第七百十六話 ぷちっ
また熱が出た。
毎年この時期だな・・・。
今回は飲みにも行ってないのだけど。
今回すでに下書きしてたからなんとかなったけど、
見直しあんましてないので・・・。
<視点 ケイジ>
ポンっと飛び出てきた妖精ラウネ。
瞳孔のない薄紫色の瞳と、緑銀の長い髪の毛を除けば普通の幼女にも見える。
けれども体内に魔石を有する歴とした魔物だ。
ここから逃げ出したりしないとは思うが、
念の為に着地する前に捕まえておく。
両腕でガッチリとな。
・・・あ、オレに牙向けて
「がるるるるるるるる!!」
こいつ植物系の妖精だよな?
しかも口からは飲食しない筈だよな?
なんで牙って・・・いや歯が生えてるんだろうな。
まあ、今はどうでもいいか。
「酷いのじゃ酷いのじゃ酷いのじゃ!!」
あ、今度は涙目で首を左右に!
それやるとお前の髪の毛がぶわっ!?
緑色の髪の毛で往復ビンタ喰らったからというわけではないが、
落ち着かせるために一度ラウネを地面に立たせる。
「いきなり連れ出したのは悪かったと思ってる。
どうしてもお前の力を借りたくてな。」
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃあ!!
どうして人間の争いごとにラウネが付き合わねばならぬっ!!」
いや、ほんとにその通りなんだよ。
まあ口で言って分かってもらおうなんて思ってはいない。
だから。
「どうだ、ラウネ、おなか空いてるよな?」
眠らされていたとはいえ、何日も箱の中の土からしか栄養取る手段なかったからな。
「・・・う、うむ!
ひもじいっ! お腹空き過ぎて死にそうなのじゃ!!
何か食べさせてくれるのかっ!!」
「ああ、活きのいい若い男を6人用意した。
見ろ、彼らがお前の相手をしてくれる。」
そこでラウネはオレの視線を追いながら、
ストライド達「銀の閃光」のみんなをロックオンした。
・・・すまないな・・・。
「ふおおおおおっ!!
ごちそうじゃああああああああっ!!」
どうやら気に入ってくれたようだ。
オレの心の中の良心がズキズキ痛む。
けれどこれは仕方ない話なんだ。
「ケ、ケイジさん、もしかしてさっきオレたちに相手して欲しいって言ってたのは・・・。」
そりゃ流石に気づくよな、ストライド。
「ああ、騙したようで済まない。
実はこの子は人間じゃないんだ。
だが見ての通り意思疎通はできるし、
人間に危害を加えないように躾けてある。
どうかみんなで一晩この子の相手をしてもらえないだろうか?」
ここでストライドたちに断られるのが一番不味いんだがな。
「そ、そんなん決まってますよ・・・。」
む・・・
それは、どっちの・・・
「この子はオレたち『銀の閃光』が誠心誠意おもてなしするっす!!」
他の5人からも歓声があがる。
いいのか。
本当にいいのか。
すまん、ストライド、すまん、みんな。
既に魔法使いのバレッサから、
すごい汚いものを見るかのような視線がストライドたちに浴びせられているぞ。
それも含めて申し訳ないと思う。
多分双方に誤解があるはずなんだけどな。
ここにはそれを解いてやる余裕もないのだ。
「それでラウネは何をすればよいのじゃ?」
そうだ、本題にはいらないと。
今もリィナやファリアが時間を稼いでくれているのだから。
「見えるか?
向こうでリィナたちが戦ってる魔物がいるだろ?
異常進化個体だというトロールハイマジシャンだ。
あいつを仕留めるのにちょっと協力してもらいたい。」
「・・・ふん?」
妖精ラウネは魔物だけあって、
敵の強さや脅威度に敏感だ。
オレ達とは違う視点を持っているとも言える。
「・・・なかなかの魔力持ちじゃな。
しかも再生スキルまで?
普通に戦ったらラウネは勝てんぞ?」
その割にはいつもみたいに怯えてないな。
「・・・それはじゃな、
あれ・・・ほおっておけば良いのでは?
恐らく後数日で寿命をむかえそうじゃぞ?」
「なんだとっ?」
「ラウネのしたことではないが、以前のワシが人間を何度も何度も実験してたからのう、
必要な臓器は足りてる筈なのに、どんどん死が近づいてきている感覚はそっくりじゃ。」
お前なんて恐ろしいことを・・・
いや、こいつとは別個体扱いなのか。
こんなところで全くの予想外の事実が出てきたぞ。
・・・いやだが、しかし。
「ラウネ、それが事実だとしても、ここから安全に帰るにはあのトロールハイマジシャンにトドメを刺していかなきゃならないんだ。
じゃないとオレや仲間たちに犠牲が出るかもしれない。」
「しかしの、あれではいくらラウネでも」
そこへアガサがやってくる。
「ラウネ、心配無用。
魔力を使うのは私のみ。」
「ほへ?」
そうらしい。
あくまでこれから術を使うのはアガサだけなんだ。
そう、この場はアガサが今まで披露する機会のなかった最後の術を知らしめるところなのだ。
本来それは攻撃魔術でもなんでもない。
どちらかというと生産系魔術。
植物系妖精であるラウネがいてこその術法。
従ってアガサにとっては滅多に試す機会すらない、宝の持ち腐れ魔術なのだ。
「ラウネは私の魔力に身を委ねるだけで十分!
『生命の始原たる樹木よ!
その迸る息吹と慈しみの祝福、今こそ汝らの苗裔に注ぎ給え、巨木化魔法ドリアテ』!!」
おっ?
確か基本術「グロウ」と「バインバインド」の時は詠唱省略したはずだ。
流石に木術最終魔法、アガサとて詠唱を省くわけにはいかないというわけか!
そしてオレも初めて見るその効果は!!
「お? お?
ラウネの体の中に膨大な魔力が・・・!?
す、凄いのじゃ!!
か、体がムクムクと・・・おおおおおっ!?」
「え?」
「え?」
「え?」
「「「「ええええええええっ!?」」」」
みんな、
そんな無防備に天井見上げ続けると首が伸びるぞ?
まあ、オレは話だけは聞いていた。
だからそこまでの驚愕はない。
けれど、ここまでの話の流れすら理解の及ばない他の皆んなは・・・
「ふおおおおおおおおおおおっ!?
わはははははっ!!
人がっ!!
みんな、ゴミのようじゃあああああっ!!」
あれよあれよという間に2メートル、3メートル、5メートルと大入道のように巨大化する妖精ラウネ。
いや、もうどっからどう見ても、妖精だなんて可愛らしい存在ではない。
確かに姿かたちはそのままなんだけどな。
これ、でも、ラウネがその気になったらオレたちをも攻撃してこないよな?
「その点も心配無用、ラウネにも宣言、
今の状態はこの私が魔力を継続的に注ぎ込んでいるからこその巨大化、
私に何かあっても、私が自らの意志であっても、魔力供給が止まれば元の体格に戻ってしまうと承知すべき。」
「う、うむ、そうなのか、
ちょっと残念、いや何でもないぞ、
そ、それでラウネの役目はっ!!」
・・・ちょっとラウネの反応が不穏だが仕方あるまい。
どちらにしろアガサのコントロール下にあるなら安心しておこう。
そして!
当然戦闘続行中の最前線でも!!
「う、うわあ、あっ、
さっきのベルちゃんの術で天井高くなっちゃったから、予定よりも遥かにおっきく・・・」
いつの間にか、リィナがベルちゃん呼びしている。
まあ、可愛いからいいだろう。
・・・いや、可愛いと言ってるのはリィナの方だからなっ?
「はあああああっ!?
なんだい、あのばけものおおおおおっ!?」
いいからファリアもリィナも戻れ。
そこにいると巻き添え喰らうぞ。
「ぶももももももももももっ!?」
すまん、トロールよ、
お前は何言ってんだかわからん。
あ、アースウォール作りやがった。
なるほど、身を守る盾として妥当な考えかもしれない。
・・・けど無駄だよな。
改めて言うが、この魔法の本来の目的は樹木の巨大化。
普通に考えても、使い所はりんごとか桃とかの木を大きくさせたら、実になる果実も巨大化するってことで、食糧事情の厳しい土地では持て囃されるかもしれないというだけだ。
一応、魔力供給を止める前に収穫すれば、
実の大きさはそのままになる?
らしい?
どんな理屈で?
アガサによるとステータスウインドウの魔法説明にそう書いてあるんだから仕方ないと言う話だ。
うむ、なら仕方ないな。
さて、状況説明を続けよう。
巨大妖精ラウネはすでに獲物をロックオン。
トロールハイマジシャンはせめてもの抵抗に、アースウォールを自らの盾として作り出すも、
この礼拝堂全てを満たすラウネの哄笑は留まるところを知らない。
「そぉーれぃ、なのじゃっ!!」
片足を上げるラウネ。
トロールハイマジシャンの位置から見たらワンピースの中身も見えるかもしれない。
まあ、トロールがそんなもん見て興奮するかどうか知らないが。
「ブモモモモモモモモモモモッ!?」
うん、どんな抵抗しても無駄だと思うぞ。
もうその位置からだとどんな呪文撃ったところで、自分にも被害がっ
て
ああああ
巨大妖精ラウネの足が、
アースウォールの壁を積み木でも崩すように踏み潰し、
そのまま
ぷちっ
うん、
まさに虫でも潰すかのように足を踏み下ろして全ての戦いは終わった。
全身潰されたら如何なる再生能力を持っていてもどうしようもないものな。
みんな、お疲れ様。
さあ、帰ろう。