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第七百三話 テラシアさんはご機嫌ななめ

<視点 テラシア>


ちくしょうっ!

騙されたっ!!


いや、別にアイツらにあたしを騙すつもりも、アタシをコケにするような悪意があったわけじゃないのはわかってる。


ただのあたしの一人相撲。

それでこんなみっともない目に遭ってるんだ!


あああ、ここんとこいいことないねぇ、

いや、あのスタンピードを「苛烈なる戦乙女」全員生き残っただけでも良かったって言うべきなんだろうけどさ。


上には上がいるというのか、このあたしですらもそこら辺の冒険者よりちょっと腕に自信があるってだけで、

どう足掻いてもこの剣が届かないヤツがたくさんいるんだよな。



邪龍を倒したパーティーのリーダー?

隣国グリフィス公国のマルゴット女王の甥?

狼獣人のケイジ?


あのメリーを迎え入れてくれたパーティーを纏めていた男なんだ。

元からそれほど妬みや思うところがあったわけじゃない。


何より邪龍の脅威を払ってくれたわけだしね。

まあ、邪龍ってのがどの程度の化け物なのか知らないけどさ。

あの胸糞悪い虫どもや、絶望的なスタンピードの原因を解消してくれたわけだから当然感謝もしている。



ただ勝てない。

ギルドのダンジョン調査に参加する為というのがが正式な理由だが、

いい機会だからと腕試しをさせてもらった。

本気でね。


結果は惨敗。

スピードもパワーも。

おまけに技術もありやがる。

本人はユニークスキルで相手の剣筋やカラダの動きを見切れるとは言ってたけどさ。


それだけじゃないね。



まあ、多少剣を交えて、

少し話をして・・・


ケイジという男が、

邪龍を倒して天狗になってるわけでもないし、その腕を鼻にかけるようなムカつく野郎でもないというのは分かった。


確かにそんな悪いヤツではないんだろう。

歳はあたしより下の筈だが、まるで「伝説の担い手」のイブリン辺りと同じ年齢だと言われても納得するくらい落ち着いていやがる。


後で兎勇者に聞いたが、過去に色々あったらしい。

まあ、王族で獣人で冒険者っていうだけで何となくわかるけどよ。


ただその話とあたしの実力じゃ歯が立たないってのは別の話なんだよなあ。

もちろんそれはこのあたしが不甲斐ないだけであって、あの狼獣人を妬んだりするのは筋違いだと分かってる。


・・・そう、あたしだけの問題なんだ。



けどよ、

それだけにどうしてもピリピリしちまうのは仕方ないだろ?


 「・・・テラシアさん、ああ、ケイジさんにボロ負けしたんすか。

 いや、相手は邪龍倒した人たちっすよ?

 無理に比べなくったって。」


くっ、

お前あの場にいなかったよな?

なんでこのストライドは大して強くもないのに、他人の事情そんなに詳しいんだい!?



 「あ、それだけじゃなくて、ほら、あの、 

 新しく冒険者ギルドに就職したダークエルフの人に完膚なきまでにプライドをへし折られて・・・。」


バレッサああああああああああああああっ!!

あたしの個人情報バレして・・・いやバラしてるのはお前かああああああああああああああっ!?


 「あっ、いえっ、テラシアさん、あたしだって同じようなもんですよっ!?

 あのダークエルフの人には何もかも敵わないんですからっ!!

 あたしとテラシアさんとは同じ立場ですっ!!

 テラシアさんの気持ちは誰よりもあたしが分かりますってばっ!」


何言ってやがんだよ、バレッサ。

お前はあの巨乳ダークエルフにとっとと兜を脱いじまってるだろが。


あたしはまだだ!

そりゃ今は敵わない。

けれど追いついてみせる。

少しでも・・・少しずつだとしても。


あたしはまだ強くなれるはずなんだ。

そう・・・うん?

剣の腕の話だからな?

カラダの特定の部位の話じゃないからな?




そう思ってた時があたしにもあったんだ。




 「くっ、こ、こいつら、なんでこれで死なねーんだっ!?」


あたしはありったけの力でバスタードソードを振り下ろした。

魔物の頭は潰れたカボチャみたいにぐちゃぐちゃになった筈だ。

だがヤツはまだ歩いてくる。


 「いや、一応アンデッドだからもう死んでるんだけどな。」


あたしが仕留めそこなったヤツにケイジがトドメを刺した。

トドメを刺したっていうか、首を刎ね飛ばしてようやくな。


あたしの武器は両手持ちのバスタードソード。


敵を斬るというより、叩き割ってナンボの破壊力重視の剣だ。


相手が魔獣、鬼人種、スケルトン辺りなら余裕で倒せる。

一撃では倒せないとしてもロックゴーレムだって同じさ。

あたしの敵じゃない。


だが今度ばかりは勝手が違う。



マミー。

包帯ぐるぐる巻きのミイラともいう。



分厚い包帯で幾重にも巻き付かれたその腐ったカラダは、衝撃を吸収してしまうのか、なかなか決定的なダメージを与えることが出来ないんだ。


防刃仕様というか斬撃耐性というのか、普通に斬撃も通りにくい。

よくケイジはあの首を刎ね飛ばしたよな?


 「確かに剣の斬撃も通りにくいな。

 たがオレのベリアルの剣は刀としても使えるからな。

 『斬る』ではなく『引く』動きなら何とかなるようだ。」



意味分かんないよ。

刀?

引く?


 「くっ、『ファイヤーボール』っ!!

 だ、ダメです!

 包帯が燃えるだけで足を止めることも出来ないっ!!」


バレッサも苦労しているね。

アイツは火系の術が得意なんだが、

マミー相手には決定的なダメージを与えることが出来ない。

相手がただのゾンビなら土系の術も有効なんだろうけど、さっきの包帯が土系の術の衝撃も吸収してしまう。


もちろんあたしの剣術然り、相手に攻撃は効いている。

効いてはいるけど、あまりに効果が薄すぎるんだ。


相手が一人の中ボス程度ならそれでもいいだろう。

みんなで囲んでボコるだけ。

でもここはダンジョンの中のただの通路。


そこかしこから集まってくる敵にそんな事している余裕はない。


だというのに



 「はっはっはー!

 無理すんなよ、おっぱいデカいねーちゃんよっ!!」

 「だからレックスさん、両方の意味で失礼ですよっ!!

 ああ、もうこの人はああっ!!」


最近この街に来た「デイアフターデイ」。

その内の騎士ジョブに就いているという口の下品な男レックス。

すぐさまレックスの無礼を指摘したベルリンダという女の言うことは真っ当なんだが、残念ながら彼女の言葉は右から左に流されてしまったようだ。


あたしの胸のことはどうでもいいとして、

どうしてアイツの剣は普通にマミーを切り裂けるんだ?


確か騎士職で覚える「クロスブレイク」はアンデッドに効果が高い技だと聞いたことがある。


けれどアイツは普通の剣技でもマミーにダメージを与えている。


それだけじゃねえ。


 「はい、ごめんなさい、こちらはわたしが片付けますよ。」


タンク役だと思ってたバカデカい男。

大楯とウォーハンマー持ちのランドラードと言ったか?


 「『聖なる光よ、その気高き力を我に宿し給え、聖刃』。」


なんだ、あれ?

ウォーハンマーに薄い光が纏わりついてるぞ?

光系スキル?

魔法剣か?

それをウォーハンマーに?


いや、それだけじゃっていうか、

普通にマミーの頭叩き潰しているよな?


確かに光系スキル持ちならアンデッドに有利だろうけど、要るか、そのスキル?

普通に物理だけでマミーあの世行きだよな?



 「さ、ようやく僕らの出番だね!

 『瞬斬』!!」


うおっ!?

ケイジでさえ難しいといってた剣撃でマミーを切り裂きやがった!!


こいつは騎士ですらない。

パーティーリーダーのガラダス!

確か職業はソードマスター!!

剣士スキルを極めないとジョブチェンジ出来ないはずの上級職だ。


見ろよ、ケイジですら驚愕で目を見開いている。

そういや、ガラダスはケイジと腕試ししてなかったよな?

二人が戦ったらどっちが強いんだ?



 「狭い道だと私は戦いにくいんだけどね、

 『螺旋突き』っ!!」


こっちはマミーの胸板にでっかい空洞を拵えやがった。

あれ背骨も貫通してるよな?

流石にアンデッドでもあれでは歩くことも出来なくなるだろう。

攻撃を受けた後、マミーは二、三歩動いて前のめりに崩れ落ちた。



あとは・・・あれ?


 「あっはっはっ・・・

 あたしは見届け役さね、

 相手がアンデッドだとあたしはやる事なくてさあ?」


踊り子女のファリアかい。

まあ、酒場では目立ってて煩かったが、

確かに相手がアンデッドだと、舞を踊ることによる動きの幻惑も効き目薄いだろうしね。


あたしは男に媚びを売るような女は、

チャラい男以上に嫌いなんだが、

彼女はカラダを武器にしても、

男を調教しようとするタイプみたいだね。


レックスのクロスブレイクは騎士職で覚える技です。

袈裟懸けからの二連撃でアンデッド特効です。


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