第七百二十五話 オーギュストの反抗
全然終わらなかった・・・
<視点 ダリアンテ伯爵>
何がどうしてこうなった。
「・・・此度は大変失礼をいたしましたな。
本来、私が直接皆様をお迎えすべきところでしたが、領兵の再編成など拠ない事情がございましてな、
私が皆様の歓待に間に合わぬ場合、愚息に時間を繋いでおくように指示をしておったのですが。」
そういう事にしておくしか他あるまい。
実際、目が回るような忙しさであった事に変わりはない。
冒険者如きの扱いなど、可愛い可愛いオーギュストで充分だった筈だ。
「お久しぶりですね、ダリアンテ伯爵。
まさかこのような形でお目にかかれるとは。」
「これはこれは、ガラダス殿、
随分と逞しくなられましたな。
よもやウインザー家に連なる方がAランク冒険者になられるとは。
しかし我が領でご活躍されるのであれば、ご連絡さえしていただければ、こちらも便宜を計らせていただいたものを。」
だいたい何故貴様がここにいる?
しかも話を大きくしてしまったのは貴様だというではないか。
何の根回しもせずに人の領地をウロウロするなど、家の継承に何の資格もない四男とはいえ、非常識にも程があろう。
「ええ、その点は本当に申し訳なく。
ただ本当に僕たちは貴族の肩書きを捨てて、どこまで出来るか試してみたかったのですよ。
今回も同じ席にグリフィス公国の方さえいらっしゃらなければ、身分を明かすつもりすらなかったのですが。」
グリフィス公国の女王マルゴットの甥っ子という話だったか、そこにいる狼獣人が。
まさか獣人如きの扱いで外交に影響など出る筈はないのだがな。
問題は、それを政治・貴族の間に噂話としても流されてしまうと、人の足を引っ張り出す奴がいるから始末に負えんのだ。
「流石はウインザー家の血脈の方ですな、
何が起きても物事を円満に収められる良い良識をお持ちのようだ。
まあ、この後はご安心くだされ、
きっとご満足いただけるよう、もてなさせていただきますのでな。」
だからこの話を他所に広めるなよ。
ワシの言い回しでその程度理解できるよな?
「そ、そんなパパっ!
今回は全部僕に仕切らせてくれるって!」
ああっ、
今は黙っているのだ、可愛い可愛いオーギュストよ。
・・・ふう、少々甘く育ててしまったろうか。
早くに死んでしまったあやつの母親の分まで愛情を注いできたつもりだったのだが。
もちろんオーギュストには次期領主を名乗らせているが、実際ワシの跡を継ぐのはまだ早い。
今はいろいろ経験させて自信を植え付けさせてやる時期なのだ。
今回はそれが裏目に出てしまったようだ。
「・・・オーギュスト、
ワシもそう思っておったのだが、こちらにいらっしゃる方々は、ただの冒険者ではなかったろう?
公爵家に連なる方もいれば、他国の王族の方もいたのだ。
であるならこちらもそれ相応の肩書を持つものがお相手せぬと失礼になるというもの、
賢いそなたならしっかりと理解できよう?」
そうとも。
オーギュストは可愛いワガママを言うことはあっても、最後にはワシの言うことはちゃんと聞く子供だ。
そんな可愛い子だからこそ大切に育ててきたのだ。
もう、
これ以上、大切な家族を失いたくはない。
「・・・嫌だ。」
ん?
今オーギュストは何と言った?
ワシの耳が遠くなったのだろうか?
「い、嫌だ嫌だ嫌なのだ!!
パパは任せてくれるって言ったじゃないか!!
僕は一生懸命頑張ったのだ!!
料理人やメイド達に指示をして、
冒険者のみんなをどんな歓待すればいいか、
いきなり食べきれないくらいの料理を見せたら喜んでくれるのかなとか、
彼らはきっと体を使うから、ガッツリ食べられる料理がいいだろうか、ずっと考えてきたのに!!
パパの嘘吐き!!
なんでパパは僕がこんなに頑張ってるのを認めてくれないのだ!!
今回の件だけじゃない!!
こないだだって、パパは嘘をついた!!
ツェルヘルミアちゃんと絶対結婚出来るって僕に嘘をついた!!
嘘吐きのパパなんか大っ嫌いなのだ!!」
おお、可愛い可愛いオーギュストよ。
お前の優しい心配り・・・
とても素晴らしいことだと思うぞ。
だが、だがだがだが、
ここでそんな大声で騒いではならぬ。
貴族たるもの、人前で冷静さを欠いてはならぬのだ。
ツェルヘルミア嬢のことはワシも残念に思う。
あんな可愛い娘が嫁に来てくれたら、この城はさぞかし華やいだものになったろうに。
だが、
そんなことより何より・・・オーギュストがパパを大嫌いだなどと・・・。
うう、パパの心は張り裂けそうだぞ。
い、いや、ここで打ちひしがれてはならぬ。
何とかこの場を収拾させねばならぬのだ。
どうする。
この場をお開きに・・・
いや、それだけは絶対にならぬ。
それはこの歓談が失敗に終わったと内外に広く知られてしまう。
貴族にとってそれは命取り。
オーギュストを退出させるしかないか。
その場合、歓談自体は上手く収められたとしても、可愛いオーギュストに心の傷を増やす事となるだろう。
しかし・・・
今は
「少しいいだろうか?」
ぬ?
今のは貴族ですらない・・・
いや、あの狼獣人はマルゴット女王の血縁だったな。
言葉遣いも碌に知らぬ冒険者には違いないのだろうが、無碍に扱うわけにもいくまいよ。
「・・・これはお恥ずかしいところをお見せしてしまいましたな、
あなたがケイジ殿ですね、
どうか、此度の騒ぎをご不快に思われたかもしれませんが・・・。」
「いや、少しそちらのオーギュスト殿と話をさせて貰えないだろうか。」
む?
この獣人風情が何を言い出した?
貴様ごときが可愛いオーギュストと対等に話を聞くだと!?
身の程を・・・いや、腐ってもこいつはグリフィス公国の王族、
話だけであるなら・・・
しかし一体何を?
「は、話なら僕と喋るのだ・・・。
いったい何の用であるか、・・・グスっ。」
ああ、オーギュストを泣かせてしまったっ!
ワシはこのあと、どうやってオーギュストを慰めてやれば良いのかっ!?
「・・・いや、オレ達も、当初この席は何なんだろうって面食らっていたのは確かなんだが、今のオーギュスト殿の発言で、
オレ達を本気でもてなしてくれるつもりだったんだなって事が分かってな・・・。」
当たり前だ。
オーギュストは人の心が分かる優しい息子なのだ!!
「う、うう、そうなのだ・・・
僕は純粋にみんなが喜んでくれるかなって・・・
でも面食らってたってことは、僕はやっぱり間違ってたって事なのだ?」
いいや、そんなことはない。
オーギュストよ、お前が正義だ。
お前の言うことが全て正しいのだよ。
「まあ、食い物もそうなんだが、
ここにいる女性達の容姿をオーギュスト殿は褒めてたよな?
あれもお世辞とか口だけの形ではなく、オーギュスト殿の本心からか?」
貴族の女性を褒めることは最低限の礼儀として教えてある。
・・・む?
そう言えばここにいる女性たちは誰も皆、素晴らしいな。
あのチェリーブロンドの髪の僧侶は平民には惜しいくらいの美貌だし、
胸の大きいダークエルフ・・・
凄いなあれは!!
何なら今晩のワシの相手をさせてやりたい程だ!!
そ、そして、ああ、
あの白い耳の・・・あ、あの少女が勇者だという話だが・・・
かわいいいではないかあああああああああああああああああああ!?
欲しい!
あれは是非欲しい!!
恐らく生きていたら弟も欲しがるだろう!!
ウチの一族は獣人好きが多いからな!!
どうにか、あの少女をこの屋敷に住まわせることは出来ないだろうか!?
あ、いや、今は可愛いオーギュストの話を聞かねばな!
「む?
そ、それも本心だぞ?
パパから女の子は褒めるように言われてるけども、そんなこと関係なしにここにいる子達は可愛いと思うのだ!!」
血は争えないものだな、可愛い可愛いオーギュストよ。
「そうか・・・
ではオーギュスト殿、
悪いが先程の発言は女性たちにとって褒め言葉にはならない。」
「な、何だってええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
「ついでに言うと、オレ達はこないだ、聖女の護衛騎士となっていたツェルヘルミア嬢と会っている。
・・・まさか彼女にも失礼な言動とかしてないよな?」
「ぽぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
何だと!?
ケイジ殿達がツェルヘルミア嬢と?
い、いや、今はこの場の話を優先すべきか。
いったいオーギュストは何を言ったのだ?
ワイナットもそこまで細かく報告しなかったからな。
おい、ワイナット、貴様なにを・・・
あ、貴様ワシの視線逸らしおったなあっ!!
オーギュスト君のエピソードは次回で終われ・・・るよね?