表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
699/748

第六百九十九話 北側エリア

<視点 ケイジ>


まずは地下五階以降、北側エリア。

ここは平面の迷宮というより、立体的な構造の遺跡と言うべきなのだろうか。

そこかしこに広場を見下ろせるような階段があったり、小さな貯蔵庫の様な空間も見つけられる。


出現するのは、

人型の魔物というか、哺乳類系の魔物が中心のエリアだそうだ。

今のところ、魔物との遭遇は散発的で、

下手をするとここまでの通り道以上にエンカウント率は少ない。

これほど少ないとなると、アガサの照明魔法も必要ないくらいだ。

罠の発見の為に「ライト」だけ使用しているけどな。


なお、「銀の閃光」「苛烈なる戦乙女」「デイアフターデイ」ともども、このエリアに立ち入ったことはあるが、エリアボスを倒したことはないそうだ。



 「オレたちはシーフ中心なんで、魔物を倒すより、魔物の隙を突いてお宝狙うタイプっすからねえ。」

とはストライドの弁。


なるほど、みんながみんな、魔物倒してナンボのイケイケパーティーとは限らないか。


 「逆にあたしらは罠の発見や解除が苦手なんだよ。

 だから滅多にダンジョンへは潜らない。

 主に依頼による魔物討伐をメインにしてるんだ。」

こちらは赤髪のテラシアだ。


 「え?

 それって二つのパーティーが組めば丁度いいんじゃないの?」


リィナの疑問はもっともな話だ。

そこだけ聞くとオレだってそう思う。


ただ片や男だけのパーティー、

もう一つは女だけのパーティー。

そう簡単に一緒にはなりにくいのだろうか。


 「「いや、そうなると人数が」」


ああ、もっと単純な話だった。

男女の話以前の問題か。

流石に十人以上になったら、統制も取りにくいし分配でも揉めそうだよな。


む?

そうなるとBランクパーティーのあいつらはどうなんだ?

オレは無意識のうちにパーティーリーダーのガラダスへと視線を向ける。


 「いやあ、僕らはまだこの街に来て数ヶ月ってところなんだよ。

 もともと他の街にいたんだけど、競争が激しくてね。

 この街はどうだろうかと、依頼をこなしているうちに例のスタンピードが起きてさ。

 だからまだそれほどダンジョン巡りは出来ていないんだ。

 ただ僕らも戦闘中心になるかな。

 軽戦士のファリアはシーフスキルを持っているけど本職じゃないしね、それよりかは魔物の素材や経験値稼ぎの方が重要だ。」


ふむ、なるほどな。

そしてその後は鉄壁のアルデヒトの解説となる。


 「しかしそのスタンピード以降、『デイアフターデイ』は急成長を遂げているよな。

 オレの知る限り依頼達成率は100%、

 回復職が二人もいることもあって、合同依頼の申し入れも多く、その依頼をクリアした後には怪我人が一人もいないという優良パーティーだ。」


そうだよな、

単純に戦力が厚いというのも冒険者パーティーの実力を測るのに重要だが、

死人や怪我人を出さないというのは、ミッションを依頼する側としたらこれ程安心できることはない。


 「えっへっへー、

 あたしもあのスタンピードでファイナルスキル覚えたんだけどさ、

 ベルはいきなり能力アップしたよねー、

 MPの上昇率も格段に上がって回復術を使える回数も増えたんだよなー。」


踊り子もどきがベルリンダに抱きついた。


 「う、うぇへへへへ、ファリアさん恥ずかしいですよぉ・・・。」


ベルリンダは褒められてるのが恥ずかしいのか、いちゃつかれてるのが恥ずかしいのか、

いや、どちらもか。


 「・・・ファリア、

 オレとランドラードもあれから急成長・・・ああ、いや、やっぱなんでもねー。」

 「ウヒャヒャ、レックスぅ、

 このファリア様に抱きついて欲しかったのかー?

 おあいにく様ー、あんたらには見せるだけー。

 そう簡単にあたしの柔肌は味あわせてあげらんねーからなあ?」

 「誰もそんなもん、期待してねーよ!!」



いい性格の様だな、踊り子もどき。

アガサとタバサだったら男女遠慮なく抱きついてきたろうがな。

だからオレは羨ましくなんかない。


ちなみに銀の閃光のメンバーが、

一様に物欲しそうな目をファリアに向けて、

それをまたテラシアとバレッサが虫でも見る様な目を男どもに浴びせていた。


当然オレは「銀の閃光」から距離を取る。



 「楽しいパーティーだろ?」


そのオレに優男のエスターが話しかけてきた。

ああ、ホントにな。

全くそう思うぞ。


 「確かにな、明日も明後日も楽しそうだ。」


まあ、オレたちは臨時のお助けパーティー。

アガサに関してはこの後もこいつらと長い付き合いになるかもしれないけどな。


ならばというわけではないが、

アガサへの餞別代わりにオレたちの実力を見せつけてくれよう。




 「ケイジ!」


リィナの耳に反応があった。

いよいよ魔物のお出ましか。


リィナの顰めた声で全員の足が止まる。

恐らくまだそこまで近い距離にはいまい。

オレは全員に腰を落として身を隠すよう指示をする。


そんなに賑やかにはしていなかった筈だが、

これだけの人数が歩いていたからな。

魔物側にはオレ達の存在は気付かれているとは思うが、距離が離れていては正確な居場所までは分かるまい。



おっと・・・

オレの鼻も異臭を嗅ぎとったぞ?


これはなんの匂いだ?

獣の匂いであることは間違いない。

だがこれまで嗅いだ記憶はないな。


 「もしエリアボスなら・・・」


先ほどまでの話の流れで、

このエリアについて最も詳しい情報を持っているのは、ギルドサブマスター、アルデヒトしかいないと思う。

そのアルデヒトからの、

オレらにしか聞こえないような小さな呟き。


 「エリアボスなら恐らくはマンティコア・・・

 人の顔を持ち、毒針の尾を持つ狡猾な魔物だ・・・。」


マンティコア?

聞いたことはあるが戦ったことはないな。


 「魔物としての強さでいうならそれ程の強さではないんだが、狡賢いというかいやらしいというか、

 簡単に勝てないと分かるとすぐに逃げるんだ。

 そして冒険者からは付かず離れず、隙を見つけては襲ってくる。」


ああ、なるほど。

それは厄介だな。


ならばアガサの


 「『ライトネス』。」


まず隠れ場所を徹底的に潰してしまおう。


 「わ、私もお役に立ちます!

 『プロテクションシールド』!」


おお、ベルリンダの防御呪文・・・

え?

ここにいるメンバー全員に掛けられるのか!?

二十人近くいるんだぞ?

この大所帯全員に?


アガサまでも目を見開いてるし、

バレッサなんか顎が外れそうなほど驚いてるぞ?


思わず賞賛の声を掛けてやりたいところだが、

既に戦闘開始一歩手前。

評価は後回しにして前方の敵に集中するとしよう。


一方、突然の明るさに魔物の方も警戒したのだろう、

リィナの耳から一切の足音が消失する。


身を潜めてオレたちがどこにいるのか探っているな・・・

まあ、オレたちも物陰に潜んでいるのは同じなんだけども。


とはいえ、いつまでも互いにかくれんぼしていても仕方あるまい。

オレは更にアガサに目配せを送る。


以心伝心、

覚えていてもらおう、この街の冒険者に。

オレたちの戦いぶりを。


 「『ウインド』。」


続けてアガサによる風の基本魔法。


全員が、

特に同じ術士であるバレッサや、

冒険者の戦いに理解の深い筈のアルデヒトまでも戸惑うだけだろう。


 「え、な、なんでここで殺傷力のない基本術なんか?」


だよな。

普通ならそう思うだろう。


だが、ここには嗅覚の鋭いオレがいるんだ。

解説はアガサに任すけどな。


 「基本術ウインドは一定の方向に風を起こすだけの術。

 自由自在に風をあやつる精霊術に比べれば確かに圧倒的に低レベルの呪文。

 されどケイジのような嗅覚に優れた者がいるなら、この上なく有用な術に変化!」


そう、

一定の方向にしか操れない?

それでいいんだ。


それで魔物がいると思われる方向からオレの方に吹かせてもらえれば、

その魔物がどの辺りに潜んでいるのかオレには一目・・・いや一鼻瞭然!?

そしてもちろん逆に、魔物の方へはオレたちの詳細な居場所を掴む手段を打ち消してしまうんだ。

相手の居場所の探り合いに使わない手はないだろ?



うむ・・・

身を隠す場所はたくさんあるが・・・

恐らくあの、観客席のような作りの壇上の後ろ辺りに潜んでいるな?



 「あ、オレにも分かるぞ!」


こいつは猫型獣人のジルだったか。

オレと並ぶ嗅覚というより、口周りに生えているヒゲのセンサーで分かるのかもしれないな。



さてどうするか。

魔物の大まかな居場所はだいたい分かった。


ただ障害物があるためこちらの攻撃は届かない。

遠距離攻撃手段はいくらでもあるが、

いずれも魔物を仕留めるだけのものではない。


 「ストーンシャワーなら討伐可能と思うけどいささかオーバーキル?」


うむ、

恐らくアガサの広範囲殲滅魔法ならエリアボスといえど致命傷か瀕死にまで追い込むことは出来るだろう。

ただ、この広場そのものまでも破壊しそうだぞ?

それは最後の手段にした方が良さそうだ。



今のうちに他のエリアのボス考えとかないと・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ