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第六百九十一話 後日談

<視点 キャスリオン>


まさかこんな事になるなんて。



ここは先ほど私たちが三人で打ち合わせをしていた執務室。

そこに再び舞い戻ってきたわけなのですが、

新たに三人のお客様をお招きしています。

部屋が手狭になるので、会計のオコーナーは事務室に戻ってもらいました。

後ほど彼にも今回のお話を共有させてもらいましょう。


 「あなた方が邪龍を討ち払ってくれたSランクパーティー、『蒼い狼』・・・、

 私たちごときが下げる頭に何の価値もないでしょうが是非ともお礼を・・・。」


この辺は、長年私の補佐をしてくれているアルデヒトにも意見の齟齬はありません。

私の言葉に応じるように、彼も深々と頭を下げてくれました。


ただ、それを聞いた狼獣人のケイジ様は、私の言葉を受け入れづらいように見えます。


 「よしてくれ。

 邪龍討伐については、異世界からきたカラドック達、特にメリーさんの独壇場だった。

 それにオレらはパーティーとしては、もうSランクを名乗っていない。

 ここにいるアガサもそうだが、あくまで個人レベルでSランク認定されただけさ。」


その話はよく分かります。

異世界からやって来た方々は、既に元の世界に帰られてしまったと。

そしてメンバーの中には多才なる技を持った魔族の方や、それこそハイエルフトップの実力を持つ大僧正クラスの女性もいたと聞いています。

それだけのメンツが既に抜けられているのだから、パーティーとしてSランクに留まるのは難しいでしょう。


ですが・・・


 「いえ、でも、あなた方が邪龍を討伐したのは紛れもない事実ですよね?

 この街を救ってくれたメリーさんが、この国どころか世界までも・・・。

 その事にお礼を言えなかったのは心残りではありますが。」


あの方は、やりたい事だけやってさっさと帰られてしまったのですね。

もちろん私たちが、メリーさんを非難することなど絶対にできません。

ただただ、こちらから彼女に何もしてあげられなかったことだけが最大の心残り。


 「・・・ああ、オレ達も彼女に対しては似たようなものさ。

 何の恩返しも出来ていない。

 けれど、その代わりと言っていいのか分からないが、彼女はこの世界でかつての自分の身近な人間を見つける事が出来たらしい。

 そのせいか、最後は迷いもなく帰っていったんだと思う。」


 「え?

 かつての身近な人間?」


どういう事でしょう。

まさかメリーさんの他にも転移者が?


 「ああ、済まない。

 その話になると長くなるよな。

 なるべく簡単に説明すると、

 オレ達のこの世界、そしてメリーさんの世界と、別々の世界にありながら、同じ魂を有した人間が同時に存在しているらしい。

 メリーさんはこの世界でかつての自分の大事な友人の痕跡を見つけたそうなんだ。

 その人は邪龍に魂を食われていたんだが、邪龍を倒した事でその魂は世界樹の元に還っていったと、そしていつの日にかまた新たな命を得る事ができるそうだ。

 他にも、人間として生きていた時に死なせてしまった自分の護衛とか、自分が産んだ娘の別人格に会えたとも。

 その事を聞いてメリーさんはとても満足していたとオレ達は思っている。」


あ、

友人の方の事はメリーさんから聞いていた気がします。


 「そう言えば・・・

 みんなで守ろうとしたけれど・・・

 叶わなかったような事を・・・」


ハッキリとは聞いていませんが、恐らくそういうお話だった筈。

それに自分の子供にも会えたって?

それは・・・きっと、とても嬉しかったでしょうね。


 「・・・良かったです。

 それで、少しでもあの方の心が軽くなるのなら・・・。」


心の底からそう思います。

あの方は感情を見せないから、何を考えているのか今ひとつ分からなかったのですが、

間違いなく過去は一人の女性として生きていた筈。

その時の心残りを引きずっておられたのは私にも分かりました。

それがこの世界で何らかの形で解決したというのなら・・・


 「ありがとう。」


え?

いきなり狼獣人のケイジ様に頭を下げられました。

一緒に兎獣人のリィナ様とダークエルフのアガサ様も同じように頭を下げて・・・


 「あ、あの、今の話で私に何故ありがとうって・・・?」


 「別におかしな話じゃないだろう?

 メリーさんはオレたちのパーティーメンバーだ。

 そして貴女は彼女のことを心配してくれていたんだろう?

 ならその想いに対してオレ達がお礼をいうことに何の不思議がある?」


あ、そ、そういう流れなのですね。

・・・メリーさん、あなたは素敵な仲間に恵まれていたのですね。

どうやら私の顔は綻んでしまったようです。

口元の筋肉を締めることが出来ません。


その後ケイジ様とアガサ様、リィナ様はお互いに無言で頷きあった後、私たちに一つの手紙を差し出しました。


最初に挨拶を受けた時に聞いていましたが、

差出人は隣国グリフィス公国の冒険者ギルドグランドマスターから。


直接会ったことはありませんが、

それほど大きくない国とは言え、その国の冒険者ギルドのトップの方です。


かつての冒険譚や、グランドマスターになられた経緯も、機関誌ワールドワイドエクスプローラーニュースなどで有名ですしね。


そんな事もあって、かつてメリーさんがグリフィス公国に向かうと聞いた時に紹介状を作らせていただいたのですけども、

今回はそのお返しという意味合いもあるのでしょうか。


 「どうやら貴女はギルドマスターとして信用できそうだ。

 詳しくはこちらの書状を読んでほしいんだが。」


 「拝見します。」


どうやら私はケイジ様達に品定めされていたようですね。

その行為自体当然の事だと思っています。

私たちとて初めて会う冒険者には、それなりに目を光らせているのですから。


そして、そこに書かれていたことは、

私たちにとって良い意味で驚くべきお話でした。


手紙の内容を要約すると、

今こちらにいらっしゃるダークエルフの魔導士アガサ様・・・

いえ、私もエルフの出身ですが、エルフの各都市には冒険者ギルドが存在していないことは知っています。

そしてアガサ様はヒューマンの街でギルドの仕組みや経営を勉強して、ゆくゆくはエルフ界に冒険者ギルドを設立したいとお考えのようなのです。

なんと向上心豊かな方なのでしょう。


そこで同じくエルフの私がギルドマスターをしているこの街を選んで、しばらく研修のような事をさせてもらえないかというお話でした。


私は手紙の内容を把握した後、

すぐに隣りのアルデヒトにもその説明をいたしました。


 「キャスリオン様・・・!

 今のタイミングでこの話は!!」


ええ、アルデヒトも私の顔色で分かるでしょう。

こんな美味しい話はありません!!


 「願ってもないことです!!

 偉大なる魔導士アガサ様にこのギルドで働いていただけるということなのですね!?」


私たちの正面に座っていたアガサ様はゆっくりと立ち上がり、改めて腰を曲げていただきました。


 「ヒューマン社会では不慣れなことが多く、多大な迷惑をかける可能性も大、

 なれど是非ともご指導の件、切に希望。」


あ、この方、アレですね。

魔力を高める為に変わった話し方するっていうアレですね。

もちろんちゃんと意思疎通できるのなら何の問題もありませんよ。


 「とんでもないことです!!

 スタンピードの影響で封鎖したダンジョンもあって正直途方に暮れていたのですよ!

 あなた方が来てくれたのなら百人力ですとも!」


 「そうだろうな、どこも大体一緒だろう。

 それで一応、オレとリィナは冒険者のままなんだが、アガサがここで落ち着くまでは彼女のフォローをしようと思っている。

 何か協力できることがあれば言ってくれ。」



素晴らし過ぎます!

メリーさん、あなたのお仲間の人達はいい人ばっかりじゃないですか!!

ああ、彼女にはお礼すら言えてないのに、

こんな置き土産までしてもらって・・・!


 「タバサ泣き崩れてたけどね。」

 「・・・ああ、オレも可哀想だと思ったけど・・・。」

 「心配無用。

 タバサは錦を飾って故郷に凱旋。

 次に会った時は間違いなく出世して偉そうに鼻高々。」


ハイエルフの大僧正の方は、もう街を出る理由がないとのことで、ほとんど強引に森都ビスタールに連れ戻されてしまったそうです。

保守的なハイエルフの社会ならそうなるでしょうね。


出来ればこの街には回復職も少ないので、その方もいてくれた方が嬉しかったのですが、流石にそれは高望みし過ぎでしょう。

今、私の目の前にいる三名の方でさえ、破格の実力をお持ちなのだから。


 「それにしてもまだ街の復興は大変そうだな・・・。」


ああ、それは・・・


 「そうですね・・・、

 このダリアンテ領は比較的経済力も人的資源もある方なんですが、高い魔力を持つ人間がそんないないので、天災だとかスタンピードのような大規模な被害が出てしまうと・・・。」


私の説明の後、兎獣人のリィナ様は悲しそうな顔を浮かべています。


 「街の広場に慰霊碑建ってたよね・・・。

 ちょうどあたし達がこの街に着いた時も、何組かの親娘が石碑の前で泣いてたし・・・。」


恐らくそれは、街を守っていた衛兵様方のご家族でしょう。

慰霊碑が完成したのも昨日くらいの話ですし。

大勢の方が献花に訪れていると聞いています。

私の顔見知りの方も・・・何人かお亡くなりになったそうですから・・・。

ああ、そういえばあの方もメリーさんとは・・・



そこで、今まで静かだったアルデヒトも、

街の話ならばと会話に参加して来ました。


 「領主様も辛いところでしょうね。

 少し前までご子息の婚姻話で盛り上がっていた筈なのに、ご婚約候補の侯爵令嬢が聖女様のお付きに選ばれたとかで、話がご破産になったそうですから。」

 

そう言えばそんな話も出ていましたね。

金枝教が聖女を認定したというのも寝耳に水のビッグニュースでしたが、

その護衛役にオリオンバート侯爵のご令嬢が選ばれたというのですから。


おや?


ケイジ様方が顔を見合わせて苦笑いを浮かべてますね?

心なしかケイジ様の体が、小刻みに震えていたように見えたのは気のせいでしょうか・・・。


タバサ

「何故・・・どうして私だけ仲間外れええええっ!?」

アラハキバパパ

「これ以上、かわいいタバサをヒューマンの街に置いとけるはずが・・・い、いや、十数年ぶりに大僧正クラスの神官が出たんだ!

いろいろお披露目とか、手続きとかな!?」

ダーニャママ

「あらあら、ホントにあなたってタバサちゃん大好きねえ?」

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