第七百十四話 ベルリンダのユニークスキル
まあ、今回はみなさま早い段階でお気づきかと。
それと槍使いエスターの名前が登場二回目から変わっていたのに昨晩気づきました。
こっそり直しています。
エスター
「どうせ影が薄いんだよ、私は・・・。」
邪龍戦ではパーティーリーダーより活躍してたのに。
<視点 ケイジ>
なんだ、アイツ!?
聖騎士スキル「シャイニングソード」!?
そしてその後に聖騎士にクラスチェンジ!?
そんでもって更に更に僧侶職にしか使えない回復呪文まで使いやがった!
おかしいだろ、順番的にもよ!
いや、確か聖騎士になると回復呪文も使えるという話は聞いた事がある。
順番のおかしさは解消しないが、
そこまで摩訶不思議なことでも・・・
そこまでオレは思考した後、
どうしても記憶の底から浮かび上がってきた過去を思い起こさずにはいられない。
あれもダンジョンといえばダンジョンなのか、
真っ暗闇の中でアガサのライトが照らしていた邪龍ヌスカポリテカの本拠地、
あそこでオレたちを待ち受けていた三人の過去の冒険者たちの成れの果て・・・
あのウチの一体がレックスと同じような聖騎士だったよな。
もちろん顔なんかミイラ状態だったし、眼球もなかったから、アレがレックスと似ているとかなんて比較も出来ないが。
そう言えば他にも確か舞踏戦士とか神殿騎士とか・・・
いるよな、ここにも。
それっぽいのが。
まさか、そんな偶然なんて・・・
「ちぃっ!
こいつが最後の前衛だってのに!!」
いかん、そんな事考えてる場合じゃないな。
テラシアが苦戦・・・
というか見るからに焦っている。
無理もない。
もともとトロールファイターはエリアボス扱いなのだ。
さっきは上級職三人がかりで相手していたから圧倒できたのであって、
いくらファリアの援護があっても、ただの剣士であるテラシアには荷が重い!
オレが手伝いにいってもいいが、
いまだ最大の脅威であるトロールハイマジシャンからマークを外すわけにもいかない。
アガサは!?
現状この場でリィナを除けば最大火力の持ち主だ。
・・・いや、無理だな。
この戦いの中でオレも多少の自覚がある。
圧倒的に連携が拙いのだ。
特に前衛のアタッカーと後衛の遠距離担当の連携が悲劇的だ。
もともと「デイアフターデイ」には遠距離攻撃担当がいない。
テラシアとバレッサについては同じパーティーだけあって息のあった連携を見せてくれたが、それ以外はてんでお話にならない。
恐らくアガサもそれを十分理解している。
だから彼女は今回、ほとんど攻撃に回っていない。
まあ、理由はそれだけじゃないがな。
アガサは切り札を温存している状態。
その切り札もオレたちが前にいたら使えないしな。
だから最後のトロールファイターは、
今の前衛連中だけで片付けねばならないのだ。
「おっぱいねーちゃん!
オレたちが手伝ってやろうか!?」
レックス!
あのバカ!!
確かにそれが一番手っ取り早いが、
仮にも女性のテラシア相手になんて声の掛け方しやがる!
いくら女性に対しデリカシーが足りないと言われてるオレでも今のは酷いと思うぞ!!
ほら、みろ!
ガラダスもエスターも頭抱えてるだろ!!
「連携取れないヤツに来てもらっても邪魔なだけなんだよ!!
下品ヅラは黙ってな!!」
言うな、テラシア。
下品な口は分かるが下品ヅラってなんだ?
「わりぃな、巨乳お姉さん!
アイツああいうヤツだからさ、
代わりにここはあたしに任せなっ!」
「・・・もう、なんとでも呼べっ・・・
あっ!? おいっ!!」
その言葉と共にファリアが特攻!
それを黙って見ているトロールファイターではない!
横薙ぎからの剣の振り回し!
避ける術なんて
なんだあいつ!?
軟体動物かっ!?
振り払われる剣の動きに合わせて体を反り返して・・・
リンボーダンスみたいっていうのか?
そのまま剣を潜り抜けたっ!?
すぐさまファリアは体を起こし・・・
今なら
「そおりゃああ『ハンドレッドエッジ』!!」
「グボオオオオオオオオオオッ!?」
ファリアの得意技!
彼女の細剣がトロールファイターの体のあちこちを切り刻む!!
ただ・・・
これがゴブリンやコボルト程度なら一瞬で決まるのだろうが、
体格の大きい・・・
体力も耐久力もずば抜けているトロールファイターには決定打にはなら・・・
「テラシアさん!
『全てを焼き尽くす炎よ、我が槍となりて敵を貫け! ファイアーランス!!』」
オレの後方からバレッサのファイアーランス。
今度はテラシアの体を使った目眩しは必要ない。
今この瞬間、トロールファイターにこれを避けきる力は残っていないだろう。
せいぜい盾をかざしたところで・・・
「いいタイミングだよ、バレッサ!!」
バレッサの呪文に合わせてテラシアが飛ぶ!!
先ほどの槍使いエスターほどの高さではないが十分だ。
「グギャオオオオオオッ!!」
トロールファイターが悲鳴を上げたのは、バレッサのファイアーランス!
いくら金属の盾とはいえ、不純物混じりの粗悪な鉄製か、バレッサの炎はその盾を溶かし貫き、トロールファイターの左腕を完全に焼き殺したのだ!!
そして大上段からテラシアの
「うおああああああああああああああああっ!!」
バスタードソードによる脳天真っ二つ。
終わった。
最後のトロールファイターが倒れた。
頭をかち割られては悲鳴さえ上げられまい。
とはいえトドメを刺したテラシアもいっぱいいっぱいだ。
大きなケガはしてないが、
体力を使い果たしたのだろう、
テラシアは着地してから、肩で息をしているだけでほとんど動けない。
でかした! 後は任せろと言って駆け寄ってやりたいが・・・
む?
ついにトロールハイマジシャンに動きがあった!
魔法を放つつもりか!
だがこのオレがそれをさせると思うな・・・
ってアイツ何を?
自分の死んだ仲間の元へ駆け寄り
いや、死んでるよな!?
回復呪文でもかけるわけじゃないよな!?
けれどアイツ呪文の詠唱始めてるぞ!!
・・・違う!
そうじゃない!
トロールハイマジシャンの狙いはあくまでオレたちだ!!
ならオレの弓で・・・
うっ
撃てない!!
そ、そうか、ヤツが仲間の死体に駆け寄ったのは、仲間の体を自らの盾にするためか!!
無理に矢を射ってもこの角度じゃ死体にしか刺さらない!!
「全員退避!!
テラシアの保護も!!」
両手が塞がってるオレはテラシアを助けに行けない。
けれどガラダスたちがなんとかテラシアを引っ張ってこれた。
だがそんなことをしてる間にトロールハイマジシャンは呪文の詠唱を終わらせてしまうぞ!?
ていうかオレでも分かる。
これだけ長時間の詠唱が必要だというならば
それは
「土系最大範囲殲滅呪文。」
アガサの死刑宣告を思わせる無感情な一言。
オレにも分かるぞ。
オレたちの頭上に突然現れた魔力の圧倒的な存在感。
「ストーンシャワー」。
アレを落とされたらベルリンダのプロテクションシールドなど何の役にも立たない。
即死さえ免れれば彼女の回復呪文で生きながらえることは出来るだろう。
だがベルリンダ自身がそれで息絶えればオレたちの命も終わる。
トロールの言葉などオレたちには分からない。
だが、ヤツは最後に笑った。
後は魔法の名前さえ言えばこの大量の岩の塊がオレたちに降り注ぐのだろう。
絶対絶命。
こんなところでオレたちが終わると言うのか?
アガサなら?
そう、アガサならこのまま呪文を放てばトロールハイマジシャンもただでは済むまい。
ただ、それは相討ちを意味するだけ。
じゃあオレたちは終わりなのかって?
・・・いやいや、
さすがに鈍いオレでも分かってる。
確かにオレはここにいるヤツら、
他のパーティーメンバーとの連携は取れていない。
だが、幾多の戦いを共に経験してきたアガサのことはよく分かっているとも。
全て彼女の描いた絵図通りだとね!!
「ベルリンダ殿。
今こそ貴女のユニークスキルの出番!」
「は、はい!
でも・・・まだ実戦で使ったことなんて一度も・・・
いえ、行きます!!」
ベルリンダのユニークスキル!?
そんなもん隠しもって・・・あ、いや、
そうだ、
彼女なら・・・
期待してるぞ!
オレでも気付いた彼女の正体なら・・・!
「気付くの遅いよ、ケイジ。」
すまん、リィナ。
「『あまねく世界に満ちる銀河の星々よ!
その欠片を捻て破魔の鎖を紡ぎ給えっ!!』」
ベルリンダの口から溢れ出る、
今まで聞いた事もない呪文の詠唱。
驚いたのはオレたちだけじゃない。
トロールハイマジシャンもベルリンダが何らかの魔法を使うのが分かったのだろう。
今まで勝利を確信し、余裕ぶっこいて呪文の最後のフレーズを放つのを溜めていたようだな。
慌ててヤツも「ストーンシャワー」を起動する。
このままならオレたちはお陀仏だが・・・
「『ホーリー・・・チェーン』ッ!!」
恵子さん
「惠介にリンボーダンスなんて見せた覚えなんかないんだけど・・・。」
陽向さん
「ごめん、惠ちゃん、
あたしと梨香ちゃんで教えちゃった!」
恵子さん
「陽向ちゃん、なにやってんのっ!?」