい〜?
コカトリスの討伐ですかあ?
いや、これ、確かにあなた達のランクで受注可能ですけど、見たところまだメンバーの一人が戦線復帰してないんですよねえ?
それでコカトリス討伐は難しいでしょう、
少なくともメンバー全員復帰するのを確認するまではこの依頼の受注を許可することはできませーん!」
「そ、そんなアマリスさん!
前はそんな厳しいこと言わなかったろ!?」
「・・・あのスタンピード以降、状況が変わってるんです、命は大事に、ねっ?」
「う、そ、そうか、わかったよ、
他の依頼、探してみる・・・。」
「それがいいですよ、
無理に強敵と戦うより、セオリー通りに無理なく魔物を倒す方が武器の扱いも向上するわけですし。」
あれからアマリスの勤務態度が劇的に改善しました。
もともと能力はあったのです。
動機としてはリィナ様の不興を買いたくないという、あまり感心できるものではありませんが、それこそ私もそこまで望みはしません。
現実としてアマリスは、
これ以上ないほど良い働きを見せています。
これなら次回のボーナスはかなり色を付けても良いと思えるほどに。
「いやあ、アマリリス本部の方から、そのままリィナ様の懐に潜り込めーなんて、指示も出ちゃうくらいなので、あたし的にも良かったかなあなんて?」
あの後、数日経ってからそんな話がアマリスから出て来ました。
手紙以外にも、緊急時とかは念話で遠距離のやり取りもできるとか。
・・・冷静に考えると本当恐ろしい人たちと相手するところだったのですね。
さて、話をこの場に戻しましょうか。
リィナ様とケイジ様はもう、この街の全てのダンジョンの調査が終わり、
いよいよこの街を発つこととなりました。
なのでアマリリス本部とやらの意向が叶うことはないのですが、
とりあえずみんないい方向に落ち着くことが出来たと思っていいんですかね。
「あー、本日は魔物解体の実習を行う。
参加予定者は裏庭に集まってくれ!
担当はギルド専属解体士ブッチャーだ。」
ああ、そうそう、
最近、戦闘が苦手な冒険者を集めたりして、
講習会などを開いています。
アガサに偉そうなことを言った手前、私も見本を見せないとなりませんからね。
なお、今の仕切りなどはアルデヒトに任せています。
彼にはあの後、二人で話し合いました。
落ち込んでいましたよ、彼は。
まあ、気持ちが分かるとまでは言いませんが、彼がアマリスにいいように扱われた状況は理解できますし。
基本的にアルデヒトに与えたのは飴と鞭。
初心に返ってみなさいと、
余計なことを考える暇もなく働きなさいと。
とりあえず雑用中心に目一杯仕事を振っておきました。
暇があると悪い方向悪い方向に考えてしまうものですしね。
あ、飴の部分ですか?
ええ、それはもう、
これっ、以上っ、ないっ、てなくらいに、
彼の懐に飛び込みましたよ。
・・・勘違いしないでくださいね。
色仕掛けなんかしてませんからね。
それはもう、純粋に、
「アルデヒト、あなたが居なくなったら私はこのギルドを引っ張ることすら出来ないのです。
どうか・・・これからも私を支えてくれないでしょうか・・・。」
と、訴えたのです。
「ギ、ギルマス・・・キャスリオン様っ、
お、オレはっ・・・オレなんかにっ!!」
ほんっ! ・・・っとうに、チョロかったんですね、アルデヒト・・・。
他の女とか寄ってきた時は注意しないとなりません。
いや、でも、まあ、
私も彼に頼らないとやってけないって思っているのは本心ですからね。
まあ、しばらくは縁の下で活躍してくださいな。
バァン!!
おや、入り口の扉が開いてまたうるさいのが。
一緒に冷たい風も入ってきました。
でもまあ、最近はそこまで寒さは感じませんね。
そろそろ春が近いのかも。
「オレ達がいない間にAランクになったとかいうパーティーはどこにいるうううう!!」
あれはこの街に以前からいたAランク冒険者パーティー「ブラッドバレット」、
強いんですけど、その名の通り血の気が多いんですよね。
スタンピードで大怪我して休養してたのですが、ようやく復帰するようですね。
「ああ?
なんだ、テメーら?
オレ達にケンカでも売ろうっての?」
「ははあ、誰かと思ったらベルにケガの治療してもらってたヤツじゃないの、
犬でも受けた恩は忘れないってのにさあ?」
「・・・え、あ、お前ら、あんときのっ!?」
えーと、ガラダス様かエスター様なら上手くあしらえると思ったのですが、
レックス様とファリア様が対応するのですか?
それ、火に油注ぎません?
あ、でもベルリンダ様がいらっしゃれば諍いにならずに済みますかね?
「・・・ふ、ふぇえええええんっ!!」
え?
な、なんでベルリンダ様、こんなところで大声で泣き出してるのですかっ!?
「わた、私たちのパーティーがあっ
み、みんながあ、500年前も一緒に旅してたなんてええええええっ、うええええええんっ!!」
あ、それ、こないだお聞きした話でしたっけ、
最初のダンジョン調査から帰ってきた時に聞いたんですよね。
にわかには信じられないお話でしたけども・・・。
「やっぱりガラダス、このタイミングで言わなくても・・・。」
「いや、僕もそう思ったんだけどさ、エスター、
ケイジ殿達がいるうちに明かしとくしかないかなと思って・・・。」
「いやじゃあ! いやじゃあっ!!
ラウネはずっとこの子達とこの街で過ごすのじゃあっ!!」
あの妖精の子もすっかり馴染んじゃいましたね。
リィナ様とケイジ様で半ば強引に「銀の閃光」の皆さんから引き離されて・・・。
「ラウネ、君のことは忘れないよ・・・
もし、またこの街に来ることがあったら、また一緒にあそぼうな・・・。」
「うう、みんなぁ・・・っ」
側から見るとすごい微笑ましい光景なんですけどね。
ストライドさん達、みんな色んな意味で無事なんですか、あれ?
「・・・全くこのギルドはいつ来ても騒がしいものよ。」
おや、いらっしゃったんですか、
「伝説の担い手」のイブリン様。
そろそろあなたも一線から退くのもお考えになられた方がいいかもしれませんよ。
新人育成なんかやりがいのあるお仕事なんですがねえ。
「それじゃああたし達は解放されたダンジョンに向かうよ、
バレッサが新しい呪文身に付けたからな、
連携の検証もかねて行ってくるさ、
ケイジ、リィナ、アンタらには世話になったな。」
「ああ、たいしたことはしてないがな、
次来たらもっと強くなってることを見せてくれ。」
「・・・はっ、その言葉、忘れんじゃないよ。
ほら、みんな行くぞ!!」
「あーっ、待ってください、テラシアさんっ!
まだリィナさんたちにお別れしきれてないのにいいっ!」
ケイジ様やアガサの刺激を受けて、「苛烈なる戦乙女」の方々も一皮剥けたようです。
これからの成長も期待してますよ。
そして
「見違えましたねぇ、アマリスのヤツ・・・
さすがっすよねぇ、キャスリオン様、
なんだかんだ言ってても、しまいには部下指導も上手く行ったみたいで。」
「・・・いえ、ストライドさん、私は何もしていませんよ、
本当に皆さんに助けてもらってここまでやって来ているのです。」
当たり前ですが、ストライドさんにはアマリスが妖魔だということや、あの日の晩に何が起きたかは伝えてません。
なのでストライドさんは、私がアマリスと個人面談でもしたのかと思い込んでいるのかもしれません。
・・・アルデヒトの方を見てザマみろ的な視線を送っていたので、二人が破局したのは見抜いたようですけどね。
「まあ、落ち着いたようでなによりっす。
でも、またそういう洒落にならないような事態抜きで、一緒に飲みに行きましょうね、キャスリオン様っ!」
ああああああああああああああああ、
いい感じでまとまるかと思っていたのにいいいいいい。
「・・・あんなことはもうありませんからねっ!」
そ、そんな悲しそうな目で見ないでくださいよっ、ストライドさん!!
流されませんっ、
もう流されませんよ、私はっ!!
ギルドマスターはそんなチョロい存在ではないのです!!
「・・・それじゃあ、そろそろオレ達はお暇するよ、いろいろ世話になったな。」
ケイジ様、リィナ様・・・
あなた達がいなければ、どうなっていたか・・・
「お世話になったのはこちらです。
・・・お二人がこの私に、このギルドにしていただいたこと、感謝のしようがありません。
いつでも結構です。
機会があれば是非またこちらに顔をお見せになってください・・・。」
「いやあ、ホントにそんな大したことしてないよ、
あたし達にしてもアガサの為ってのが大きいし!」
リィナ様は首と手を高速可動させて否定します。
・・・凄いですね。
目で追うのがやっとの動きです。
「アガサとは・・・」
「・・・別れは先ほど済ませてきた。
アガサも心配要らないだろう・・・、
見てくれ、あの堂に入った振る舞いを。」
受付カウンターでは、アマリスと並んでアガサも的確に冒険者の依頼に対応しています。
普段、アガサは無表情が多いのですが、
感情がないわけではありません。
みんなと休憩中に世間話をする時は普通に笑うし、どちらかというと、単に大人の印象を演じているだけなのでしょう。
今も冒険者の前で、たおやかな笑みを浮かべています。
あっという間に受付嬢の仕事もマスターしちゃってますよね。
私もう、本当にお飾りのギルドマスターでいいんじゃないでしょうか。
あ、アガサが私たちの視線に気付いたようですね。
あらあら?
あんな子供みたいなニカッとした満面の笑み、初めて見ましたよ?
ケイジ様達も誇らしげな表情を浮かべて・・・
「アガサ、そこがお前の在るべき場所だ。」
はいはい、
私はその場所を守れば良いのですね。
なら、・・・もうちょっと頑張りますか。
これにて、ケイジ、リィナ、アガサの出番は終了です。
下書き全然進まず昨夜と今朝で書き終えたけど、
この終わり方で良かったのか・・・。
もしかしたら加筆修正するかも。
さて、次は・・・
明日、明後日有給なんだけど次の話書けるかな・・・。