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第七百二十六話 いつかの自分

ダメだ・・・

話が終わらない・・・


いや、今回でオーギュストくんの話は終わらせる!

ということで、長くなってしまいました。

<視点 ケイジ>


ああ、結局オレは言わずにはおれなかったか。

はっきり言ってしまえばオレには何の関係もない話。

この次期領主だという小僧に何の義理もない。

この宴席を不快に感じたならば、少しの時間だけ我慢して、後でどこぞの飲み屋でリィナ達と機嫌直しの一杯でも飲めばいい。



けれど。


 「ケ、ケイジ殿っ、ぼ、ぼくは何を間違えていたのだっ?

 僕は女の子達を不快にさせてしまったっていうのだっ!?」


父親の領主が苦々しい眼でオレを睨んでいるな。

ああ、お前の教育方針など知ったこっちゃない。

けれど、この先ずっとこのままで誰が得をする?


誰もいないだろ。


 「オーギュスト殿。

 先に断っておくがオレも偉そうなことは言えない。

 いつも余計なことを呟いて隣のリィナに叱られている。

 デリカシーがないとか、よく考えてものを喋れとかな。

 怒鳴られたり頭をはたかれたりはしょっちゅうで、酷い時には尻尾を引きちぎられそうになったり、足の甲の骨を砕かれそうになる。」


 「え、ちょ、ケイジ、おま」


すまん、リィナ。

お前なら空気を読んでくれるだろう。

ていうか、全部事実だからな。


 「リ、リィナ殿が?

 そ、それは・・・」


オーギュスト殿も驚いたろうな。

一応オレはパーティーリーダーだが、

立場はそんなに強くない。

ただ、何かがあった時は全てオレがひっ被るつもりでいるからこそ、パーティーリーダーを務めているだけなのだ。


だから・・・




 「う、う、羨ましいのだっ!!」


 「「「「「「はあ?」」」」」」


なに言い出したんだ、こいつっ!?


 「ぼ、僕もリィナ殿にヒールで踏みつけてもらったり、この浅ましい豚野郎ってなじってもらったり、ほっぺたに唾を吐きかけられたいと思うのだっ!!」


ちょっと待てオーギュスト。

お前、そんな性癖こんなところで・・・



い、いや、違う!!

なんて奴だ、

オレの話に反論したり、納得しないくらいの事はあるかもと思っていたが、めちゃくちゃ斜め上の反応してきやがった!


ていうか領主!!

お前一人なに、うんうん頷いてんだよ!!

お前も子供と同じ性癖あるのかよ!!


いかん!

そんな事にツッコミ入れてる場合じゃない!!

話の主導権を取り返さないと!!


 「ご、ゴホン!

 いや、違う、オーギュスト殿、そもそも女性の前でそういう話をしてはならないんだ。

 初めて会った人間にそんな事言われたら、普通の女性はみんな引いてしまうぞ!」


 「ぶひいいいいいいいいいいいっ!?

 そうなのであるかああああっ!?

 で、では何を褒めればいいのだあああっ!」


大丈夫だよな?

オレ間違ってないよな?

よし!

リィナもアガサもベルリンダも頷いてくれている。


 「具体的に何が良くて何が悪いなんて、それこそここに女性がいる前でいう話じゃない。

 そして根本の問題はそんなことじゃない。」


 「ケ、ケ、ケイジ殿、そ、それはいったい・・・。

 是非僕に教えて欲しいんだなっ!」


目や表情は真剣なんだよな。

だから決して根が腐っているとかじゃないと思うんだが。


さて・・・いよいよ本題。

他国の貴族の家に口出しするなんて・・・


いや、むしろオレの立場だからこそ、言うべきなのかもしれないな。


 「そうだな、

 最初からオーギュスト殿の口上を聞いて思っていたんだが・・・

 オーギュスト殿は自分に仕える者たちの話や意見を聞いているのか?」


 「は?

 話? 意見?」


多分そんな感じだったと思う。

こいつの話に嘘や誇張がなければ、

全て自分の指示で仕切っているような感じであった。

もちろんそれで皆んなが満足できるのならそれで構わないんだよ。


けど、さすがにこれはなあ・・・



そして思った通り、オーギュストはオレに反論してくる。

この辺は勿論オレの想定内。


 「そ、そんなのは無能な貴族のする事なのだ!

 貴族たるもの下々の上に立って、的確な指示や指導をして率いて行くものなのだ!!」


なるほど。


 「その通りだぞ。」

 「そうだろう、そうだろう、

 僕の言うとお・・・ぶひっ!?

 ケイジ殿は僕が間違ってると言ってたのではないかっ!?」


 「いや、オーギュスト殿の言う通りだと思う。

 人の上に立つ者は的確な指導や指示をすべきだろう。

 間違いなくオレもそう思うぞ。」


 「な、なら何で・・・」


 「では、オーギュスト殿、的確な指示や指導をする為には何が必要だ?

 どうすれば的確な指示や指導が出来るんだ?」


 「そ、それはその者の能力と頭脳なのだ!

 あ、あと有能な家臣も必要だと思うのだ!」


ホントにそんなズレたこと言ってるわけじゃないんだよな。

それだけに残念だ。


 「違う。」

 「な、な、な、何だと言うのだ!

 僕に何が足りないというのだ!!」


いろいろ全部足りないって言いたいんだけどな。

それは流石に無理だろ。

今更。


こいつに必要なのは


 「情報だ。」

 「じょ、じょうほう?

 そ、そんなもの、冒険者の情報とかはワイナットから・・・」


 「女性をどうやって褒めればいいか、誰か親しい女性から・・・

 客にどんな料理を振る舞えばいいか、

 メイドや料理人から情報を仕入れたか?」



そこでオーギュストの表情が固まる。

 「え・・・」


 「最初の話から想像するに、オーギュスト殿はいろいろ気を配ってオレたちをもてなそうとしてくれたんだろう。

 それは分かる。

 自分の信用する料理人を動かして自分の思い描く宴席を用意してくれたんだろう。

 だがその時に彼らの意見やアイデアを募ったか?

 別に彼らの言う通りにしろと言ってるわけじゃない。

 オーギュスト殿が貴族だと言うなら、それら多くの人間の意見を集め、自らの考えと共にその中で最適なものを選ぶことこそ、貴族としての振る舞いなのではないか?」


 「あ、あ、う、そ、それ、は・・・」


オレはそこで周りの執事やメイドたちの顔を一瞥する。


視線を下げて我関せずの執事、

メイド達も口を噤んでいるな。


大体想像できるぞ。

今までも下の人間の意見を吸い上げようとはしなかったんだろうな。

仮に彼らが良かれと思って何か言ってきたとしても、「身の程を知れ」とか何とか言って、ほとんどその意見を切り捨ててきたんじゃないか?


そして彼らも、

「この人達には何を言っても聞く耳持たない」と諦め切ってしまったんではないか?





何で、分かるかって?




オレも前世でそんな人間だったからだよ。


だから最後に部下に裏切られたんだ。


まあ、オレの場合、カラドックとか心を許した奴の話はちゃんと聞いていたけどな。


・・・余計ダメなヤツだってか?


そうなんだろうな。

だから碌な死に方しなかったんだろう。


さて、

若きオーギュスト殿はオレの話をどこまで飲み込めてくれただろうか。



 「な、なら、ケイジ殿・・・、

 いや、リィナ、殿も・・・。」


ん?

さあ、オーギュストはどんな答えを返してくるのか。

リィナも自分の名前を出された事で身を乗り出してきたな。


 「この僕にいろんな事を教えて欲しいのだっ!!」

 「「違うからっ!!」」

 「ぶひぃっ!? 

 二人いっぺんに否定されたのだあっ!?」


やっぱり分かってないぞ、こいつ。


 「たまたまこの街に来ているだけのオレたちに聞いてどうする?

 そうじゃない。

 オーギュスト殿と長い間生活を共にしている皆んなと語り合えと言っているんだ。

 ゆくゆくはこの地方の領主となるんだろう?

 部下や家のものが、普段何を考えているか、どういう性格なのか、どんな趣味を持っているか、貴族たるもの、領主たるものが把握しているべきだろう?」



ダメかな、やっぱり。

ただそこでオレに救いの手を差し伸べてくれたヤツがいる。


ガラダスだ。


 「オーギュスト殿、想像してごらんよ、

 部下の実力や能力、性格を全て把握してれば、それこそこの館で自分の部屋にふんぞりかえっているだけで、その領主は完璧な指示を部下に出せるというものじゃないか?

 部下のやる気や能力を引き出すのも上に立つものの器量だと思うよ。」


うむ、さすがは公爵家出身、

良いことを言う。


あ、オーギュストも顔を見上げて、ガラダスの言った姿を想像しているみたいだな。


 「ホントなのだ!

 そっちの方がカッコいいのだっ!!」


どうやらうまくまとまってくれたらしい。

ガラダスに感謝だ。

まあ、この後実際、オーギュストがオレたちの言う通りに生活改善するかどうかなんて知ったこっちゃない。


ただオーギュストは根が素直そうだからな。

今なら何とか軌道修正できるかもしれない。



コンコン!!



ん?


その時部屋の扉がノックされた。

領主が客を招いている宴席には不調法な叩き方だ。


もちろんダリアンテ伯も顔を顰めている。


すぐさま執事のワイナットが内側から扉を開けると、そこに居たのは敬礼姿の騎士服の男だった。



何かあったのだろうか。


 「お館様! 誠にご無礼いたします!

 緊急の報告が入りましたっ!」


む?

なんだ、魔物でも湧き出たか!?


 「・・・何があった、報告せい!」

 「はっ!

 エルンガイへと抜ける街道の一部で土砂崩れが発生!

 前回のスタンピードにて、魔物が暴れていた辺りです!

 街道の整備は簡易的な復旧しかしていなかった為、その負荷が今になって現れたものかと!」


おっと、そりゃ大変だな。


 「なんだと!?

 それならば王都にも続く街道ではないか!

 人的被害は!?」


 「今のところ死者はゼロです!

 強いて言えば、郵便運搬人の馬車が土砂に巻き込まれ運搬人が軽傷、馬車を曳いていた馬が脚を折ったくらいです!」


おお、誰も死んでないのか。

それは良かったと言える。


 「ならば城内兵、及びハーケルンの常駐兵を半分にしても良い!

 すぐさま復旧作業に向かえ!」


うん、領主の決断も素早い。

この辺りは流石なんだろうな。


ここでしばらく大人しくしていたサブギルドマスターのアルデヒトが手を挙げる。


 「領主様、冒険者ギルドの方で手伝える事があれば・・・。」


 「・・・いや、気持ちだけありがたく貰おう。

 街道整備だけなら我らの領分だ。

 仮に魔物でも現れたならばすぐにでも向かってもらいたいとは思うが・・・。」



そして次の発言はガラダスだ。


 「それなら伯爵殿、我がパーティーのベルリンダなら怪我人や馬の治癒が可能です。

 軽傷なら魔法による治癒は不要かもしれませんが、脚を折った馬ならプリーステスのハイヒール呪文以外では回復不能でしょう。」


 「・・・む、それではよろしくお願いできますかな?

 アルデヒト殿、事務手続きは後程・・・。」


郵便運搬は公共事業の一つだ。

郵便とはいえ、情報の流通がストップしたら、国や経済発展の障害となるからな。


だから何か事故があったとしても現状回復は領主の役目とも言える。

馬車や馬がダメになっても、代わりのものはすぐに用意できるだろう。


ただまあ、ダメになった馬の脚はどうにもならんからな。

普通なら馬肉処分されるのではないだろうか。

それも可哀想っつっちゃ可哀想だしな。



さて、このハプニング。

偶然の出来事とはいえ、この話が予想外の展開に繋がることになる。


それはこの後に明らかになるだろう。



あ、そうそう、

会談が終わってから、

オレはリィナに「何恥ずかしいことバラしてんの!!」と、理不尽な折檻を受けた。


ケイジ虐待反対なのだ。


そして、次回から、

その後のお話編最後のエピソードとなります。


・・・まだ着地点は考えてません。

どうしましょう。

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