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第七百五話 新たなる才能

<視点 テラシア>


 「は、はは、なんだこれ・・・

 こんな広範囲呪文初めて見た・・・。

 で、でも凄いですね、アガサさん、

 ミイラ軍団みんないなくなりやんの・・・、

 あ、な、ならこれでこのエリアは終わりですね?」


ストライドも再起動したかい。

だがその通りだと思うよ。

あたしだって長いこと冒険者をやっている。

中には広範囲呪文を操る魔術士だって何人かいたさ。

こないだのスタンピードの時もね。


けれど、MPに限りのある魔術士たちの広範囲呪文は、使い所の見極めが難しくそう簡単に放てるものではない。

何よりあれだけの規模なんて初めて見たよ。




だが。



爆乳ダークエルフ、アガサはそれだけで、あたし達を許してはくれなかった。


 「終わり?

 ・・・ノンノン、否、否、

 メイルシュトロームはマミー達をこの場から吹き飛ばす目的に非ず、この先の展開を乞うご期待。」



は?



何を言って



と口を開きかけて、そのままあたしは言葉を呑み込んだ。


どこからともかく巨大な轟音と共に、大量の風と空気が流れこんできたからだ。



 「大量に湧き出た水はこのエリアの隅々まで広がり、行き止まりにぶつかっては跳ね返され・・・

 そしてその方々で魔物を呑み込み蹂躙!!」





それで大量の水が戻ってきたわけかい。

行く道々でマミーを飲み込んで。

そんでこの広場の壁に津波のようにぶつかってと。


そこで大量の水が消えてゆく・・・



後に残ったのは、

打ち上げられた魚のような包帯巻き巻きのミイラたち。

まさしく網にかかった小魚たちのようだ。


三、四十体くらいいるんじゃあないか?


中に混じって普通のコボルトやジャイアントバットなんかも打ち上げられてるね。

もっともアンデッドではない魔物は当然窒息死しているだろうさ。


ここまできたらあとは・・・ん?


そこで乳牛ダークエルフはベルリンダに向かって手を挙げる。

まるでお前も手を出せと言わんばかりに。


 「さあ、ベルリンダ殿。」

 「あっ、は、はい、ここで私の出番なんですね、

 わかりましたっ!」


バトンタッチでもするかのようにベルリンダは手を合わせて・・・


ああ、そういうことかい。

僧侶職の人間ならアンデッドを一網打尽に出来る浄化スキルあったよね。


ん?

待ってくれ。


確かにあたしの記憶でもそういう知識はあるけど・・・


これだけのアンデッドを?


あたしの疑問を他所にベルリンダは杖を掲げる。


 「『聖なる光よ! そのたっとき衣を振るいて邪を討ち払わん! ホーリーシャイン!』」



瞬間、

ベルリンダから発した柔らかな光が、眼下のアンデッドどもを覆う。

苦しんでいるのか、浄化されるのを喜んでいるのか分からないが、バタバタと手足を暴れるも、みるみるうちにその動きは大人しくなり、


・・・やがて塵となってゆく・・・。



 「え?

 待ってくださいっ、僧侶職のホーリーシャインって、確かにアンデッドへの浄化効果を持つって聞いてますけど、こんな大量のアンデッドを一気に全滅させるほどの呪文じゃないですよねっ!?」


そう、バレッサの言う通りのはずだ。

あたしだって何度か浄化呪文を見たことはある。


けれどこんな威力なんてなかったはずだ。

現にストライド達「銀の閃光」メンバーも、サブギルドマスターのアルデヒトも目の前の事態を信じられないとでもいうように、口をあんぐり開けたままだ。



 「ああ・・・うわあ、レベルアップアナウンスがすごいことに・・・。」


そのベルリンダがこめかみを押さえる。

無理もない。

今の彼女のレベルは知らないが、これだけのアンデッドを一気に葬ったんだ、

レベルが格段にアップするのも当然だろう。



 「ケイジ、リィナ。」

 「あ、ああ、何だ、アガサ。」

 「いやあ、もしかしたらと思っていたけど凄いねえ。」


ケイジですらこの状況を呑み込むので精一杯か。

兎勇者の方は、ある程度予想していたような反応だ。


 「ここまで来て私は一つの確信。

 ベルリンダ殿のプリーステスとしての実力は、かつてのタバサにも肉薄。

 既に現段階でAランクにも相当すると断言。」



タバサってのは、「蒼い狼」所属していたハイエルフの大僧正だってね。

冒険者でそんなジョブ見たことねーよ。


けれど、そこまでの実力だなんてな。




 「あ!

 まだ一匹、マミー残ってますよ!?

 他の個体より少し体が大きめだし、頭に王冠みたいなの被っている!」


猫獣人のジルが、

まだもぞもぞ動いているマミーを見つけたようだね。


 「なんだと!?

 それならここのエリアボスに違いない!

 キングマミーだ!!」


アルデヒトなら当然その知識はあるだろう。

さすがにエリアボスにホーリーシャイン一発でトドメを刺すことは出来ないか。


 「あっ、す、すみません。

 私の力不足で・・・。」


 「「「「「いやいやいやいや」」」」」


この場の全員の意見が一致した。

そりゃね。

たった一人で・・・

いや、呪文一つでエリアボス倒せなんて誰も求めてないよ?


 「あ、じゃ、どうしましょう?

 もう一度ホーリーシャインかけましょうか?

 でもあんまり効率良くないから次で倒せるかなあ?」


 「ならわたしが行きましょうか?

 あの様子ならわたしのウォーハンマーで一発で行けますけど。」


ランドラードか。

あいつのさっき使ってた「聖刃」とかいうスキルは光属性か。


こいつの言う通りかね。

もうキングマミーといえど抵抗する余力はなさそうだ。

圧倒的な破壊力で仕留めるのが確実だろう。


けれど。


 「不要、この位置からなら私の呪文が一番簡単、『ホーリーレイ』。」


あっ



 「「「「・・・・・・・・・」」」」


誰もが口を挟む隙すらなく、

呪文の詠唱も何もなく、

おっぱいアガサが光系攻撃呪文一発で、キングマミーの背中を撃ち抜いた。


もう説明要らないよね。


そのままキングマミーはサラサラの砂だか粉だかみたいになって消滅した・・・。



ケイジと兎勇者は「まあアガサだからな」とでも言わんばかりの苦笑い顔。


ていうか、最初お前ら彼女の魔法は弱体化したとか言ってなかったか?


あたしの心の底からの疑問は、兎勇者が解き明かしてくれた。

眼下の光景を遠い目で眺めながら。


 「やっぱりさ、カラドックがいなくなったとはいえ、とんでもない相手とばかり戦ってきたから、レベルがめちゃくちゃ上がってるんだよね。

 だからアガサの魔術も、あたし達と一緒に冒険始めた時より極端に威力が上昇してるんだよね。」


 「オレもそんなところだと思ったよ・・・。」


ケイジもあらかじめ見抜いていたようだ。

・・・けどさ。


詐欺だろ、そんなの。

いや、もちろんいい意味でだからいいんだけどさ。


 「いやいや、これ凄いですよ!

 アガサさんみたいな凄い魔術士がうちらの街にいてくれることを喜ぶべきか、

 ギルド職員だからクエストに一緒に行けないのを嘆くべきか、あああ、悩みますよね!!」


そうだ、ね、

確かにストライドの言うことはよく分かる。


前回のゴブリン大量発生の時は、たまたまメリーがこの街にいてくれたから何とかなった。

けれどああいう突発的な事件が起きた時に、そうそう都合よく高位の冒険者がいてくれるとも限らない。


特にランクが高くなればなるだけ、この街に収まる理由も薄くなる。

伝説レベルの辺境に名を挙げに遠征に行く奴らもいれば、商人の護衛に長く街を空けることだってある。


けれど、ギルド職員ならばずっとこの街にいるわけだからね。

どんな緊急事態が起きたとしても頼りにする事ができるわけだ。


この街に生まれ育ち、この街を好きな連中なら諸手を挙げて大歓迎、ってところだろうさね。


 「否、私のことよりも。」


ん?

ダークホルスタインエルフはあたし達の感心と称賛を一蹴した。

その視線は「デイアフターデイ」のベルリンダへ。


ああ、確かにそうだね。

あの女の浄化能力も桁違いだった。


 「ホーリーシャイン一発であれだけのアンデッドを浄化できる冒険者など、私の永遠のライバル・タバサを置いてこれまで皆無。

 冒険者ギルドとしては、ベルリンダを含む『デイアフターデイ』へのクエスト依頼をこれまで以上に吟味すべきでは?」


ああ、今のはベルリンダよりサブギルドマスター、アルデヒトへの話か。


 「む、そ、その通りだな、まさかオレもここまでとは・・・。

 そうだな、帰ったらギルマスに話を持っていこう。」



 「おっ、指名依頼ってことか?

 やったな、ベルリンダちゃん、お金が増えるぞっ!」

 「わ、わたしもベルリンダさんのフォローを全力で尽くしますよ。」

 「まあ当然だな、ベルリンダはうちのお姫様だからな。」

 「ふふ、僕らのパーティーはベルリンダを徹底的に甘やかすスタイルだからね、

 今後も覚悟していてもらうよ。」

 「おいおい、待ちなって、

 お前らがベルを甘やかすのはいいが、ベルのカラダを好きにしていいのはあたしだけだからなあ?」



 「みっ! 皆さん揶揄わないでくださいよっ!

 ・・・て、ファリアさんも誤解を招くようなこと言わないでくださいってば!!」


ああ、ほんとに楽しそうなパーティーで何よりだよ。


北、東と終わりました。

後は南、西ですね、

その先はありません。

それをクリアしたら帰りますよ。


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