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第七百三十一話 ギルドマスターは落ち込む

また風邪を引いた・・・

ようやく喉も治りかけてきたというのに。


昨日は仕事から帰って今朝までずっと布団の中にいました。


下書き作り込んでて良かった・・・。

<視点 ギルドマスターキャスリオン>



あ、ああ、



なんてことでしょう。


今回は嬉しい話じゃありません。

むしろ落ち込みまくってます。

もうまともに顔もあげられません。


私ってば何をやっているんでしょう。


あ、え、えーと、

ケイジ様達は無事に二つ目のダンジョンもクリアされました。


一つ目の時のような想定外の出来事はなかったと。

むしろ一つ目の経験があったので、

今回は色々な状況を想定していたおかげで事なきを得たとのこと。


それについては良かったです。

ギルドもこれからまた忙しくなりますが、

それこそそれは想定内の状況。



新たに降って沸いた問題は、


問題は、


問題は、


ケイジ様達にアルデヒトとアマリスの関係がバレてしまったのです!


い、いえ、それは!

実を言うとそれすらも大した問題じゃありません。


ケイジ様達はいずれこの街を離れるわけで、

ギルド職員同士がいい仲になっていたからといって、ケイジ様達に何か迷惑が降りかかるわけでもありませんからね。


ただリィナ様が明かしてくれた事実は、流石に私の予想を遥かに超えてしまいました。




アマリスはアルデヒトの事を何とも思ってない?


じゃ、じゃあアマリスは何を目的にアルデヒトを仮眠所のベッドの中に引き摺りこんだというのですか!?


・・・いえ、




その話も私にとっては衝撃だったのですが、



私をここまで落ち込ませているのは、

むしろケイジ様のお話の方・・・


 「アガサがそんな事に心を痛めていたなんて・・・

 私はこないだ、アガサに何て偉そうなことを言ってしまったのでしょう・・・。

 私こそ人の気持ちに思いを寄せられないダメダメギルドマスターじゃないですか・・・。」



そう、なの、です。

私は、事もあろうに、指導者の心構えなどという偉そうな話を鼻高々にアガサに説いてしまったばかり・・・


その私がアガサの本当の心情に気づいてあげられなかったなんて・・・


私は、

指導者失格・・・

ギルドマスターの役なんて・・・


 「キャスリオン様、

 その話はオレ達もアガサに聞いている。

 貴女は何も間違っていない。

 アガサもそれを聞いて貴女に感銘を受けていたし、オレ達も貴女を素晴らしい人だと思った!

 だから顔を上げてくれ!

 アガサだって後で気を取り直して、たまたまあの場で心が弱くなってしまっただけだと言っている。

 オレ達が離れ離れになると言う目の前の現実と、このギルドの不安定な状況が重なってしまっただけに起きた事なんだ!

 だから今日の彼女も魔物討伐は絶好調だったぞ!」



はい、長々と説明がありましたが、

ここは私の執務室。

ダンジョンから帰ったアガサは荷物の片付け、

随行した冒険者の戦利品分配の立会い、

アルデヒトは前回と同じく報告書の作成です。


そしてケイジ様とリィナ様は私に話があるということで、この執務室を訪ねてきたのです。


そこで明かされた数々のお話。




もう紅茶すら口にする気分にもなりません。


 「・・・ええ、たった一晩で気持ちを切り替えられる辺り、やはりアガサは有能なのでしょう。

 私など普段は虚勢を張ってますが、私なんかより余程ギルドマスターを目指すに相応しい・・・。」


やっぱり私はとっとと引退した方がいいのでしょうか。

その方がみんなやこの街のために・・・


 「違う!!」


あら?

ケイジ様が真剣な顔で私の言葉を否定しました。

え、と、今の私のセリフで否定されたのはどこの部分でしょうか?


 「今回の話でオレもよく思い知らされたことがある。

 真の意味で強い人間なんてこの世にいない!!

 みんな、一人で思い悩んで、誰かにそれを聞いてもらって、時には意見の衝突もあるかもしれないが、そうやって人は自分を確立してゆくんだ!

 オレだって20年間一人で地獄を見てきた!

 ・・・いや、見てきたどころか他人を巻き込んで地獄を作り出してしまった!

 でも、今はオレは一人じゃない!

 だからやっていける!

 生きていける!!

 他人のために身体を張ろうとも思える!

 アガサも!

 そして貴女も!!

 だから決して自分を卑下しないでくれ!!

 何よりも!!

 オレやリィナは、貴女が素晴らしい人だとアガサから聞いたからこそ、ここに来たんだぞ!?

 もし貴女が無能なギルマスだったなら、オレ達はアガサを誘拐してでもこのギルドから奪い去るだけだ!!」



・・・うあああ




格好いいですね、ケイジ様・・・

アガサは幸せものですね・・・

こんな素敵なパーティーで数々の冒険をされていたなんて・・・

後で機会があったら、今のケイジ様のセリフをアガサに聞かせてあげましょうか?


真っ赤になっちゃいますかね、

それともまた大泣きしてしまうのでしょうか。


リィナ様も目を拡げて「言ったな、ケイジ」って嬉しそう。



それにしても・・・


 「随分過大な評価を受けちゃいましたね・・・

 私はあなた方がこの街にきてから、大したことは何もしてないのですけど。」


 「そんな事を言わないでくれ、

 アルデヒトもそうだったが、ストライドやテラシア、バレッサもが貴女の事を尊敬していたぞ。

 そんなギルドマスターなんか早々いやしない。

 だいたいは奥で偉そうにふんぞり返ってるだけだからな。」


ああ、

アルデヒト、テラシアさん、バレッサさん・・・

それに・・・あとストライドさんも・・・



そう言ってくれると・・・

私も心の中がほんのりと暖かくなる気がします。



 「ケイジ様、聞いてもらえますか・・・。」


この方なら、私の理想を語ってもいいのでしょうか・・・。


 「何でも聞くさ・・・。」




これから話す事は私の夢語り・・・

以前誰かに話したことは・・・

お酒の席くらいですかね・・・

私の記憶の中でだと。


 「・・・私はですね、

 このギルドをみんなの帰る場所にしたかったんですよ・・・。

 どんな無茶な冒険をしても、

 どんな遠くにまで足を伸ばしても、

 どんなに傷だらけや瀕死になっても、

 這ってでもここに帰りたいなんて思えるようなギルドにね・・・

 現実は・・・

 ここに戻る事も出来ずに息絶えてしまう方もいらっしゃるわけですが・・・

 せめて一人でも多くの冒険者を・・・なんてね。

 まあ、現実を素直に受け入れる事に我慢出来ない、夢見がちな一人のエルフの戯言とも言えるかもしれませんね・・・。」


私はまた俯いてしまいました。

こちらを真っ直ぐに見つめて来るケイジ様やリィナ様に、まともに視線を合わせることが出来なくて。


二人の瞳が眩しくて・・・



あっ?


テーブルの上で組んでいた私の拳をケイジ様が上から包み込むように・・・


 「アガサが貴女のところで学べて本当に良かった・・・!!」




くっ


だ、だめですっ!

あ、私の涙腺が





決壊っ・・・!!


こんな若い人たちの前でっ、

ギルドマスターとしての威厳がっ


 「・・・我慢する事はない。

 あんまり公表してないが、オレの年齢は前世と合わせれば貴女より完全に年上だ。

 オレに・・・オレ達に出来ることなら何でもするぞ。

 だから、

 貴女の夢・・・

 このまま、この後も作り続けよう。

 オレ達もアガサも、そこに加わるからな。」


あ、あれまっ?


ケイジ様って転生者だったのですかっ・・・


ま、まあ異世界からやってきた、メリーさんやカラドック様を引き連れるならそのくらいでないと・・・



いいえ、違いますね。

さっきケイジ様は仰ってました。

20年間一人で地獄にいたと。

そして他人を巻き込んで地獄を作り出してしまったと。

今のお姿でそれほどのお歳には見えないことからも、それは前世での出来事だったのでしょうか。


恐らく、その過去が・・・

その時の後悔が、苦しみが・・・

今のケイジ様を形作っているのでしょうか・・・。


そして、

そんなケイジ様だからこそ、

こうして私の手を掴んでくださるのでしょうか。



ならば・・・


これは今考える事としては不謹慎かもしれませんが・・・


多くの不幸を味わった人こそ、

他人を救うことが出来るということなのでしょうか・・・。


どんなにドン底にいても、

どんな僅かな力しかなかったとしても、

立ち上がろうとする時に、

ほんの少しでも手を伸ばすことが、出来るのなら・・・


きっとその人は再び立ち上がる力を得て。



いまの、

私のように。


次回、現場を押さえますよ。


果たしてこの事件の終着点は!?

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