第六百九十三話 物語は続く
ぶっくま、ぶっくま、ありがとうございます!
いえ、続きませんから。
あくまでこの世界でも、この先の未来もあるんですよ、という意味です。
<視点 ケイジ>
ん?
今回の語り手はオレなのか?
いいのか、オレで?
ていうか、もう二度とオレが物語を語る事などないと思っていたのに。
・・・まあいい。
話せと言われれば話す事はたくさんある。
まず、今言ったばかりだが、
オレはもうこの物語を語る事などないと思っていた。
オレの物語は終わったのだと。
カラドック達は自分たちの世界に戻った。
オレの出自にまつわるイザコザもとりあえず片付いたようだ。
リィナも家族に会えたし、みんなこれからの未来に明るい展望を抱けたことだろう。
それぞれ歩む道は異なるが、アガサやタバサにしても同じこと。
アガサについては、オレ達と同じ冒険者の世界に留まるとも言えるので、
グリフィス公国の冒険者ギルドグランドマスター、ヴァルトバイスの勧めでトライバル王国のダリアンテ領まで付き合うこととなった。
そこまではいい。
タバサと涙の別れを済ませ、
・・・うん、大泣きしてたよな、タバサ。
あの時だけはタバサにオレの体を好きなようにモフらせた。
オレの理性もかなり怪しいところまで追い込まれたが、後ろでリィナが放電していたこともあって、なんとかギリギリ耐えられたのだ。
そう、そしてタバサと別れホワイトパレスを去ろうとする直前、マルゴット女王に呼び出されたのである。
オレ一人で。
大事な話であるのは間違いなかった。
オレにこの国に留まるよう説得されるのか?
すぐに浮かんだのはそんな考えだった。
女王に先んじてそんなことを口走ってみたのだが、
女王は否定も肯定もしなかった。
ただ「妾はそうしてくれた方が嬉しいのじゃが」と儚げな笑みを浮かべていただけだった。
つまりそれは本題ではないということか。
「ケイジに告げるべきかどうか悩んでおってな。」
何の話だ?
全く女王の内心が読めない。
まあ、最終的にはオレに話そうと決めたから、わざわざここに呼び出したのだろう。
後は話の持っていき方で悩んでいるというところか。
その後、女王はこの国が置かれている状況をオレに説明してくれた。
ある程度はオレだって理解している。
まだマリン太公を討った隣国とは一触即発の状況のままなのだ。
以前はオレも再戦回避の為に陰で動き回っていたが、それはマリン太公の死を忘れたからなどではない。
あくまで魔人という更なる脅威に備える為だ。
もはやその脅威がない以上、
グリフィス公国と「あの国」で再び戦いの火蓋が上がろうと、オレはそれを止める気などさらさら無いのだ。
これがまた、オレが一人で生きているのなら、
何らかの形で戦争に加わってすらいいと思うのだが、
今は俺の側にリィナもいる。
何の関係もないリィナまで巻き込むわけにはいかないからな。
もちろんグリフィス公国としては、必ずしも戦争をしなければならないわけではない。
賠償とか外交的な解決手段も可能と言えば可能だが、
・・・相手だって一歩も引くわけないんだよな。
邪龍討伐の旗印として、オレたち「蒼い狼」を真っ先に担ぎ、このオレを女王の血縁者とアピールすることで、国際的な評価は高まっているのは間違いない。
経済や暮らしも上向きだし、国民の顔も明るい。
けれどそれだけでは足らないのだろう。
女王は前に進まなければならない。
前に進まなければならないのなら、
女王は何をする?
そしてオレに何をさせるつもりか?
「ケイジにはの、
このまま好きなように生きてもらいたいとは思っておるのじゃ。」
恐らく女王の本心なのだろう。
そのこと自体には素直に感謝したい。
しかしそうも言っておれないという話の流れだろうか?
「いや、今のところはケイジの力は必要ない。」
え、いいのか?
まあ、今のところという部分がポイントか。
「実はそなたの父親に会った。」
ん?
え?
アルツァーとはこないだ会ったばかりだろ?
式典にも参加していたし。
実はも何も・・・
まさか
「そうよ、そなたの前世での父親のことよ。
カラドックを送った晩に妾の寝所にやってきおっての、
息子達が世話になったと礼を言っておったわ。」
バ、バカな!?
じゃ、じゃああいつは!
ずっとオレ達のことを!?
「お陰でめくるめくような蠱惑的な一夜・・・ゴホンッ
いや、そこで少し話をしていったのじゃがな、
まあ、向こうの世界にしてもこちらの世界にしても、一つの事件や大波を乗り越えようとも、人間は更なる危機を乗り越えねばならんとかの、
そんなように人間作られているとかそんな話じゃな。」
それは、
魔人や邪龍の話が片付いても・・・
ということなのか。
「ケイジも知っておるじゃろう。
いつまでも隣の国の畜生どもは放っておけん。」
やはりその話か。
「直前剣を交えるのは我が国じゃが、
戦争など一対一で行うものでもない。」
外交か。
どれだけ周りの国から援助を取り付けるかも戦いには影響与えるものな。
「軍事物資や食糧援助で最も頼りになるのは、言わずと知れたトライバル王国、
この国の宗主国でもある。」
そう、グリフィス公国はもともとトライバル王国の一部だった。
百何十年か昔の話、グリフィス公家はトライバル王国から独立を認められて以来、良好な関係を築いている。
もともと縁戚関係だしな。
だが、その話とあのクソ親父と何の関係がある?
「まあ、そなたの父親の話とは直接関わりはないのじゃがな。
ただ昨晩話をしていて妾も覚悟を決めた。
どの道、如何にこの国が豊かに平和になろうとも、国格を上げるのは難しかろう。
誰にでも分かり易い話は領土を広げることじゃ。」
つまりそれは
「うむ、マリンを殺した奴らから奪い取るまでよ。」
そうだな。
邪龍を滅ぼしたのだってグリフィス公国じゃない。
あくまで冒険者のオレ達だ。
もちろん異世界からカラドックを呼び寄せたのはグリフィス公国の手柄にはなっている。
ただそれだけでは足らないのだ。
グリフィス公国が王国にのし上がる為には。
「そこで最初の話に戻るのよ。」
おっと、
なんだっけ?
あ、オレの話か?
「ケイジ達はこの後トライバル王国へ向かうのよな?」
あ、ああ、そうだな。
「トライバル王国ではケイジよ、
我らグリフィス公国に利するように・・・
いや、もっと言おうぞ、
中にはトライバル王国内部に我らを仇為す者たちもおるかもしれぬ。
其奴らの力を削ぐように動いてくれぬか。
なに、難しく考える必要はない。
冒険者として妾の甥として名を上げてくれるだけでも効果は十分よ。」
そういうことか。
「女王の要望は理解しました。
できる限りのことはしてみせましょう。」
もともとオレなんて陽の当たるところで名を上げる立場じゃあないしな。
その辺りが適材適所だと自分でも思う。
ちなみにオレは女王とのタメ口は許されているが、こういう固い話ならこちらもそれなりの態度を見せねばなるまい。
あくまでオレの心情の話だが。
まあそれはいいとして、だが。
「しかし、女王、
実際戦争ともなれば、人材の不安はないのか?
守るだけなら将兵の数もギリギリでなんとかなるだろうが、相手の領地を切り崩すとなるとかなりの人員を割かねばなるまい?」
「そこは前の戦争で結果的に温存していたアルツァーを動かす。
お主が心配しておったモードレルトも、そこで真っ当な評価を受ければ道を踏み外すこともあるまいよ。」
む。
いいアイデアだと、思うんだがな。
アルツァーは問題ない。
将軍としても指揮官としても有能だろう。
アイツのクラス聖騎士だしな。
確か「エクスカリバー」とかいうユニークスキルも持っていると聞く。
ただモードレルトかあ。
いや、能力はあるんだろう。
かつての前世でのオレと同じくらいには。
そしてそいつを日陰でなく活躍させる機会を作れば・・・
安心なのかなあ。
少し不安は残るんだよな。
まあ、後はコンラッドもいるし、精霊術を身につけたベディベールがいればかなり有利だよな?
しかしそれだけで勝てるか・・・。
守るだけなら、
或いは前線を維持するだけなら何とかなるだろうが。
「それとケイジには少し話しておこう、
これからのことを。」
ん?
いったい何を?
「今回、妾は覚悟を決めた、
そう申したな?」
ああ、さっき言ってたよな?
「ならば妾はこの戦、
使えるものは全て使う。
愛するイゾルテにも動いてもらう。
ローゼンベルクのアスターナもじゃ、
今回の件で、アスターナにも人を惹きつける才能があるとわかったしの。
まだ全てを決断するには至らぬが、
ケイジには事前に頭の中に入れておいて欲しいのじゃ。」
え?
ちょっと待ってくれ。
話がオレの想定から溢れ始めたぞ!?
イゾルテにアスターナ夫人て、
戦争には全く絡んでこない人達のはずだよな?
いったいあの二人に何をやらせる気だ!?
結論。
この話はずっと先に起こる話だ。
それこそこの物語でそこまで語られることもない。
オレの頭の中にはほんの数手先の未来しか想像出来なかったんだが、
マルゴット女王は遥かこの国の未来をも頭の中で組み立てていたらしい。
自分自身がいなくなる後までも。
女王がオレに託したのはそのうちのほんの小さな仕事。
ならやってやるしかないよな。
オレに出来る恩返しなんてそれくらいしかない。
そんなことを口にしたら、
またいきなり抱きつかれた。
うん、まあ・・・
こうして思うと・・・
やっぱりオレはこの世界では一人きりじゃあ、
ないんだなって気がする。
それを教えてくれて、ありがとう。
オレの・・・
三人目の母よ・・・。
はい、トライバル王国とグリフィス公国は仲良しでした。
最後の最後で明らかに。
いぬ
「あれ、その設定ついさいきn」
うりぃ
「それいうたらいけーんっ!!」