第七百十話 異常進化個体
<視点 ケイジ>
ようやく敵の姿がはっきりしてきた。
なるほど、礼拝堂という雰囲気はある。
アガサのライトは要らないようだ。
部屋の壁に燭台が飾り付けられている。
こちらからはその光が、やや逆光になっていて、毛むくじゃらのトロール達の姿は・・・
うん?
いや、待て。
これまでの知識では、一般的なトロールは素手か、もしくは攻撃に投石を使うくらい、
そして武器を持つものは棍棒くらいだと聞いていた。
金属の武器を用いるのはトロールファイター以上。
アルデヒトの話から、エリアボスとしてトロールファイターがいる可能性は聞いていた。
だが、エリアボスなら金属の武器持ちがいるとしても一匹だけだよな・・・。
おかしい。
奴らの数は全部で四匹。
全員オレ達を睨みつけて今にもこちらにおそいかかってきそうだ。
まあ、それはいい。
こっちは既に万全の態勢だ。
このまま突撃して来られても対応できる。
問題は、
何故やつら・・・四匹中三匹まで金属の武器を装備してやがる?
剣に、槍に、斧!?
それに奥にいるやたらとゴテゴテした装身具を身に付けたトロール。
持っているのは武器ではないぞ?
どう見てもあれは杖だろ。
ということは魔術士?
トロールマジシャンか!
まずい!
三体の巨体のトロールの体格に隠れて、杖を掲げたマジシャンの姿をオレのイーグルアイは捉えていた!
呪文を詠唱している!!
オレは振り返って───
いや、既にアガサが指示を出していた!!
「ベルリンダ!
ホーリーウォールを!!」
「はっ、はい!
『聖なる光よ、ホーリーウォール』っ!!」
オレ達一団それぞれの前に現れる光の盾。
さすがだな、
ベルリンダならホーリーウォールも使えるだろうとは思っていた。
それどころか、詠唱も途中省略したよな。
一瞬の判断が生死を分ける魔物との戦闘では、詠唱を省略して魔法を使えることは非常に心強い。
これなら相手がトロールマジシャンとて・・・
一方、首を戻したオレの眼前に炎の槍がっ
「うおおおおおおっ!?」
いやっ、熱くないっ!!
熱気は感じるがダメージもないぞ。
ベルリンダが発生させたホーリーウォールが、敵のファイアーランスを食い止めたのだ。
魔法を遮られてヤツらも戸惑っているだろう、
この隙に獣騎士スキル「咆哮」!!
エリアボス含めトロールどもの足が止まる!
「たりゃああああああああっ!!」
そのままリィナが斧持ちのトロールファイターを切り裂いた!!
天叢雲剣を帯電させている!
体が大きいから致命傷にまで至らないが、そう簡単には再生出来まい!!
・・・おっと
仕方ないと言えば仕方ないか、
オレの咆哮で味方連中まで一瞬動きが止まってしまった。
まあ、我に返るのはトロールよりかは早い。
「・・・と、びっくりしたね、
僕らは右手の槍持ちを相手にするよっ!!」
あっ、オレが行こうと思っていたのに、ガラダス、エスター、そしてやや遅れてレックスが駆けて行く。
ウォーハンマー持ちのランドラードは後ろの一団の護りを務めるか。
あと、戦闘要員ではないにしても、ギルドサブマスター、アルデヒトも盾を持っている。
それで礼拝所の入り口付近を固めていれば、トロールマジシャンの魔法は届くまい。
オレはならばと切り替え、今一度、前方に注意を向ける。
真ん中はリィナ一人で十分だろう、
となると、左側にいる剣と粗末な盾を持った・・・
「あたしの出番さね!!」
テラシアああああああああああっ!
お前までいくのかよっ!?
いや、確かにお前はそこそこ剣技に自信を持ってるんだろう。
それなりに経験も積んでいるだろう。
けど流石にトロールファイターに対マンなんて・・・
「ははっ、じゃああたしが手伝ってやるよっ!
よろしくね!
おっぱい大きいお姉さんさっ!!」
おっ?
踊り子軽戦士ファリアがテラシアの前に躍り出た!!
身軽な動きで敵を振り回すつもりか!!
・・・意外といい組み合わせかもな。
テラシアのバスタードソードを警戒すればファリアに体を切り刻まれる。
ファリアの細剣に気を囚われれば、テラシアの攻撃で大ダメージだ!
「・・・いや、助かるっていいたいけどさ、
女性のあんたまであたしを巨乳呼ばわり・・・」
そっちの話は少しだけ興味あるけど聞こえないフリをしよう。
迂闊に反応してまたリィナから本物の雷を落とされかねない。
「細かいことはいいっこなしさっ!
それよりこの戦い終わったら、その胸いっぱい揉ませてもらうよっ!!」
「そこは一杯おごってもらうって言うところじゃないのかいっ!!」
大丈夫だ。
幾千の荒波に揉まれぬかれたオレのスルースキルはこんな事で揺るがない。
恐らく右側の斧持ちトロールに対しては、「デイアフターデイ」の3人でどうにかなるだろう。
何しろ同じパーティーだ。
連携の繋ぎやらタイミングを合わせるのにも苦労しまい。
それに野郎同士だものな。
オレの心配など一切要らないだろう。
リィナもトロールファイター一匹ならいくら再生持ちだとしても問題ないよな。
ならばオレが気をつけるのは急拵えのテラシア、ファリアコンビと、
奥にいるトロールマジシャン!!
次にまた呪文を放とうとしてみろ?
今度はベリアルの剣の衝撃波をお見舞いしてやる!!
「ケイジ!!」
ん?
戦闘が始まったというのに後ろからアガサの声。
オレは前方への視線を切らさず後ろに意識を向ける。
「どうした、アガサ!?」
何の話をするつもりだ?
テラシアやガラダスたちが最前線に向かったのは、少し予定と異なるが想定外というほどのものでもない。
なのに一体・・・
「厳重警戒!!
たった今鑑定実施!!
奥にいる個体の種族がトロールマジシャンと見做すのは禁止!!
魔力もレベルも桁違い!!」
なんだとっ
次の瞬間、
なんの呪文も魔法の動作も行っていないのに
燃え盛る石弾が
ベルリンダの防御フィールドを貫いた!!
「「「「「うわあああああああああっ!?」」」」」
それでもダメージ軽減効果で、致命傷に至るものはいないはず。
見たところ「デイアフターデイ」の男衆、及びテラシアが攻撃を喰らったが、
戦闘態勢は崩れてないし倒れた者すらいない。
となると痛みよりも驚愕による悲鳴が中心だろう。
それにすかさずベルリンダがエリアヒールをかける。
ベルリンダ自身はランドラードが完璧に防いでみせていたな。
アガサの方もアルデヒトが盾代わりになってくれていた。
ちなみにリィナとオレもだが、踊り子軽戦士のファリアも器用に避けていた。
それこそまるで舞でも踊るようにな。
そこはさすがと言いたい。
だが・・・
今のは?
ファイアーボールならベルリンダのホーリーウォールを貫くことなど出来ないはずだ。
けれど今の攻撃は、ホーリーウォールでなくプロテクションシールドの方を破ってきたぞ?
プロテクションシールドを破るとなるとストーンバレット?
でも思いっきり燃え上がっていたよな?
まさかストーンバレットに火術が組み合わされていた!?
嘘だろ?
そんなことがエリアボスだろうとしても、ただの魔物に出来るのか?
ああ・・・
・・・やれやれ、
何やってんだろうな、オレは。
オレの疑問や思考など、無駄以外の何物でもなかったじゃないか。
何故なら、既にアガサがヤツの正体を看破していたのだから。
「ケイジ!!
あのエリアボスは異常進化個体!!
種族名はトロールハイマジシャンっ!!」
トロールハイマジシャン?
なんだよ、異常進化個体って。
どうやら最後まで本当に楽はさせてくれないらしい。
僧侶系習得呪文一覧
多分こういった設定のはず。
クレリック
Lv1:ヒール
Lv2:ピュリファイ
Lv3:プロテクションシールド
Lv4:ホーリーウォーター
Lv5:ホーリーシャイン
プリースト
Lv1:ハイヒール
Lv2:エリアヒール
Lv3:ディスペル
Lv4:マインドプロテクション
Lv5:ホーリーウォール