第七百二十八話 郵便
「マルゴット女王に報告する必要がある」
伏線回収っと。
こう繋がるわけです。
あとついに「帝国」なんてものが出てきましてけど覚える必要ないです。
この物語では。
<視点 ケイジ>
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!!
もうダンジョンになんか行かん!!
ラウネはあの男の子達と一緒にいる!!」
ああ、頭が痛い。
後始末で苦労するかもしれないとは思っていたが・・・。
「いや、なんならまたあの箱の中で眠ってもらっててもいいんだぞ?
何事もなければ起こす必要もないわけで・・・。」
「嘘じゃ嘘じゃ嘘じゃ!!
絶対ラウネを働かす気じゃ!!
ラウネは怖いのはもう真っ平なのじゃ!!」
「ケイジ、さん・・・。
オレらなら、大丈夫、です・・・。
心配、ありま、せん。
安心、して、くだ、さい・・・。」
ちっとも安心出来ない件。
ストライドたち、今のところ全員無事だが、この先もその安全を保証できる気配が全然ない。
「大丈夫じゃ!!
ラウネはもうそんなにお腹を空かしておらぬ!!
一人一日一回!
それならこの子達も死にはせんのじゃあっ!」
・・・一日一回、か・・・。
いや、何がと聞く必要はないよな。
まあ、確かに一人一日一回なら・・・
でもラウネにしたら6人分てことだろ?
働いてもないのにそんなに必要か?
とりあえずストライドたちには精力剤とスタミナポーションを差し入れておこう。
オレ達がこの街を去るまで無事でいてくれよ・・・。
さて、二つ目のダンジョン調査も明日となった。
一緒に行くパーティーの選定は終えており、
今日は軽い顔合わせに打ち合わせ。
緊急時には連携で不備が生じてしまうのは、前回嫌というほど思い知らされたからな。
参加パーティーのみんなにも、無理して参戦しないように釘を刺しておいた。
冒険者ギルドに用があったのはそれだけ。
後はリィナと街並みを散策。
この辺りは獣人は珍しいのか、遠目から注目されたり、ジロジロ見られるのも毎度のこと。
まあ、一部にはリィナが邪龍を倒した勇者だと知られてるみたいで、
時々街の若い連中から声を掛けられる時もある。
恐らくオレ達がこの街にいるのも、
何もイレギュラーな事件が起きなければ、あと一週間というところだろうか。
グリフィス公国への帰り道では、
急ぐ必要もなく、
むしろゆっくり一つ一つの街で、いくつかクエストをこなし、知名度と評判を上げる予定でいる。
それがマルゴット女王の意に沿う行動となるだろう。
そうそう、そのマルゴット女王についてなのだが、オレ達は今現在、この街の行政所に向かっている。
行政所というからには、
戸籍関係やら、税金の支払いやら、各種お届けやらをする所。
建物は別だが同じ敷地内に裁判所もあるそうだ。
もちろんオレ達にそんなものへの用はない。
用があるのはその行政所の中にある郵便部門。
そう、この街に来てからの重要な報告事項をまとめた封書を、グリフィス公国のホワイトパレスに送る為にここに来た。
初めて訪れた場所だが、
案内嬢もいるし、建物の中でそんなに迷うこともなかった。
郵便部門の人間は、他の係と制服も違うしな。
ただ、例の土砂崩れの件で、
一時的に業務が膨大な量となっているのかもしれない。
大勢の利用者がそこに列をなしていた。
「・・・これは仕方ないよねえ・・・。」
「まあ、オレ達は初めて来た場所だし、キョロキョロ周りを見回してても恥ずかしくなければ、飽きはしないけどな。」
それと、国民性というのか地域性というのか、
列に並んでいると、暇を持て余す前後の人間からやたらと話しかけられる。
・・・オレじゃなくてリィナの方にだがな。
うらやましくなんかないぞ。
ちなみに郵便依頼窓口は二つ。
列の進み方は若干、オレ達が並んでる方が早いかな。
中にはこないだの土砂崩れで、
配達物がダメになったことにクレーム入れてる奴とかもいるのだろうか。
そんなヤツがいたら別室で対応してもらいたいものなんだが。
「あれ?
ケイジ・・・あの人。」
ん?
リィナが気付いた人間の事はオレもすぐに分かった。
隣の窓口で、丁度郵便物の手続きをしている真っ最中の若い女性。
服装は、どこにでもいる町娘が着るような、清楚なワンピース姿。
いつもの制服のイメージとはまた印象が変わる。
オレ達の受付まではまだ間があるな。
なので、しばらく「彼女」の方を見ていると、
丁度手続きが終わったのだろう、
その彼女が帰ろうとして、こちらを振り返った。
「・・・あっ?」
まあ、オレとリィナが二人並ぶと目立つしな。
それこそ彼女もすぐ気付いたろう。
「ああ、奇遇だな、アマリスさん、
そう言えば今日はギルドにいなかったよな?
公休日かい?」
そりゃあいくらなんでも、ギルドは毎日出勤しなきゃならんような、ブラックな職場ではないだろうしな。
「あ、は、はい!
こんなところでお会いするとは思いませんでした!
ええ、今日はお休みなんです!
ほら?
こないだの土砂崩れで、実家の方に送ろうとしてたお手紙がダメになっちゃいましたんで、
今日は送り直しに来たんですよ!」
自分でビリビリに破いてたもんな。
まあ、わざわざそんな事をあげつらう気もないが。
「・・・そうか、
そりゃ面倒なことだよな、
まあ、でも誰も死ななかったみたいだしな、
それだけで済んで良かったと思うぞ。」
「そうですよね、
あれ? ケイジ様達はどちらへ?」
「・・・ああ、オレはグリフィス公国へな、
アガサの様子とか、ダンジョンの件とか、いろいろ報告しなきゃならなくてな。」
オレ達については、何も隠す必要はない。
オレ達については、な。
「ああ、そちらも色々お仕事抱えてらっしゃるんですねえ、
ではあたしはこちらで失礼させていただきますねっ、
あ、明日のダンジョン調査も宜しくお願いいたしますーっ!!」
そしてアマリスは何事もなかったように去っていった。
何事も、なかったように、ね。
そして、オレ達も目的を終え、その行政所を後にする。
何か事件が起きたわけではない。
辺りは落ち着いて平和なままだ。
だが、
それで「お終い」ってわけにもいかんよなあ。
「ケイジ・・・。」
多分リィナにも気付いたことがあるのだろう。
そしてそれは、
オレが気付いたのとは別の話。
なのでオレ達は帰る道すがら、
その擦り合わせを行う必要があった。
「リィナが気付いたのは、なんだ?」
恐らくリィナもオレが気付いたことが、
自分のそれとは違うと理解しただろうな。
「あ、う、うん、
実はさっきのことだけじゃないんだけどさ。」
ん?
さっきのことだけでない?
それは流石にオレも気付いてないな。
まあ、いいや、今は何の話だ?
「さっきアマリスさんの話、
彼女、嘘をついていたよ。」
やっぱりか。
リィナの耳は嘘をついてる人間の心音を見抜く・・・いや、聞き抜くしな。
「そもそも、オレ達に嘘つく必要なんかあったのかな。
『実家の方』なんて言わなくても正直に言ったとしても、オレ達には何の関係もない・・・
いや、普通は何の関係もないと思う筈なんだがな。」
つまり、それは、
少なくともアマリスは、オレ達に「どこへ手紙を送ったか」知られたくないと思ってしまったんだろうな。
だが生憎なことに。
「ケイジは『見た』の?」
「ああ、見たっていうか、読めたぞ。
オレの『イーグルアイ』でな。」
リィナの聴覚では彼女の心理状態、
そしてオレの特別な目には全て映ってしまうわけだ。
あの、麻衣さんでさえ、
リィナの耳を誤魔化すことは出来ないと思っていたそうだからな。
何か事情を隠しているのなら、
オレ達二人の前には全てが無意味。
「まあ、だからって何考えてるかまでは分からないんだけどね。」
そりゃな。
お互いさすがにそんな万能な能力じゃない。
「それで手紙の宛先は?」
「丁度指先で隠れていて、街の名前までは分からなかったが、
国の名前と相手の名前は読めた。」
「国の名前?
え、もしかして外国へ送ってたの!?」
そう、
しかもよりにもよってな。
「ああ、オレ達グリフィス公国の怨敵、
バン-ザンダリア帝国、
相手の名前はエマリス・・・
手紙の宛名にはそう書かれていた・・・。」
名前が似ているところを見ると、
姉妹のところにでも送ったのかと思いたくなる。
或いは、父親が妻の名前をもじって娘に名前をつけたとしたら、それが母親の名前だとしても違和感はない。
前世のオレだって、母さんの名前を付けられてるくらいだしな。
だがそうなると、余計にオレ達に嘘をつく必要などない筈だ。
これだけでも、アマリスに疑念を抱く十分な情報だったんだけどな、
実はリィナのヤツ、もっと恐ろしいネタを抱えていたんだよ。
すごいぞ兎勇者!!
さすがは兎勇者!!
恐るべし兎勇者!!
「バカにしてる・・・!?」
してませんっ!!
だから放電しないでっ!!
なお、宛名のエマリスさんの登場予定はありません。
重要なのは「名前のみ」です。