第七百十二話 膠着
おおっ、ポイントが上がってる!?
これはまさか評価!?
どうもありがとうございますーーー!!
<視点 鉄壁のアルデヒト>
想定外だった。
・・・まあ、想定外の事態なんていつどこでも起きる。
かつて、メリー一人で殲滅させたゴブリン集落の時もそうだったし、
今回も、
そして・・・まさかアマリスがウチのギルドで働き出した時からオレのことを・・・
なんてものもな。
いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
目の前のことに集中せねば。
この最後のエリアにて現れたエリアボス含むトロールの一団、
ケイジ殿からその構成は、トロールファイター三匹とトロールマジシャンであることは既に聞き及んでいた。
この段階でおかしいとは感じていたが、
今オレの目の前にいる冒険者パーティーの実力を考えれば、それほど深刻な事態になるとは思っていなかった。
何しろこの地上において、最凶最悪の存在と言われていた邪龍を倒したメンバーのうち、三人がここにいるのだ。
さらには前回のスタンピードから頭角を露わにした急成長パーティー「デイアフターデイ」。
その二つが、揃っているだけで過剰戦力とも言える陣営なのだ。
負けることはおろかピンチになる要素が見つからない。
しかしアガサの鑑定が告げたのは恐ろしい事実。
異常進化個体。
オレだっていままでそんな存在、お目にかかったことすらない。
すなわちトロールハイマジシャンだという。
何が恐ろしいのかだと?
ただの魔法が使えるというだけの魔物なら、
使ってくる魔法なんて基本攻撃魔法か、
やっとのところでランス系の高威力魔法だけだ。
それも魔力量からしてもそう何度も使えない。
けれどハイマジシャンともなると、
詠唱破棄だとか、融合魔法、果ては範囲殲滅魔法まで使ってくる可能性が出てくるのだ。
実際、先に例を出したゴブリン戦の時は、ゴブリンメイジはファイアーボールとファイアーランスを使っていたよな。
すなわちあれが限界なのだ。
そしてあの時点ではこちらの人間側に僧侶がいなかったから、メリーが一人で魔法を食らっていたが、
考えてみればあれも本当にオレ達は幸運だったよな・・・
今回こちら側にはプリーステスのベルリンダ殿がついている。
彼女の防御呪文があれば、メイジ、マジシャンクラスの攻撃呪文など恐るるには足りない。
メイジ、マジシャンクラスの、なら。
だがハイクラスの魔法使いとなると話が変わる。
特に範囲殲滅魔法なんて使われたらプリーステスクラスの防御呪文でも防ぎきれないからだ。
即死さえ免れることができれば、彼女の治癒魔法を期待できる。
だから絶体絶命というまでの事態ではない。
ただ、ここから先、
一瞬の油断も許されないと言うだけの話。
例えばその回復・防御の要、ベルリンダ殿に万一のことがあれば、
たとえこの戦いに勝利できたとしても、取り返しのつかない犠牲が出ることも有り得るのだ。
それだけは絶対に避けなければならない。
もっともそのベルリンダ殿は、同じパーティーのランドラード殿が完全に守り切る位置に付いている。
ランドラード殿の装備と技量なら任せても大丈夫だろう。
・・・直線的な攻撃に限って言えばだが。
オレの方はアガサを守ればいいだろう。
バレッサもそのすぐ後ろにいる。
ストライド達も防御面では不安が残るが、基本的にあいつらは戦闘には一切参加しない。
この礼拝堂の入り口付近まで下がっていれば大怪我を負うような事態も防げるだろう。
けれど油断は禁物だ。
他にどんな想定外が起きるか分からないのだ。
頼む、
慌てる必要などないから、
一匹ずつ、確実に仕留めていってくれ!
実際のところ、今の段階では、どの局面においてもこちらが優勢に見える。
正面の斧使いのトロールには勇者リィナ殿が終始優勢だ。
あの雷を帯びた剣が、トロールの再生効果を全て減退させている。
一方、右側の槍を使うトロールの方は、
当初こちらの戦力過多に見えたが、
実際はそこまで余裕はない。
「『瞬斬』!」
槍使いトロールの太ももから大量の血飛沫が舞う。
普通ならあれでもう歩くことは出来ない。
だが。
「ああ、やっぱり剣筋が鋭すぎるのか、
あっという間に再生されてしまう。」
「デイアフターデイ」のリーダー、ガラダス殿のクラスはソードマスター。
冒険者身分でそうそう成れるクラスじゃない。
その技量を持ってすれば大抵の魔物の体を切り裂ける。
それがここへきて良くない目が出てしまってる。
傷口が綺麗すぎてあっという間に塞がってしまっているらしい。
恐らくあの三人の中で最もダメージを与えることができるのが、こちらも同じ槍使いのエスター殿だろうが、
トロールもそれを充分わかっていて、
自らの防御と警戒を最大限レスター殿に向けている。
このままでは長期戦となるだろう。
意外と善戦しているのが左側。
剣と盾を装備したトロールファイターに、
テラシアとファリア殿の女性二名で迎え撃つ。
ただこちらも再生スキルと盾まで持っているせいで、なかなかダメージが入らない。
すると
「テラシアさん!」
オレのすぐ横から大声が響く。
「ファイアーボール!!」
な!?
バレッサがこんなところからファイアーボールを放った!!
その先にはテラシアの背中!
あれでは
「よっ!!」
まるで背中に目があるようにテラシアが身を捻った!?
当然そうなると
「ブモオオオオオオオオッ!?」
バレッサのファイアーボールがトロールファイターを直撃!
火魔法による火傷ならすぐには再生できない!
「ひゅうぅ、やるねぇ、さすがは同じパーティーだ、連携もバッチリだねぇ。」
そう言いながらも、ファイアーボールで態勢の崩れたトロールファイターに、軽戦士ファリア殿が下半身に幾筋もの傷を刻んでいく。
うむ、ここからあの位置までは距離が開いていたからな。
普通に魔法を放っただけでは避けられてしまうと判断しての戦法か。
これならなんとかトロールファイター三匹は何とかなるか?
となるとやはり警戒すべきは
むっ?
いつの間にかケイジ殿が、武器を剣から弓に変えていた!
間違いない、
狙いはトロールハイマジシャンか!
そしてトロールハイマジシャンもケイジ殿の動きを警戒している!
迂闊に魔法を撃とうとしたら、その前にケイジ殿が矢を放つというわけだな!
この状況、
簡単に言えば遠距離攻撃同士が睨み合い、
そして前衛同士が削りあいの勝負をしているということだな。
そして削りあいにおいてはこちらが押している。
ならば時間の問題!
このまま押し切れば勝てる!!
「いやあ、それだけじゃ勝てねーんだよなっ!」
なんだとっ!?
右サイドで戦っていた「デイアフターデイ」の騎士レックスが
戦線を離れて奥のトロールハイマジシャンに向かった!?
「ガラダス! エスター!!
トロールファイター一匹程度、お前らなら何とでもなるよなあっ!!」
なんて事を!
確かに魔法使いを倒すにあたって、
その前衛を抜き去れば倒すのは容易い!
だがそれは前衛陣を打ち倒せてからの話だぞ!?
それに
いや、そもそも
「バカっ!!
レックス!! お前がそこに走ったら!!」
ケイジ殿の怒声。
ああ、そうとも。
相手がトロールの一団だろうと戦力はこちらの方が上。
それがそもそもの勘違いだった。
違う。
いくら勇者を含むパーティーでも、
Aランク昇格間近のパーティーでも、
連携が取れていなければ意味はないのだ。
そこに隙が生まれ、敵がそれを見過ごすはずもなく。
傷だらけのトロールファイター同士が身を寄せ合う。
射線が塞がった。
もうケイジ殿の弓はトロールハイマジシャンを狙えない。
一直線に向かってくるレックス殿に向けて、トロールハイマジシャンは杖を掲げる。
「へっ、無駄だよ、
『シャイニングソード』!!」
シャイニングソード、だと!?
そのスキルは・・・
確か・・・聖騎士のっ!?
この世界の聖騎士スキル「シャイニングソード」は、
別物語のアーサーがタケル戦で使っていたエクスカリバーの技とほとんど同じです。
ただし聖剣エクスカリバーの真価はまだありまして、
それこそアンデッドを全て消し去るような技も持っています。
この世界でアルツァーが持っているユニークスキルがそれに当たります。