第六百九十二話 富める者の義務
<視点 キャスリオン>
圧倒的ですねえ。
え?
何の話かと?
そうですね、では簡単にこれまでの話をお聞かせしましょう。
私たちのギルドで研修を始めることとなったアガサ様は・・・
いえ、仮にとはいえギルド職員として振る舞う以上、敬称はいりませんね。
本人からも不要だとの承諾を得ています。
そしてアガサはギルドに隣接する独身寮に住まう事となりました。
なお、私も独身ではありますが、近くに家を持っていますので、そちらから通い詰めています。
独身寮にはアルデヒトも住んでいますが、役職的にほぼ寮長みたいな存在なのですよね。
なお、受付嬢のアマリスも独身なのですが、
彼女は近くにアパートを借りています。
親元から通うのであれば、独身寮に住む必要もないのですが、わざわざ一人暮らしを選ぶ理由はどこにあるのでしょうか?
まあ、別に独身だからといって独身寮に住む義務があるわけでもないのですので、その件は誰も問い詰めてはおりません。
おっと、今はアガサ達の話ですね。
アガサのフォローについて来てくれたケイジ様とリィナ様は適当な宿屋に長期で泊られるとのこと。
基本、アガサにはギルド内で私がそうだったように、まずは受付嬢をやってもらいます。
そして、今の当面の問題として、各地に残存している強力な魔物、
とりわけ現在封鎖しているダンジョンの開放の為に、内部を隅々まで探索せねばなりません。
その時はケイジ様たちとアガサに活躍してもらうつもりです。
こちらのそんな提案を彼女達は了承してくれました。
本当に私の目からは、彼女達が救いの天使に見えてしまうところです。
よりにもよってアルデヒトの問題が起きて、実務面での悪影響に頭を悩ましていたこのタイミングでやって来てくれるなんて。
そしてアガサは次の日からこのギルドで働き始めてくれたのです。
まずは、オリエンテーションとして、
私の執務室で、簡単なこの街の位置付け、特色、領主様との関係、
そしてある程度把握しているであろう、冒険者ギルドの役割、冒険者に何が出来るか、何をしてあげればよいのか、
そういった講習から始めたのですが、
やはりダークエルフきってのエリートという前評判は確かなものでした。
アガサは真面目に私の話を聞いて、分からないところ、疑問に思った事は的確に質問してきます。
私にはやらなければならない業務が溜まってはいたのですが、それらを後回しにしても良いと思うぐらいの逸材です。
昼食は職員交代制で休憩に入りますが、そこでは他の職員と一緒に、ダークエルフの街の話、冒険者として鬼人や魔人、邪龍との戦いのお話などをしてもらって・・・
ああああ、休憩時間なんかすぐになくなっちゃいましたよ。
これは今晩歓迎会ですね。
そこでゆっくりお話を聞かせていただきたいと思います。
・・・そして、話はいま、
午後にとりあえず見習いとして、アマリスの隣に座ってもらったんですよ、アガサを。
アマリスには自分の仕事をアガサに見せるように、
可能であれば、解説しながら教えてあげなさいと指示をいたしました。
アマリスもバカではありません。
・・・私は例の一件以降、アマリスの評価を上げています。
悪い意味でですが。
アマリスも戸惑いながらも私の指示を了承しました。
そして冒頭の話になるわけですが。
「あ、あの、アガサさん?」
「私はあなたの後輩、そして見習い。
敬称不要、呼び捨てOK。」
アマリスの混乱はよく分かります。
私でさえ、今のアマリスの立場だったならどれだけ平常心を保てるか・・・。
「あ、そ、そうですね、ではアガサ、
そ、その机の上の・・・ですね?
しまってもらえると、その・・・。」
先程からミッションクリアの報告に来る冒険者の視線が、ほとんどそこに集中しているのですよねえ・・・。
テーブルに座って特になんの作業もしてない人達も、ちらちらそっち見ているし。
まあ個人的には、アマリスざまぁって言いたいんですけどね。
あなたがあざとい仕草で色目つかってるのを、
あの圧倒的な質量のお乳で木っ端微塵に打ち砕いてしまったのだから。
ただアマリスの指摘は受付嬢としては正しい態度です。
あの悪魔のような二つの巨乳は机の上に安置して良いものではありません。
「おっとこれは失礼、
デスクワークに慣れておらず、
ついつい楽だったので以降反省。」
そう言ってアガサは椅子を後ろに引きました。
それならあの爆乳も机に届きませんものね。
その途端、冒険者どもから悲鳴が聞こえて来ましたけども。
・・・そんなに胸が大きいのがいいんですかね?
それにしてもエルフ族は、そんなに胸の大きい女性はいないんですけど、ダークエルフの種族に限って、全体的にバストの大きいイメージ有りますよね?
ダークエルフとハイエルフがしばしば対立してるっていうのは、もしかしてそれが原因なんじゃないですか?
それと私は彼女たちの後ろに控えていたのですが、ある一点、女性として不思議に思ったことがあったので、業務の隙を見てアガサに質問をしました。
「アガサ?
もし良ければ教えて欲しいのですけども、
それだけ立派なものを抱えていれば、男性達の視線が凄まじいものになるでしょう?
・・・ほら、今もあちこちから。
普通の女性ならそれを疎ましく思ったり、恥ずかしがったりするものですけど、あなたは気にはならないのかしら?」
同じ女性として、アマリスも私と似たような疑問を持っていたようです。
首を横に曲げながらウンウン頷いてますね。
いわゆる淫乱と呼ばれる女性なら、
それを武器に男たちの荒波を乗り越えていく者もいるでしょう。
でも今まで見て来た感じでは、アガサにそこまで性的な行動や言動を取るような女性には見えません。
そんな事を思っていたのですが、
私の質問にアガサは堂々と答えを返して来ました。
「我が肉体に恥ずかしさを覚えるような部位など一片も無し!」
うわああ。
すんごい人来たああああああ。
隣でアマリスが「この人なにいっちゃってんの」みたいな表情してるううううう。
いや、それはそれで愉快なのですけども。
ところがアガサの凄いところはそれだけに留まらなかったのです。
「見たい者は見ればいい。
私は逃げも隠れもしない。
それが私の『富める者の義務』。」
あ・・・
いつの間にロビーにいる冒険者の皆様総立ちで・・・
歓声と大きな拍手が・・・
よく見たらストライドさんもいるじゃないですか。
めちゃくちゃ真剣な表情で拍手してますよ。
あの人、ホントにストライクゾーン広いんですよね。
このおかしな空気に耐えられなかったのか、今度はアマリスも質問します。
「あ、あの、とはいえ、それだと寄ってくるウザい男どももいますよね?
まさかそいつらにその胸を好き放題されても?」
アマリス、あなたは品が無さすぎますよ。
もう少し表現を抑えなさい。
まあ聞きたい気持ちは分かりますが。
けれどアガサは更に上手のようです。
「女性の人格に敬意も礼儀も持たない者に私が相手をする道義は無し。
その時は私の術士としての施しを与えてやれば済む話。」
なるほど。
それだけの誇りは術士としての強さに裏打ちされて成り立っているものなのですね。
それを含めて「富める者」と。
アガサの考え方が少しわかった気がします。
「それに。」
おや、まだ話の続きが。
「この胸に視線が集中しているのは男性ばかりに在らず、
ある意味、男女に違いも無し。」
あ、ま、まぁ、そうですね。
男性と女性では視線の意味合いは違うのでしょうけども、私ですら無視できませんでしたものね。
おや?
そういいながらアガサは腕を上げてどこかを指差しています。
えっと、
その指先の示す方向には・・・
あ、あんなところに。
「苛烈なる戦乙女」のリーダー、テラシアさんが、とても悔しそうな表情でテーブルの上に崩れていました。
バレッサさん達周りのメンバーで必死に慰めている姿がとても痛々しく。
「・・・ただ誤解はしないで欲しいと希求。」
どうやらアガサの主張にはまだ先があったようですね。
「ご、誤解、ですか?」
「上には上が・・・
今もあちらで屈している女戦士がいるが、ついこないだ、私も同じような挫折を経験。
この私ですら敵わない恐ろしいものがこの世に存在。」
ええっ!?
これ以上のそんな化け物が!?
アマリスも驚愕の表情を浮かべています。
「異世界からの巫女、麻衣が呼び寄せた妖魔ラミア・・・、
どうしても、くっ・・・どう比べてもあの女には届かずっ!
私は膝を屈する事しか出来なかったあの絶望っ!!」
「亜人どころか人外の魔物じゃないですかっ!!
そんなものと比べないでくださいっ!!」
ええ、今回だけはアマリスが正論です。
果たしてこの後、このギルドはどうなってしまうのでしょうね。
・・・いえ、
悲観というか、
ちょっと楽しく感じてる私がいるのは内緒ですよ。
ハイエルフのミストランさん&ミストレイさん
「「んー、ハイエルフだからって貧乳とは限らないよー?」」