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第六百八十一話 いま元の世界に帰るの

<視点 ニムエ>


ケイジ様からとんでもない話が飛び出してきた。

カラドック様とのご関係。

ご自身の出自、

そして・・・


ケイジ様があちらの世界で人の命を・・・

あ、いえ、今はメリーさんとの会話を聞かないと。


 「あいにくケイジからそんなものは感じ取れないわ・・・。

 向こうの世界の話なのよね?

 なら恨みや憎しみの念はこっちの世界に届かないということのようね。」


殺された人の怨念が、次元を飛び越えて纏わり続けるなんて考えるだに恐ろしい。


 「なら良かった。

 まあ、オレの罪はあの男に殺された事で清算されたと思いたいんだが、

 犠牲になった奴らにしてみれば、オレが誰に殺されようと関係ないだろうからな。」


奴ら・・・

一人や二人の話ではない?

ケイジ様はあちらの世界で何人もの命を奪ったってこと、なの?



 「今まで聞いたことすらない話だから、何とも言えないわね・・・。」


そ、それはそうよね。

さすがのメリーさんでも世界の壁を越えるなんて未体験の事柄だものね。



 「ていうかオレの話は、メリーさんにそんな興味を持たれる話でもないんじゃないか?

 メリーさんにしてみれば400年前の遠い出来事なんだろう?」


 「400年どころか、私が人間として生きていた時から更に長い年月が過ぎているわ。

 確かにどうでもいいと言われればそれまでなのだけど、急にケイジに親近感湧いてきたのよ。

 特に斐山優一に殺されたと聞いて・・・。

 もう少しあなたと仲良くしておけば良かったかしら。」


 「ふ、はははは、そいつは残念だったな。」


あ、

メリーさんもその人に殺されたんだっけ。


それは奇妙な縁があったというか、なんというか。

でもようやくケイジ様も笑う余裕が出てきたのかも。



 「君も・・・。」

 「あ?」


あら、しばらく静かにメリーさんたちの話を聞いていた魔王様が口を開いたわ。

ケイジ様は魔王様に対して機嫌悪そう。


あ、二人は前世からのお知り合いになるのかしら?


 「いや、・・・君も世界から弾かれた者なのかと思ってね・・・。」


魔王様、「君も」って。

それはご自分のこともあるのだろうか。


 「さあな・・・

 まあ、弾かれた先がこの世界だというなら、

 生き足掻いてやるさ・・・。

 ミュラ、お前もそうじゃないのか?」



 「・・・なるほど、そうだね、

 その通りだな・・・。」


魔王様はケイジ様の言葉に納得されたのか、

さっきまでの淋しそうな顔から一転、

楽しそうな笑みを浮かべられた。


これで話は終わり?

魔王様は踵を返してご自分の配下の方達のいるところまで戻られた。


途中、

「だがリィナは渡さない」と聞こえたような気がする。


そのリィナ様が困ったような顔をしてたから多分間違いないだろう。

あの方は私たちよりも格段に優れた聴力を持っているそうだし。


 「・・・メリーさんはいいのか?

 そろそろメリーさんも元の世界にもどらないと不味いだろう?」


あ、そうよね、

あと10分も残ってないんじゃないかしら。


 「・・・最後の最後であんな話を聞かせられたら、思考も停止してしまうわ。

 まったく本当に一人一人、色々な真実や物語があるものね。

 まあ、私の方はみんなとそんな感動的なお別れをする必要ないもの。

 でも・・・みんなに感謝してるのは間違いないわ。

 いろいろとありがとう・・・。」



あ、いよいよメリーさんもお別れの時が近づいてきたようだ。


ただ、流石にお人形のメリーさんでは、一々親密な挨拶をするほどでもないらしい。

確かにそんなイメージの人ではないものね。


それでもやはり、先ほどの獣人少年は特別扱いなのか、再び彼の元へと歩き始めた。


あら、

獣人の男の子、今回は片膝立ててまるでお姫様に仕える騎士のよう。

そんな彼にメリーさんは優しく首を曲げて、頭を撫でる。


 「さようなら、ハギル。

 あなたも、この世界で幸せに・・・。」


 「ありがとうございます、

 メリー様もどうかいつまでも・・・。」


こっちからはよく見えないけど、

メリーさんは笑ったのだろうか・・・。


え?

・・・わかってるわよ。

人形なんだから笑える筈ないだろって言いたいのよね?

気分よ、気分。




すると、メリーさんは思い出したかのように、

アスターナ様ご一家を見渡した。

伝え忘れたことでもあるのだろうか。


 「そうだ・・・、

 念の為に、マデリーンについて・・・。」


ここでお嬢様の名前が出されたことに戸惑われたみたい、

それでもアスターナ様がなんとか反応する。


 「は、はい?

 私達の娘が何か・・・。」


 「向こうの世界と同じことが起きるとは言えないけれど、マデリーンを誘拐されないように気をつけてね。

 向こうじゃお姫様待遇だった筈だから、

 そこまで悲惨な目には遭ってないとは思うけど、籠の中の望まない状況下に置かれていたのは確かだと思うから。」


 「な、何ですって・・・

 分かりました!

 何人もマデリーンには近づけさせません!」


 「オレ、いえ、私も必ずお嬢様を守り抜きます!!」


 「ハギルがついているなら心配ないと思うけど、油断しちゃダメよ、

 そして、あなたも自分の命を大切にね。」


あの男の子だけでなく、

マデリーン嬢も向こうの世界に生きてたの?

なんかやたらとそんな人いっぱいいない?



 「・・・だいたい気は済んだかの?」


あ、ついに我らが女王が動かれた。

これがメリーさんとの最後の別れになるのね。


 「ええ、女王、

 この世界の行く末を想像するのも楽しいかもしれないけど、

 お人形はやっぱり在るべき場所に帰らないとならないものね。」


そのままメリーさんは誰もいない方へ歩いて・・・


あ、いえ、そっちには衛兵がっ・・・て、

違う、例の死神の鎌を取りに行ったんだわ。

そんなゆっくりで大丈夫?

あと5分くらいだと思うわよ?



 「そなたにも感謝を。」

メリーさんが戻ってきたところで女王が優雅に礼を執る。

順番的にコンラッド様方達も頭を下げた。


当然、私たちメイドはその後に一緒に頭を下げねばならないのだ。

そして女王たちより先に頭を上げてはならない。


いえ、それは構わないのだけど、メリーさん、残り時間は?


 「こちらこそ、礼を言うわ。

 そして、・・・私も在るべき場所に還らないと、ね・・・。」


あれ?

頭を下げたままだからメリーさんの方は見れないけど、ちょっと違和感を覚えるセリフよね。


だってさっき、人形の在るべき場所って言ったばっかりよ。

それとは別に私の在るべき場所って?


両方とも一緒じゃないの?



視界の片隅でコンラッド様方が体を起こすのが見えた。

なら私達も大丈夫。


見ればメリーさんは鎌を自分の体に預けたまま、

先ほどのカラドック様と同じように、

私達に見えない何かに手を伸ばしていた。



この後、指で何かを動かすとあの白い光に包まれるのだろう。


 「ああ、そうだ。」


そこでメリーさんは思い出したかのように顔を上げた。


 「私も言わなきゃね、

 私の名はメリー。」


お別れの口上ね。

何か思い出に残るような気の利いたセリフを言ってくれるのかしら。



 「いま、あなたたちの前から去るの。」



いいの、それで?

そりゃある意味、記憶に残りやすいんだけど。



そしてメリーさんも、


白い光に包まれた。



これで、


私のお役目も終わり。

記すべきものは全て記した。


恐らく皆様に語りかけるのもこれで最後だろう。


もう、この世界に、

異世界からの転移者は一人として残っていない。

三人とも全てご自分の世界に戻られたのだ。



・・・本当に?


まだどこかに誰かが隠れ潜んでいたりしない?


でももし、

そんな人が残っていたとしたら・・・




あら?


私の足元に何かが落ちた音が。




そして急に何も考えれなくなって



私の視界も



まっしろに


あれ


な に    が



これで

転移者は「3人」元の世界に帰りました。


ニムエの身にいったい何が?

次回、初のマルゴット女王視点。

「寝室の扉を叩く者」

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