第七百九話 トロール
今回エリアボスと会戦と書いたな。
それは嘘だ。
すいません、その直前まででご容赦ください。
<視点 ストライド>
ああ、むかつく・・・。
あ?
なんでそんな機嫌悪そうなのかって?
決まってんだろ、
さっきのアルデヒトの言動だよ。
精一杯取り澄ましていたようだが、
オレにはわかる。
・・・めっちゃデレついていたよな。
まるで「オレって実はモテるんだぞ」と必死でアピールしたかったのを抑えていたようだ。
まあ、自分でもそんなことを吹聴するガラじゃねーとは自覚してたんだろうがな。
嫉妬?
ありえねー。
別に腹の中にドス黒いもん抱えてそうなアマリスが誰と付き合おうが構わねーよ。
あ?
じゃあなんで他人の色恋沙汰にイラついているのかって?
・・・まあ、そう言われりゃあそうなんだけどよ、
じゃあ・・・
キャスリオン様はどうなる・・・
多分だが、あの二人は、
それこそ他人が間に入ることも躊躇われるような微妙な関係でバランスを取っていた。
もちろんそれは恋愛感情とは微妙に違うのかもしれない。
でも間違いなくそれでバランスは釣り合っていたんだよ。
それが一気に崩れた。
もちろんオレがアルデヒトの女関係に文句を言える筋合いなんかないと分かっている。
冒険者としても、ギルドの中の人間関係なんか気にする必要もない。
適正なクエストとクリア時の達成金、
それらを保障してくれるならなんだっていい。
・・・いや、でもよ。
キャスリオン様はいつも真剣にオレ達冒険者のことを考えてくれていたよな。
オレはそんなキャスリオン様が悲しむような顔になるのを見たくない。
第一、たとえ一夜の過ちとはいえ、あの晩、本気であの人を抱いた。
だったらオレがあの人の力になりたいと思うのは当然だろう?
とはいえだ。
オレに何が出来るんだろな?
前みたいに一緒に酒を飲んだり話をするだけなら出来る。
・・・それだけかよ。
ああ、だから余計にイラついてんのかもな。
流石にアルデヒトやアマリスをギルドから追い出したところで、そんなことして困るのはキャスリオン様だものな。
オレらでギルド職員の仕事出来るわけでもないし。
「ふぅ、・・・どうした、ストライド?
最近、なんか思い詰めてる顔が多いよな?」
「あ?
ああ、すまん、ヒューズ、
ちょっと色々あってなあ、
まあ、お前らには迷惑かけねーぜ。
・・・それよりケイジさんから預かってる背中の荷物大丈夫か?
重かったら代わるぞ?」
「あ、ああ、これかあ、
さすがにそろそろ辛いが、このエリアで最後だろう?
ケイジさん達がエリアボス倒すまでは担いでみせるよ。
代わってくれるっていうんなら、帰り道は任せてもいいか?」
「おお、分かった、任せとけ。」
まあ、今回のダンジョン探索はいろいろ刺激もあったが、普段じゃぜってぇ経験できねーもんもたくさんあったよな。
ベルリンダちゃんもすっげー可愛いけど、さすがに「デイアフターデイ」でお姫様扱いされてるというだけはある。
あの男衆のガードを突き破って仲良くすることは困難だ。
そう、それだけが悲しい。
とはいえ踊り子戦士のファリアちゃんは結構イケるしな。
口は悪いけどあの弾けるようなボディーは最高だ。
たまんねぇ・・・!
ま、実際はアレで意外とガード硬そうだけどな。
飲み屋で一緒に騒ぎまくる分には楽しめそうだ。
「ストライド・・・。」
「ん? どうした、ジル?」
「みんなも気をつけろ?
ケイジさんたちの動きに緊張感が出てきた。
魔物の気配が近づいてるのかもしれない。」
お?
そいつはやべーな。
まあ、オレたちは邪魔にならないように後ろに控えとかないとな。
このエリアのメインの魔物はトロールらしい。
オレたちでもダメージを与えるだけならできるだろう。
・・・でもなあ、
そいつら再生すんだよな?
「エスター、今回は僕らは・・・。」
「私はやめといた方がいいと思う。
ランドラードとレックスならイケるかな?」
意外だな?
さっきあれだけの活躍を見せた「デイアフターデイ」のリーダー、ガラダス達が弱気なセリフを吐いていやがる。
いっちょ、聞いてみるか。
「アンタらの腕ならトロール相手でも楽勝じゃねーの?」
「いやあ、正直ダメージを与えるだけなら簡単だと思うよ。
けど再生持ちとなると今ひとつ相性がね・・・。」
ふうん、そういうものなのかな。
まあ、でもケイジさん達やアガサさんがいるなら何とかなるよな?
「全員静止、ケイジの合図とともに照明魔法発動、それまで待機。」
アガサさんから指示がでる。
了解だ。
オレは「銀の閃光」の仲間全員に、アガサさんの指示が行き届いたかだけを確認する。
うむ、みんなここまで来たのは初めてだからな。
それなりに緊張した顔つきでいやがる。
・・・それにしても本当にアガサさんの胸はおおきいよなあ・・・。
オレは女の子の価値は胸だけに非ずと思ってるけど、さすがにアレは見事だと思う。
オレが胸の一点だけを見惚れてても、
アガサさん、こっちを虫を見るような目で見ないしな。
気がつくとたまにサービスしてくれてるのか、胸をゆすってくれる。
最高かよ!?
さてと。
しばらく静かな時が流れる。
オレの耳には何も聞こえない。
けれど、先頭の兎獣人勇者リィナさんの耳には何かの音が聞こえているようだ。
魔物の足音か。
それともその息遣いなのか。
・・・ケイジさんの左腕が上がる。
すぐにオレ達は顔を伏せるが、
それでもアガサさんの放ったライトの魔法は強烈だ。
途端にダンジョンの奥の方から野太い驚愕の悲鳴が上がる。
目を潰されたら当然か。
ただ、あれトロールの声だよな!?
照明魔法の効果は切れたようだ。
オレが恐る恐る顔を上げると、すでにその場にケイジさんとリィナさんの姿はなかった。
いったいどこへ!?
状況が変化してることが分かったのは、恐らくケイジさん達と魔物との戦闘音。
トロールと思しき魔物の怒号と悲鳴か。
そこへ二人の声が聞こえてくる。
「やったか!?」
「手応えはあったよ!
でも致命傷じゃない!!」
目が眩んだトロールにケイジさんとリィナさんが同時攻撃を加えたんだろう。
今まであの二人が会敵した場合、ほとんど一刀の元に倒してきたはずだ。
やはり耐久力が尋常じゃあないってことだろうな。
「通常ライト。」
アガサさんが小さなライト・・・
いや、これが普通だよな?
周りが明るくなり、前方の光が届くギリギリのところで一体の毛むくじゃらの魔物が膝をついている。
初めて見たぜ、
アレがトロールか。
顔も毛に覆われてよく見えないが、
その毛先の向きと動きで怒ってるのはよく分かる。
けれどまだ目が眩んでるのか、
首をキョロキョロ動かすだけで・・・
お?
唸り声を上げながらブンブン棍棒振り回してるな。
当然そんなものに当たるケイジさんたちじゃないけれど、迂闊に近づけないか?
「そこで私の出番、『アイスジャベリン』。」
うおおお、
冷系魔法なんて滅多にお目にかかれねーぞ!!
アガサさんの高等攻撃魔法がトロールの土手っ腹をぶち抜いた!
「なるほど、ケイジ殿達が足を止めてアガサの冷系魔法か、
しかも傷口が凍ってしまうから再生も出来ないと・・・。」
ムカつくアルデヒトの説明だがその通りなんだろう。
だがこれでもトロールは・・・
まだ生きていやがるのかっ!?
うずくまって苦しみながらも無理矢理棍棒を振り上げる。
もう視力は回復してるのか、
ケイジさん達やオレらの存在にも気づいているようだ。
ん?
あれ、オレ達に向かって・・・
まさかっ!?
「そうは問屋が」
「卸さないよっと!!」
うおっ!?
どうやらトロールは最後の力を振り絞って、オレ達に向かって棍棒を投擲するつもりだったのか。
まあ、こんだけ人数いればな。
誰かに当たったかもな。
けど、ケイジさん達はそれすら許さなかった。
ケイジさんの反りの入った長剣はトロールの腕を切り飛ばし、
ジャンプ一番、紫電煌めくリィナさんのブロードソードは、トロールの脳天を突き刺したのである。
さすがにこれでトドメだな。
こっち側は、盾持ちのランドラードって奴が前に出てきてたが、オレたちへの被害は全くの杞憂だったようだ。
とはいえ、戦闘に参加してなくてもすぐに対応出来る奴がいると心強いな。
「さすがだねぇ、
瞬殺とまではいかないけど、まだまだ全然余裕じゃないか。
この分ならエリアボスがいたとしても安心してクリアできそうだね。」
ん?
確かにガラダスの言う通りなんだろうけど・・・
なんか一瞬やな予感したぞ?
そしてオレの予感はさらに強まる。
それはリィナさん達の言葉で。
「みんなまだ気を抜かないで。
この、トロールの叫びが奥の方で反響していた。」
「それにそっちから、こいつと同じような匂いが漂ってくる・・・
恐らく複数だ。」
え、てことは。
「「この先にエリアボスがいる。」」