第七百四話 アガサが留まるところを知らない
いつかの後書きで
いつか身につけるかも
と書いてたら本当に身につけてしまったというお話。
<視点 テラシア>
全く気味の悪い。
倒しても倒してもわらわらと湧いてきやがる。
だからアンデッドは嫌なんだ。
もうこの東側エリアに入って20体はマミーを見ているような気がする。
しかし確かにこいつら「デイアフターデイ」の連中、アンデッドのマミーに対し圧倒的だ。
今ならあのスカしたガラダスの言うことはよく分かる。
こいつらがAランクパーティーだとしても疑う気にもならない。
「しかし戦いは余裕だが、魔物の数が減らないな・・・。
北側エリアまでは魔物は少なかったのにこの東側エリアにはさしてスタンピードの影響はなかったということなのか。
まあ、それはそれでいいのだが、この先の調査に時間をかけてしまうな。」
アルデヒトも戦わせたらそこそこ強いんだが、
あくまでヤツはギルド職員だしな。
この場の役目は調査と現状把握だし。
そこへデカ乳ダークエルフが近づいてくる。
ん?
バレッサ、あたしの顔見てどうした?
「あ、あの、テラシアさん、テラシアさんだって他の女の人から見たら凄いものお持ちなんですからね?」
うるさいよバレッサ。
今はあのダークエルフの話だろ。
む、どうやらヤツはアルデヒトに用があるみたいだね。
「サブギルドマスター、
この先の地形について・・・
どこか広い行き止まりか、すり鉢状のような広場があれば案内希望。」
「うむ?
そ、それならあと少し進んだ先に集会場のような広場があったと思うが・・・
いったい何をする気だ?」
「大体の状況が掴めたならこれ以上の調査は不要。
さっさと次のエリアに移動を提言。」
ん?
このエリアに見切りをつけようってのか?
あたしはそう考えたんだが、どうやら違うらしい、
あたしの隣にいる兎勇者とケイジは、巨乳ダークエルフに何らかの思惑があると勘付いたようだ。
「あ、アガサが何やりたいか分かっちゃった。」
「まあ、今はこのダンジョンに他の冒険者もいない筈だからいいんじゃないか?」
兎勇者とケイジはおっぱいダークエルフが何やろうとしてるのか、分かってるみたいだね。
露払いは「デイアフターデイ」の連中が順調にやってくれている。
だとして、いったい何をやらかすつもりなんだ?
しばらくするとマップを手にしたアルデヒトの案内で、あたし達は先程のエリアにもあったような、広場の観覧席みたいな場所にやってきた。
眼下には数体のマミーがうろついている。
高さのせいか、こっちには気付いていないみたいだね。
「ここでいいのか、アガサ?」
「謝意、天井の高さも良い具合、
全員私の近くに集合。」
本当に何するつもりだい?
天井?
今のあたし達の位置からでも5メートルはありそうだね。
けど全員集めて何を?
防御呪文でも使うつもりかい?
しかし彼女はあくまで魔法使いだ。
僧侶ではない。
なら使える防御呪文なんてエアスクリーンくらいでは?
「そのまま全員近くの人と体を支えあうこと推奨。」
はっ?
そのままヤツは呪文を詠唱しやがった。
・・・今まで無詠唱だったよな?
いったい何を!?
「『母なる大地よ、偉大なる深淵の王の名の下に我が声に応えよ・・・』」
「えっ?
何ですか、その呪文!?」
「お、おい、アガサ、その呪文て!?」
バレッサは全ての属性に適性があるわけではないが、それでも魔法の勉強に手を抜く女じゃない。
大体の呪文そのものは頭の中に入っているそうだ。
そのバレッサが知らない呪文?
そして、乳でかダークエルフのことをよく知っている筈のケイジが、今ごろ狼狽えているのはどういうことだ?
「『アースクリエイト』!!」
うわっ!?
なんだ!?
じ、地面がせり上がってって・・・!?
「「「「「「うわわわわわわっ!?」」」」」」
な、こ、これなんだっ?
何もない地面がいきなり勝手に!?
あたし達全員を天井高くまで持ち上げて・・・
「な、何なんですかあ、この呪文!!」
あ、バレッサのアホ。
そんな大声で叫んだらマミーどもに気づかれるだろ!!
叫びたくなる気持ちはわかるけど!!
続いて「デイアフターデイ」の僧侶・・・いやプリーステスのベルリンダからも戸惑いの声が漏れる。
「え、こ、これ、アースウォールの応用・・・
いえ、違います!!
アースウォールはあくまでも壁を作り出すだけの二次元的な障壁!!
こ、これは三次元的立体構造の・・・」
ベルリンダは治癒や守護を得意とするプリーステスだよね?
それでもこのアースクリエイトとかいう呪文の正体を看破したのかい。
ていうか二次元?
三次元・・・悪いけどあたしには何言ってるかわからないよ?
ケイジ達は多少の予備知識があったってことなのかね。
あたし達ほどの驚きは見せていない。
「アガサ、これ前に布袋と・・・
あと麻衣さんが契約してたラミアが使ってた魔法だよな?
ついに習得したのか?」
「・・・かなりの魔力を消費。
それにまだ思う通りの造形を反映させるのは困難。
今は周辺の土を均一に盛り上げるだけで精一杯。」
「い、いや、しかし二回しか・・・
いや、アガサが目撃したのは一度だけだよな?
その魔法を見よう見まねで実践するとは・・・
いまだに成長するのか、凄いなアガサは。」
・・・なんてヤツだ。
今のケイジとの会話だけでもわかる。
コイツは邪龍を倒した栄誉に浸かることすら満足せず、更に高みを目指そうってのか。
・・・はっ、やられた。
確かにお前は凄いヤツだ。
魔力云々、魔法云々関係ないね。
どうやらあたしはこれからも退屈しなくて済みそうだ。
「え、た、確かに凄いんですけど、マミーに気づかれちゃってますよ?
あっ、ほら、こっちに寄ってきた!!」
お調子者のストライドが騒いでいる。
確かに集まってきているね。
けど・・・この高さまでマミーが登ってこれるわけもない。
てことはアガサの狙いは・・・
「あっ。」
ん?
兎勇者が何かに気づいたかい?
「どうした、リィナ?」
「あ、い、いや、なんでもないよ、ケイジっ!」
なんだ?
今のこの状況には関係ないことかい?
おっと、
そのアガサが何かするみたいだよ。
「ベルリンダ殿、あなたがプリーステスということは、当然クレリック・・・僧侶のファイナルスキルを習得済み?」
「え? あ、は、はい!
もちろん使えますよ!!
でもそれなりにアンデッドも固まってくれてないと効率があまり・・・。」
「ならこの場に可能な限り一纏め。
『命の根源たる水よ、我が足元に集いて勢いを増せ!
大地より湧き出でて全てを飲み込め!!
メイルシュトローム!』」
「きゃああああっ!
それって水系広範囲殲滅呪文ーーーっ!?」
突然の轟音と共に大量の津波が湧き上がる。
え、ちょ?
なにが?
えーっと、ちょっと待ってくれよ。
いったいあたし達の目の前で何がおこっているんだい?
少しは現状を認識させて欲しい。
おっぱいダークエルフ、アガサの呪文詠唱が終わると共に、
突然どこからか、大量の水が湧き出し、
眼下のマミーどもを一斉に呑み込んだ。
そのままあたし達も巨大な波に飲み込まれるかとおもったんだが、
あたし達はその直前に生み出された土の櫓とでもいうような高台にいたためか、波はあたし達の高さまでは襲ってこなかった。
・・・ああ、そうか、そうだよな。
どちらもアガサの魔術で生み出されたもの。
当然アガサの計算の範囲内というわけかい。
まあ、ここにいる連中、
サブギルドマスターのアルデヒトから「銀の閃光」「デイアフターデイ」に至るまで、口を開く事もできなくなってるよな。
いや、正確には口は開けっぱなしというべきか。
無理もないよ。
あたしでさえ、この光景を飲み込むので精一杯なんだからさ。
「・・・ああ、やっぱり普通の人はこういう反応になるよねえ・・・。」
「そうだな、オレらも今までの戦いに慣れすぎてたってのもあるか・・・。」
兎勇者にケイジ!
お前ら、今までどんな戦いしてきたってのさ!?
最初、ケイジのセリフで
「二回しか見たことのないアースクリエイトを」と書こうとして、
よく考えたらアガサは最初の弓術大会に居なかったと思い出しました。
危ない危ない。
アガサが見たことあるのはラミィさんの時だけでしたね。