第六百九十八話 明かせない懸念
あ、名前また間違えてた。
こっそり修正。
<視点 ケイジ>
それからのことを書こう。
拍子抜けるほどの順調さだった。
まあ、別にこのダンジョンは高難易度とされているわけでもない。
初見のオレ達の場合だと罠の存在が怖いのだが、既にこの街の冒険者が情報なり対処なりしてくれているので全く問題にならない。
さすがのBランクチーム「デイアフターデイ」の連中すら手持ち無沙汰になる始末だ。
いや、
これは・・・
「やっぱり魔物の数が少ないっすよ。
スタンピードで想定以上の魔物がここから出ていったってことなんですかねえ?」
その場合どうなるんだろうな?
ストライドの感想と質問はオレにも感じるところはあった。
このダンジョンは初めてとはいえ、他のダンジョンにだって潜ったことはある。
その時の経験に比べてやけに物足りない気がするのだ。
「でも、それならダンジョン攻略がかなり楽になるってことですか?」
チェリーブロンドの髪を垂らすベルリンダの口調は明るい。
確かに安全性が増すなら冒険者としては気楽に潜れるよな。
「ああ、待て待てベルリンダちゃん、
確かに楽っちゃあ楽なんだが、そうなると稼ぎの方がなあ・・・。」
騎士職のレックスは装備にも金かかってるだろうからな。
魔物が少ないということは素材もドロップ品も期待出来なくなるということ。
そうなると日々の生活に影響出てくるというわけか。
「オレやギルマスの考えでは、それは確かに想定の一つだ。」
この場の責任者であるアルデヒトが周りを見回して口を開く。
「その場合だと、期間を絞ってダンジョン探索に何らかの条件をつけることになるな。
もちろん他の二つのダンジョンも調査してからになるが。
そうやってダンジョンが元の様相を取り戻すまで、制限をかけて対応せざるを得ないだろう。」
レックスと踊り子もどきのファリアがガックリと肩を落とした。
分かりやすい反応だよな、こいつらは。
ガラダスと、エスター、あとウォーハンマー持ちのランドラードという男はそれほど表情に変化を見せない。
恐らくだが、こいつらはいいとこの出かもしれないな。
金に困ってそうな雰囲気がまるでない。
グリフィス公国の冒険者、「栄光の剣」のアレンやミコノさんのように出自は貴族の可能性もある。
そこへ胸を支えるかのように腕を組んでいた赤髪のテラシアが近づいてきた。
・・・うむ、アガサさえいなければこの場で彼女が一番だ。
・・・何がとは言わないぞ。
ストライドたち「銀の閃光」の奴らもそこに視線を向けているが。
「なあアルデヒト、
今、想定の一つって言ったが、てことは別の想定もまだあるってことかい?」
「うむ、ただまだその兆候は見えん。
何もなければそれでいいんだ。
さっきの話では冒険者に少し不満は残ると思うが、後は時間が解決するというだけの話だからな。」
「いや、だからさ?
あたしの聞きたいことは、それの他に、どんな想定しているんだよってことだよ。」
テラシアの言いたいことは、
魔物が少なくなっていることに、他の理由が考えられるのかということだろうな。
魔物の生態やスタンピードのメカニズムについては、悪いがオレもそんなに詳しくはない。
むしろ冒険者ギルド職員の方が正確な知識を蓄えていると思うんだが。
テラシアの疑問に答えるのは、年齢的にもこのメンバーの中ではアルデヒトが相応しいだろう。
「あ、ケイジさん、アルデヒトはまだ20代っすよ。」
なんだと、ストライド。
アイツ30手前なのかよ。
今日一ビックリしたぞ。
かなり落ち着いているからもっと年齢行ってるかと思っていた。
ん?
待て、そうなるとテラシアとはどっちが
これまで幾多の戦闘と経験で、オレもある程度まで危機察知能力は高まっている。
その時、そのテラシアから強烈な殺意のようなものを感じ取ったような気がするオレは、
黙って二人のやり取りを注視するだけにした。
おっと。
アルデヒトの返答はいかに?
「・・・それはまだ言わない方がいいんだと思うんだがな。
実際、スタンピードなんて現象自体が滅多に起こらないものなんだ。
ただほとんどの場合、スタンピード収束期には大抵の魔物が死滅すると考えられている。
今残っている魔物は、スタンピードの影響を受けなかったものか、或いはスタンピード後に湧いた魔物か・・・
そしてスタンピードの影響を受けながら生き残ったモノがあるとすれば・・・というのが、そこから先の想定という話になるだけだ。
まずもってそんなことにはならないことを期待するとだけしか言えないな。」
「結局言わねーのかい。」
「言ったろう、その兆候もないと。
なら周りを不安がらせる必要もないだろう?」
オレにはテラシアの気持ちもアルデヒトの判断も理解できる。
ただこの場はどちらがいいかについて、オレは口出すつもりはない。
あくまで今回オレは協力者。
この街の冒険者やそのギルドの求めに応じて体を張るだけだ。
・・・厳密にいうとアガサのためだがな。
もっともアガサとて、まだこの街に馴染んでいない以上、ここに口は挟めまい。
・・・オレの脳内で麻衣さんが「すでにフラグです」と語りかけてくる気がする。
きっと気のせいだろう。
さて今オレ達がいるところは地下五階。
この先なんだが、進み方は一本道ではないらしい。
というのは、
地下五階から下の階層は四つに分かれていて・・・
そうだな、地上に近いところから、
北側エリア、東側エリア、南側エリア、西側エリアの四つに分かれているそうだ。
説明し辛いが、
果物の葡萄の房を思い浮かべてくれ。
普通、葡萄の房にはたくさんの実がついてるだろうが、実の数を四つにまで減らしてくれればイメージを掴めるだろうか。
上から降りて行って、その四つの房それぞれが各エリアに相当するわけだ。
その各エリアにエリアボスがいるらしい。
普段通りということなら。
今のところこのダンジョンではダンジョンコアのようなものは発見されていない。
なのでその四つのエリアを一回の探索でクリアしたなら、その冒険者パーティーはダンジョン完全攻略を認められるらしい。
ということでオレ達がこの先迎うのは、まず北側エリアだ。
特にエリアボスを見つけても倒す必要はない。
もちろん敵が先にこちらを見つけたら問答無用で戦闘になる。
オレやリィナだけならともかく、
アガサやベルリンダ、バレッサといった術師チームはそこまで素早さに特化してないからな。
ただしこのダンジョンにはボス部屋のようなものはなく、エリアボスに相当する魔物はそのエリアのどこかを彷徨っているそうだ。
・・・麻衣さんがいたらあっという間に探索終わってるよな。
まあ、ないものねだりしても仕方ない。
もともと麻衣さんの存在そのものがチート。
そんなものにいつまでも頼っているわけにもいかないのだ。
さて、この先、鬼が出るか蛇が出るか。
うりぃ
「どんどん本格化しとるやないかいっ!」