第七百七十三話 アマリスの正体
あ、ポイントが上がってる!
ぶっくま×2、かしら、それとも評価かしら?
どうもありがとんです!!
<視点 キャスリオン>
そうなのです。
私たちギルド職員は冒険者ギルドカードで冒険者の方々のプロフィールを知る事はできますが、
彼らの持つスキルまでは分からないのです。
もちろん冒険者の皆さんの中には獲得したスキルを吹聴する人もいますし、
職員と、変な意味でなく仲良くなれば、そんなプライベートな情報を得てしまうこともあります。
ただ、リィナ様のこのスキルは冒険者ギルドの間では広まっていなかった。
だからアマリスも警戒しようがなかったというわけなのです。
あ、ていうか、そもそもリィナ様の聴力は「スキル」ですらないんでしたっけ?
では次のアクションに移りましょう。
つまり私の番ですよ。
「というわけで、アマリス、
あなたが何か別の目的で、アルデヒトを堕としにいったという事はもう分かっています。
なので、私が聞きたいのは、そのあなたの目的はなんだったのかと・・・
お願いですから私に教えてくれませんか?
体まで使って・・・アルデヒトの信頼を得るために長い時間ギルドで働いて・・・
そこまでしてあなたはなにをしたかったのです?」
どうやらこの展開はアマリスにとって良くない流れのようですね。
見るからに不機嫌そうに部屋の片隅に視線を投げてしまいました。
けれどそれを許す私ではないのです。
「アマリス、あなたの履歴書を読み直させてもらいました。
ご出身はトライバル王国の辺境の小さな村とか・・・。
そんなところなら戸籍も簡単に操作できるのですかね?」
おやおや?
その途端、私を睨むようにこちらを振り返りましたね?
「なんの話かわかりません!
私の生まれは貧乏な小さな村!!
人様に自慢できるようなものはなにもないってだけです!」
この話も反応いいようですね。
では更にケイジ様からいただいた情報を。
「そんなあなたと『帝国』になんの接点があるのですか?
ああ、とぼけるのは時間の無駄ですよ。
あなたが郵便を投函する時、ケイジ様があなたを目撃されています。
宛先はエマリスさんでしたか?」
てことで私の後ろにケイジ様登場。
アマリスは更に悔しそうな表情になりましたね。
「あんな距離で見られていたなんて・・・!」
「悪いな、別に盗み見しようなんて気はなかったんだがな、
一回見ちまうと気になってな。」
本来、帝国とトライバル王国は大国同士、犬猿の仲。
グリフィス公国と帝国の一地方が争っているのも、その代理戦争のようなものなのです。
近隣同士に住むものが親戚を頼って国境を越える事はあっても、
全く縁のないものがトライバル王国から帝国とで手紙をやり取りすることなど、普通は考えられませんしね。
「・・・・・・。」
アマリスったら口を噤んでしまいましたね。
いいえ、
いま、必死にこの局面をどうしようか考えているのでしょう。
でも無駄ですよ。
こちらは最強の布陣でこの場に臨んでいるのです。
たかが冒険者ギルドの受付嬢にすぎないあなたが
「アルデヒトさん、危ないっ!!」
「え、お、ヒウッ!?」
あっ!?
いったいなにが!?
リィナ様の大声の直後、
アマリスが身を翻したかと思ったら・・・
いきなりアルデヒトが飛び退いて首筋を抑え・・・
「あ、アマリス、キミは・・・っ」
どうやら喉元を切り裂かれましたか。
ですが普通に声が出るという事は呼吸器にまで傷は届いていないのでしょうか。
出血もそれ程酷くはなさそうかしら?
ならとりあえず一安心。
一方、落胆の色を隠そうともしないアマリス。
「ああ〜、届かなかったかあ、
でもリィナ様、心音の変化で人の状況わかるってホントみたいですねえ、
正直、参っちゃいました、
まさか、こんなところで躓くなんてね。
さすが勇者の称号は伊達じゃないんですねえ。」
なるほど、
恐らくリィナ様は、アマリスの攻撃に移る寸前の心音の変化を先に読み取ったというわけですね。
後で聞きましたけど、リィナ様もそこまで分かるようになったのはつい最近のことだとか。
なんでも異世界の巫女、麻衣様という方が、
魔力感知や危険察知能力を使っているのを見て、自分にも似たような事が出来るのではないかと思ったそうです。
そうして、意図的に他人の心音などを聴き比べるうちに、そこまで判別できるようになられたとか。
凄いお話ですよね。
私などとは次元が違います。
さて。
どうやらアマリスは口論でこの場を凌ぐのではなく、
実力行使でこの場を脱しようということなのですかね。
・・・ならば、
こちらもそのつもりでいないといけないのですね・・・
下手をすると・・・
これまで一緒に働いていた部下を、
この手で。
「キャスリオン様ぁ。」
アマリスの視線は私に向いています。
ここまで事態が進んでいるのに、今更私に何か用があるのでしょうか。
「なんでしょう、アマリスさん。」
油断は一切しませんが、
問われたからには返事をするべきでしょうね。
「あたしぃ、
ここの、暮らしや仕事も気に入ってたんですよぉ?
アルデヒトさんも確かに惚れてはいませんでしたけど、普通にいい人だと思ってたし、冒険者のみんなもおバカなお調子者ばっかりでなんで、正直好感持ってたんですぅ。
はああ、そんな暮らしもここで終わりかあ。」
アマリス・・・
だったら・・・どうして
「・・・これだけの面子を前にして、
逃げおおせる自信がお有りなのですか?
この場にもはや、油断してる人間など一人もいませんよ?」
そう、先程アルデヒトがアマリスの攻撃を喰らったのも、彼が油断していたから。
・・・武器は鋭利な爪・・・でしょうか?
そんなもの、よほど気を抜いて隙を晒していないと、相手に大したダメージなどは・・・
「ですよねえ?
正直ここで詰んじゃったのかもしれません。
でも・・・試してみないと分かりませんよねえ?
あ、廊下の先にアガサも控えてます?
でもあの人の魔力だと強力すぎてみんな巻き込んじゃいますよね?
なら、まだあたしが逃げれる目くらいあると思うんですよねえ。」
その言葉の割に余裕がありますね・・・。
彼女の自信はどこから来るのでしょう。
私はまだ何か見逃してないでしょうか。
ここにはSランクの冒険者が三人もいるのに。
ケイジ様、リィナ様、アガサ、それぞれ得意な攻撃手段は別々。
それら全てを凌ぐ手などあるとも思えません。
それともアルデヒトを人質にでも?
確かにそれは私にとって効果的です。
ただ、手負いとはいえアルデヒト本人がそれを受け入れるとでも?
あ
アマリスが自分のカラダを覆っていたシーツを手放し、ベットの上にゆっくりと立ち上がります。
ハラリ
薄暗い照明の中にアマリスの魅惑的なカラダが浮かび上がります。
一糸纏わぬ姿で。
ケイジ様が一瞬狼狽えたかもしれませんが、
リィナ様がここにいる以上、色仕掛けとて通じないと思いますよ。
・・・はあ、やっぱり若い子の姿は肌の張りが違いますよね。
おっと、そんな感想抱いてる場合じゃありません。
いったいアマリスの次の目論見は?
「ああ、誤解しないでくださいねぇー、
別にケイジ様を誘惑しようってんじゃないですよー。
ただこれ以上、『受付嬢アマリス』じゃ、どうしようもないので、あたしも奥の手使おうかってだけですよおー?」
やはり持ってましたか、奥の手を。
けれど見た感じ・・・
ご丁寧にも素っ裸になってくれたおかげで分かりますが、なにか魔道具のようなものを付けてる様子もありません。
それにしてもおかしなことを口走りましたよ?
「受付嬢アマリス」なら?
その言葉の言い回しの意味は!?
「あはっ、そりゃそうですよー、
いつも受付で大人しく座ってるだけのあたしに、邪龍を倒すような冒険者をどうこうできるわけないじゃないですかあ?」
そうですよね。
当たり前ですよね。
ならいったいアマリスは・・・
「だからあ、
ここは『本当のあたし』を曝け出すしかなくなるんですよお。
あああ、皆さんと楽しく過ごした日々は忘れませんからねぇ?
それでは皆さんご機嫌よう、
そして初めましてえ!
本当のあたしを紹介いたしますねえ!?
『人化』・・・解除!!」
なんですって
解除・・・
何を
人化!?
アマリス・・・あなた、ま さ か
これまでそんな伏線あったかって?
これが伏線と言えるかなあ。
↓
アマリスの手紙のお届け先
「エマリス」さんという名前。
あと、強いて言うならば、
アマリスさんの・・・あ、これはこの後に。
あと、それと、
グリフィス公国が争っているのは、
公国と隣接する帝国の中の一つの小さな国です。
中央の覇権的な勢力が次々と周りの国を取り込んだのが帝国の現状です。
なので、グリフィス公国と帝国が全面戦争になってるわけではありません。