第七百八話 最後のエリアへ
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 引き続きバレッサ>
はい、というわけで今、あたし達は最後の西エリアにまでやってきました!
お話はどこからでしたっけ。
ああ、ケイジさんやリィナさん、それにアガサさん達の仲良しシーンを、
あたしとベルリンダさんとで微笑ましく鑑賞させていただいたところでしたね!
「はふぅ・・・
素敵ですよねえ、あんな・・・
何か、こう・・・通じあってるとでも言わんばかりに・・・
冒険者同士の男女といえば、すぐに生臭い下卑たお話ばかりになるというのに、あの人達からは全くそういう匂いすら感じませんよね・・・。」
ああ、さすがは僧侶職・・・
いえ、ベルリンダさんは上級職のプリーステスでしたね、
ほとんどあたしも同意するところですが、
目の付け所があたしと違いますね。
「でもベルリンダさんはパーティーの皆さんにチヤホヤされまくってるじゃないですか?
あたしのところなんか、全員女性ですよ?
浮いた話なんか何にもないんですからね?」
「いや、バレッサ、
少なくともお前は他所のパーティーの男たちとも・・・」
あれ?
いま、テラシアさんたら何か言いましたかね?
あたしにはよく聞こえませんでしたけど。
それに今はベルリンダさんとお話してますからね。
テラシアさんは放っておいてもいいでしょう。
「バ、バレッサ、あたしは一応このパーティーのリーダー・・・」
わあ、ベルリンダさん、恥ずかしそうに顔を赤らめて・・・
「え、い、いえ、あの、バレッサさん!
確かに皆さんには構ってもらってますけども!
確かにイヤじゃないんですけども、私としてはもう少し対等にというかですね・・・っ?」
ああ〜、そうかあ。
これまでのイメージだと、
ベルリンダさんが真ん中にいて、みんなでベルリンダさんを取り囲んでいるみたいなものですものねえ。
そして、そのベルリンダさんは顔を真っ赤に染めて俯いていると。
それに比べ確かにケイジさん達はみんな横並びって雰囲気です。
みんなそれぞれ前を向いて。
どっちが羨ましいのでしょうか?
いえ!
私は前に進もうと思います!
ベルリンダさんみたいな逆ハーパーティーには憧れはしますけども!
「あれ? どうしたの、ケイジ?
後ろ振り返って。」
「い、いや、なんか、あのテラシアという女性剣士に、何故か急に親近感が湧いてきたというか・・・。」
あれ?
どこからか背筋が寒くなるような冷気が?
「・・・ふぅ〜ん、
テラシアさんねぇ・・・、
やっぱりお胸の大きい方にはケイジは引き寄せられてしまいますかぁ。」
「い、いや!
違うぞ!! そっちの話じゃなくて!!
誤解だからな、リィナ!!
ぐあっ! 痛い痛い!! 尻尾はやめて!
千切れるからっ!?」
わあ、楽しそう・・・。
きっとメリーさんも退屈しなかったんじゃないですかねえ、この人たちと一緒にいて。
「お、おい、お前たち、もっと警戒を」
後ろのほうからアルデヒトさんの声がしました。
ああ、確かにはしゃぎすぎましたかね、
・・・っと思っていたら、
ケイジさんとリィナさんが寄ってきていたグリーンキャタピラーを瞬殺していました。
いつの間にっていうか、魔物の気配なんて全然気付きませんでしたよ?
「ん? 何か言った?」
リィナさんは平常運転です。
「い、いや、すまん、リィナ殿、なんでもない・・・。」
凄いというか、さすがというか・・・。
あれだけ話し込んでいても警戒は切らしてないんですね。
ちなみにグリーンキャタピラー、
バカでっかいイモムシです。
話には聞いたことありますけど、初めて見ました。
それほど強くはないんですけど、糸を吐いて冒険者の動きを封じてしまうそうです。
ただし、倒してからでいいんですが、
こんがり表面を焼いて中をレアの状態で食べるとなかなかの美味ということです。
今は・・・後回しにしましょうかね。
これがカラフルなイモムシだった場合、
ポイズンキャタピラーとなり、食べるな危険となってしまいます。
たとえ無事に倒したとしても、毒抜き処理の仕方も知らずに迂闊に食べると、毒が回ってのたうち回る事態になるそうです。
恐ろしいですね。
「いやあ、隙がないね、さすがは邪龍を倒した一団だ。」
お?
この方は「デイアフターデイ」のリーダー、ガラダスさんですね。
・・・なかなかのイケメンさんです。
しかも先程からも見てましたけど目にも止まらぬ剣捌きでしたね。
「正直、あたしも脱帽さね、
やる事が無くなってきたよ。
アルデヒトも立場ないんじゃないのかい?」
あ、テラシアさんたら、からかえる相手がいなくて、アルデヒトさんに目をつけたようですね。
「い、いや、オレは安心して見ていられるならそれに越したことはないと思っているぞ?」
ここだけの話ですけど、
アルデヒトさんも結構頼り甲斐がありそうで、あたし的には悪くないと思っているんですよね。
なんと言っても独身だとのことですし。
浮ついたところなんか全然ないし。
あ、皆さんには内緒ですよっ!?
・・・ただあたしは知っているのです。
アルデヒトさんて・・・
ギルドマスターのキャスリオン様に淡い想いを抱いてるのですよね?
もちろんご本人から直接それを聞いたわけではありません。
でも、でもでもでも!
アルデヒトさんがキャスリオン様を見詰める目は・・・
「アルデヒトさんはギルドマスター一筋だろうしなぁ・・・。」
あ、いけない。
思わず呟いてしまいました。
でも小さい声だったから、アルデヒトさんには聞こえてませんよね?
「え?
バ、バレッサさん、アルデヒトさんとキャスリオン様って・・・そういうっ?」
うう、隣にいたベルリンダさんにはもちろん聞こえてしまいましたよね。
まあ、もちろんベルリンダさんも、話の内容から、大きな声で喋るようなものではないと理解してくれてるみたいですけど。
「べ、ベルリンダさん、今のは内緒っていうか、あたしの想像みたいなものでっ。」
ああ、ベルリンダさんも楽しそうにキャイキャイしてますね。
わかります。
女の子はこの手の話題が大好きなのです!!
「いやあ、信用しねー方がいいぞ、
バレッサちゃん。」
あ、ヤバヤバ!
ストライドさんにも聞こえていましたか。
いえ、でも以前この話はストライドさんにも飲み屋で話してしまったと思います。
だから、・・・あれ?
その時とストライドさんの反応が違うような気がするんですけど・・・。
あの時はあたしの話に全面的に同意してくれていた筈・・・。
ていうか、話がよく見えません。
「えーと、ストライドさん?
信用しないほうがいいって?」
「ああ・・・?
いやあ、一般論一般論、
男はさ、一見誠実そうに見えても、一枚皮を剥いたらろくでもねーヤツもいるってこと。」
ええ?
何言い始めたんですかね、ストライドさん?
あ、これはもしかするとお・・・
「あれぇ?
嫉妬ですかぁ? ストライドさんっ、ぷぷっ!」
そう言えばストライドさん、
ギルドマスターのキャスリオン様にもデレデレしてましたもんね!
「ええ?
・・・あのさぁ、なんでオレがアルデヒトに嫉妬すんだよ?
そんな要素皆無だろうに・・・ブツブツ」
あれ?
よく聞こえませんですね。
その後に「あの女相手に」とか聞こえたような?
「・・・いや、待て、それは心外だぞ。
これでも最近は若い子に結構・・・
あ、いや、何でもない。」
あ!
いつの間にかアルデヒトさんが後ろにいた!!
いつから聞かれていたのでしょう!?
ていうか・・・
「ええええええええっ!?
凄い事聞いちゃいましたあ!!
アルデヒトさん、お付き合いしてる人いるんですかあああっ!?」
てっきりキャスリオン様一筋だと思っていたのにっ!!
若い子って言うからにはキャスリオン様じゃないですよねっ!?
期待外れです!
ガッカリですっ!
でもこれはこれで面白・・・いえ素敵な事ですっ!
「い、いやっ、ち、違うっ!!
そ、その最近、若い子に話しかけられたり笑ってくれたりすることが、お、多い気がするなあ、程度で、なっ?」
えええ、なぁんだ、その程度なのかぁ。
もっといい話を聞きたかったのにい。
「ケッ・・・」
・・・あれぇ?
ストライドさん、ホントに機嫌悪そうですねぇ・・・
アルデヒトさんと何かあったんでしょうかねえ・・・。
「・・・ええと、いいか?」
あ、遠慮がちにケイジさんが声かけてきました。
アルデヒトさんにご用でしたでしょうか?
「あ、す、すまん、なんだったかな?」
「いや、お互いさまなんで、後ろめたそうにする必要ないけどな、
このエリアのボスは何だって言ってたっけ?」
あ、あたしも最初に聞いたはずですけど、忘れちゃってました。
だって途中で何度もショッキングなシーンばっかり見てしまったんですもん。
「あ、ああ、
このフロアには通常トロールがうろついている。
スタンピードの影響で変化が出てなければ、エリアボスはその上位存在であるトロールファイターかトロールマジシャンの筈だ。
一匹単体でなく、通常種のトロールがお供に三匹から四匹程度いると聞いている。」
ああ、トロールですかあ。
普通に攻撃しても再生しちゃう魔物ですよねえ。
あたしも出会ったことはありません。
ただ火系魔法なら傷口焼けますからね。
再生阻害できるということで少しはあたしも役に立てるでしょうか。
「トロールか、
今のところこのエリアでは見かけないな、
スタンピードの影響がオレ達にとっては良い方向になってるのかもしれない。
やはり個体数が激減しているということか。」
それはそれで好ましい話なんですかね。
まあ、一匹くらいは戦闘しておきたかったんですけども。
いよいよ次回はエリアボスと戦闘開始です。
おそらく、間違いなく、物語最後の魔物との戦闘です。
メリーさんエンドでもしかしたら・・・
いや、あれは魔物ではないか。