第七百三十二話 断罪の時
<視点 キャスリオン>
今回は扉に鍵が掛かってますね。
まあ、それが当たり前の話なんですけど。
そう、
前回は・・・私があの場面に出会した時、
仮眠所には、鍵も掛かっていなかったし、使用中の札も下げられていなかった。
だから私は誰も使ってないと思った部屋の扉を開けてしまい、
あの恥ずべき情交を目の当たりにしてしまったのです。
恐らくあの女はそうなるように仕向けていたのでしょう。
全て計算ずくで。
今日の私は日勤。
夜はギルドにいないことになってます。
アルデヒトは残業していくと聞いていました。
まあ、彼の自宅は寮の方にありますからね。
多少ワーカホリック気味なのはいつもの事。
私も彼にその点では甘え切っています。
そして今晩、当のアマリスは夜勤。
仮眠所を使っているのは彼女です。
まあ、こちらの後ろにはリィナ様が控えていただいてますのでね、
中で何をしてるかはそのお耳でまるっとお見通しなわけです。
前回、私はあまりの出来事に、
言葉も発することも忘れ、扉を閉めて何も見なかった体で立ち去りましたが、
もはや覚悟は決めています。
このギルドから誰かがいなくなる。
その誰かの中には私を含む可能性も有りますが。
その覚悟を持ってここに来たのです。
とはいえ、今現在、
私がギルドマスターのままである事もまた確か。
当然全ての部屋を開けるマスターキーくらい持っています。
ガチャリ
ギイィと扉がきしんで。
その音はシーツの中にいた二人にも聞こえたのでしょう。
アルデヒトは顔を上げてまたあの情けない表情を。
一方、今回アマリスはとても冷めた表情ですね。
まるで「今いいところなのに邪魔しないでよ、おばさん」とでも言いたそうな顔です。
「キャ、キャスリオン様っ、これはっ」
アルデヒト、
あなたは二度もこんな事を私に見られて、まだ何か私に弁解するつもりがあるのですか?
おや、それより先に、
アマリスが私に言いたい事があるようですね。
「あのー、キャスリオン様あ、
あたし、今晩夜勤で今は仮眠時間なんですけどお。
勤務から離れた時間に、あたしが何しようと自由ですよねえ?
なのに、どうしてあたしの自由時間に合鍵使って鍵の掛かってる部屋を開けるんですう?」
「ア、アマリスっ!?」
なるほど、
もはや、私に対する叛意を隠そうともしませんね。
彼女も、
私がそれなりの覚悟を持ってやってきた事を理解しているのでしょうか。
そしてアルデヒトはこの展開についていくことも出来ないと。
「ええ、アマリス、あなたの仮眠や休憩時間を奪おうなんて思ってませんよ?
けれどこの仮眠所には使用規定がありましたよね?
それに違反していると自覚はしているのですか?」
「ああ、そうでしたねえー、
ごめんなさあい、
それは謝りますねえ、
でも一つ言い訳させてもらっていいですかあ?」
あら?
何を言うのでしょうか。
「どうぞ?」
「少なくとも今晩のことに関して、
あたしはむしろ被害者なんですけどお。
あたしはこの後の仕事もあるから、今晩は良くないって言ったんですよお?
でもアルデヒトさんが強引に入ってきてえ、
あたしはそれに逆らえなかったんですう。」
「なっ、アマリスっ、それはっ!」
「あれえ? そうですよねえ?
あたし嘘ついてませんよお、アルデヒトさーん?」
「くっ、そ、それはうむ・・・っ」
うわあ、どこまで計算ずくなんですかね、この子。
アルデヒト、
あなた、完全に手玉に取られてるじゃないですか。
もうこれはリィナ様の言う通りでしょうね。
アマリスはアルデヒトに恋愛感情なんかまるで持ち合わせていない。
全く別の目的を持ってこんな状況を作り出しているのでしょう。
「お話はわかりました。
ですが違反は違反。
二人ともそれなりの処分を覚悟しておいてください。」
「わ、わかりました・・・。」
アルデヒトの方はしばらくほっときましょうか。
今回、彼のポンコツぶりを露呈してしまいましたが、彼の場合は立ち直るのも早いと思います。
後で何らかのフォローは考えておきましょう。
問題は。
「えええ?
でもあたし、別に交代時間守ってますよお?
仮眠所の使用規定に反しただけで、何の処分が出来るんですかあ?
せいぜい厳重注意だけですよねえ?
しかもこんな醜聞、まさかギルドのみんなに公表できるような内容ですかあ?
あたしは別に困りませんけど、アルデヒト様なんか大変なことになっちゃうんじゃないですかねえ?」
アルデヒトが信じられないものを見るような目でアマリスを見下ろしています。
ていうか、あなた方、いい加減服を着たら?
いつまでシーツで体を隠しているだけなのですか?
まあ、こんな問答続けても埒があきませんね。
「アマリス?」
「はぁい、なんですかあ?」
「あなたの目的は?
別に本気でアルデヒトに惚れてるわけではないのでしょう?」
「ええー? そこを疑われるの心外ですー、
アルデヒトさん、カッコいいじゃないですかあー、
前から憧れていたんですよおー?」
そこでアマリスはアルデヒトの腕に指を乗せ、
自分のカラダをぴったりとアルデヒトに寄せ付けます。
アルデヒト、あなたはどうしてそれくらいの事で鼻の下を伸ばしてしまうのです・・・。
「あっ、あの、キャスリオン様っ!!」
「アルデヒト、何か?」
あなたの事は後回しにしたいんですけどねえ。
「言い訳は一切いたしませんっ!
どんな処分もオレは受け入れます!!
今後、ギルド内で公私のけじめを破るようなことは致しませんっ!
ですので・・・」
「ですので・・・なんですか?」
「アマリスの処分を寛大なものにしてやってください・・・
彼女は最近目に見えて活躍しています!
だからオレはアマリスのことを見直して・・・
そ、それと、今も言ったようにギルド内では絶対に控えます!
ですから、オレ達は今後も・・・」
はあああああ
あー、ため息が・・・
何言い出したかと思えば。
アルデヒト、あなた、
あなたの隣でアマリスが、
「このおっさん、なに勘違いしてんの、ウケるんだけど」みたいな目をしてるのに気付いてないですよね?
「アルデヒト」
「は、はい!」
「あなた、遊ばれてますよ。」
もう、バッサリ切っちゃいましょう。
メリーさんでも見習って。
「な、な、なにを!?
いくらキャスリオン様でもそんは話を受け入れるわけには参りませんっ!
そっそうだよなアマリス!?」
「うふふふ、当たり前じゃないですかあ?
アルデヒト様あ、ずっと一緒にいましょうねえ?」
「ア、アマリス・・・!」
うわあ、これはヤバいとこまで行ってますね。
まさか私のギルドがこんな所から綻びていくなんて。
なら・・・こちらも容赦なく手札を切ることにしましょう。
「アマリス?」
「はぁい、なんですかあ?」
「お芝居はもう結構です。」
「ええー、意味分かりませーん?」
そこで私は助っ人を召喚するわけです。
「リィナ様、お願いします。」
こちらもため息をつきながらの兎勇者様登場です。
本当にこんな事で勇者様をこき使って申し訳なく思います。
「キャ、キャスリオン様、こんなところにリィナ殿を・・・?」
アルデヒト、
あなたが不甲斐ないからこの方々をお呼びすることになったんですよ。
思い知ってくださいな。
「リィナ様、いかがです?」
「あー、こないだのダンジョン帰りの時と一緒だね、
アルデヒトさんは動揺激しいし、アマリスさんに惚れてるの間違いないけど・・・
当のアマリスさんはこんな状況でも、一切心に動揺ないよね。
この展開全部計画通りって感じ?」
「なっ、リィナ殿、なにを!?」
「・・・!」
「あっ、アマリスさん、今初めて動揺したね?」
おや?
ついに核心を突いたようですね。
流石は勇者様です。
「・・・リィナ様、仰ってる意味がわからないんですけどー?」
「ああ、そういうのいいから。
ていうかギルド職員でも知らないよね?
あたしの耳が心音の変化で他人の心理状態聞き分けられるって。
一応この話、グリフィス公国のマルゴット女王にも公認してもらってる能力ね?」
次回ついにアマリスの正体が!!
目的が明らかになるのはその次か、その次くらいですけど、
もうアマリスの当初の目的なんかどうでもいいんじゃないかってくらいの展開になります。