第七百十八話 ギルドマスターに心休まる日々はない
ゴホ、ゴホ、
明けましておめでとうございます!
お?
ぶっくま・・・いや、評価ですか!?
ポイント上がってる!
どうもありがとうございます!!
<視点 キャスリオン>
ううう、
なんでこう、いつもいつも私のキャパを超える話ばかり起きるんでしょうね。
結果だけ見ると、とてもいい方向いい方向に落ち着いてくれてるんですけど、私が予期して進んでいる話が一つもないので、安心できる要素が何もないのです。
いつかとんでもないどんでん返しが起きたとしても、何も予防する手も打てないし。
「キャスリオン様。」
いけない。
私の不安を顔や態度に出してはなりません。
「どうしました、アルデヒト?」
彼の顔は真剣です。
私と同じ不安を共有してるとでも言うのでしょうか。
「大丈夫です、キャスリオン様一人で抱え込まないでください。
いざとなればこのオレも巻き込んで下さって構わないのですからね。」
・・・アルデヒト。
「あなたは・・・まだ、私のことを・・・」
「キャスリオン様がオレの評価をどう変えようと、オレのキャスリオン様への敬意と忠義に変わることはありません・・・!」
あ、あなたは何という・・・
う、うう、い、いけませんっ!
恋愛ごとでも浮ついた話でも何でもないのに、私のほっぺた緩みそうじゃないですかっ!
か、顔も赤くなってませんかねっ!?
ああ、ケイジ様達の視線がこっちに集中しています!!
いえ、でも、アルデヒトの今の言い回しならいくらでも誤魔化しは利きます!
もちろんアルデヒトも言葉を選んでくれているのでしょう、
そのまま乗っかりますよ!!
「あ、皆様、お見苦しいものを・・・
どうかお気になさらないで下さい。
このギルドも今に至るまで順風満帆というわけでもなかったので、いろいろと・・・。」
ええ、ええ、ケイジ様もリィナ様もガラダス様も一様に納得していただいたご様子。
アガサに関しては、
何か気付いてるところもあったとしても、
良くも悪くも話の中身は理解はしていないでしょう。
どちらにしてもここは話の流れを変えるべきですね。
「とりあえずガラダス様の件は今までの方針通り、こちらから何か動くことはないままにいたします。
もちろんギルド側が第三者に情報を広める事もありません。」
「世話になりますよ、ギルドマスター。」
この後、雑談のような流れでケイジ様とガラダス様の間で、いかにも貴族らしい会話が続いていました。
本来、私たちが聞いていいものかどうか悩むところですが、興味がないと言えば嘘になりますので、時間の許す限りお話を聞かせていただきました。
「僕は剣の腕には幼少の頃から才があったと思っていた。
ただ同時に自分の身分では、早々と王宮の近いところで騎士系の職に就き、ほとんど実戦を知る事なく王宮守護や騎士団長への道を歩むことになっていただろう。
そんな通り一遍の出世街道なんか真っ平ごめんだったんだ。」
「しかし実際、公爵家の身分を捨てぬまま冒険者になど、よく実家が許したもんだな、
オレの口から言えることじゃないけども。」
「だから親父殿に大見得切ってきたんだよ。
僕と僕の仲間は早々とAランクに上り詰めてみせるってね。
Sランク認定なんて、それこそ国の有事レベルのものを解決しないと無理かもしれないけど、Aランクなら僕らの努力と結果次第でどうとでもしてみせる。
このまま僕らの名を上げていけば、他の誰も真似できない業績を上げたってことにもなるだろう?」
「なるほどな。」
確かに話の流れはよく分かります。
この人もアガサのように、自らの道を開拓しようというタイプなのでしょう。
ちょうど話の切れ目かなというタイミングでしたかね?
アルデヒトが他にも気になる話をしておきたかったようです。
「そ、それで話を一度戻すが、ストライド達は大丈夫なのか?
コミュニケーションは取れるとオレも確認してるが、その、今はお目付け役もいないのだろう。」
あっ、そうでした。
ケイジ様は具体的な描写説明は避けたい様子でしたが、私にも何となく分かります。
女性型の魔物が人間の男性から得ようとするものなど大体は想像できます。
「確かに100%安全とはオレの口からも言い切れない。
けど、あの妖精はマルゴット女王が躾けているのと、
何よりも、オレ達の言いつけに背いたり約束を破った時は、メリーさんを呼び寄せると警告している。
・・・実際メリーさんは自分の世界に帰ったから呼ぶのは無理なんだけどな。
あの妖精はメリーさんが召喚されるシーンすら目撃しているので、いい感じに信じてくれてるみたいなんだ。」
あらま。
なんでもあの妖精、一度メリーさんに首を狩られてるんでしたっけ?
それは確かにトラウマものかもしれません。
それにしても、
ご自分の世界に戻ってからもメリーさんの戒めは役に立つのですね。
さて、他にも細かい打ち合わせを済ませてから、この場はお開きにいたしました。
アルデヒトにはまだ細かい報告書を出してもらいますが、
アガサについてはもう休んでもらって構いません。
「む? 私ならまだ余裕で勤務可能。」
いやいや、話を聞いただけでもアガサは大量の魔力使ってますよ?
疲労もかなり残ってる筈・・・。
・・・ああ、さすが恐るべし元Sランクパーティー。
きっと魔力回復量も想定レベル以上なのでしょうね。
ただここは私の言うことに従ってもらいます。
私も別に何も考えていないわけではないのですから。
「アガサ、貴女に任せていた仕事は全てクリアしたのです。
本日はゆっくり休んで下さい。
ただ・・・そうですね、アガサにはお話しておきたいこともありますので、明日の朝始業前に10分ほどお時間貰えますか?」
「・・・委細承知、それではお先に失礼を。」
とりあえずゆっくりして下さいな。
なんでも今晩は「デイアフターデイ」の皆さん中心に、朝まで酔い潰れる予定らしいですからね。
残念ながら「銀の閃光」の皆さんはそれどころではなさそうなのですが。
さて、調査終了したグンガルゲットダンジョンのこの後についてはアルデヒトに任せ、私は通常の業務に戻ろうと
カランカラーン♪
ああっ!?
このタイミングでまた呼び出しベルが?
今度は何の厄介ごとでしょうかっ。
「キャスリオン様、先にオレが降ります。
どうか座っていてください。」
「お願いしますね、アルデヒト。」
・・・アルデヒト、
まだ私たちはお互いを頼りあって良いのでしょうか。
いえ、
もしかしすると私の心が狭いだけの話だったのかもしれません。
・・・そうですよね。
本来私たちはただの上司と部下。
私たちは互いの職分に忠実でさえあればそれで良く、彼がどんな女性と恋仲に陥ろうと、それは私たちの仕事とは関係ありません。
そして今もなお、彼は私の忠実なる部下たろうとしてくれています。
本当に・・・?
私は何か見落としていないだろうか?
ただの嫉妬?
あんな小娘にアルデヒトを奪われたから?
奪われた?
何を?
私は何も奪われてないのでは?
でも、この言いようのない不安感はどこから発生しているのでしょうかね。
・・・そんな取り留めのない思考はすぐに破られました。
階段をドタドタと登ってくるアルデヒトの足音で。
「ギルドマスター!
領主様からの使者の方がいらっしゃいました!!」
ああ、まためんどくさそうなことに!?
この異世界の物語はハーケルンの街から開きましたので、
やはりそのハーケルンの街で〆るのが道理でしょう。