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第七百二十二話 領主様?

なぜタイトルにはてなマークが!?

<視点 ケイジ>


その後の馬車の中は明るい雰囲気になった。


別に何か楽しい話があったわけでも何でもないのだが、

護衛の騎士たちの対応が、

こちらに対して明らかに友好的になっていたのだ。


そのせいあってか、オレたちは元よりギルド職員のアルデヒトも緊張の糸がほぐれたのかもしれない。

それまでより口数が多くなっていたし、表情も柔らかくなっていた。


そしてまたしばらくして・・・


 「ご歓談中、失礼いたします。

 これより領主様の土地に入りますが、

 その前に橋を渡ることになります。

 少し揺れはしますが造りは丈夫なのでご安心ください。」


とまあ、こんな感じで、やたらと気を遣ってくれる。


それにしても橋か。


馬車の窓から外を見れば周りに民家はもはや無い。

街道の両脇は林だけであり、

前方を臨むと確かに大きな川があるようだ。


その向こうは高台になってるらしく、

恐らく領主の居城はその奥にでもあるということか。


・・・戦争になったら攻略は難しいな。

逃げ道もないのかもしれないが、大量の食糧を備蓄されたら厄介な籠城戦となるだろう。


・・・いやいや、

トライバル王国とグリフィス公国は親密な関係を維持してるのだから、そんな物騒な想像をする必要などないよな。



オレが馬車の中へと顔を戻すと、

リィナとアガサの話が始まっていた。


 「そういえばアガサは、今朝キャスリオン様に呼ばれていたんだよね?

 昨日のダンジョン調査の話だったの?」


アガサは無言で首を振る。

無表情ではあるが、厄介事でもなさそうだな。

アガサの目付きで何となく分かる。


何となく誇らしげというか、優しげな眼差しとでもいうのか・・・


そしてどうやらオレの予感通りだったようだ。



 「キャスリオン様は私の想像を超える方。

 今の私に足りない部分を的確に指摘。

 私はこの地で更なる成長を遂げると確信。」



詳しく話を聞くと成程と思った。


戦闘もできない、レベルアップなど望みもしない、その日暮らしの冒険者・・・か。

そんなところにまで目を向けて・・・



・・・凄いな。

オレでも・・・いや、確かに現場で直接体を張るオレ達とは立場が違うからこその考えなのだろう。


そして確かに難しい話でもある。

恐らくだが、今の話を聞く限り、

その最底辺のラインにいる冒険者の殆どは、

現状に満足・・・大半は諦めの境地にいるようだ。


そんな連中に余計なマネや気遣いは不要とも思える。

冒険者は基本自己責任だからな。


だから上を目指す奴は勝手に上を目指すし、

戦闘などしたくない者は自分に出来ることを探して逞しく生きてゆく。


それでいいと思うのが殆どなんだろうけども。



 「今の話ってケイジから見ても感心するような話じゃない?」


リィナはオレの性格も考え方も把握してるからな。

オレがどう思っているのかもお見通しなんだろうな。


 「ああ、素晴らしい考え方の持ち主だと思う。

 確かにギルドマスター一人一人、考え方やその方針は様々なのかもしれないが、キャスリオンさんの考え方はアガサのこれからには絶対に必要な人だ。」


ん?


ふと見るとリィナが必死に笑いを堪えていた。


え?

オレなんか変なこと言ったか?

いや、違うな、

オレじゃないな。


アルデヒトだ。


アルデヒトの顔がとても誇らしげというか、

自分の「推し」が他人に褒められているのを聞いて、思わずニヤケ顔を浮かべてしまったってところか。


それ以上油断するとキャラ崩れるぞ。



お?

アルデヒトめ、

オレやリィナの視線にようやく気付いたようだな。

今更真顔になっても、もう遅いけどな。


 「やっぱりアルデヒトさんは、キャスリオン様の事、尊敬してるんだ?」


あ、おい、待ちましょうやリィナさん、そんなド直球で。



 「む、ゴ、ゴホンっ!

 あ、ああ、別に隠すような話でもないがな。

 言っておくが、あの方を尊敬してるのはオレだけじゃないぞ。

 他の職員だって、多くの冒険者だって、みんながあの人の事を慕っているのだからな!」


そうだな、

ストライドもテラシアもそんな感じの事を言っていたな。


このアルデヒトも・・・



あれ?

そう言えばアルデヒトとアマリスとかいう受付嬢、変な雰囲気だったよな?

オレはてっきり・・・


いや、今の話ぶりからすると、

アルデヒトのキャスリオンさんへの態度は男女の恋愛感情とは別の話ってことかな。


そうだよな、

流石にその考えはアルデヒトにもキャスリオンさんにも失礼過ぎただろうか。



まあ、冒険者ギルドの幹部と受付嬢がただならぬ仲だとしても、オレには全く関係ない話だしな。


 「ていうことは、アルデヒトさん、あの、受付嬢の女の子って・・・」


あああああ、

だからリィナさん、やめてあげたまえ、

そんな人のプライバシーまで・・・



 「む? 受付嬢? だ、誰の事だ?」


ほら、アルデヒトも見てて可哀想になるくらい狼狽えているじゃないか。



 「あ、ご、ごめんなさい、何でもないです・・・。」


リィナも踏み込みすぎたと途中で気付いたようだ。

他人の恋バナで盛り上がりたい気持ちは分かるが、流石にこんなところで話すものでもないだろうよ。



 「ふぅ・・・。」


あ、あれ?

リィナのヤツ、オレの顔見て残念そうなため息ついたぞ?


なんだ?

今の流れでなんかオレ間違ってたか?



 「皆様、前方にダリアンテ様の居城が見えてまいりました。

 間も無く到着いたします。」


おお、やっとか。

橋を越えてから結構坂道登ってきたよな。


確かダリアンテという領主は伯爵家だったか。

オレの知り合いで伯爵家というと、アスターナ夫妻のところくらいかな。


ただ国の規模でいうと、

グリフィス公国よりトライバル王国の方が大きいからな。


経済的にもこの辺りは豊かだというから、さぞ・・・




 「うわあ・・・大きい・・・

 これ、お城、全部領主様の?」


うおっと、ホントにデカいな。

門の大きさもアスターナ夫妻の屋敷より一回り違うし、装飾も豪華だ。


屋敷の中で働いてる人間の数も段違いだ。



そこからまたしても馬車は坂を登ってゆき・・・


更に5分程かけて城の正面に辿りついたのである。


オレ達を出迎えたのは、黒服に身を包んだ中年男性だった。


 「執事のワイナットと申します。

 勇者様、冒険者の皆様方、ようこそおいでくださいました。

 これより皆様方のご案内をさせていただきます。」

 

オレ達は一様に挨拶をして、

執事の後を、

アルデヒト、リィナ、そしてオレ、アガサ、

ガラダス、ベルリンダ、エスターの順番でついて行く。


まあ、エントランス部分も豪勢だな。

深々の絨毯に両脇にはフルプレートの甲冑、

高そうな絵画に、色とりどりの花を生けた花器。


ただ・・・あんまりセンスが良くなさそうな気がするのはオレの思い過ごしだろうか。



ここに比べるとアスターナ夫妻の屋敷はこじんまりしてたが、優雅さも雰囲気もとても穏やかだった気がするんだが。


・・・幽霊が取り憑いている肖像画の件は棚に上げておくけども。



まあ、いくらなんでも似たような話はそうそう起こるまい・・・



 「デュフフフフフフフッ!!」



なんだ、今の・・・笑い声かっ!?

二階部分から?


今の笑い声を聞いたのはオレだけでない。

全員一斉にエントランスの正面二階部分に視線を向ける。



そこにいたのは・・・


ああ?

なんだあれ?



 「よ、良く来たぞっ!!

 歓迎するんだな、冒険者諸君っ!!

 デュ、デュフフフフフフフッ!!」



豚がいる!?

服を着た豚が喋った!?

亜人!?


い、いや、アレは豚でも獣人でもオークでもない!!

ま、まさかヒューマンなのか!!


 「ワ、ワイナット殿、

 ほ、本日は・・・っ!?」


む?

アルデヒトの反応まで何かおかしいぞ?


あそこで気味の悪い笑い声を上げてるのが領主じゃないのか!?



 「は、はい・・・

 本日は近々この領地を継がれることとなっておりますオーギュスト様が皆様を歓待させていただくことに・・・。」



歯切れが悪いぞ、執事さんよ。

・・・


本日のホストは領主でなく次期領主か・・・。


それはいいが大丈夫なんだろうな・・・

あんなのが次の領主で・・・。


うりぃ

「せっかくここまでええ話が続いとったのに・・・」



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