第七十三話 勇者リィナ
読み返してみると、たまたまなんですが、
この部分にかなり集約されてますね。
「緒沢タケル編3 永遠の別れ 最後の時」
「いやあ、終わってみたら圧勝だったね!」
リィナちゃんが機嫌よく獲物から素材を剥いでいる。
優先するのは爪と牙、
もちろん最大の値がつくのはカラダの中心にある魔石だろう。
それと、硬い皮は軽装冒険者の防具としても有用なので、高い値がつくし、
肉はどうなんだろう?
まだ私はこの世界でワイバーンを食べたことはないが、美味しいのかな?
「この場で食ってもいいんだけどよ、
やっぱ肉は少し寝かせた方がいいから、ギルドに納めた方がいいよ。」
という事だそうだ。
とりあえずこのパーティーで移動に悪影響出ない分だけ剥ぎ取り、一度冒険者ギルドに戻って報告。
その後、有志で5人くらい集めれば、
残りの素材も回収できるだろうとのケイジの言葉。
あいつも顔の表情は読めないが嬉しそうだな、
尻尾がブンブン揺れている。
そして落差が激しいのがこの二人。
「これは運命。
ダークエルフ最高の魔術士と異世界の賢王、
交わるべく出会った最高のマリアージュ・・・。」
ウットリした顔で擦り寄ってくるアガサさん。
いや、あの、確かにとんでもない威力だったけど。
そして全力で脱力してるのがタバサだ。
「ううう、今回何の役にも立ってない、パーティーのお荷物状態。」
最初にシールド張っただけだものね、
いやいや、あれがあるおかげで安心して攻撃出来るわけだし。
私とケイジで必死に慰める。
リィナちゃんだけは平常運転のようだ。
休みなしに素材剥ぎ取りしながらフォローしてくれる。
「でもこないだのドラゴン戦ではウチら何度も死にかけたよね、
あの時タバサいなかったら、あたしら詰んでたと思うよ。」
「今度のブラックワイバーンがそこまでの相手ではなかったと?」
通常のワイバーン種でBランク、今回のブラックワイバーンならAランク冒険者でも危険とされる部類らしいんだけどね。
「まあ、確かにあの時は知恵あるドラゴンだったしな、
だがそれ以上に、今回はカラドックと地の利が組み合わさった影響が大きいだろ。
川を凍らせた足留めと、アガサの攻撃力増大は、これまでのオレらの火力を圧倒的に上回る。」
上機嫌のまま解説をしてくれるケイジ。
たしかにその通りなんだろう。
私も異論はない。
そしてこの分なら私のパーティー正式加入にも問題はない筈だ。
だが私の心中は他の事に捕らわれている・・・。
まず一つ、
リィナちゃんが使った雷系の魔法剣だ。
先のケイジが出したクイズに答えるなら、今のリィナちゃんのクラスは魔法剣士かと答えたいところだが、
過去に見たことある魔法剣とは発動パターンが明確に異なる。
リィナちゃんオリジナルのユニークスキルなのだろうか?
まあ、それならそれでもいいのだが、
旧世界の知識を持つ私には、どうしても同じような技が過去に存在したことを思い出さずにはいられない。
あの雷を纏った剣撃は、
私の元の世界でリナちゃんの父親が得意としていた技だ・・・。
いや、私はまだ赤子の時に、彼は亡くなっていたので、
私が直接その技を見たことはない。
伝え聞くところによると、
その技は彼が首から下げていた「紋章」なるものを媒介に雷撃を行使していたというが、
それが、この世界ではあの奇妙な文様を柄に刻んだ剣がその役割を果たしているというべきか、
違いはそこだろう。
「リィナちゃん、・・・それがキミの、いや、このパーティーの切り札なんだ?」
「へっへっへー! その通り!
どう? さっきのあたしのクラス正解分かった!?」
「い、いや素直に考えるなら魔法剣士なんだろうけど・・・あの魔力パターンは違うよね?」
そこでリィナちゃんは目を見開いて驚いたようである。
「へぇ、そこまでわかるんだ?
そうだよ、あたしは魔法剣士でもない。」
「じゃ、じゃあ一体!?」
私たちのやり取りを興味深く聞いていたケイジがゆっくりと近づいて来た。
正解を教えてくれるのか?
だがケイジの回答は、私の予想を遥かに上回るものだった・・・。
「世間に出回っているオレ達の噂に間違いが一つある。」
「え?」
「確かにオレ達は以前ドラゴンを倒した。
そしてオレ達のパーティーはAランクになった。」
「あ、ああ、そう聞いている。」
「そこで、オレのステータスに新たに付与されたという称号、それが間違いだ。
称号がついたのはオレじゃない。」
「なんだって!?」
「そう、勇者になったのはリィナだ!
その後、冒険者ギルドで職業としてリィナは勇者を選択出来るようになった。
今のリィナのクラスは勇者なんだ!」
うわ、もうお腹いっぱいの情報だ!
私はこの後どこから情報整理をしていけばいいんだ!?
その後、再びケイジたちは素材剥ぎ取り作業に没頭した。
ケイジから見えない角度、
そして彼の耳の良さも考慮に入れて、
私はリィナちゃんに内緒話を敢行する。
「ね、リィナちゃん?」
不本意ながらとても近過ぎる距離での耳打ちだ。
身体接触しないように気をつけてはいるが、かなり親密な仲でないとこの体温が感じ合うほどの近距離はあり得ない。
でもそこまでしないと、ケイジの耳はこちらの会話を聞き取ってしまうだろうから仕方ない。
一方、リィナちゃんは何事か期待するかのように、ぎこちない笑みを浮かべてこっちに首を傾ける。
「ん、な、何?」
い、いや、そこは警戒してくれてもいいんですよ、リィナさん。
「さっきのブラックワイバーンにトドメを刺した時のケイジの言葉、
あれってよく口にするの?」
リィナちゃんは一瞬、何のことかわからなかったんだろう、
キョトンとした後、思い出したように手を叩いた。
「あーあー、さよなら何とかってヤツか、
確かにトドメ刺す時によく使うセリフな、
まあ、余裕ある時だけだよ、でも何で?」
どうしよう?
まさかここまで一致してるとは・・・。
もう私には彼・・・ケイジが弟と別人とは思えなくなっていた。
今までの行動パターン、
言動、そしてそれはリィナちゃん含め・・・
もはや疑う事自体愚かしい。
やはり・・・ケイジは、
私のよく知る弟、加藤恵介そのものなのだ!
後は気にすべき点なのは、
彼が旧世界の記憶を持っているのか、いないのか、
その違いだけだ!!
お待たせしました。
次回更新より再びメリーさんです。