第七百三十五話 勝敗決す
ああ、またこれで下書きが尽きた。
<視点 キャスリオン>
「そ、そ、そんな・・・
異世界からやって来て邪龍を倒した子が・・・
あたしの同族・・・?」
とんでもない情報が出てきました。
アマリスが妖魔だったこともさることながら、
邪龍を倒したパーティーの中に異世界の妖魔がいらっしゃったとのこと。
・・・ただ、
それを言い始めたら、魔族とか・・・
さらに言うと、動く殺戮人形のメリーさんを知ってる身としては、それくらいで驚いてどうするとツッコミを入れてくる自分自身もいます。
まあ、私はここでしばらくお話を聞くだけにしておきましょうか。
それではケイジ様、続きをお願いします。
「ああ、ギルド職員なら異世界からの転移者、召喚士にして巫女職を持っている麻衣さんのことは情報として知ってるだろ?
あの子は向こうの世界で『リーリト』って呼ばれる種族だと聞いている。」
「リー、リーリト?
リリト、リリス・・・アマリリス・・・
まさか、本当に・・・。」
ケイジ様に続いてリィナ様からも追加説明が。
「もちろん肌の色や顔つきみたいなところは違うけどね、
妖魔化した時の瞳の色や鱗状の皮膚とかは一緒みたい。
完全に同じ一族かどうかまでははっきり言えないけど、少なくともどちらかの亜種と呼ぶ分には差し支えないんじゃないかな?」
伊藤様という方の種族については私も存じませんでした。
てっきり異世界から来たヒューマンだと思っていたんですけどね。
邪龍にトドメを刺したメリーさんを召喚して強化したという伊藤麻衣様・・・
その方に私は会った事はありません。
ですが、超特大緊急発行ワールドワイドエクスプローラーニュースにて、多くの特集が組まれていたので詳細は知っていたつもりだったのです。
そりゃね、
邪龍の出現自体、世界に大きな影響を及ぼす一大事件でしたし、
それをあっという間に片付けてしまったケイジ様達パーティーの特集組むのは当たり前の話。
ただ、
やはりそこにも冒険者のプロフィールをどこまで明らかにして良いのか、特定の線引きはなされるべきでしょう。
その辺りはニュースの編集者も弁えているようで、グリフィス公国の広報セクション、及び冒険者ギルドのグランドマスターと密に連携して話を公開したそうです。
結果として記されたのが、
伊藤麻衣様が契約して呼び出した魔物一覧。
妖魔ラミア、魔獣化した大蛇、聖獣化したフクロウ、
そして、異世界からやって来た殺戮人形メリーさん・・・。
これらを戦闘時に召喚するという脅威のスキル。
これだけでもすんごいですものね。
ただでさえ召喚士なんてレアなジョブなのに、
普通の召喚士なんてそこまで強力な魔物呼べませんよ?
そして巫女職として記された更なる能力。
魔物に自分たちが狙われた瞬間に感知能力が反応して、パーティーの危機を事前に知る事が出来、それによって敵に先制攻撃を絶対に許さなかったというのです。
そしてそれらがケイジ様たちを最強のパーティーたらしめていたという記事だったと覚えてますが・・・
凄まじいですよね・・・、
しかも特集記事によれば、それだけでなく、
何でも伊藤様ご本人にしか使えないユニークジョブ「虚術士」というものもお持ちだとか。
まあ、これについては次回の記事に回されてしまい、私も楽しみに・・・
あ、じゃなくて、
何を長々と関係ないことを書きまくってしまったんでしょうね。
話を戻しますと、
そのワールドワイドエクスプローラーニュースですら、伊藤麻衣さまの種族については触れられていませんでした。
ケイジ様のお話ではマルゴット女王もご存じらしいのですが、
その件については世間に広める理由もないでしょう。
ただこのお話。
その伊藤麻衣様が、アマリスとどうやら同じか、近い種族らしいこと。
それによってケイジ様達がアマリスに親近感を覚えてしまった、
という話まではよく分かります。
ええ、わかりますとも。
とはいえ、
それはあくまでケイジ様達側のお話であって、
アマリス本人には関係ない話です。
しかもこれはケイジ様達自身でも話していた事ですが、
伊藤麻衣様達の種族は、
「自由」を重んじる種族らしく、奴隷だとか、どこかの国や組織に忠誠を誓うことなどあり得ないそうなのですから。
では何故こんな簡単に話が収まったのかというと。
「ふっ、ふざけないでっ!
そ、その伊藤麻衣って子があたしと同族だとしてもっ!!
あたし個人には何の関係もないじゃないっ!
貴方達に友達の友達扱いされるいわれなんか全然ないわっ!!」
「ああ、オレらもそう聞いている。
キミらの種族は何者にも縛られない、捉われない、なんだろ?」
あ、因みにアマリスはリィナ様とアガサによって、半ば強引に下着を付けさせられてしまいました。
最初は思いっきり反抗しようとしてたみたいですけど、
アマリスったら、
リィナ様の目を至近距離で直視したら、反抗する気を一切失ってしまったようなのです。
私の角度からはリィナ様のお顔は見えなかったんですけど、
・・・アマリスはあの瞬間何を見たのでしょう。
しばらくアマリスのカラダから、震えが収まらなかったような気もしたのですが。
そして、アマリスの態度が確実に変わったと言えるのは。
「なら、アマリスさん、
深淵・・・アビスという名前の存在については?」
「・・・え・・・」
この時、ケイジ様は何を言ったのか、
私には全く理解すら出来ませんでした。
深淵?
アビス?
アマリスとて理解出来ないのは同じでしょうに・・・
と思いかけたのですが、
彼女の反応は私と同じではなかったのです。
「ど、ど、ど、どうしてケイジ様が、そ、そ、その禁忌の名前をっ!?」
どうやらアマリスはその言葉の意味を知っていたようですね。
一方、ケイジ様やリィナ様は、もう予定通り予想通りと言わんばかりにうんうん頷きながら、
「麻衣さんとアマリスさんが同じ種族だというのなら、キミたちアマリリスって種族も、その深淵の眷属って話でいいのかな?」
え、
ちょっと待ってください。
もしかしてその話って、たかが一地方のしがないギルドマスターに過ぎない私が、こんな所で聞いていい話なんですか?
「そ、そりゃ、この世界やあたし達を作り上げた方に逆らうつもりなんか・・・
ていうか、その伊藤麻衣って子、そんな絶対秘密の禁忌中の極秘事項をそんなペラペラと・・・」
は?
世界を作り上げた?
な、何のお話なのですかっ?
「ああ、それについては彼女を責めないでやってくれ。
あの子も普通の一般人として生きて来たのに、いきなりこんな世界に問答無用で飛ばされてきて大変だったそうだし・・・
ていうか、その深淵をこないだ目覚めさせたのがその麻衣さんな?」
「はいいいいいいいっ!?
アビス様復活のお役目果たしたのが異世界のあたし達の同族うううううっ!?
そ、それって、もしかしてあたし達、役立たず?
原初の妖魔の面目丸潰れっ・・・!?」
あ、なんかちょっとだけ話が見えました。
その伊藤麻衣様がアマリス達の活躍の場を奪い取った形になるんですね。
・・・ざまぁ。
あ、いえ、なんでもございませんです。
そして、ケイジ様のお話にはまだ続きがあると。
「多分だが、あの子は個人的にその深淵とやらに気に入られていたのかもしれないな。
おっと、
それよりアマリスさんにはもっと重要な話を聞いてほしいな。」
「も、もっと重要な、は、話?」
こ、これ以上、さらに重要な話ですかっ?
「ああ、そうだ、
それは今キミにスカートを履かせようとしているリィナのことなんだがな。」
ギルドの制服のスカートを履くためには、
少なくとも片足を上げないとならないので、
アマリスは片腕をリィナ様に掴まるような態勢になってます。
そしてリィナ様の名前が出たせいで、
アマリスはまたリィナ様のお顔を至近距離で見て・・・
あれは
あのアマリスの表情は・・・驚愕、
いえ、恐怖!?
「ま、まさか、さっきから感じてるリ、リィナ様の魂に・・・闇の・・・匂いって
まさかアビス様のっ!?」
「やっぱり分かるのか、凄いな。
まあ、オレたちもハッキリしたことは言えないんだが、
そのリィナは深淵の関係者らしい。
さっきの麻衣さんの話では、こことは違う世界において、リィナは深淵の孫娘という可能性もある。」
えっ
ですから何の話を?
しかしその最後の一言こそが、
アマリスへの決定打となったようでございます。
「ひ、ひぎぃっ!?
リィナさ、様がっ!
あ、あのお方の、まっ、まーごーむーすーめーっ!?」
次回は説明回になります。
まあ、今回の事件の顛末を。