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第七話 いま面接タイムなの

ぶっくま、ありがとうございます!

<視点 メリー>


私の語りを聞いて、

この場の人間たちは驚いて声も出ない。


あと、この国の法律が私にどう適用されるのかが気になる。

彼女らが静かなうちにこちらから触れておこう。


 「私のいた世界には様々な国があり、

 その国ごとに様々な法律がありました。

 その法律によっては、私の行為は裁かれるべきものもありましたが・・・。

 基本的には私の行為は、殺人を犯した者への正当なる復讐として扱う国が殆どだったのではないでしょうか。

 ・・・もっとも、この身体は人間ではないので、人間用の法律の適用自体があてがわれませんでしたが。

 ある意味、私の活動は犯罪者にとって因果応報、自業自得とされるものでしょう。」


ようやくギルドマスターのキャスリオンが納得するような顔を見せた。

 「そ、そうですか、

 それで『断罪する者』という称号がついているのですね、

 ある程度は納得しました。

 あ、なお鑑定による称号は、スキルによる隠ぺいはできても詐称はできません。

 今のあなたの説明は、あなたに冠された称号とは矛盾しないと思われます。」

 

それは良かった。

先程の説明は、自分でも少し無理があるかなと思ったけれど、どうにか納得してもらえたらしい。

あとついでに気になってた事もあるので、この機会に済ませてしまおう。


 「ありがとうございます、

 それで私の方から聞きたいのですが、

 その称号・・・いえ、今の鑑定から見えたという職業もですが、いったい誰がどうやって、その名を与えているのですか?」


スキルはまだわかる。

名前や年齢もサイコメトリーだと思えば把握できるだろう。

だが、称号だけは理解できない。

ギルドマスターは狐につままれたような顔をしている。

私の質問はそんなに常識外れだったのだろうか?


 「あ、え・・・と?

 称号が誰に・・・ですか?

 そ、それは言われてみれば確かに・・・

 我々には当たり前すぎて考えもしませんでしたよ・・・。

 これは世界の神が当人の行いに応じて与えていると考えるべきなのでしょうかね?」


あら、また気になる話が出てきたわね。


 「世界の神・・・

 お伺いしますが、この世界には神はお一人なのでしょうか?

 国や宗教によって様々な神がいるということはないのでしょうか?

 「いえ、仰る通り、国や宗教、あとは種族によってもですかね、

 世界には様々な神々がいると言われています。

 その中の誰かが称号を与えているのか、

 それとも神々なら誰でも与えることができるのか・・・、

 ただ、私も自信がありません、

 神々ではなく、別の存在が称号を与えているのかもしれません。」


 「え? それはギルドマスターでさえも、このシステムを把握しきれていないということ・・・

 うん? システム・・・

 そうか、これはシステムなんですよね?」


私は質問の途中で納得した。

この世界の神とやらが如何なる存在かわからないが、意志ある存在なら、この地の大勢の人間の行為全てを見続けるなんてことができるのか、甚だ疑わしい。


システムなら・・・

そう、例えばゲームのプログラムのようなものなら・・・

特定の行動を行ったものに、何かタグや目印を与えるような感覚で、称号を付与することは難しくない筈だ。


だんだん、自分の思考の先が見えてきた。


私は転移させられた。


この世界に、

この箱庭に・・・。

誰かの意志によって。


では次に気になるのは、

その人物の目的は?

 

正体も気になるが、今更それは後回しだ。

目的が知れれば自動的に正体も分かるような気もするし。


これが普通の人間なら、

元の世界に戻る方法を優先的に考えるのだろうが、

私には、元の世界に家族や仲間がいるわけでもない。

恐らく感情が戻ったというのも、この世界にいる間だけの限定ボーナスのようなものだろう。


楽しむ。

そうだ、せっかく感情があるなら、

この世界を存分に楽しもうではないか。


 「メリーさん?」

おっと、意識をこの場に戻さないと。


 「あ、失礼しました。

 とりあえず、称号の件は結構です。

 それで私の扱いなのですが・・・。」

 「あ、はい、ちょっと先ほどのお話ですが、

 やはり復讐とはいえ、法を裁く役人でもないのに、あなたが復讐を行うというのは、街の自治に多少の責任を負うギルドマスターの立場から認めるわけにはいきません。」


 「やはりそうですか。」

 「はい、犯罪行為を取り締まることまでは私たちの権限で可能になります。

 ただ、それは現行犯、

 そしてさもなくば、領主あるいは街の治安組織からの依頼などによる捕縛行為、

 ここまでが私たちに与えられる権限です。

 その際、戦闘行為が認められるとはいえ、あくまでも目的は捕縛です。

 犯罪者の取り調べ・罪の裁可・刑の執行は役所や裁判所の管轄です。

 我々に与えられるものではないのです。」


 「つまりこの冒険者ギルドでは、

 このメリーの特性を生かすことはできないということですね。」

 「残念ながら・・・。

 ただ冒険者としての登録自体は問題ありません。」


 「冒険者ギルドでは主にどんなことを?」

 「地域ごとにばらつきはありますが・・・

 簡単なものなら、雑用、街の清掃、害虫駆除、

 難易度が上がると、隊商の護衛や狩猟採集・・・

 採集自体は簡単なものも多いですが、

 採集場所が危険な魔物の生息区域になることが多いので、冒険者ランクがあがるか、余程腕に自信がある人以外はお勧めしません。

 そして中堅以上の実力がある者には、魔物の討伐クエストを行ってもらいます。」


 「ブランデンさんから魔物がいるということは聞きましたが、魔物とはいったいどんな・・・野生の動物とは違うのでしょうか?」


 「はい、討伐クエストには通常の野生動物の駆除が依頼されることもありますが、

 魔物という区分については、体内に魔力を帯びた魔石を有するか否かで別れます。

 小動物では、ネズミ、ウサギ、コウモリなどに類する魔物や、トレントなどの樹木系の魔物、ゴーレムといった魔導体、

 人間型ではコボルト、オーク、ゴブリン、

 滅多に姿を現しませんが、デーモンなどといった恐ろしい魔物もおります。」


まぁ、定番!

これはもう、聞かなくてもワイバーンとかドラゴンとかもいそう・・・。


 「亜人と、人型モンスターの区別はあるのでしょうか?」

 「我々には常識の範疇ですが、他の世界から来られた方には分かりづらいかもしれませんね。

 亜人と言ってもいろんな種類がいますが、

 先ほど申したように、魔物は体内に魔石を有します。

 亜人にはそれらは存在しません。

 私たちエルフのように高い魔力を持つ種族もおりますが、我々は魔力を魔石に依存しません。

 それとこれが大事なのですが、

 人型モンスターは他種族とコミュニケーションが取れません。

 亜人・・・代表的なものとして、

 エルフ、ドワーフ、ハーフリング、獣人、・・・この辺りは普通のヒューマンと同様の会話能力を持ちます。

 リザードマンなどは会話はぎこちないですが、亜人の範疇に含みます。」



指輪物語にでも影響受けているのだろうか、この世界は?

 「わかりやすいわね・・・」

 「はい? 何か気になる点でも?」

 「いいえ、ごめんなさい、続けてもらえるかしら?」


 「そうですね、

 そして、これは危険な部類の話なんですが、

 魔物の中でも高位のものになってくると、人間と変わらない知能や言語能力を持つ者がおります。

 当然、人間社会に多大な被害をもたらす者については、討伐対象になりますが、中には人間と共存しようとする個体もいるのです。

 そのような存在については、

 危険視しても争いになっては人間側にも多大な犠牲者が出ますので、大人しくしてくれる限りはこちらも揉め事を起こして欲しくないというのが実情です。

 代表的な者は、デーモン、ヴァンパイア、妖精種・・・。

 妖精は個体によって温和なものと残虐なものとの差が激しいので、種族で判断するのは避けるべきですね。」


情報は本当にありがたいのだけれど、自分が貢献できる気が全くない。

討伐対象の魔物相手にこの人形の身体が役に立つはずもないだろう。


だが、意外と言えば失礼だったろうか?

ギルドマスター、キャスリオンは私の先の説明だけで、私の有用性を理解していたようなのだ。


 「メリーさん。」

 「はい?」

 「あなたはこのギルドで貢献できることは少ないかのように仰ってましたが、私はそうは思いません。」


 「そうでしょうか?」

 「ええ、あなたの特性と、私が先ほど鑑定したあなたのスキル・・・

 それらを合わせれば、

 ミッションの種類は限定されますが、

 確実に私たちにとって役立つことでしょう。」


 「具体的には何を・・・?」


 「まずはオークやゴブリンの討伐・・・。

 奴らは人間・亜人の女性を繁殖の相手としか見ていません。

 男性にいたっては拷問や遊戯目的の殺傷を繰り返します。

 きっと、奴らの集落には大勢の人間の無念の恨みが渦を巻いているでしょう・・・。」


ピクン・・・


身体が反応した。

いまのキャスリオンの言葉に。

まず間違いない。


人間が森のウルフや熊の魔物に襲われたとて、この人形の報復衝動は発動しない。

捕食者にとってそれらはただの食事であり、

自然の摂理だ。

死にたくないと思う気持ちは、どんな人間でもシチュエーションでも一緒であろうが、自然の摂理なら仕方ないと思う気持ちも実際にあるのだ。

何故なら人間自身が他の動物の命を食らって生きながらえているのだ。

これも因果応報と言ってしまえばそれまでの話。


だが、オークたちのそれは違う。

彼らは同種族の女性と繁殖できないわけではない。

彼らには進化したうえでの必要上、身に着けた習性なのかもしれないが、犠牲者に納得など出来る筈もない。


このメリーが動く価値は十分ある。

 「いいでしょう。

 討伐依頼はあるのですか?

 この私でお役に立つならば・・・。」


 「メリーさん、その前に、ただ一つ懸念があります。」

 「なんでしょう?」

 「初めはレベルの低いゴブリン程度であなたの力を試して欲しいのですが、

 あなたのレベルが気になります。」

 「レベル?」

 「はい、先ほど鑑定した時、

 あなたの持っているスキルのレベルはいくつか成長しているのですが、身体パラメーターを伸ばす為のあなた自身のレベルが1のままなのです。

 お話を聞く限り、これまでの世界であなたはかなりの戦闘行為を行っているのに、

 レベルが1のままなんて考えられません。」


 「不思議ですね?

 あ、私はこれまで魔物と戦ったことはありませんよ?

 人間以外を殺めたこともありませんから、そのせいでは?」

 「いえ、だとしてもレベルが上がらないということはありません。

 魔物の方が戦闘に勝利した際のレベルアップ効果が高いのは確かですが。」

 

 「キャスリオン様の懸念は、

 人形の私のレベルは固定されていて、この先も成長しないのではないかということでしょうか?」


 「そうです。

 下級のゴブリン程度なら人間の一般的な兵士より弱いぐらいですが、

 集団戦または高位のゴブリン相手にしたとき、あなたの力は届かないのではと考えています。

 ・・・ましてや人間に敵対するデーモンやヴァンパイアが現れた場合・・・

 まぁどちらにしろ、

 そういった強力な魔物の討伐に、冒険者ランクの低い者を参加させることもありませんが。」


 「話はわかりました。

 確証がありませんが自分に心当たりはあります。

 キャスリオン様のお考え通り、最初はゴブリンかオークの討伐に向かわせてください。」



話は終わった。

ここからは事務的な手続きだ。


 「では冒険者カードをここで発行します。

 スタートはFランクからになります。

 カードの上に手を置いてください。

 先ほどの鑑定と似たようなことを行いますが、

 その際、冒険者カードにあなたの情報が登録されます。

 登録される情報は、

 名前、性別、種族、レベル、職業、称号、冒険者ランク、発行ギルド名、

 あ、パラメーターやスキルは登録されませんのでご安心を。」


カードはクレジットカードの大きさと、ほとんど一緒の金属製のものだ。

キャスリオンは私が手を乗せるのを確認すると、「鑑定転写!」と短く言葉を発した。


カード周辺に光が覆う。

手を離すと、いつの間にかカードの表面に大小の文字が刻まれていた・・・。

本当にどんな仕組みなんだろう?


 「カードはすぐ他人に見せられるようにしておいて下さい。

 城や他の街に行き来する時も必ず提示して下さいね。」

 「キャスリオン様、ありがとうございます。

 それで、先ほどのゴブリン討伐のミッションはいつ始まりますか?」


 「ミッションは、冒険者10人から20人程度集まった段階で出発する手筈です。

 今回は調査と、可能なら間引きを行います。

 既に定員を満たしていても、あなた一人ぐらいなら追加は問題ないでしょう。

 ・・・ただあなたは新人なので冒険者ランクは最低、

 報酬の振り分けも微々たるものになってしまいますが・・・。」

 「構いませんわ?

 私は人間のように食事も宿も不要だから。

 念のために金銭を所持していた方が便利かしらとしか考えていませんので。」


話が無事に終わったということで、

これ以上時間を削られたくないと、衛兵のブランデンさんはその場で別れることになった。

一足先に冒険者ギルドを出て、

街の巡回を続けるという。

ギルドマスターと私は別れの挨拶を行った。


それで私たちは部屋を出て階段を降りると、

1階のロビーで、先ほどとは別の喧騒が聞こえてきた。

私の件とは関係なさそうな雰囲気ね。


 「何事ですか、騒々しい。」

ピンと張り詰めた表情でギルドマスター、キャスリオンが一喝する。

すると受付にいたアマリスという女性が、うろたえながらギルドマスターに訴えた。


 「た、大変です! マスター!

 領主様の弟のベルクロワ・ダリアンテ様が殺されたそうです!!」


 「何ですって!?

 殺されたってどこで!?」

 「あの北の高台にあるベルクロワ様の自宅の中だそうです!

 なんでも首をスッパリ切断されてって!」

 

物騒ね、

領主の親族を自宅に侵入して殺すなんて、余程過激なテロリストでもいるのかしらね?


・・・うん? 首を切断?

瞬間的にキャスリオンと目が合った。

続いて彼女は私の武具である死神の鎌を凝視し始めた。

ああ、そういえば刃先を隠さないといけないんだっけ。


 「メリーさん、メリーさん?」

キャスリオンが乾いた笑いを浮かべる。

こんな時に不謹慎じゃないかしら?

 「どうしました、キャスリオン様?」


 「メリーさん、この世界に来てもう仕事されました?」

 「・・・そう言えば、

 奴隷の親子をいたぶり殺した肥満体の貴族ならいたわね・・・。」


突然キャスリオンが叫び出した。

 「ああああああああああああああああああああ!!」


受付のアマリスは何が何だかわからず狼狽える。

けれど親切なギルドマスターは、その場にいる全員に、事態を正確に理解できるような泣き声をあげたのだ。


 「先に知ってれば登録カード発行しなかったのにぃぃぃぃぃっ!!」


ごめんなさいね、キャスリオン。

 


次回、人形のメリーさんにメッセージが。


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