第七百六話 ケイジの役目
実は今回のお話大事です。
まあ、すぐに結末となりますけど。
<視点 ケイジ>
あ?
またオレでいいのか?
別に構わんけどさ。
あとでまた文句言うなよ?
既に探索が必要なエリアを二つクリアした。
北、東、と来て次は南側だということになる。
まあ、ダンジョンの中で方角なんてと思うかもしれないが、一応この世界にも方位磁石の概念はあるようだ。
それでこのダンジョンの中でも大体の位置は掴めるらしい。
次のエリアはダンジョンの中でも珍しく、
エリア全体に植物が茂っているんだと。
つまり、床は建造物ではなく土。
土があるなら水はどうしてると言いたいんだが、普通に壁から滲み出しているそうだ。
・・・コケとかならまだ分かるんだけどな。
「トレントかあ・・・。」
リィナの苦虫を・・・
いや、彼女にそんなものを食べさせたりなんてさせないからな!
話を戻そう。
オレやリィナには獣人としての並外れた感知機能がある。
あらゆる魔物の接近に対して敏感なのだ。
そんなオレ達でもどうにもならないものがある。
まずは霊体。
匂いも音もさせないからな。
麻衣さんのような能力者、麻衣さんほどでないとしても魔力反応を感じ取れる人間さえいたら何とかなる。
問題は植物系の魔物。
普通の植物と区別しづらいんだ。
もちろん奴らは動かないから足音も聞こえない。
獲物が自分たちのテリトリーに入って、いきなり動くからこちらとしてはどうしようもないというわけだ。
もちろん匂いだって、他の植物と混じり合って区別できない。
真剣に研究すればオレの鼻で区別できるかもしれないがな。
冒険者の依頼では滅多にトレント討伐なんてないんだよ。
おまけに。
「ケイジ! 大型蜂!!」
植生があれば虫型魔物もいる。
まあ、数が少なければオレの弓で撃ち落とせる。
あいつら威嚇行動するとき一瞬静止するからな。
大量に襲ってきたらアガサの広範囲呪文の餌食だ。
あと、傍迷惑なんだろうけど、オレの咆哮でスタンさせることもできる。
それとアガサがまた新技を披露してくれた。
いや、オレ達にとっては新技とは言わないか。
「いきなり超極大の『ライト』を発動して目を潰したら動ける魔物はほとんど皆無。」
前もどこかで誰かが似たような話をしたかもしれないが、ただの照明魔法をスタン系の技にまで持っていけるアガサの魔力が理不尽。
お陰でまたバレッサが放心状態だ。
がんばれ。
とはいえ、今のところ予想外な事態はまるでない。
「虫型魔物については思ったより少ないな。
ここはスタンピードの影響有りというところか。
・・・トレントどもは・・・動けないから、地上にまで上がってくることもなく、何の影響もなかった、ということだろうか。」
立場上、アルデヒトはそう説明せざるを得ないようだが、
この場にいる誰もがここまで降りてきたことはないという。
アルデヒトはそれこそ10年以上前に入ったことがあるだけで、その時の記憶もおぼろげだとか。
まあ、それは仕方ないか。
っと!!
トレントがいやがったか!!
いきなりぶっとい枝を振り回してきやがった。
まあ、今のオレの防御力なら受け止めて終わりだ。
そのまま動きが止まった枝をリィナが斬り払い、ランドラードのウォーハンマーがその木をぶっ叩く。
もちろんトレントの弱点は炎なのだが、
ダンジョンの中で火系魔法を使うわけにはいかない。
アルデヒトの大斧、ランドラードのウォーハンマーが一番効率がいい。
赤髪のテラシアのバスタードソードは微妙だな。
枝打ちを頑張ってもらいたい。
「ははっ、オレを忘れんなあ!?」
おっ?
レックスの剣はただの長剣だろ?
それでブンブン、トレントの枝を切り払ってる?
「あの騎士の男の剣撃には光属性が付与。」
なんだと?
だがアガサの目に狂いはあるまい。
そういえばそこかしこでレックスは光属性アピールしてたような気がする。
まあ、もともとそれほど苦戦するような相手ではない。
トレントで怖いのは不意打ちだけだ。
これがエルダートレントとかになると魔法も使ってくるんだが、今のオレ達なら・・・
「あ、一応このエリアのボスはエルダートレントだからな。」
「ん?
エルダートレントならこの地から動けないよな?
なら・・・ほっといても良くないか?」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
反対意見はないようだ。
まあ、強いて言えば・・・
「エルダートレントのドロップ素材からは魔法使いの杖の材料取れますけど・・・
今は特に必要ないですよね?」
この場に杖を使うのはバレッサとベルリンダ、あと「銀の閃光」にも一人いるが、そこまで必要とも言えないだろう。
せいぜい売り払えば金になるというだけ。
今回は調査優先なので先に進ませてもらおう。
「ところでリィナ。」
話の区切りがついたところで、後ろからアガサがリィナに語りかけてくる。
いや、アガサの視線はオレにも向けているな。
何か相談事だろうか。
「ん?
アガサどうしたの?」
「大したことではないけれど、一つ私の記憶に引っかかるものが存在。」
ん?
なんだそりゃ。
だがリィナの反応はオレと違う。
まるでその話を待っていたかのように。
「ああ、アガサも気づいた?
やっぱ気になるよねえ?」
え、何の話だ?
オレだけ分からないこと?
あ。
二人の視線がとても冷たい。
「・・・はあ、あたし達が気づいたって話は、もしかしたらそうかもしれないってだけで、なおかつ、それがそうだとして、だからどうしたって程度だから気にならないなら気にしなくていいよ。」
あの、すいません、リィナさん、
その割にオレをとても残念な眼で見ないでくれますか。
実はオレとてもデリケートなんですけど。
結局この件について、二人はオレに何も教えてくれなかった。
どうしても教えて欲しければ、
地上に帰ってオレ達だけになったら教えてくれるとのこと。
だったら何で今、話を始めたと抗議したかったんだけどな。
アガサ曰く、もしオレの意見も同じだったら早めにアクションを起こした方が良いのでは?
と言う話らしい。
だから何の話か分からないんだが。
「それはケイジがマルゴット女王から受けた話。」
え。
何故この場で・・・いや、
確かにその話は内密だがリィナとアガサには教えている。
本来、それはグリフィス公国の話であるからには、リィナやアガサには利害関係はないのだけれども。
「いや、あたしだってアガサだって女王にはお世話になってるんだから、手助けできるようなことがあるなら協力するよ。」
そう言ってくれるだけでもありがたい。
となると何の話かは見えてくる。
女王はオレに他の国に行ってもグリフィス公国に利するように動いて欲しいと言っていた。
そして、これまで見てきた「デイアフターデイ」の実力。
まず間違いなく、Aランクの実力だ。
街の規模にもよるが、Aランクの冒険者がいるならドラゴン一匹現れても何とか対処できる。
本来冒険者というものは国の政治はもちろん外交にも関わりはないのだが、
そんなパーティーが存在するということは国民の治安に大きく寄与できるのだ。
「ケイジだって、自分の役割が宣伝マンだってわかってるんでしょ?」
その通りだ。
発端はアガサの野望に付き合う形ではあったが、女王の血縁であるオレが他国で名前を上げるには、それだけの効果と価値がある。
「私もギルド職員として動くのであれば中立が原則。
けれどかつてのパーティー仲間にアドバイスや助言、もちろん現役の冒険者たちに提案するだけなら全くの無問題。」
ありがたくて涙が出るよ。
本当にオレはいい仲間に恵まれた。
「それはお互いさま。
私にしたところで閉鎖的なエルドラの街から連れ出してくれたケイジ達には感謝の気持ちでいっぱい。」
そう言ってアガサはオレやリィナの間に入ってオレ達の手を掴む。
照れるんだけど。
「うわあ・・・、羨ましい・・・。」
「あんな関係、いいですねぇ・・・。」
バレッサにベルリンダよ、
そんな蕩けそうな顔でこっち見なくていいんだからな。
「「ケイジさんの尻尾が!!」」
当然揺れています。
なお、エルダートレントと戦わせようかと思ったんですが、
全部戦ってばかりというのもバランス悪いかなと思ってやめました。
最後のエリアは戦闘しますよ!
ヒューズに背負わせている箱の中身も使います!!